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第111回『ガラリーの全てパート2』 前原雄大

2016/07/19
執筆:前原 雄大


__変わろうと思った瞬間、人は変われる。

数年前、夏目坂スタジオがオープンした。元来、好奇心旺盛な私は、見学がてら、自分が戦う場所の下見に訪れた。
その時、ちょうどA2リーグの対局があり、その中で一人の男に魅せられた。

やや、小首を斜めに構え、上半身が全くブレず淡々と同じリズムで打牌を繰り返し、異様とも思える腰の重い打ち手。
全ての対局が終わったあと、彼に声を掛けた。

「貴方は麻雀が強くなるよ」
「ありがとうございます」
「仕事は何をしているのですか?」
「以前は雀荘に勤めていましたが、今は、○○に勤務しております」

口数は少なかったが、それが前田直哉さんと初めて口をきいた場面だった。

帰りの電車の中、私は考えていた。
遡ること数年前、森山茂和さんの提案で勉強会が起ち上げられた。その森山さんの命を受け、若い可能性のある打ち手を探し求めていた。

__どうして、彼を見つけ出すことが出来なかったのだろう?
私は己の不明さを恥じた。
さらに、記憶の糸を手繰り寄せた。顔には見覚えがあった。そして、ある瞬間思い出した。
仕掛けてはオリを繰り返す打ち手がいたことを・・・・。

私の興味はひとつだけである。
何が彼の麻雀を変えたのか、もしくは、彼が何をきっかけに麻雀を変えようとしたのか。

先月のこの講座に記した一文を覚えておられる方もいると思う。阿佐田哲也さんの言葉である。

「それと、麻雀だけ打っていても強くはならないかナ」
そうおっしゃられてニヤリと微笑まれた。
「やりたくないこともやっていかないとネ」
アホウのように麻雀ばかり打っていた私の心を見透かされたような言葉だった。__

前田さんの麻雀に関して思うのはこの部分である。
彼の今の仕事は1日に健全な仕事ではあるが、20キログラムから30キログラムのモノを8時間から、9時間運ぶものである。
決して楽な仕事ではないし、少なくとも私にはできない。

仕事、環境が彼を彼自身の麻雀を変えたように思えてならない。
我慢することを覚え、人と接する時には底抜けに明るく振舞い、相手の感情を読み取ることが驚くほど早い。
全ては私の推測に過ぎないが、あながち、的外れではないように思う。

私も阿佐田哲也さんの言葉に従い、3年間と決めて、父親の会社に勤めたことがあるが、2年と10ヶ月で辞めた。
どうして、後2か月が勤められなかったのだろう__。
理不尽なことがあったのかもしれない。ただ、良く考えてみれば解ることだが、理不尽なのが世の中であり、麻雀である。
前田さんはその年A1リーグに昇級すると共に鳳凰位に就いた。同年、最強位も戴冠された。
何が彼をそうさせたのかは知る由もないが、彼が変わろうと思った瞬間、変わりはじめたのではないか__私はそう考える。

 

歩く理不尽

私にとって理不尽な存在は古川孝次さんである。と言ってもすこぶる仲は良い。
何しろ、私が20歳くらいの時、名古屋に麻雀を打ちに訪れた時からであるから、40年近くなる。
その間、古川さんから、他人の悪口や陰口を聞いたことは一度もない。

「僕はブラジルの血が流れていると思うんです。時折、無性に踊りたくなるんですよね」
「ホントですか?」
「本当です」

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一万二万三万五万六万七万七万九万東東  チー六万 左向き四万 上向き五万 上向き  ツモ四万  打七万

私は下家の古川さんがオリているのをしっかり確認してから、リーチ者の現物である七万を打った。
「チー」と古川さん。そして、黙々とオリに向かう。その終局図をご覧いただきたい。

 

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本来、私がツモるはずの八万を引き抜き、私にはリーチ者に打てない五索を掴ませる。
私にとっては、「サーフィン打法」というより、「サーフィンド阿呆」と言いたいくらいである。

冗談はさておき、古川さんの感性は素晴らしいということと、今局に至るまでの私の戦い方が悪かった、もしくは弱かった、と言うのが本音の処である。
先日A1リーグで古川さんと同卓の折り一緒になって踊ってみたが、後半、踊り疲れた。
似合わぬことはするものではないと改めて考えさせられた、と共に古川さんには本当にブラジルの血が流れているのかもしれないとも思った。

 

間合いのガラリー

 

「さすがにいきなり、あのアガリは無いだろう、、理不尽以外の何物でもない!」
敬愛してやまない荒正義さんから言われたのが今局。

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点差はあるものの、前局、荒さんより出アガリ迎えた親番、決めていたことは荒さんだけを見て打つということだった。
字牌の切り巡が遅くなっているのはツモの伸びが良かったため、相手に仕掛けられるのを畏れた為である。

 

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そして、ここでリーチに踏み切ったのは、ドラである七筒をツモったこともあるが、荒さんのテンパイ気配をハッキリ感じたことである。
その部分に関してはお互い様で、荒さんにしても私のテンパイ気配は普段から、8割方感じていると思う。
この時点では、私の河に荒さんのロン牌がないことも条件に含まれていた。

そのほかにリーチを打つ絶対メリットは、荒さんはテンパイした以上オリないだろうし、無筋を切り飛ばしてくる。
その場合、沢崎誠さんは絶対と言って良いほど、私にも荒さんにも放銃しないという信頼を私は持っている。

 

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結果は別物で、私にこのリーチが成功する確信は何処にもなかった。私の放銃の可能性の方が高いと、やっている最中は考えていた。
今回この譜を持ってきたのは、手牌でリーチを打つのではなく、間合いで打たなくてはならないリーチもあるという方法論もあるということを知って欲しかったに他ならない。

基本的にはテンパイ即リーチを私は好むが、場面がそうさせない場合もままあるものである。
付け加えるに、親番の大物手だからヤミテンに構える打ち手が多いように思うが、親番の大物手だからこそ、リーチを打った方が良い場面もあることを知っていただきたいものである。