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第73回『読む力』

2013/01/25
執筆:前原 雄大


 

「読む力」

連盟が発足して間もなく、牌将戦というタイトル戦が存在していた。
1日に半荘10回打つというハードな戦いだった。
終わった後、先輩たちは皆、疲れ切っていたような顔をしていたが、我々若手は、丁度エンジンがかかってきたところで、まだまだ打ち足りない気分だった。

とりあえず皆で飯を食べに行くと、当然のごとくその日の麻雀の話になり、誰かしらが「アフター」と言いだし麻雀が始まっていた。体力も気力も集中力も高かったのだろう。何よりも皆麻雀が好きだったし、強くなりたかったのだと思う。それも若さの特権だろう。

皆と少し違っていたのは、メンバーが5人か6人になった時、私は観戦する側に回ったことだ。
幾つか理由はあるのだが、一番の理由は技術的な部分、いわゆる見える領域の技術が飛びぬけて劣っていたことを自分自身で自覚していたからである。

劣っているのが解っていたから、少しでも技術的な分野を向上させたくて観戦する側に回っていた。
それと、なんといっても観戦するのが好きだったのだろう。
何十時間観戦していても飽きることがなかった。

その折り、観戦していて解ったことはたくさんある。例えばオリのタイミングである。
それは、打ち手それぞれ気質、麻雀スタイルから来るもので、個々の相手によって違うものなのである。
そのことを知っているのと知らないのでは、戦い方に大きな違いがある。
違いというよりは差異がある。

『出方を読む』

例えば、オーラスのトップ者が親番の時、その打ち手が点棒を嵩(かさ)に、さらに特大のトップを目指し攻め込むタイプか、終局を考えるタイプかで、こちら側の対処の仕方も変わってくる。
Aルール南4局1本場、11巡目。

東家46,000点
南家24,000点{私}
西家25,800点

私の手牌は、

一万二万三万四万五万六万七万九万一索一索二索三索四索 ドラ七万

こうで、東家がトップを取りたがるタイプであるならば私はリーチを打つ。
リーチを打って、オリてもらうのが目的で、上手くアガることが叶うならばプラスもできるからである。

逆に、相手が点棒の壁で攻め込んで来るタイプならばヤミテンに構える。
その後、ツモ三万ならば打九万と構える。

一万二万三万三万四万五万六万七万一索一索二索三索四索 ドラ七万

この牌姿になってもヤミテンに構え続ける。
点棒があるということは、勢いがあると言うことであり、状態も良いということである。
そんな相手が、攻めのキツイ相手ならば、リーチを打ってノーガードになるほど危険なことはないのである。
速やかな終局を目指すべきだろう。

相手の気質、麻雀のスタイルを知るのも読みなのである。
相手の出方の読みということである。

 

『心を読む』

プロリーグの第1節、私は沈んでいる。
それは、第2戦のオーラス親番、

近藤久晴:42,300点
前原雄大:28,500点
石渡正志:25,600点

この点棒状況で迎えたオーラス。石渡から7巡目に変則的な河のリーチが入った。
そこに、初対戦の近藤がブンブン向かって行く。
私も向かって行ったのだが、怖いのは石渡のリーチより親の近藤だった。

近藤の手牌が煮詰まっているのはハッキリ感じていたが、テンパイかどうかは判然としなかった。
私の手牌も13巡目に1シャンテン。

三万四万六万七万八万三索四索二筒三筒四筒八筒八筒北 ドラ二索

ここに近藤からまた無筋の打五索
テンパイに組む手もあったかと思うが、ここで動いて近藤にアガられたら、この日1日をダメにしてしまうと考え、いずれにしても長いリーグ戦、近藤の連荘は堅いと読みオリを選択した。
結果は流局。

私は2人テンパイと思い込み1,500点を支払おうとしたが、近藤は少考して手牌を伏せた。
石渡はやはり変則的な河が示す通り、ドラである二索単騎の七対子だった。

こうして石渡の1人テンパイで収束したわけだが、流局しても良く解らないものを抱えたまま3戦目に入ったのが私の弱さである。全対局が終了して、スコアカードを確認して初めて答えを見つけた。
初戦大きめのラスを引いた近藤は、2戦目は私が沈めば3人沈みとなる1人浮きのトップを取りに行き、ノーテンを宣言したわけである。

近藤にとっては、初のA1リーグデビュー戦である。
緊張する気持ちも解るし、どうしてもトップを取りたい処だったのだろう。
私は近藤の心を読み損なっただけの事である。
ただ、この場合は私にテンパイ気配があったなら、近藤もテンパイを宣言したかもしれず、また、別の結果が待っていたかもしれない。それでも相手の心を読むことは大切なことである。

 

『勢いを読む』

つい先日での勉強会でのこと。
数日後に大事な対局を控えていたので、やってはならないことの再確認のため卓に就いた。
トップ目で迎えた南1局、西家9巡目。
親番の勝又が煮詰まっている感じを受け、不得手の捌きにかけた。

三万四万六万八万二索三索四索二筒三筒四筒八筒八筒九筒 ドラ二万

ここから七万を動いたのであるが、仕掛けた同巡に勝又のツモの声。

二万二万二万九万九万二索三索四索六索八索四筒五筒六筒 ドラ二万

勉強会では終局後タン牌{手牌の公開}が全員に義務付けされている。
私は手牌を開けて皆に詫びた。

それは、私の局面に合っていない仕掛けで勝又にツモらせてしまったからである。
これは明らかな私のミスである。
ミスを犯した以上、そこに従って打ち進めて行くのが麻雀における常道だろう。

オーラスを迎え、勝又が40,000点ほどのトップ目。そして私は34,000点の2着目。
親番の筒井久美子が、32,300点の並びで迎えた。

勝又が7巡目に白をポンし、私も手が動き始めた。

三万四万八万八万八万四索五索六索一筒一筒三筒五筒南 ツモ六筒 ドラ二筒

南は生牌で、勝又のダブ南に当たるため、ドラの引き込みを見切り打三筒と構える。
ミスを犯していなければ打南としただろうが、私は終戦策を選んだ。

ツモ五万なら456の三色もあり、ヤミテンも考えるところだが、すんなりツモ二万と来る。
親番の筒井も真っ直ぐにやってきた。そして、勝又はオリに向かっている様子。
そこで筒井からリーチが入る。その瞬間、いつのまにか観戦していた森山茂和さんの声。

「勝又アガリ損なったんじゃないかな?」
「はい」

そして、流局。
一言だけ良いでしょうか?そう断わりを入れた上で勝又は述べた。

「前原さんの、左から3枚目の場所から三筒が出てきたので、ドラである二筒を掴まされ打ちきれませんでした」

確かにその通りであり、私の手牌の三筒の内側は二筒一筒である。
相手の手出し、ツモ切りを見て手牌構成を考えるのは基本である。

「仮にその二筒が当たりだとしても、満貫を支払えば良いだけのことだろう。
それよりも大切なのは仕掛ける以上、戦わねばならないということと、今の勢いならば、そう簡単にロン牌は掴まないということじゃないかな」

森山さんの言葉は深くそして重い。

見えている領域は、知識であり技術の一部であることは間違いない事実である。
この部分を疎かににして、見えない領域で麻雀を打つことは単なる思い込みであり、危険性が伴う。
見えている領域をきちんと把握した上で、見えない領域、勢いや形勢判断をしていかねばならない。
勢いを読む___一番難しい領域なのかもしれない。