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第80回『怖さと戦う』

2013/08/07
執筆:佐々木 寿人


近年、テレビ対局の増加に伴い、プレーヤーとしてだけでなく解説の機会も大幅に増えた。
対戦カードによって、その質が落ちるのはある程度仕方のないことなのかもしれない。
だが、それにしても若い打ち手(もちろん全てというわけではないが)の麻雀を観ていると、小首を傾げたくなる場面によく遭遇する。

「この子は一体どこに向かっているのだろう?」

そんな風に胸のつかえが拭えぬまま終局する場面も多々ある。
ただ、私の中でそれに対するはっきりとした答えを持ち合わせていることもまた事実である。

放銃が怖いのである。それも必要以上に。

今年2月に行われた鳳凰位決定戦に代表されるように、トップレベルの戦いは川の流れを見ているかの如く心を穏やかにしてくれるところがある。

最終形へ向けての構想、それに基づく序盤の構成、そして相手への対応、どれを取っても観ている者を納得させてくれる。

しかし、型を持たない若手の対局ではそうはいかない。
自分が好機を得たことに気付かず、安全を追うことばかりに目がいってアガリを逃がすこともしばしば。
手を挙げて横断歩道を渡っていればいつでも勝てるのなら、誰も苦労はしない。
経験が少ないこともあるだろうが、若手に足りないと感じるのは戦う姿勢である。
どうやってゲームを組み立てて、どうやってトップを獲るか(着をまとめるか)、これが全く伝わってこないのだ。

ある牌譜を例に出そう。
現在、ロン2ネットTVで配信中の、「ロン2プロ№1決定戦」、予選1回戦B卓の牌譜である。

対戦メンバーは、起家から、瀬戸熊直樹、森山茂和、灘麻太郎、そして私である。
まずは東1局、西家の灘さんからドラの八筒を暗カンした上でのリーチが入る。

二万三万四万六万六万六万一索三索白白  暗カン牌の背八筒八筒牌の背  ドラ八筒  カンドラ一索

それを受けた13巡目(暗カンが入っているため1巡飛ぶ)、森山さんの手牌がこうなった。

四索を引いてのテンパイである。
ただ、テンパイを取るなら、押さなければならない二索はかなりきついところだ。
その上、仮に通ったとしても待ちのピンズ受けは相当に薄い。
しかし、それも承知の上で森山さんは二索を打った。

対局の当事者である私は、森山さんがどんな手から二索を打ったのかはわからない。
だが、今こうして映像を振り返ってみると、森山さんの思考はよくわかる。
相当なリスクを負うことにはなるが、この局をもし制することができたなら、次局の親で思い切った勝負が出来る。また、1回戦勝負でないということも大きい。

この「ロン2プロ№1決定戦」は1人2戦打って、トータルポイント上位4名が決勝戦へと進むシステムである。
仮にここで満貫なり跳満なりを打ち上げても、即座に勝敗が決するわけではない。
じっと我慢を重ねてチャンスを待つ打ち方があるように、序盤に勝負を打って出された結果から展開を作り上げる打ち方もあるのだ。

この局、森山さんは灘さんに跳満を打ち込んだ。
森山さんにとって結果は最悪となったが、大きな放銃は早い段階ほど挽回が効く。
私にも何度となく経験があるが、この後の狙いが明確になってくる分戦いやすくなるとも言えるのだ。

さて私の思考としては、まだ1局が終わっただけとは言え、最も状態の悪い森山さんの親を自然な形で終わらせて、灘さんを追い上げるということに尽きる。
その思惑通り、私は森山さんから1,600をアガりまず単独2番手へと浮上した。

七万九万二索三索四索五索五索一筒二筒三筒  暗カン牌の背四万四万牌の背  リーチ  ロン八万  ドラ北  カンドラ発  裏南  カン裏東

続く東3局も、8巡目にテンパイ。

五万六万七万一索三索四索五索二筒二筒五筒六筒北北  ツモ四筒  ドラ一索

二筒北がそれぞれ1枚づつ飛んでいたこともあるが、456の三色などもっと高い手に育つ可能性があるため北を落とす。すると10巡目、親の灘さんからリーチ。同巡、私もラス牌の二索を引いてテンパイした。

トップを走る灘さんを仕留めるチャンスなのでここは当然のリーチだ。
仮に三索六索が灘さんの現物だったとしてもリーチである。
若い人達には、この方法論を是非知っておいて欲しい。
戦いに勝つか負けるかは、とどのつまり勝負所でいかにぶつけられるかであると私は思う。
相手が親だからとか、放銃したら痛いからとか、そんな思考が先行する限りは勝負事に勝ち切ることなど不可能である。

開局に、森山さんが二索を勝負してまで自分のペースへ持ち込もうとしたのと同様、私にとってこの場面は今後の展開を大きく左右する大切な一局だったのである。

五万六万七万一索二索三索四索五索二筒二筒四筒五筒六筒  リーチ  ロン六索  ドラ一索  裏白

私は灘さんの六索を一発で捉え、満貫をモノにした。
そして次局は親番。もうおわかりだろうが、この親で手を緩めるようなことはあってはならない。
たかが10,000点のリードなど、守りに入った瞬間あっという間に捲られる。
半ば思い込みでもいい。最も状態がいいのは自分なんだと言い聞かせることが大切なのだ。

配牌ドラトイツの手をもらった私は、3巡目、ツモ九万ときたところで二索を払った。

一万二万二万三万八万一索二索四索四索三筒五筒六筒七筒  ツモ九万  ドラ四索

捨て牌に1枚と、ドラの指示牌に1枚の三索などあてにはできないし、そこに拘ればアガリそのものを逃す可能性が高いからである。その後、六索五万六万と引いて手牌は以下のものとなる。

一万二万三万五万六万八万九万四索四索三筒五筒六筒七筒

鍵となるのは三筒をどこまで引っ張るかだが、私の頭の中ではこの三筒が全員に通る安全牌かのような感覚を持っていた。だから四万七万を引いてテンパイをしたときに初めて三筒を切ればいい。
逆に、この三筒周りにくっついたときは、八万九万を払えばいい。
後々相手に危ないなどという恐れはこれっぽっちも抱く必要がない。
今自分がアガリを逃さないために必要なものを、ごく当たり前に残せばいいのである。

ところが弱気な人はこれができない。すぐに形を決めたがって安全牌を残そうとする。
そんな人達に今一度言いたい。

どうせわかりっこないのだから相手の手など考えるな。
攻めるべきときはしっかり攻め抜け。
放銃を怖がるよりアガリを逃す自分を恥じろ。

これらは自分の経験から言っているだけでなく、森山さんをはじめとする先輩方から教わってきたことでもある。
麻雀の基本となる思考法は今も昔も変わらないのである。

来る8月10日、若手を対象とする研修会に私も講師側として参加する。
私が若い人達に教えられることがあるとしたら、それは“戦いに挑む姿勢”である。