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第83回『~光ある世界へ~』

2013/11/20
執筆:前原 雄大


麻雀は運のゲームだという声を聞く。
そうかな?とも思う。

所詮ツキのゲームでしょ。という声も聞く。
それはどうかな?と私は思う。

ただ私は、そういう声を聞くとき、出来るだけ何も答えず微笑んで聞くようにしている。
相手がそう思い込んでいる以上、どのような言葉を選んで相手に解って貰おうとしても、
疲れるように思うからである。

特に後者の「所詮――」という言葉の裏側には、ツキや運に対する否定の気持ちが潜んでいるように映る。
流れに関してはさらに言えることである。

相対のゲーム、勝負である将棋では、「この一局で流れは変わりますね」と言う。
記憶に残るのは、2008年第21期竜王戦7番勝負第4局。挑戦者である羽生善治を迎えた渡辺明。
3-0のスコアで迎えた第4戦。大方の予想は、羽生のストレート勝ちが多かったように思う。
私もこの対局を見ていたが、ほぼ今局も羽生の圧倒的優勢に思えた。
渡辺も投了を宣言するため、気息を整えていたそうである。

ただその時、優勢であるはずの羽生が少考に沈んだ。
その羽生の様子を見て、

「羽生さんが考えるからにはそこには何か理由があるはず」
と考え、奇跡的とも思える一手を渡辺は見つけた。
その一局を境に4連勝を成し遂げて、防衛するとともに永世竜王に就任し今に至っている。

互いに永世竜王がかかった大切な一番なところだけに、
「流れ」を変えた、重い一手であったことは論を待たないことだろう。

誤解が無いように記せば、私は子供の折り、戯れ程度に将棋を指したことがあるが、
中学に入って以来、一度も指したことが無い。将棋に関しては、それほどの門外漢である。

将棋に限らず、テニス、野球も同じように「流れ」を解説する。
しかし、そこを否定するファンはほとんど存在しないように思う。

麻雀は複数でやる競技、見えない部分が多いが、という打ち手も少なくはない。
私に言わせれば、それもまた違うように思える。

私は若い頃ポーカーに興じていた。
最初の頃覚えたポーカーは、セブンハイと呼ばれる種目で、基本6人から7人でプレイし、
目に見えている部分は麻雀より遥かに少なかった。
名うての打ち手が揃いながらも、勝率が9割を超える人がいた。

「コツはあるのでしょうか?」と、その人に訊いたことがある。
「流れに逆らわない――ということかな」と答えてくれた。

いつも微笑みを絶やさず、どんな窮地に追い込まれてもその微笑みを崩すことがない、その人の愛称は「地蔵」。その地蔵さんの言葉を今でも覚えている。

「前ちゃんの世界は見えている部分が多いから、逆に流れに身を委ねるのは難しいかもしれないね」
もう20年も前の事である。時の過ぎるのは早いものである。

A1リーグ第8節、4回戦 東1局。

私は前半荘まで優勢にありながら、さらに私を上回る好調な朝武雅晴プロに痛恨のエラーで放銃してしまい、
それまで積み上げてきた体勢を損なった。

一万二万三万九万九万一筒二筒四筒五筒六筒七筒八筒九筒

この時点で、すでに序盤に二索八索を立て続けにポンしていた。
明らかな一色手である。

体勢は互いによかったが、態勢(序列)は明らかに朝武プロが優っていた。
それは、1回戦東1局、私の親番で朝武プロはリーチを打ち、軽やかに2,000・3,900をツモリあげた。

三万三万四万五万五万六万六万五索六索七索四筒四筒四筒 リーチ  ツモ七万  ドラ七索

続く2戦目

一万一万二万四万五万五万五万六万七万七万八万九万中  ドラ九万

この形から一万のポンテンで、これもテンパイ2巡後、三万を引きアガっている。
大役をアガれるときは、体勢が一番良い、つまりは態勢が良い証しである。

そんな腰が重く、手役志向が高い朝武プロが、今局、二索八索とポンをしているのだ。
朝武プロは、まだテンパイをしていないと感じたが、私は慎重にヤミテンに構えた。

これが不調者の仕掛けであったなら、私は迷わずペン三筒待ちの即リーチに打って出た。
ヤミテンに構えるということは、ソーズを引いて来たら北家であるということもあり、テンパイを外すのが筋というもの。それが、本手を打つということだと思っている。
私の一気通貫は、リーチを打たない以上、かわし手に過ぎないからである。

ところが数巡後、ツモ四索で長考の末、その四索を卓上に打ち出した。
三筒が朝武プロの現物であること、周りがすでにベタオリに入っていること、現在私がトップ目で朝武プロが沈んでおり、体勢そのものが悪くないと考えてしまった。一番大きな理由は、トータルポイントを考えてしまったことかもしれない。

色々な理由があるが、それは全て言い訳であり、自分へのそして麻雀への甘えである。
こんな四索が通るほど麻雀はいい加減には出来ていない。
そもそも、何故私が降級争いをしているかを考えれば、自明の理である。

私はこの放銃で今日一日を諦めはしなかったが、自分を呪いたくなった。
態勢はそう簡単に崩れるものではないが、体勢は意外と脆いものである。

【流れを変えた七対子】

私が救われたのは、4回戦東4局の親番、5巡目に七対子のテンパイが入り、

四万四万五万五万九万九万一筒一筒三筒三筒五筒北北  ドラ南

この局面で、猿川プロがドラである南を打ち出し、次巡ツモ切りリーチである。
私の知っている猿川プロならば、即リーチを打たないということはそこには必ずキズがあると読んだ。
高い手役を持っていれば待ちに関係なく即リーチを打ってくるだろうし、アガリ役があればヤミテンに構えるべき局面なのである。

私は猿川プロの待ちを読めなかった、いや読まなくてもよいとさえ考えた。
私は次巡、ツモ四筒で打五筒で追いかけリーチを打った。

私がやるべきこと、成すべきことは追いかけリーチを打ち、他家を降ろし、サシの勝負に持ち込むことである。
結果は、猿川プロが四筒を掴み、私への放銃。これはありがたかった。

1本場は、早い巡目に抑え込みのリーチで流局。
今局はアガれてもアガれなくてもどちらでもよく、大切なのは親番の維持だった。

2本場が勝負どころと考えていたが、配牌を取った瞬間、予想していたものより悪く、もう少しまとまった配牌を予測していたのだが…
ただ、その時点では状態がかなり良くなっていたのを感じていたので、真っ直ぐに字牌から打ち出していった。

解説者である滝沢和典プロがコメントしていた。
「愚形と分かっていても突っ込みづらい局面であり、次局に、4,000オール、6,000オールとくるのが、
前原プロのパターンである。だからと言って、じゃあどうしろと言われても打ち手としても困る」

滝沢プロの解説通り、8巡目、猿川プロの仕掛けで、ドラの五索を引き込み即リーチを打った。

四万五万六万七万七万五索六索七索三筒四筒五筒六筒七筒 リーチ  ドラ五索

一手変わり三色もあるが、朝武プロの手牌の煮詰まり具合を感じて打ったリーチである。
正確に打てば、私が放った白はツモ切りしても良い牌で、そうしておけば二筒が入り、
ドラである五索のツモアガリで収束していた可能性もある局面だった。

驚いたのは、朝武プロが煮詰まっていたのではなく、僅か4巡目にしてテンパイをしていたことだ。

一万二万三万三万四万五万三索三索四索五索七索七索八索八索

ここから打七索のテンパイ取らずもあったのだろうが、素直にテンパイを取っている。
このあたりは局面に素直なのか、トータルポイントを持っている者の強みか。

朝武プロが、私のリーチに一発で掴まされたのが無筋の三万。ここで朝武プロが撤退。
これはバランスのとれた構え方である。ただ、三万を打ち切れば次巡八索をツモアガっていた。
このあたりが麻雀の難しいところである。
結果は、朝武プロが私への五筒の放銃。ありがとう朝武プロ!

3本場(この後の親が長いんですよ)山井弘プロのコメントである。
私自身もイケるとは感じていた。
私の配牌は

一万二万四万三索四索四索四索七索八索一筒八筒東発発  ドラ一筒

ホンイツがメインであり、ドラの重なりも見ていた。
1枚目の発は当然スルー。状態が上がってきているし、朝武プロからの直撃で、態勢(序列)はまだ変わっていないにしてもかなり近くに感じていた。結果は、

三万四万五万三索四索四索四索七索八索九索  ポン発発発

この牌姿でアガっているのだが、その前にドラである一筒単騎でアガっている。
それは、私の態勢の読みの過ち、つまりはミスである。

【おっさん何すんねん?!!】

4本場、配牌

一万二万五万六万六万七万六索七索九索二筒六筒東南発  ドラ四索

配牌を取り終えた時の感覚は、大したことないなと思った。
原因は、前局態勢を読み違え一筒をツモアガリ損なったことにあるように考えていた。

一筒のかぶりは気にするタイプなんだろうか」というコメントが流れていたが、
私、大変気にします!

次局以降の戦いに影響する、という気持ちを私は持っている。
今局に関しては、私に利した部分は猿川プロの字牌の1枚目の仕掛けだったと思う。
ただ、それも猿川プロの持っている感性なのだろう。
あの配牌が9巡目に仕上がる。

五万六万七万三索五索六索七索八索八索二筒三筒六筒七筒  ツモ五筒  ドラ四索

私はこのテンパイが入った瞬間(6,000は6,400オール!)
と心の中で発声の準備をしていた。
これは私の構えが良かったのではなく、誰が打ってもこうなる。

宣言牌の三索を静かに置いて「リーチ」
その声と重なるように「チー」
(おっさん、なにすんねん?!!)

そして、猿川プロは能面の表情で、私の入り目である五筒をノータイムでツモ切る。
しかも、あたかも完全安全牌であるかのようにツモ切る。これが猿川プロのプロとしての顔である。

後で映像を見たが、古川プロの仕掛けは、

一万三万五万五万一索二索二索四索六索一筒三筒東中

この牌姿を見た時、呆れると同時に尊敬の念を強く持った。
古川プロは戦っているのである。身体で戦っているのである。感性と呼んでもいいかもしれない。

私が理解したのは、古川プロ独特のオリを前提とした前進、もしくはツモ筋をずらしたものである。
全く持ってこのアグレッシブさには恐れいる。

結果は、猿川プロの七万ツモアガリである。

五万六万三索四索五索八索八索七筒八筒九筒  ポン西西西  ツモ七万

このアガリを見た時、猿川プロの戦う姿勢に感動するとともに、モチベーションが上がったことをはっきり覚えている。
この収束を見た時、一番得をしたのは古川プロではなかっただろうか。
なぜならば、私にとっては考えられないファインプレーだったからである。

次局は、その古川プロの親番である。平場をピンフでしっかりとヤミテンで出アガった。
私はこれを見て、古川プロのターンになることを感じていた。

【ガラリーの正体】

私の感じていた通り、古川プロより3巡目にリーチが入る。
南1局2本場
捨牌 九筒白中 リーチ

二万二万二万五万六万七万六索七索八索四筒五筒南南  ドラ南

古川プロのリーチを受けた時点での私の手牌。

四万五万五万六万八万九万四索五索一筒三筒八筒九筒北  ツモ五索

ちなみに、古川プロの配牌である。

二万二万二万五万六万六索七索四筒五筒九筒南南白中

活きているのである。古川プロのツモが生命力に溢れているのである。
古川プロのリーチの第一ツモがドラである南だった。
その南を打ち出す指の表情に、私は違和感を覚えた。

そして同巡内に、誰もドラである南を合わせ打ってこないのをみて、違和感が確信へと変わった。
古川プロの雀頭はドラである南であると。

私は3,900オールを覚悟した。そして、丁寧に古川プロの安全牌を打ち進めて行った。
打ち進めながら考えていたのは、私と古川プロの態勢である。
思い込みかもしれないが、まだわずかに私の方に分があるように思えた。

四万五万五万六万六万七万八万九万四索四索四索一筒三筒  ツモ三万

私はツモってきた三万を支柱におき五万を右端に寄せた。ここで少考したのは、態勢の差の確認である。
もちろん、古川さんの待ちは全くとっていいほど読んでいない。
ただ純粋に、態勢の差のみを考えていたのである。

そしてわたしが出した答えが、追いかけリーチである。
私を知っている麻雀ファンの方たちは、俗にこれをガラリーと呼ぶ。
ただ分かって欲しい部分は、相手が親であり、ドラがトイツであることを想定した上で、こちら側は愚形待ちのリーチであるということ。
言葉を変えるならば、僅か1,300点のアガりVS最低7,700の戦いである。
愚かと言われれば頷くしかない。

今局の結果は、たまたま僥倖と呼ぶべき私のアガリではあったが、その裏側には脅えも振り込む怖さも合わせ持っているのである。

私に関して言えば、残り1節、不毛ともいえる降級争いの最下位卓で戦わなくてはならない。
人の価値観はそれぞれである。麻雀を運のゲームと呼ぶ者もいれば、所詮ツキのゲームと呼ぶ者もいる。
それはそれで致し方ないことだと思う。ただ私たちは、少なくとも私はそうは考えていない。

私はツキの存在も運もあると思っている。麻雀観はツキと運を奪い合うものだと考えている。
そう考えていないと、麻雀プロなどやっていられないのである。

ただ一方で、未成熟な世界であることも私は知っている。
その未成熟な世界を、光ある世界に変えていくのは、瀬戸熊君をはじめ、これから生まれ出る若き連盟のプレイヤーだと信じてやまない。

ファンの皆さんに祈りにも似た気持ちがあるとすれば、
連盟チャンネルでA1のみならず、A2の戦いを観て欲しいということである。
そこには必ず真実があるのだから。

暖かい気持ちで、未成熟な私たちの世界を見守っていただければ幸いである。