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十段戦 レポート

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第30期十段戦 八・九~九段S戦レポート

2013/07/05
執筆:三田 晋也


6月23日未明、サッカー日本代表が地球の裏側ブラジルで3連敗した。
日本国民からしたら少し残念だったであろう。もうすこし健闘するのでは、と。
専門家たちは、強豪国との差はまだまだあると口を揃えた。

数時間後に始まる十段戦の八・九段戦に残った選手は、どこかしこで名前を見るものばかり。
意識の高い選手は必ず勝ち上がってくる。敗戦を次に活かせぬ者は、全ての結果はたまたまになる。
敗退したものは、負けた瞬間から来季の十段戦の戦いが始まっている。

十段戦で優勝するのは夢のようだろうか?低段者が公言すれば、皆に馬鹿にされるだろうか?
ワールドカップで優勝すると宣言した日本の選手と同じように。
この十段戦に全てを懸けて臨んだものは何人いるだろう。
瀬戸熊十段を俺が倒してやるぞ!と思っているもの。

午前11時。新橋。八・九段戦が始まった。
シード選手は以下の6名。

京平 遥
木村東平
京平 遥
藤原隆弘
京平 遥
朝武雅晴
京平 遥
吉田幸雄
京平 遥
藤崎智
京平 遥
小車祥

勝ち上がり者26名を加えて8卓32名で4回戦が行われた。

女流プロ最後の砦、魚谷侑未は、滝沢和典、木村東平、上村慎太郎と同卓。
1回戦は上村が55,000点のトップ。
実は、昨日の六・七段戦の最終戦90ポイント以上あった差をひっくり返されそうになったのだが、なんとか時間打ち切りで免れた上村。このトップで本人も安心してしまったか。ここから痛い2連続ラス。
安定の滝沢、魚谷を捕まえることは出来なかった。本人も悔しいに違いない。

京平 遥
上村慎太郎

北関東支部の活躍がここまで光る。副支部長・大川は緻密な仕事師・藤原隆弘と同卓。
最終戦を迎え、鈴木、藤原、金子の3者競りの1人沈み。
何とか浮くものの壁は高かった。藤原は貫禄の通過。

京平 遥
大川哲哉
京平 遥
金子貴行

同じく北関東・須長正和。山井、明石、現マスターズチャンピオン小車との対戦。
現マスターズはこの八九段戦からの登場なのだが、十段戦にその勢いはなぜか直結しない。
ルールの違いや長いトーナメント、また、ここが緒戦であることなども原因の1つではあるだろうが、少し力みもあるのではないか。タイトルホルダーになったが故のプライドも出てくるはず。

最終戦、小車+16.6P、須長+15.4P、明石▲12.2P、山井▲21.8P

この十段戦に於いて戦い方をよく知っている明石、山井。
終わってみれば天地逆転の結果となった。これは負けた両名にとっては本当に悔しい。
しかし、人数調整のたった1枚のワイルドカードを須長は引き当てた。

京平 遥
須長正和

河井保国は好調の安に出鼻を挫かれる展開。
しかし、最終戦自力でトップをもぎ取り平田を交わして通過。
大きな負債を抱えた三浦は、六七段戦で見せた驚異の攻撃力を見せることが出来なかった。

京平 遥
三浦大輔

そして、北関東支部長・吉田はチャンピオンズリーグ決勝以来の中村慎吾と再戦。
中村毅が独走状態の中、しっかりと番手をキープする。
しかし3回戦、中村慎吾が南場でフィーバー。吉田は箱ラスに。
しかし最終戦、2度同じ相手に負けるわけにはいかぬと捲りかえし。
中村慎吾はチャンピオンズリーグから十段位という、堀内正人の再来とはならなかった。
やや取り残された元王位・井出は、寂しい幕切れとなってしまった。

京平 遥
井出一寛
京平 遥
中村慎吾

この八・九段戦、B1リーガーが最多の7名。
その上位につける吉田直は、最終戦、山田浩之を約30P差で追いかける。
東1局の親番で連荘し条件を平らにしたが、その親番を流したのは山田。
結局山田は、最終戦トップで終了。

1年前、この八・九段戦のレポートを担当していたのが吉田。
唇を噛み締める思いで見ていたに違いない。またこのステージに戻ってくるであろう。

京平 遥
吉田直
京平 遥
福山満幸

A1リーグ首位の朝武。最初の2回戦を終えトップ目にいたものの、ここは勝ち上がり組が驚異の粘り。
老月は六・七段戦に続き、後半戦で盛り返した。杉浦勘介は安定感が光った。
ここまで初段から勝ち上がってきた小川。オーラス条件が出来たが思い届かず。

京平 遥
老月貴紀
京平 遥
小川拓麻

安村と藤崎は、2回戦まででほぼ条件を整えて通過。
昨日から安村は調子がよい。いつ見ても突き抜けた位置取り。
共に五段から臨んだ、石川と西野は4者縦長の展開にはしたくなかっただろう。

京平 遥
石川正明
京平 遥
西野拓也

九段戦Sへの勝ち上がり

「初段戦から勝ち上がり」
弓削 雅人

「二段戦から勝ち上がり」

安村浩司

「三段戦から勝ち上がり」
河井保国 須長正和(ワイルドカード)

「四段戦Sから勝ち上がり」
中村毅 杉浦勘介 安秉参

「五段戦から勝ち上がり」
鈴木 基芳

「六・七段戦から勝ち上がり」
山井弘 明石定家 老月貴紀 山田浩之
滝沢 和典 魚谷 侑未

「シード選手勝ち上がり」
吉田幸雄 藤崎智 藤原隆弘

『ベスト16への戦い』
ここまで死闘を乗り越えた者たち最後の砦が、九段Sシード選手7名。
麻雀界を席巻し、作りあげた偉大な先輩達。神7とでも言い換えられようか。
すでに結果をご存知の方も多いと思われるが結果から記せば、シード選手7名のうち5名が通過している。
何とも高い壁だろうか。生半可な覚悟ではこの壁は乗り越えられぬ。
映像媒体などの決勝とは一味違う麻雀がこのステージには存在する。

例えばこの局面。親番5巡目。

一万一万四万四万五万六万七万七万八万九万五索六索七索七筒 ドラ一万

即リーチにふみきり、ツモ四万の3,900オール。
この手をアガったのは「ミスター麻雀」小島武夫。
河にはマンズの好形、三色への牌が並ぶことなく最短のアガリ。

京平 遥
小島武夫

対戦相手は、今年のマスターズベスト16の鈴木基芳。
去年の十段戦の屈辱に燃える山井弘。
そして現女流桜花・魚谷侑未。

メラメラと燃える卓上で、小島は麻雀を楽しんでいるように見える。
山井は最終戦を迎えほぼ通過。小島までの、鈴木、魚谷のポイント差は約30P。
東1局、魚谷。

一索一索三索四索四索五索五索七索七索八索八索九索九索 リーチ

これは空振り。以降、局が進むごとに、じりじりと点棒が減っていく。
そんな中、鈴木は、

六万六万七万八万九万三索三索七索八索九索七筒八筒九筒 リーチ ツモ三索

50,000点を超えるトップを取ったが、一歩及ばず。

魚谷が最後までこの十段戦に残った。
九段Sでは力及ばなかったが、若手女流プロには是非見習ってほしい部分がたくさんある。

京平 遥
鈴木基芳
京平 遥
魚谷侑未

「親番で役無しツモドラドラって聞いたことないだろ?」
あまり聞かないですね。と答えれば、
「トーナメントだとあるんだよこれが。」
と、ニヤリと言葉を足す。
五十九段位(五度の十段と現九段の意)前原雄大の言葉は深い。

沢崎誠、吉田幸雄、老月貴紀との戦い。
九段戦Sは必ず6卓24名で行われる為、シード者2名の死の卓が存在する。
それがこの卓。
ここまで勝ち上がってきた吉田、老月相手に両名とも通過である。
前原は100P以上を叩き、沢崎は自分に部が悪いと見るや、その背中を風避けとし番手で勝ち上がり。
これもトーナメントの戦い方である。

京平 遥
前原雄大
京平 遥
沢崎誠

そのトーナメント巧者・藤崎智の卓には伊藤優孝。

京平 遥
伊藤優孝

2連勝した藤崎智は、3回戦目のオーラスもトップ目で親番を迎える。
メンタンピンの3面帳リーチを放ち、後続を引き離しにかかりに行くかと思われたその時、初段唯一の勝ち残り弓削が追いかけリーチ。藤崎が河に放った八万にロンの声。メンホン七対子の12,000。
2連勝後の、3連続4着での敗退には、別卓からも驚きの声。
弓削の快進撃もここまで。

京平 遥
弓削雅人

十段を取ればグランドスラムとなる荒正義。
杉浦勘介、山田浩之、河井保国という次世代を担う3名と相対した。
まるで今年の鳳凰戦を見ているかのようで、観戦している立場からすれば何度もファインプレーを魅せてくれるものの、対戦相手からしたら大人しく映ったかもしれない。

京平 遥
荒正義

ここまで冷静に、強い勝ち方であがってきた杉浦。1回戦を1人沈みで終え、迎えた2回戦。
開局の親番で大きく点棒を稼いだ東2局。山田がリーチ。
追いかけた親番の河井が、高めツモ6,000オールのリーチ。
この局面で杉浦は、山田に5,200の放銃。その半荘、トップを取れずに2着。

3回戦終えた時点で、
山田+55.5P 河井+25.3P 杉浦▲39.2P 荒▲41.6P

しかしここからがカッコ良かった。
4回戦をトップで終えると、最終5回戦オーラス6,000オール、1,000オール。
ついに1.3P河井を交わす。

3本場、杉浦。

三万三万四万四万六万五筒六筒 チー八万六万七万 ポン八筒八筒八筒

河井
三万四万五万五万七万六索六索八索八索八索五筒六筒七筒

杉浦のテンパイ打牌六万を捕らえ長い戦いを終えた。
ピンズを引いての選択ではなく、マンズを引いての打六万
杉浦の十段はこうして幕を閉じた。

京平 遥
杉浦勘介

ここまで圧勝で勝ってきた安。

3回戦終了時
須長+19.3P 古川+7.5P 中村+5.7P 安▲32.5P

4回戦オーラス、親・古川。
安44,600
中村37,400
古川28,400
須長9,600

安にとっては理想の並び。このまま終われば最終戦着順勝負になる。
しかし古川リーチ。
この局、安は追いかけリーチをして500・1,000のツモアガリで古川を浮きに回さない。
古川の打点が読めないこと、親番であること、12,000と言われれば終局であることを加味してオリる打ち手もいるだろう。ここで誰も戦わずに古川に1人旅をさせればこの後、どうなるか分かっているのだ。

それでも古川は強かった。
最高峰のリーグ戦で戦っている古川に取って、この局面はよくあること。
最終戦、しっかり照準を合わせてしまう。
中村、古川の勝ち残りとなった。

京平 遥
安秉参

「やっぱり滅茶苦茶強い。簡単にはいかないわ。」
3回戦終了時に藤原が言った。
2回戦終了時で、藤原と安村は+30P、森山と滝沢は▲30Pであった。
3回戦、我慢を重ねてようやく入った本流を滝沢が親番で生かす。

京平 遥
滝沢和典

三万三万四万四万五万二索三索四索六索六索二筒三筒四筒 ドラ四万 リーチ ロン五万

滝沢はアガリの際、決して発声を荒げたりしない。例え役満であろうと。
この18,000の時もそう。
滝沢はこの半荘トップを取るのだが、圧巻はやはり森山会長。
この18,000を放銃し箱ラス寸前までいくも、終わってみれば35,300点の2着。
しっかり勝負をしていけば、点棒は返ってくる見本のような麻雀。

京平 遥
森山茂和

最終戦
安村+29.0P 藤原+15.2P 滝沢▲9.9P 森山▲36.3P(供託2.0P)

南場の親・滝沢。

七万七万一索二索三索一筒三筒五筒六筒七筒 ポン白白白 ドラ一筒

南家の森山が明らかに高そうな仕掛け。
この時、密かにヤミテンを入れていた藤原の待ちは、滝沢のアガリ牌でもある二筒七筒のシャンポン。
森山と安村が仮に二筒を切れば頭ハネで藤原のアガリ。
しかし、滝沢は自力でこの二筒を手繰り寄せ、点数以上に大きい1,000オール。
1回戦で藤原にメンチンの24,000を放銃してからの見事な逆転通過となった。
藤原は+10.3P持ちながらも敗退となってしまった。

ベスト16組み合わせ

A卓 堀内正人(前年度2位)vs 明石定家 vs 古川考次 vs 河井保国

37_semi_14
堀内正人
37_semi_08
明石定家
37_semi_11
古川考次
37_semi_13
河井保国

B卓 仁平宣明(前年度3位)vs 中村毅 vs 伊藤優孝 vs 山井弘

37_semi_14
仁平宣明
37_semi_08
中村毅
37_semi_11
伊藤優孝
37_semi_13
山井弘

C卓 浜上文吾(前年度4位)vs 山田浩之 vs 前原雄大 vs 安村浩司

37_semi_14
浜上文吾
37_semi_08
山田浩之
37_semi_11
前原雄大
37_semi_13
安村浩司

D卓 安藤裕充(前年度5位)vs 小島武夫 vs 滝沢和典 vs 沢崎誠

37_semi_14
安藤裕充
37_semi_08
小島武夫
37_semi_11
滝沢和典
37_semi_13
沢崎誠

土曜日、日曜日、現十段・瀬戸熊直樹は運営で会場にいた。
何を想いこの2日間の戦いを見ていたのだろう。
7月後半に、挑戦者4名がこの中から決まる。

帰り道、新橋のSL広場に弓削の姿があった。初段からここまで来た。そして敗れた。
一段ずつ登って行けば少しずつ空気は薄くなり、景色が変わることを彼の体は覚えてしまった。
高山病にかかったかどうかは分からない。次はどんな準備と荷物でこの山を登ろうか。
次の十段戦まで後1年しかないのか、まだ1年なのか。