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第141回『勝負の感性⑪~もたれて打つ~』 荒 正義

○経過
 

最初は好調だったのに、終わると負けていた。こんな経験、誰しもあるはず。私もそうだ。30代前半まではよくあった。若いから、調子に乗ってがむしゃらに攻めていたからである。例えばこうだ。その日の第1戦である。

一万二万三万四万五万七万八万九万二筒二筒五筒六筒七筒  ドラ東

東2局の親番だ。8巡目にテンパイが入った。三万が2枚飛んでいたから、アガリの自信はなかったが、親なのでリーチをかけた。ドラの東の行方も分からない。これが他者に散らばって、オリてくれたらいいナの気分だ。すると3巡後に六万を引いた。裏ドラが1枚乗って、6,000点オールだ。この後は2着争いで、小場で流れて楽勝のトップだ。

第2戦。南1局の西家の9巡目だった。

二万三万四万六万七万八万三索四索五索五索二筒四筒六筒  ツモ二索  ドラ六筒

状況は、19,000点持ちの3着。六筒を横に曲げた。

北東八索 上向き九索 上向き中九万 上向き
一筒 上向き三万 上向き六筒 左向き

ダイレクトの筋待ちである。相手は強者ぞろいで流石に出なかったが、流局間際に三筒をひょっこりツモだ。しかも、これが裏ドラになって3,000・6,000点。
この後、親になって7,700と4,000点オールを引いて追加点。大きなトップを拾った。好調な滑り出しである。ただし、あと6戦あるから油断はできない。

 

○もたれて打つ
そして、第3戦の東1局。ドラ五筒
私は西家で、3巡目の手だ。

二万三万四万七万九万二筒四筒六筒東発発中中

ここに親から、初牌の中が出る。もちろんスルーだ。続いて南家からも合わせて中が出る。つい『ポン』と、声が出る。
若いときの私が、そうだった。もちろん、今はしない。これが、してはいけない鳴きである。

二万三万四万七万九万二筒四筒六筒発発  ポン中中中

鳴いても受けがリャンカンとカンチャンでは、アガリが遠いし打点も低い。これでは、勝てない。リーチが入れば、発を切って手仕舞いになる。この後、親からリーチが入る。結末は、安全パイに窮し後筋を追って親満の放銃。この後は、落ち目の三度笠。勝ちはおろか、負けになる。これは、私が若いときの失敗例だ。
問題は、中の鳴きにある。流れがいいときに、自らツモを変えることがそもそも問題である。好調のときは、メンゼン主体で打てばいいのだ。ツモだって利くだろう。
理想の聴牌形はこうだ。

二万三万四万六万七万八万六筒七筒発発発中中

二万三万四万六万七万五筒六筒七筒発発発中中

先手を取れたらリーチだ。その道中、他から攻めの火の手が上がれば受けだ。
スルーした中は、受け駒(安全牌)である。発も、ほぼ安全。受けなら、ツモを入れて14牌。2軒のリーチがかかっても、受け切れるはずだ。これがもたれ打ちである。

 

○ゆとりが大事
 

手牌が、タンピン形の手の場合もそうである。この手も好調の第3戦、7巡目の西家の手だ。

二万三万四万六万七万二索二索六索七索八索二筒四筒六筒  ドラ六筒

ここにドラの指示牌の五筒が出ても、鳴いてはいけない。ツモが利いているときは、手は伸びる。薄い五筒をズバリ引くこともあるし、上に伸びたらこうである。

二万三万四万六万七万二索二索六索七索八索六筒七筒八筒

二万三万四万六万七万八万二索二索六索七索八索六筒七筒

これなら、リーチで十分形。
その道中、親のリーチがかかる場合もある。

西北一筒 上向き一索 上向き二索 上向き八索 上向き
五万 上向き東五筒 左向き

南家の手
二万三万四万六万七万二索二索六索七索八索二筒四筒六筒  ツモ三筒  ドラ六筒

ここで乗っているからと、調子に乗って六筒を切ってはいけない。一発で当たれば、親満覚悟だ。いや、跳満だってあるかも知れない。打てば、流れが変わる。それが困るのだ。
ここは二索を切っての様子見が、正しい応手だ。打ちたくない牌は打たない、これが勝っている「ゆとり」である。実戦の東家の手はこうだった。

七万八万九万一筒二筒三筒四筒五筒七筒八筒九筒発発

流局間際に六筒を引いて、4,000点オールだ。しかし、東家は1、2回戦が不調のせいか、すぐに他家に満貫の放銃。好調の西家は南場の親で連荘し、トップを決めた。西家は40過ぎた私で、これで3連勝。
まだ、この好い流れは続くだろう。好調のときは、手牌とツモが勝手に正しい方向を決めてくれるのだ。先制できたら、攻める。先制されたら、素直に受けに回る。好調のときは、相手に体を預けているだけでいいのだ。そうすれば、展開が味方し勝手に勝ちが膨らむ。ゆとりも、もたれの範疇にある。

 

○潮の変わり目
 

4回戦。
私は、出親になった。私の思いは、もちろん4連勝である。手牌も良かった。
7巡目にしてこうだ。

二万三万四万一筒一筒二筒四筒五筒六筒七筒八筒東東  ドラ八筒

東は1枚出ていた。今、出ればポンテンの5,800点。それでいいのだ。すると西家が、南家が切った七万を小考。そして「チー」とカンチャンで鳴いて、四万切り。次巡、私はツモ切り。南家も三筒をツモ切った。
私は『チッ!』と思ったが、もちろん声には出さない。ところが、南家の次のツモ切り牌が九筒だったのである。これにはびっくり。
西家の迷いチーがなければ、私はこの手をアガっていたのだ。

二万三万四万一筒二筒三筒四筒五筒六筒七筒八筒東東  リーチ  ツモ九筒

一発で、6,000点オールだ。これが潮の変わり目である。ここを見逃してはならない。2巡後、西家がチーテンのまま八索を引いた。

二索三索四索六索七索五筒五筒六筒七筒八筒  チー七万 左向き六万 上向き八万 上向き  ツモ八索

つまり、西家の手は鳴く前はこうだったことになる。

四万六万八万二索三索四索六索七索五筒五筒六筒七筒八筒

通常、この手で初牌の七万の鳴きは無い。メンゼンならこの可能性があるからだ。

六万七万八万二索三索四索六索七索五筒五筒六筒七筒八筒

四万五万六万二索三索四索六索七索五筒五筒六筒七筒八筒

これでリーチなら満貫、跳満が狙える。しかし、この西家の鳴きは場合の応手だ。「3連勝している怖い親を落とし、話はそれからだ」と考えた。これが、正しい大局観である。
西家は手練れで、機を見るのが敏なのだ。この日の着順も②③②で、マイナスはしていない。この後、西家は親で6,000点オールを決めた。私は4連勝をあきらめ、2着狙いに転じた。
麻雀の運はそのとき好調でも、一晩中いいわけではない。何かの拍子で運が揺れるときがある。これが潮の変わり目である。その兆候は、卓上に出る。それを見逃してはならない。大事なのは、あとの対応である。

 

○もたれの進化
 

このとき、4戦目までの着順がこうだった。西家をマークしたから、2着が拾えた。
東家(私)①①①②
南家   ④④③④
西家   ②③②①
北家   ③②④③

このように4人の運に開きができたら、もっと勝ちを追及することも可能である。残り4戦あるから、どうまとめるかが勝負だ。この勝ちで満足し、守ろうとする人は逆に大きく沈む。自分もそうだったし、相手もそうだ。

今なら、こう考える
自分は好調だから、強気の構えでいい。
ただし、西家は運が昇り目だからマークだ。捨て牌がいいときは、ヤミテンを警戒する。こちらの手が、満貫以上で好形でない限り西家との戦いは避ける。
西家の親は、早めに落とす。戦うときは、このあと西家が痛い放銃をした後がいい。
比べて、南家は不調で無視だ。居ない者として考える。南家がリーチで、こちらの手がそれなりのときは、全ツッパ。1シャンテンでも、親なら全ツッパ。おそらく勝てる。2割の負けがあっても、8割勝てる。
北家もやや不調。リーチと来たときだけ考える。
こうして、相手の運を色分けして、戦い方に変化を加えることが大事。
5戦目、相手に先制リーチかかる。

北中三万 上向き一筒 上向き二筒 上向き発
七万 上向き八索 左向き

好調の自分の手がこうだ。

二万四万六万二索二索六索七索八索四筒五筒中中中  ツモ八万  ドラ六筒

このリーチが不調の南家なら、GOである。三万の早切りから、二万は通るだろう。同じ理由で四万も打てる。ピンズの両面でテンパイなら、追いかけリーチだ。無筋でも、1、2牌は打てると考える。こちらが親なら、全ツッパだ。たとえ放銃しても、不調の南家の手は安いと見る。裏ドラも、乗らないものとして考える。
しかし、このリーチが上り調子の西家の場合は、話が別だ。三万の先切りは、誘いの隙かも知れない。二万は、少し危険。危険を冒しても、ドラの六筒でアガリできる保証はないのだ。ならば、ここは見(けん)の中切りとなる。相手の運量に合わせて、打ち方を変える。これが、進化したもたれ打ちである。