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第131回『勝負の感性』 荒 正義

2018/04/27
執筆:荒 正義


① 面前とサバキ
麻雀の「強さ」を測る物差しは、人それぞれである。
勝ちの結果や勝率がすべて、という人がいる。しかし、「結果」はそう単純なものではない。その日の勝者が、たまたま運勢が高かったかも知れない。敗者は力が上でも、「運」がどん底だったかも知れない。
結果より確かに見えるのは勝率だが、これもあまり当てにはならない。格下相手と長く打ち、高い勝率を残しても自慢にはならない。格下なら長く打てば、格上は誰だって勝てるのだ。

強さの基準は「いつ」「誰と」「どこで」戦ったかにあるのだ。
「いつ」とは、打ち盛りか否かである。年齢も大事だ。雀風が完成し、麻雀に強さが出るのは、30代後半から60歳である。この期間の勝ち負けなら、確かである。
「誰と」とは、相手である。名の知れた打ち手なら、勝てば自信になる。だが、噂ほど当てにならない強さもある。相手が本物かどうかは、見て打って手応えを見ることが肝心。相手が本物なら、打てば必ず卓上で響いて来る。
「どこで」は、状況と場面である。誰でも勝ちたい場面でなければ、勝負の意味がない。プロの世界なら、G1のタイトルの決定戦である。

プロの世界だって、強さはピンきりである。勝ち組もいれば、そうでない者もいる。それが「格」の違いである。私たちの世界では、大きなタイトルを5個以上獲って、ようやく一流の仲間入りである。最短でもプロ入りしてから15年はかかるだろう。
その一流の中でも、完成された技と実績を持つ者がいる。彼らは多彩な技と独自の雀風で、数多くのタイトルを獲っている。これが、レジェント(伝説)と呼ばれる者達である。一流の上の超一流である。
私の知る限りで名前を記すなら、小島武夫、灘麻太郎、森山茂和、前原雄大、沢崎誠、藤崎智、瀬戸熊直樹である。まだ他にもいる。
彼らには、切れる技と実績がある。そして、人気と知名度で「麻雀史」にその名を刻むだろう。なお、小島と灘はその中でも別格である。
では、一流と超一流の違いとは何か?
それは「勝負の感性」にある。麻雀の格は、この感性で決まるのだ―。

(眼の感性)

二万二万六万七万八万三索四索五索六索七索六筒七筒中  ドラ二万

上図の手は、南2局7巡目の西家の手。西家は現状トップ目で、2番手の親とは5,000点の差。上家から八筒が出たが、どうする?

この状況なら、八筒八索は鳴きでもOKという打ち手が意外に多い。2番手の親を早く蹴り、高目でアガリできたなら満貫になるからだ。しかし、この牌姿で「鳴く」という発想が、そもそも問題である。この手はひと目、面前で進める手にしか見えない。眼で判断―この感性が大事なのだ。
この美しい手が、点棒の動きの少ない東場なら誰だって鳴かない。「鳴けば負ける」ことを、体が知っているからである。これが経験値だ。
「チー」の一言で、美しいこの手は凡手に変わる。
状況が加味されたことでチーテンをかける行為は、手牌を曲げている。いわゆる鳴くではなく、鳴かされたである。ここに違和感がある。
この手は面前で進めれば、まだ変化の余地が十分ある。五万を引けばこうだ。

二万二万五万六万七万八万三索四索五索六索七索六筒七筒

さらに、五筒ツモでこう。

二万二万五万六万七万三索四索五索六索七索五筒六筒七筒

678の三色が、ツモによって567に変化する。これならリーチで、跳満はもとより倍満ツモが狙える。
また、二万のドラ引きからの変化もある。その後ピンズが重ねたらこうだ。

二万二万二万五万六万七万三索四索五索六索七索七筒七筒

ここで、リーチをかけるかどうかは状況次第。だが、3面チャンならリーチが自然な応手だ。これは競技ルール(公式ルール)も、一発裏ドラ有り(WRCルール)でも同じである。また、ソーズを重ねたらこうだ。

二万二万二万五万六万七万四索四索五索六索七索六筒七筒

これならヤミテンでも、安めで満貫。高めで跳満がある。

鳴いてテンパイを取れば、この1局のアガリ率は高くなる。しかし、打点は半値。こんなときは我慢だ。満貫の手を3,900でアガっても、勢いはつかない。いや、むしろ「運」は後退するだろう。ここでアガっても、次がないのだ。

二万二万六万七万八万三索四索五索六索七索六筒七筒中

ここで跳満ツモを決めたら、もう怖いものはない。後はこの風に乗って、空高く舞い上がる。ならば、3連勝が見えてくる。この感性が大事なのだ。
いわば麻雀は「運」と「勢い」の取り合いで、その戦争なのだ。

実戦の西家は八筒をチーテンにかけ、安めで3,900のアガリ。しかし、鳴いたとたんに下家にツモ切りされたのが五筒である。
この半チャンの結末は、ラス親で2番手に満貫を引かれて西家は逆転を許した。その後の西家の着順が④③④で、この日は大きく沈んだ。
2回戦目以降この西家にミスがなかったとしても、この日の敗因はこの1局の「鳴き」にあったのは一目瞭然である。

(鳴きの呼吸)
しかし、麻雀は面前だけがすべてではない。時には、必要な鳴きもある。

二万二万五万六万七万三索四索五索六索七索三筒五筒七筒  ドラ六万

この手は、東2局7巡目の親の手だ。点棒の動きは少ない場面。
この手も面前重視の手だ。ピンズを引き入れ、リーチなら75パーセントの確率でアガるだろう。

二万二万五万六万七万三索四索五索六索七索五筒六筒七筒

これが理想形だが、ツモが安めの四筒でもいい。

二万二万五万六万七万三索四索五索六索七索三筒四筒五筒

テンパイ即リーチで、アガリはもう貰ったようなものだ。しかし、ソーズが先に来るケースもある。

二万二万五万六万七万二索三索四索五索六索七索五筒七筒

この場合はヤミテンが本手。リーチをかけるなら、捨て牌に迷彩がかかりhが絞りカンチャンか、河から出やすくなったときである。

二万二万五万六万七万三索四索五索六索七索三筒五筒七筒  ドラ六万

実戦は四筒が2枚出ていて、上家から六筒がツモ切りされた。ぐっとこらえて我慢だ。すると今度は、下家が六筒のツモ切りだ。今度は話が別だ。上家から出たら六筒でも四筒でもいい、チーテンに取る。いや、ツモがずれているから鳴かなければいけない。これが、面前を見切るシグナルだ。親だから一度アガリ次の手を待つのだ。これも感性である。欲しいのはその点棒ではなく、親の権利と考える。これが鳴きの呼吸である。

(流れを断つ)
あれは、昨年のA2リーグ第4戦のときだった。
場は南1局で、山田浩之の親番で2本場だ。最初に山田は4,800のいいアガリをした。次が手なりで2,600オールだ。この連荘で、彼の持ち点は4万点を超えていた。この日、私は好調で30Pほど浮いていた。この半荘も、まだ2,000点ほどの浮きがある。
私の記憶は定かではないが、この時、北家の私の手は8巡目でこんなものだった。いや、手牌なんかどうでもいいのだ。

二万三万七万八万六索七索八索二筒二筒二筒六筒七筒八筒  ドラ八筒

六万は、場に1枚見えていた。実況は古橋崇志である。古橋は現在A2に昇級し、A1を目指して戦っている若手の有望株である。麻雀がオーソドックスで癖のない、いい麻雀を打つ。あとは経験値と鋭さを身につければ、A1昇級もすぐだ。
リーグ戦は、一発裏なしの公式ルールだ。トップには2万点のオカもない。トップの順位点は8,000点だけだ(浮きの2着は4,000点)。だから、順位ではなくアガリの打点が大事である。
この局は誰かが安手でアガリ親が流れた。この時のトップは、山田だった。

選手は対戦後、解説室に呼ばれる。そのとき古橋が言った。
「あの手が決まっていれば…」
あの手とはたぶん、私がこの手のリーチがかかることを予想し、実況していたに違いない。

二万三万六万七万八万六索七索八索二筒二筒六筒七筒八筒

これなら、ツモで取りあえずトップ逆転である。いや、これでもいい。

一万二万三万七万八万六索七索八索二筒二筒六筒七筒八筒

高目の六万を引けば、やっぱり逆転だ。しかしこの時、私は親落としだけを考えていた。山田は元A1。粘りのあるいい麻雀を打つし、打点力がある。調子に乗せると、その運に乗ってどんどん攻めてくる怖い相手だ。

私は言った。
六万は、チーテンにかけるよ』
『えっ、鳴くンですか!』と、古橋は驚いた。
当然である。こんな怖い親を、いつまでもやらせておくわけにはいかない。親は昇り調子だ。この後、ツモで点棒をもぎ取られることもあるし、早くて高いヤミテンもある。これに飛び込んではかなわない。とはいっても、トップをあきらめたわけではないのだ。

まず好調の親をサバキ、話はそれからである。
こちらにはラス親が残っている。その道中、いいアガリをして親を引けば逆転もあるのだ。相手が好調なら戦い方を変え、すぐに反応。
相手の「いい流れを断つ」―これも、大事な勝負の感性なのだ。

以下次号。