戦術の系譜

戦術の系譜29 前原 雄大

~記録レコード~

第1回でも記したが、このコラムは若い麻雀が大好きで仕方ない、そういう方に向けてのものである。
とにかく、麻雀の量をこなして欲しい。質に拘る事は無い。
囲碁や将棋、もしくは他のプロスポーツ程まだ成熟していない世界ゆえに才能とかは必要無い。
量をこなしていくうちに自然と質は向上して行くものである。

質と記したが言葉を変えるならば、その打ち手が目指す麻雀のカタチと言うことである。
条件があるとすれば、その人にとってプレッシャーのかかる場所で打つということである。
漫然と打っていては幾ら量をこなしても意味がない。

私は2度鳳凰位戦のA1から落ちているが、降級した時は2度共にプラス100ポイントオーバーの首位に立っている。
油断したわけでは無いのだが、100ポイントオーバーすると決定戦の調整に入ってしまう処があった。

一度目は幸運にも翌年A1に復帰できた。50代後半の事である。
そこで、アホはアホなりにどうすべきか考え、稽古の量を倍にした。
それが良かったのか解らないが、60歳にして鳳凰位に立つ事が出来た。
そのまま翌年も連覇出来て、他の幾つかのタイトルも獲得できた。
その翌年敗れ、そのまま翌年にはA1から降級し、次年度はA2からも降級して現在に至る。

実はこの直滑降の降級ぶりは連盟の記録である。
まったく何の自慢にもならない記録である。

もう1つの記録は、鳳凰決定戦3シーズン16半荘×3=48半荘親番で11,600点含み親の満貫をアガっていないのである。
この事もおそらくレコード記録だと思う。何度かテンパイはするのだが、アガリには至っていない。
目的はタイトルを取る事であり、親満をアガる事では無いのだから問題はない。

これは1つにはそのころの稽古時の調子も同じで親番では手が入らない。
相手との対策よりも、自分自身の調子への対策が実ったわけである。
この事も普段の稽古のおかげである。

稽古を積み重ねていなかったら、親番と言う理由で無駄に失点を重ね、終には一番大切な麻雀の勢いさえ失ったように思える。

 

~あなたならどうする~

譜は第34期鳳凰戦の一コマである。
最終手番1つ手前でテンパイが入った。

二万三万九万九万六索七索八索四筒五筒六筒七筒八筒九筒  ドラ一筒

親番の私だけがテンパイで、他3者がハッキリとしたノーテンで最後ツモで一万を引きアガった。
ツモ切れば3,000点の収入アガれば2,100点の収入である。

この事もそれぞれの価値観の問題で、テンパイ料の方を選ぶ打ち手を否定しない。
私はアガリがアガリを呼び込むと考えているので自然にアガる。

一局毎に拘るのでは無く、半荘、もしくは全16回戦からその1局の処し方を考えるべきだと考える。
勝負処に関しても私は最善手をよほどの限り選ばない様にしている。
好手、次善手を念頭に置く。それは、最善手と悪手は相似形の事がままあるからである。

 

~場を読む~

譜は第35期鳳凰位決定戦初日トップ2着で迎えた3回戦の南1局親番のものである。

 

100

 

二万四万一索一索三索六索九索九索三筒西白白発発  ドラ九索

{重いな}

それが配牌を手にした時の思いである。
何しろここに至るまでの30数半荘親満をアガっていないのである。
ただ、一方で1位2位で来て、前局で跳満をアガっている事に勢いを感じてもいた。

それが、第一ツモが発、第二ツモが白である。

 

100

 

間違いなくツモに勢いがある。
譜をご覧くださればわかる通り、他3者とは比較にならない。
私は打六索としたが、牌が指から離れた瞬間違和感を覚えた。

麻雀には場と言うものがある。
トイツ場、順子場、混合場、色場などである。
私のツモの傾向はトイツ場を感じさせるが、相手3人の河を眺めると対面はともかく巡目が速くよくわからない。
ただ理屈ではなく、違和感を覚えたことは間違いない。

己の手牌の可能性をみると、やはり色場は外せないところだと何かが私にささやいたのだろう。
ならば、打つべき牌は相手に速さを意識させないために、おとなしく二万辺りが至当のように思える。
この辺りに関しては、正解が無い。理屈では無く感覚の世界だからである。

そして、その感覚を研ぎ澄ますために日々の稽古の精進が必要なのである。

 

100

 

二万と構えなかったがために、次巡、二万が重なり打四万、そしてツモ一索で打三索のリーチである。
手順としてはおかしくないとは思う。実際、山には私のアガリ牌が3枚眠っていのだから。

ただし、私の中では今でも心に棘が刺さったままの状態であるから、あえてここで記させていただいた。
仮に二万と構えてさえいれば以下の牌姿になっていた。

一索一索一索三索四索九索九索白白白発発発  ドラ九索

おそらくは、吉田直さんからの出アガリで収束していたように思える。
実践での結果は以下の通り。

 

100

 

私のダントツの親番のリーチに、無筋を幾つも通し切り三万でツモアガった。
なかなか出来る事では無い。吉田さんを称えるしかない。

私は勝負所を逸しながらもこの半荘トップを取っている。
しかしながら、勝負所を競り勝った吉田直さんに勝利の女神は微笑んだ。
今の麻雀界、色々大切なものが要求される。それでも一番大切なモノは雀力である。

雀力を養うにはやはり、膨大な量の稽古と失敗を刻み続け忘れないことである。
微細な部分を感じ取る力、感性がその人を育てるものだと信じてやまない。