十段戦 決勝観戦記

十段戦 決勝観戦記/第32期十段戦決勝 二日目観戦記 滝沢 和典

初日終了時(4回戦までのポイント)
櫻井+28.4P
野方+14.8P
藤崎+13.8P
柴田▲10.1P
ダンプ▲46.9P

masters21_01
 
5回戦
起家から(柴田→ダンプ→野方→藤崎) 抜け番 櫻井
東1局 ドラ二索
西家野方が、2巡目の白を仕掛け、6巡目に打たれた四万にもポンの発声。
三万六万八万八万七索八索九索  ポン四万 上向き四万 上向き四万 上向き  ポン白白白
すぐに六万を引き入れ、シャンポンのテンパイが入った。同巡、親の柴田がリーチをかける。
masters21_01
結果は、野方の仕掛けが決まり、リーチをかけた東家柴田から1,000の出アガリとなった。
四万をポンする前は、テンパイに対する受け入れが二万五万のみで、アガることが最大の防御である以上、必然の仕掛けと言える。
アガリに対して貪欲な、鋭い仕掛けではあるのだが、当然のごとくリスクも伴う。
柴田のリーチは、そんな野方の仕掛けを捕まえようと、初日と同様に、野方の打ち筋を踏まえた選択である。
ドラ暗刻の藤崎が攻めるのは当然のことだが、そこには柴田と同じで野方の仕掛けならさらに攻めやすいといった後押しがあったであろう。
ただ、どんな手牌か確信を持って打っているわけではなく、やはり手探りの状態で互いに打っているところが面白いところだ。
東3局1本場ドラ発
masters21_01
東家野方の先制リーチに対して、柴田は11巡目に画像の手牌から打六索とした。
七対子の1シャンテンをキープする打白は、野方のリーチ宣言牌がドラの発であるため、打ちやすい牌ではある。また六索が通っているので九索も打ちやすい。
若干消極的にも映る選択だが、この後引いたツモ白では唐突に打一索というアグレッシブな打牌を選択した。
結果三索を引き入れ、白中のシャンポンで追いかけリーチ、見事野方から8,000を打ち取った。
一索二索三索四索五索六索九索九索九索白白中中   リーチ  ロン中
masters21_01
東4局
masters21_01
ドラが2枚の手牌を手にした柴田、一気に攻め切りたいところだが、立ちはだかったのは藤崎。
ここまで、何となく野方を意識したような打牌選択が見受けられた藤崎だが、初日の雰囲気とはまた一味違った凄みのようなものが感じられた。
この2,600オールは単なる結果ではあるが、この後本来の藤崎麻雀の安定感を感じる一日となる。
南2局
masters21_01
1巡目の東から仕掛けたダンプが野方に5,200の放銃。
今回の決定戦で、選択が裏目に出てしまうことが多いダンプ大橋。
結果からたどる意味などないかもしれないが、悪い結果が続いてしまうと、軽い疑心暗鬼に陥ってしまうものだ。
何切る選択で差が出るのは長期戦での考え方で、決して長期とは言えない十段位決定戦では、押し引きが重要となってくる。そこに強く影響するのが、人の心だ。
相手の進行具合、場の状況など曖昧な情報を頼りに決断をしなければならないのが麻雀だが、精神状態が不安定になると、情報の取捨選択の正確さが損なわれてしまう。
それを払拭するのは、やはり日頃の稽古量であり、コンディション作りである。
ダンプはほぼ一人でマイナスを背負っている状況となってしまったが、この後立て直すことができるであろうか?
masters21_01
5回戦成績
藤崎+22.7P 柴田+8.4P ダンプ▲12.5P 野方▲18.6P
5回戦終了時
藤崎+36.5P 櫻井+28.4P 柴田▲1.4P 野方▲3.8P ダンプ▲59.4P
ここで6回戦目以降の抜け番選択が行われた(トータル順位上位者から選択する)。
まず現在1位の藤崎は本日最後の8回戦抜け番を選択。続いて櫻井は9回戦、柴田が6回戦を選択。
残るは7回戦と10回戦だが、ここでなんと野方が「10回戦を抜け番にします」即答すると、ダンプが思わず「え?いいの?」と聞き返す。
(※11回戦、12回戦は上位4名で対局、最下位が敗退となる)
後ほど野方に10回戦を選択した理由を確認すると、敗退ラインで争っているような成績で、自分が十段位を獲得することはないと思う。それより、今日を連続で4回戦打ちたい、とのことだった。
 
6回戦
起家から(櫻井→藤崎→野方→ダンプ)
東1局
一万一万二万三万四万一索二索一筒二筒三筒七筒七筒七筒  リーチ  ツモ三索  ドラ二筒
東1局に、この2,000オールをアガった櫻井は、続く1本場。
masters21_01
白ポン、四索ポン、アガリ牌の三索とすべてダンプから、5,800は6,100をアガる。
言うまでもなく、ダンプの手牌にはドラが内蔵されたテンパイが入っていた。
二万二万九索九索一筒一筒五筒五筒九筒九筒南中中
この時、三索は山に全て眠っていた。
どうせ櫻井との一騎打ちならば、と三索単騎で勝負をかけていれば…
五索にポンの声がかかっていないこと以外、櫻井の手牌構成はわかりようがないので、南三索の選択で正解を選ぶことは至難の業であるが、挽回するためのポイントだったのかもしれない。
東3局
masters21_01
8巡目、西家の櫻井のリーチを受けた藤崎は、ドラ五万単騎のテンパイを外し打白とした。
次巡四万を引いて、高目三色のテンパイが入ると一筒勝負でリーチをかけるが、すぐに五筒を掴んで櫻井に5,200放銃となってしまう。
西家櫻井は絶好のドラ五万をツモってのテンパイであった。
五万五万七万八万九万一索二索三索三筒四筒六筒六筒六筒  リーチ  ロン五筒  ドラ五万
この局の押し引きは実に藤崎らしいのだが、時にリーチの一発目に打一筒とする場面も見せる。
ドラの五万単騎のテンパイを崩すことなく、手牌の変化待ちでヤミテン続行。
しかし、この局はそうは打たずに一旦引いた。そしてツモにより前進すると、放銃となった。
非常に勝手な解釈であるが、この局リーチ負けという結果が出たことが、逆に藤崎のピントが合っているということではないだろうかと私は考えた。
何を根拠にこんなことを言っているのか謎ではあるのだが自分なりにはしっくりきている。
masters21_01
後日藤崎にこの局について聞いてみると、やはり「これまでの展開が…」と始まった。
私自身、局と局の因果関係や、調子の良し悪しによる打牌選択について、上手く説明できるわけではないので、気になる方は牌譜や映像をご覧になっていただきたい。
南3局、親番の野方が3連続アガリを決める。
masters21_01
五万六万六索六索六索六筒七筒八筒南南  ポン東東東  ロン四万  ドラ二万
ダンプから1,500
南3局1本場
四万四万六万七万二筒三筒四筒六筒七筒八筒九筒九筒九筒  リーチ  ツモ五万  ドラ五筒
1,000は1,100オール
南3局2本場
二万三万四万二索二索三索四索四索五索五索七筒八筒九筒  ロン六索  ドラ九筒
ダンプから2,900は3,500
やはり、野方が重きを置いているのは打点力ではなくアガリ回数である。
仕掛けやヤミテンを駆使して、櫻井をかわしこの半荘のトップに躍り出た。
そして大きな失点ではないが、ダンプの点棒がじわじわと削られていく。
南3局3本場
masters21_01
続く3本場でも野方がリーチをかけたが、櫻井がしっかり攻め切って重いパンチを決める。
2番手の藤崎とのリードを広げ、櫻井が単独首位となった。
masters21_01
6回戦成績
櫻井+32.8P 野方+10.1P 藤崎▲17.8P ダンプ▲25.1P
6回戦終了時
櫻井+61.2P 藤崎+18.7P 野方+6.3P 柴田▲1.7P ダンプ▲84.5P
 
7回戦
起家から(藤崎→櫻井→野方→柴田) 抜け番 ダンプ
東1局は東家藤崎がヤミテンでピンフイーペーコーをツモり1,300オール。
四万五万六万三索三索四索四索五索一筒一筒五筒六筒七筒  ツモ五索  ドラ九筒
東1局1本場
masters21_01
首位を走る櫻井が藤崎のリーチに12,000放銃となった。
南家櫻井はこの配牌から、打四万とリャンメンターツに手をかけ、
四万七万八万一索二索四索五索六索七索八索九索中中  ツモ三万
六索を引いて中を1鳴き。
第1打ということで、場面に情報は出ておらず、現状のトータルポイント、残り局数などを踏まえると非常に難しい選択である。
櫻井のように、フォームが柔軟であるほど、こういった場面での選択肢は増える。選択肢が増えれば、結果に対して心が揺れ動く回数も増える。
自信を持って出した答えだからと、この結果を受け止めたであろうか。それとも12,000の放銃となってしまえば、後悔してしまったであろうか?
櫻井の心中は定かではない。
東4局2本場
東家の柴田は2巡目にタンヤオの1シャンテンという好配牌を手にした。
五索五索六索二筒二筒二筒三筒五筒五筒六筒七筒西中  ツモ五索
その2巡目に打ち出した西を西家の櫻井が1鳴き。
もつれにもつれて、柴田がテンパイを入れたのは15巡目であった。
masters21_01
(13巡目の打八万は当時櫻井の最終手出しが四万であった為、五万と入れ替え)
そして、ハイテイでツモってきたのはドラの東
結果から言えば、柴田はこの東を打ち、櫻井の仕掛けにハネ満の放銃となる。
早い仕掛けで手出し牌が多く、仕掛けた櫻井に消極的な対応をしている他家を見れば、櫻井がドラを持っている可能性が高い。
それでも柴田はドラを打った。この大舞台で、何万人が見るかわからない牌譜や映像が残るかもしれないこの決定戦の舞台でだ。
観戦している視聴者に、対局者に、先輩や後輩に、どれだけ批判されるかなんて、微塵も考えていない。
強い男だ。
そんなもの解釈次第でなんとでもなる。それも仰る通りであるが、私も変なお世辞は言わない方だ。
プロとして覚悟を持った人間が打っている、少しでもそう思ってくださっているならば、彼らの選択に対して安易な罵倒はなるべく控えていただければ幸いだ。
麻雀は一局の損得の繰り返しではあるが、今日、この決定戦に置いて一番になるために、決して軽々しくはない、勝つためにリスクを負った柴田の一打だった。
少なくとも私はそう解釈している。
南4局
masters21_01
15巡目の三万をチーしてドラの白打ち、またしても東家柴田が親をキープするべくタンヤオテンパイを取る。
北家野方が、ペン三筒を仕掛けたのも同巡だ。
ご覧の通り、捨て牌がストレートではないため、野方にドラが2枚あった場合は後重なりの可能性が高いことが予想される。
ただ、この巡目に三筒を打った櫻井にドラがある可能性は十分に考えられる。
ツモる動作や打牌のトーンなど、こればかりは卓上にいないとわからないことだが、白が打ちやすい情報が他にもあったのかもしれない。
また、上手く説明できなくとも、柴田自身が無意識に何らかを感じ取っていたかもしれないし、逆に親をキープする以外に理由なんてなかったのかもしれない。
とにかく、東家親番と同じようドラを打ってテンパイを組んだ柴田。執念が実を結び、500オールのツモアガリとなった。
そして実は、このチーで櫻井の七対子ドラドラのツモアガリを喰い下げるという結果も隠れていた。
南4局1本場
masters21_01
櫻井が藤崎に8,000放銃で7回戦終了。
この決着で、今度は藤崎がトップに躍り出た。
普段顔色が変わらない櫻井、歪んだ表情が印象的であった。
masters21_01
7回戦成績
藤崎+27.8P 野方+10.3P 柴田▲14.8P 櫻井▲23.3P
7回戦終了時
藤崎+46.5P 櫻井37.9P 野方+11.6P 柴田▲16.5P ダンプ▲84.5P
 
8回戦
起家から(柴田→野方→櫻井→ダンプ) 抜け番 藤崎
東1局
masters21_01
2日目の最終戦。トータルトップの藤崎は今回抜け番で卓にはいないが、マイナスしている者にとっては、トップとの点差を強く意識しなければならない時間帯に入ってきた。
その矢先、相手の心をへし折るような櫻井の2,000・4,000ツモでスタート。
7回戦オーラスでラス落ちしてしまった櫻井だが、このアガリで再びトータルトップの藤崎に並ぶ。最終日は藤崎、櫻井2者のデッドヒートとなるであろうと予感させるようなアガリだ。
東4局1本場
masters21_01
※野方の四万チーは4巡目、中ポンは5巡目
一通のテンパイが入った櫻井の選択はドラ東切りのヤミテン。
野方は四万をチーしたときの打牌が1枚目の五万
つまり四万チーと同時にターツオーバーになっていることが読みとれる。
特に場面に高いわけでもない、むしろ山にありそうな四万から仕掛け、一色手でないのであれば、中以外にも役牌があるケースが圧倒的に多い。
いくら仕掛けを多用する野方と言えど、ドラは持っていそうだ。
しかけた瞬間ターツオーバーだったという予測も合わせて考えればテンパイが入っていてもおかしくはない。
仮に私が櫻井の位置にいたら、以上の理由で東切りとすることはなさそうだ。
櫻井の野方に対するピントが合ってきている証拠であろうか。
さらっとドラを打ち、野方から2,600は2,900のアガリとなった。
南1局
masters21_01
10巡目に柴田が7,700の出アガリ。
それにしても北家のダンプは絶不調。打った手牌の形が悪く、まったく追いついていないときが多い。
オーラスで5本場まで連荘を重ねるも、大した得点にならず沈みのまま終了。唯一の救いはこれが本日の最終戦であったことか。
櫻井が東場の得点を守り切り、1人浮きのトップで2日目の最終戦が終了した。
櫻井は2日目終了後のインタビューで、こう語る。
「1着と4着が多いですが、決勝らしい戦い方はできてるかなと思います。藤崎さんはやはり強い、だからこそ面白いんですけどね」
2番手につける藤崎を強く意識している様子であった。
8回戦成績
櫻井+20.2P 柴田▲1.9P ダンプ▲4.3P 野方▲14.0P
8回戦終了時
櫻井+58.1P 藤崎+46.5P 野方+2.6P 柴田▲18.4P ダンプ▲88.8P