戦術の系譜

戦術の系譜24 齋藤 豪

みなさんこんにちは。
今日は「ネット麻雀で勝ちやすい戦術」コラム、第3回目をお送りいたします。
第3回目のテーマは「手組み」です。

対象者は、中級者以上向けとなり以下のフィールドのプレイヤーを目安とさせてください。

・ロン2 R2000前後~
・天鳳 特上卓~鳳凰卓

■「手順」と「手組み」の違いについて
今回のテーマで大事なことは、はじめに「手順」「手組み」の違いを知ることです。
人によって言葉の解釈が異なる可能性があるため、私の定義を記載します。

「手順」
→その局におけるアガリへの最短距離を走るための選択。牌効率とも言われます。
「手組み」
→その局における最善の結果を得るための選択。

手組みとは、例えば以下のような思考を経て選択する打牌を指します

・1,000点ならすぐアガれそうだけど、リャンメンを捨ててホンイツの8,000点を狙おう。
・リーチを受けたら危険な状況なので、安全牌を持ちながらスリムに進行しよう
・点数状況的にアガリの価値が高いから、大きな手を狙わずに最速を目指そう
etc…

自分の手牌だけではなく、状況を立体的に捉えて最適な打牌を選択する。
処理すべき情報が一気に増えるので、牌効率よりも難易度は上がりますが、麻雀は総合力で勝負するゲームなので、ステップアップのためには避けて通れない道です。

■シャンテン数が遠ければ遠いほど、手組の介入度が高い。
麻雀を勉強しようとすると、間違いなく「何切る問題」と出会うと思います。
多くの何切る問題は牌効率を学ぶためのものが多く、出題時点では良形の1シャンテンになっている事が大半です。
手順における最後の仕上げといった時間です。
ここまで来ると「手組み」が介入できる要素はほとんどありません。
手組みは1シャンテンまでに済ませておく必要があります。

このため「手組み」のトレーニングを行う場合は、配牌~3シャンテン程度の牌姿が望ましいです。
今日はいくつかの牌姿で、手組みの思考トレーニングをしてみましょう。

■ケーススタディ1:打点に寄せた手組み意識

 

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東1局の親番、ドラが二筒で配牌からの切り番です。
手順の牌効率だけで進めるなら字牌を打ちますが、ここで手組み(最善の結果を得るための選択)を意識してみましょう。
巡目的にまだ猶予があるので、狙えるなら多少速度が落ちても打点も追いたいところです。
将来的に打点が見込めそうな要素を挙げると次のとおりです。

・役牌を重ねてソウズのホンイツ
・123や234の三色。
・ドラ二筒を使い切ってのリーチ

牌効率で余っている字牌の発中を両方とも打ち出して行くと、ホンイツの可能性が激減します。
役牌を重ねてのホンイツは、仕掛けてもそこそこの打点が見込めますので、できれば狙いたいところです。
しかし浮いている三万を打つと、三色の可能性が無くなってしまいます。

あれじゃあ何も打てる牌が無くなったのでは?
実は1つだけ全ての打点要素を狙える打牌があります。

 

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八筒

カン七筒の受けを犠牲にすることで、全ての打点要素を残しながら進行させます。
八筒六筒と払っている間に、ホンイツに必要な牌が増えるのか、三色に必要な牌が増えるのかに注目して、伸びた方を採用するという保留の一打です。
牌効率的には不正解ですが、まだ東1局の1巡目という事を考えれば、カン七筒を犠牲にして高打点の成就率を上げても、そんなに酷い事にはならないのではないでしょうか。

ターツを破壊するという手組みは、最初は抵抗感があるものです。
また、効率が数値化しづらく、正解、不正解が判断しづらい戦術です。
ポイントとして以下の要素に注目して、裏目とのリスクとリターンを比較して判断を繰り返してトレーニングしていきましょう。

■打点に寄せた手組を行う際のポイント
・残り巡目が足りているか(すでに中盤に入ってからだと遅く、序盤であることが基本条件)
・打点上昇効率は正しいか(2翻UPする可能性があるくらいが効率目安)
・点数状況的に打点が本当に必要な局面か(アガるだけで価値が高いなら、打点は不要)

 

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この手は最終的には上記の牌姿になりました。
3色やチャンタの手替わりも見える、なかなかの価値がある手牌です。
ホンイツだけに重みをおいて三万あたりを打ち出していたら、この形はキャッチできていません。

 

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今回の手組みに近いシーンがMリーグにもありました。(2021年11月1日、第2試合目)
そこそこ見えている2翻役が1つと、うっすら見えている2翻役が1つあります。
またドラの五索も将来、採用しやすい手牌にしたいところです。
そして3巡目と序盤なので、打点に寄った手組をする条件は整っています。
伊達プロはここから手組みの一打で、見事に満貫を成就させました。

ここではあえて何を打ち出したかや、2翻役の正体までは記載しませんので、ぜひ思考のトレーニングとして考えてみてください。
(答えを求めるクレームが来たら追記します)

■ケーススタディ2:守備力を想定した手組

 

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南4局オーラス、現在2着目。
状況を列挙すると以下となります。

■状況
・トップまでは遠いので、2着終了できれば十分
・3着目の東家と、4着目の西家の点数が4,600差と近いので、この2人がアガリに向かってくる。
・3着目の東家は、流局時は伏せられるなら伏せる可能性が高い(ラス回避重視のため)
・天鳳はラスペナが大きいルールなので、ここから2着→ラスに落ちるのだけはやってない。

安全に2着を確保したいところですが、ラスも怖いというジレンマな状況ということが分かります。
牌効率では当然白ですが、中をポンした後の展開を想像してみてください。
中をポンするとターツオーバーのため、マンズの四万六万カンチャンか、ソウズの一索二索のペンチャンを落とす事になりそうです。
その間に、東家か西家のリーチが入った未来を想像してみてましょう。

東家と西家の河に注目、あ、安全牌が一つもないじゃないか…!
このため、中をポンした時のリスクが非常に大きい事が分かります。
この状況に気づいた上で、守備的な手組みの要素を取り入れた場合、複数の選択肢が発生します。

■選択肢
(1) まっすぐ白を切って中もポンして全力に進める(リスク大)
(2) まっすぐ白を切るが、形が整うか安全牌が増えるまで中はポンしない(リスク小)
(3) カンチャンかペンチャンを払って、早めに5ブロックにして中はポンしていく(リスク中)
(4) カンチャンかペンチャンを払って、早めに5ブロックにして中は形が整うか安全牌が増えるまでポンしない(リスク極小)
※5ブロック進行は、安全牌を持ちやすいので守備力があがります。

牌効率だけで考えたら (1) が正解となりますが、守備力を想定した途端に選択肢が増える事が分かります。
守備を想定した手組を行うかどうかは、次の瞬間に嫌な相手から「リーチ」と言われたら困らないかどうか、で決めるのがコツです。

これを踏まえて、最初に列挙した状況を合わせると…
「そこそこ2人が攻めてくる局面」+「放銃がラスに繋がりそう」な局面であり、
「流局」か「西家のアガリ」で終局しそうで、どちらのパターンでも2着は確保できそうです。
となれば、自分がアガらなくても2着終了のパターンが多いので、守備力は大きめに残した方が安定しそうな局面という事が分かります。

 

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どこまでリスクを下げるかはプレイヤーで判断が分かれそうですが、今回は (4) を選択しました。
この後は、捨牌のバランスで東家と西家に受けられそうになったら中をポンしていくか、鳴いてリャンメンテンパイぐらいまで伸びたら中をポンする想定で進めます。
このように、守備力を想定した手組を行う場合、時として牌効率に逆らってでも安全牌を持つべきシーンが発生します。

注意点として、安全を確保しなくて良かったり、リスクを追うべき局面で、無意味に安全度を確保しないように注意しましょう。
「安全牌を確保するのが癖」になっているプレイヤーもいます。
思考を停止せずに、必ず局面に合わせて選択しましょう。

■ケーススタディ3:仕掛け効率を考えた手組み

 

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東1局、南家スタート2巡目。
ドラが五万なので、すでにドラが4枚とビックチャンスでしかも1シャンテンです。
牌効率なら東白を打ち出して1シャンテンに構えるところですが、西がすでに1枚切られているので意外と苦しい形です。

満貫以上の打点が確保されている場合は、リーチにこだわる必要が薄くなるため、仕掛けての満貫の可能性も考慮すべきです。
ここまでを想定して仕掛け効率を考えた時に、とある牌が打牌候補になります。

 

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西としました。

メンゼン想定で進める場合は、ほとんどの場合で西に依存します。
このため、最後の西が切られた瞬間にこの手が苦しくなってしまうし、西受けがあるシャンポンリーチをかけられたとしても、西が深かったり王牌に死んでいたらアガリは厳しいでしょう。
うまくソウズとマンズが両方とも横に伸びて、西が雀頭のピンフになった場合はアガれそうですが、高望みしすぎな気もします。
となれば、西のトイツ落としをしつつ、メンゼン以外の以下2つのシナリオも追加して効率化をはかります。

東白を重ねての役牌ドラ4
・タンヤオ変化からの、クイタンドラ4

どうせ将来的に西受けが厳しいのならば、この時点で将来を見越して見切ってしまうという手組みです。
この後は、ツモを見て役牌を打ち出していくか、その前に一索を1枚外して二索三索四索四索の形にしておくかを決めます。
とにかくアガリさえすれば十分な加点が間違いない局面なので、瞬間的にも役牌の受けが2倍になる価値は大きいと考えられます。

 

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結果として今回はクイタンが採用され、高打点が運良く成就できました。
西に依存していると、変化したマンズ二万四万五万五万の形から、先に二万を切るシチュエーションも増えて、カン三万を動けなかった可能性もありました。
このように高打点が確定している手牌においては、仕掛け効率も想像しながら打ち進めてみましょう。

 

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場面が変わり、アガればトップで終了できるオーラスです。
図のようなアガリトップだったり、アガリでラス回避が確定するようなシチュエーションならば、より仕掛け効率は考えておくべきです。
例えば、図のシーンでは七索八索八索九索から八索を先に切って固定してしまうと、八索ポンのクイタンルートの可能性が減ってしまいます。

今回の局では、点数状況が難しく他家に備える必要もあるため、全力で八索をポンしてまでアガリに向かうかは難しいところです。
しかしアガらなければラスが確定する状況であれば、八索はポンする1手で間違いないです。
このため、簡単にこの形から八索を切ってはならないですし、場合によっては九索を先に切るべき牌姿になるぐらいと考えられます。
繰り返しですが、アガリの価値が高い局面においては、仕掛け手順を常に想像しながら打つようにしましょう。

■ケーススタディ4:手組みは構想力

 

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南1局の親番、微差ですがラス目なので加点していきたい局面です。
配牌で西のドラがトイツとチャンス手ですが、いかんせん形が悪くメンゼンでは厳しそうです。
とはいえ役牌も無いし、色の偏りもないのでホンイツを狙うべきかも迷います。

このような手牌こそ、手組みをしっかりと考えて進める必要があります。
現時点でメンゼン以外で狙える可能性がある役を考えてみましょう。

トイトイ
→まだ3トイツしかないが、全て19字牌なのでポンしやすい。
ホンイツ
→色が確定しないが、狙うなら一筒が鳴きやすいのでピンズよりのホンイツが本線か。
チャンタ
→19字牌の3トイツを活かせば狙えなくはない。

3つも候補にあがるならば、打点も十分ですしメンゼンにこだわらずに無理やりにでも仕掛けて行きたいところです。
そしてこの3つの候補が構想できていれば、第一打は消去法で三万が選ばれることもわかります。

 

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ツモ九索でチャンタの濃度があがりました。
とはいえ、チャンタは利用できる牌が少ないので、ホンイツの可能性も追いたいところです。
しかしホンイツを狙うならば一筒のトイツを生かしたピンズの方がまだ少し良さそうです。
となれば、ここでも決めきれず中間の打六索とします。

 

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北がポンできました。
チャンタ1本にするならばここで五筒ですが、まだピンズのホンイツルートも残して良さそうです。
ここでも中間を取って、打三索とします。トイトイの可能性も少し残っています。

 

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ドラの西がポンできました。
手組みはテンパイに近ければ近いほど、選択肢を1つに絞ったほうが効率が良くなります。
あとは字牌さえ重なればチャンタの1シャンテンになるので、ここがホンイツの見きりどころでしょう。
五筒としてチャンタに狙いを絞ります。

 

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狙い通り東を重ねて、チャンタの1シャンテンになりました。
このように、メンゼンだと厳しいが打点が見込める手牌こそ、仕掛けルートを重く見た手組みの構想を練りましょう。
最初に3つの役を想定できていなければ、どこかでこの形になり切れていない可能性があります。

■麻雀AIによる評価
1つ前のチャンタの手順が気になって、麻雀AI「NAGA」に評価を依頼してみました。

 

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NAGAはターツ落としを嫌う事が多いので、このコラムの前半のような手組みはNAGAには好まれません。
しかし強引なターツ落としをせずに、シャンテン数に無理が出ない手組みについては、選択肢が限られている分、信頼度が増していると考えられます。
先ほどの手組みは、NAGAと同等の評価でした。(発白の切り巡は影響がないに等しいので、気にしなくて良い)

なんとなく捌きが難しい手牌だと思っていたのですが、なかなかすごいと思いませんか?
簡単に字牌を打たずにホンイツとチャンタのルートを残すところとか…ちょっと人間っぽさも感じるぐらいです。
今回は紹介できていませんが、守備的な先切り(リャンメン固定など)も行うぐらい、麻雀AIは総合力があがってきています。
麻雀AIにも苦手な領域がまだあるので、全てを鵜呑みにせず取捨選択することは必要ですが、実力向上のために活用できる領域まで発展している事は間違いないでしょう。

■さいごに…
ネット麻雀だと牌効率重視の選択を行うプレイヤーが多い印象ですが、私は今回のような手組みを取り入れるようになってから、成績が安定して天鳳位にまで到達できました。
(プロ入りして体験した一発裏ドラ無しルールが、良い方向に影響を与えたと考えています)
なので、あえてネット麻雀で勝ちやすい戦術、というテーマに組み込んでみました。

しかし「手組み」は大事ですが、牌効率の基本ができていないと生かすことができません。
学ぶ順番としては、まずは牌効率をしっかりと覚えてから、手組みにチャレンジする必要があります。
また、いわゆる「手組み」をこじらせすぎると、もはや効率が悪い選択を繰り返す悪循環にもなりかねません。
よって、学ぼうとすることで成績が下がることもあるかもしれません。
あくまで基本は牌効率(手順)である事を、常に忘れないようにしましょう。

今回のコラムで私の出番はいったん最後になります。
少しでもみなさんの麻雀ライフの手助けになりましたら幸いです。
それではまたどこかでお会いしましょう。ありがとうございました。

齋藤豪
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