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チャンピオンズリーグ 決勝観戦記

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第4期JPML WRCリーグ 決勝観戦記 古橋 崇志

2018/09/30
執筆:古橋 崇志


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【第1章 現役最強】

 

700人近く在籍する日本プロ麻雀連盟の頂点に立つ男、前原雄大。
 
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現鳳凰位・グランプリMAXとG1タイトルの2冠であり、過去の実績も最強の名に相応しい。
第12.25.33.34期鳳凰位、第14.15.24.25.26期十段位、第3.8期麻雀グランプリMAX、グランプリ2008、インターネット麻雀日本選手権2012、天鳳位vs.連盟プロ2nd.3rd season
・・・キリがないのでこのあたりにしておこう。
特筆すべきは上記の内、5つのタイトルを2017年からの約1年の間に獲得していることである。
現在61歳。衰えを知らない”現役最強”の男が3冠に挑む。

1回戦親番となった前原。
7巡目に以下の形になると

 
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五万の3枚切れを見て打七万と構える。
次巡あっさりと四万を重ねると二万タンキのリーチ。
確かにマンズの場況は良く、前原ならば当然リーチの一手だ。
この時点で二万は山に1枚。しかも五万が3枚切れている為、後筋も期待できない・・・
と思っていた矢先、一発目のツモが何と五万
 
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七対子で粘った沢崎から二万が打ち出され、しかも裏2。18,000の強烈すぎる先制パンチとなった。
その後も前原はアガリやテンパイ料で加点し、55,800点持ちで迎えた東4局。
4巡目に藤島から打ち出された1枚目の発をポン。
 
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このポンの理由として思いつくのは以下の3点だ。
①配牌から全く有効牌を引かない
②沢崎の親番を警戒している
③ただのデジタル
③の理由だけは絶対に違うと言い切れそうだが①と②はどうであろうか。
瀬戸熊直樹は「沢崎とは点差こそ離れているが、やはり最後には追い付いてくるのでこの親は絶対に落としたいのだろう」と解説。
前原と長年死闘を繰り広げている瀬戸熊が言うのなら間違いない。
4万点以上の差があるのにも拘らず前原は沢崎を警戒し、狙い通り親番を1局で終わらせる。
結局1回戦は前原が最後まで押し切り、51,800点のトップ。
絶好のスタートを切り、2回戦を迎える。

この2回戦でも前原は順調に加点。
南2局の親番では2,000オール、9,600は9,900をアガリ、持ち点を46,200点とした2本場。
藤島のリーチ、東谷の仕掛けを受けた12巡目に以下の形となる。
 
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手堅く打つならば今通った四索を切っての一向聴維持の一手であろう。
いや、打四索など誰でも打てる。前原の選択は打八万。まさに前原らしい放銃である。
5,200点を失っても、2回戦のトップを藤島に譲っても、まだ前原が有利だろうと思っていた。
しかしここから前原の歯車が狂い始める。

3回戦
藤島がリードし迎えた南3局。
後のない東谷が親番で先制リーチ。同巡藤島が合わせた三万を以下の形からチー。
 
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そして六索白一筒八筒二筒と全てツモ切っていく。
東谷のアガリ牌は食い流れたものの前原は形変わらずノーテン。
 
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続く2本場。
 
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ここから六索をチー。
前局のノーテンがそうさせたのか、この局の雰囲気がそうさせたのか。
東谷のリーチを受け、真っ直ぐに撃ち抜いた三索が放銃。
 
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対局を終え帰路に着く中、前原が呟いた。
「あの三索が敗因だったな」
前人未到の年内3冠の夢はここで絶たれた。

 

 

【第2章 終生のライバル】

 

麻雀界でのライバルと言えば真っ先に思い浮かぶのが佐々木寿人と滝沢和・・ではなく、小島武夫と灘麻太郎だ。
その次の世代での最大のライバル関係と言えば前原雄大と沢崎誠であろう。
 
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沢崎誠 第13期十段位、第16.27期麻雀マスターズ、グランプリ2017、第7期雀魔王、、第2期新人王、第15期チャンピオンズリーグ、2013最強位、麻雀日本シリーズ2017

2017年からの成績だけを見ても
前原雄大 第33期鳳凰位、天鳳位vs.連盟プロ2ndseason、天鳳位vs.連盟プロ3rd season、第34期鳳凰位、第8期麻雀グランプリMAX

沢崎誠 第1回マスターズリーグ、麻雀日本シリーズ2017、第27期麻雀マスターズ、第2回マスターズリーグ、ロン2カップ2018summer

5度の優勝と全くの互角である。

過去幾多の名勝負を繰り広げたライバルが決勝の舞台で再び相まみえる。

1回戦いきなりの18,000放銃で劣勢に立たされた沢崎であったが、非常に落ち着いた戦いを見せる。
 
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東谷のリーチを受け、一筒が上家の藤島から打たれるがスルー。
チーテンの3,900、八索はドラ表示ではあるが山に残っていてもおかしくない状況。
八万が放銃になる危険性はもちろんあるが親番に向けて立て直しを図っている一局か。
白鳥は解説の立場も忘れて一言「すげえ・・」
読みの精度、押し引きの精度、まさに本物のトッププロである。

南2局にはタンピン一盃口が見える一向聴から前原のアタリ牌の三万を掴んで八万切り。
 
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親の東谷の無筋であるが、もし放銃になった時に前原のワンサイドゲームになる可能性が高まってしまうと考えたのだろう。
戦前に「最大の敵はやはり前原」と語った沢崎。
テンパイ気配の察知、待ちの予測、経験からの大局観。
非常に高い次元の押し引きを見せてもらった。
南3局、ここまで苦しい展開ながらも粘り強く戦う沢崎。
ようやく手にした勝負手、待ち選択も正解を選び2,000・4,000で3着に浮上。
 
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そしてオーラス。ヤミテンを入れていた藤島のアタリ牌が出ない形でのテンパイ。
 
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そしてリーチ。
「これをアガれば沢崎の展開になる」今まで沢崎の対局を見ていた者ならばそう思うだろう。もちろん対局している前原も。
しかし、藤島の追っかけリーチに放銃となり1回戦は4着。

きっかけを掴めないまま2回戦もオーラスに。
 
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高目ツモ倍満の勝負手も実らず。
 
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本当に引き出しの数が半端ない選手だ。
何とか自身の展開に持っていこうとリャンメンに受けずシャンポンでリーチ。
だが、これもアガリまでは行かず1回戦に続いての4着。
3・4回戦、この短期決戦ではさすがの沢崎も劣勢を打開する事は出来なかった。

「60歳を越えて攻撃でも守備でもない、自然体の麻雀を打つようになった。30年間鍛錬を積んだ経験でプロとしての技量を見せたい」と語っていた沢崎。
マスターズに続いての戴冠とはならなかったが、負けた試合でも随所にその匠の技を見せてもらった。
本人は意識していないようだが、連盟5大タイトル獲得の"グランドスラム"を達成する日は近いかもしれない。

 

 

【第3章 下剋上】

 

JPML WRCリーグは今期で4期目となる。
東谷は鳳凰戦ではBリーグの経験もあり、例えば前回のメンバーであったら本命視されておかしくない存在だ。
 
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しかし過去3度の決勝メンバーと比べて今回の決勝メンバーは異様と言える。
「自身が圧倒的に格下。挑戦者の気持ちで全力でぶつかります」
強敵3名を相手に虎視眈々と下剋上を目論む。

1回戦東1局2本場
ペン七索で混一のヤミテンが入っていたが、4枚目の白を持ってくると暗槓。
槓ドラも乗り東谷はリーチに踏み切る。
 
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宣言通り持ち前の打点力でぶつかっていく。
しかし六索を切れば一通である。仕掛けている前原には二索の方が通り易く見えるが、東谷ならば六索を切ってリーチしてもらいたかった。
結果はどちらにしても藤島の追っかけリーチに放銃となるが、不安が残る立ち上がりとなった。

南2局の親番では中をポンしてドラ2のチャンス手。
 
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上家前原から打たれた五索をスルー。
最低5,800に仕上げたいという東谷の意志を感じるスルーだ。
狙い通り自力で八索を引き入れると、再度前原から打たれた五索をチー。
 
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藤島から九索を打ち取り5,800のアガリとなった。

そして次局、前原があっという間の3フーロ。
それに対して東谷も4巡目に以下の形。
 
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ターツ選択となるが、ここは前原の現物のマンズを払っていく。
そして次巡テンパイ。
 
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ここはリーチを宣言して欲しかった。
もちろん前原の仕掛けは驚異である。発でダブル役満と言われてもおかしくはない。
しかし、東谷は挑戦者なのだ。
大きなリスクを負ってでも、攻め拔かなければ今回のメンバーには勝つことは難しい。
 
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結果論であるが、リーチを宣言していれば前原が一発で放銃。最低12,000のアガリが2,900となってしまった。

自身で押し引きのラインを引き気味にしてしまった東谷は1回戦こそ2着キープできたものの、2・3回戦は3着。藤島と64.4ポイントの差で最終戦を迎える。

まずは東1局、ドラタンキの七対子をツモり3,000・6,000。
 
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反撃の狼煙を上げるが、東2局の親番は流されてしまい、加点できぬまま南2局を迎える。
南2局5巡目
 
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東谷は七万を切ってのリーチ。
これは賛否あるだろうが、愚直に打点を狙う挑戦者らしいリーチだ。
しかし東谷の強い意志とは裏腹に一発目のツモは八万
結局五万をツモる事がなく、1人テンパイで流局。

1本場となり藤島の先制リーチを受けるも12巡目に追いつきリーチ。
 
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ここが最後のチャンスであったが、1度もツモる事なく藤島が二索のツモアガリ。

この麻雀を最初から貫けば、東谷が勝つチャンスはあったかも知れない。
しかし、対戦相手のプレッシャーに打ち勝つ事ができなかったように思える。
今回の決勝戦は東谷の麻雀人生でかけがえのない財産だ。
この敗戦を糧に、いつかまたこの舞台まで這い上がってくるだろう。

 

 

【最終章 過去を乗り越えた先に】

 

“花の17期”この言葉を聞いたことがある人も多いのではないか。
プロ連盟17期には
勝又健志、HIRO柴田、近藤久春、前田直哉、山田浩之、猿川真寿
などAリーガーやタイトルホルダーが多数存在している。
藤島もA2リーグは経験しているもののA1やタイトルにはあと一歩届かなかった。
 
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そんな藤島がタイトルに一番近づいたのが一年前、中川基輝が優勝した第2期JPML WRCリーグだ。
 
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最終戦南1局でトータルポイントが
藤島+49.7p 近藤+5.6p 中川▲11.5p 井出▲45.8pという状況。
発を切ればテンパイであるが親リーチの中川との差はまだまだ遠い。
ここで発を切って放銃になれば非難されるであろうし、発が通ってアガリきったとしても疑問の一打として扱われるかも知れない。
藤島は発を切らなかった。発を切っていれば藤島のアガリであった。そして藤島の優勝であった可能性が高い。
「この場面が最後に残されたチャンスだった」と後に語った藤島。
一年前の忘れ物を取り戻すため、再び決勝の舞台へ。

1回戦2,600のアガリがあっただけで苦しい展開の藤島。
オーラスを迎え僅差のラス目。ドラ暗刻の配牌を手にし、7巡目にテンパイ。
 
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跳満ツモでも2着には届かないためヤミテンを選択。
しかし、同巡3着目の沢崎からリーチが。
リーチ棒が出た事で跳満ツモで2着、藤島は迷わず追っかけリーチ。
 
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結局沢崎が九索放銃となり3着スタートとなったが、クレバーな藤島らしい冷静な判断であった。
このオーラスのアガリでペースを掴むと、2回戦は前原とのデッドヒートを制してトップ。

そして迎えた3回戦東1局。7巡目に前原、東谷の2件リーチを受けた藤島の手牌。
 
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北の対子落としで迂回し、絶好の六万を引き入れたのが11巡目。
 
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前に進む打牌候補は3つ。五筒三筒二筒
一筒が場に2枚切れ、四筒は自身で1枚、二筒三万は生牌。
藤島の選択は打二筒のヤミテン。
前原のロン牌を打ち出さずにテンパイとし、次巡六筒を引き入れる。
3門張なら勝負になると追っかけリーチで東谷から七筒を打ち取り5,800。
 
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冷静にそして大胆に。中盤戦の勝負どころを藤島が制した。

このまま突き抜けるかと思われたが、プロ連盟のレジェンドがそれを許さない。
東4局親番は沢崎。
マンズ、ピンズの中張牌のバラ切りから中ポン、一索ポンで打二索三万を引き込んで打四索
 
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マムシの一噛み12,000。藤島にとっては痛恨の放銃。
解説の白鳥「前巡の一万から打たない方が良い」と語る。
確かに一万から止めてしまう方が無難であるし、この局面には合っているように見える。
しかし二索四索の切り順から四索が関連牌に見えなくもない。藤島のミスと言うよりは、混一を意識させ、三筒で討ち取った沢崎の好プレーだ。

続く1本場8巡目に藤島がテンパイ。
 
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前局の12,000を取り戻すため、リーチとする選択も勿論ある。
しかし、藤島の選択はヤミテン。
前局の放銃、四万引きでの打点アップ、テンパイ濃厚な沢崎の現物。
リーチよりヤミテンを選択する理由はいくらでもあるのだ。
 
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結果沢崎からすぐ二万がツモ切られるが藤島に焦りは微塵も感じられない。

そんな藤島に牌も応え、次局の親番ではカン二索の先制リーチを一発ツモ。
裏も乗せて4,000オールとし3回戦のトップを決定付けた。
 
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そして運命の最終戦。
ポイント状況は以下
藤島+50.4、前原+22.1、東谷▲14.0、沢崎▲59.5
東1局、番手につける前原の親番で東谷が3,000・6,000。
東2局は沢崎が前原から8,000の直撃と藤島にとっては悪くない展開。
南1局の前原の親が流れ、南2局。この東谷の親、そして次に控える沢崎の親を流せば藤島の優勝である。
しかしどうして神様は藤島に試練を与えるのか。5巡目に東谷から先制リーチ。
 
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一年前を思い出す。東谷との差は40ポイント以上。ベタオリがセオリーな局面だろう。
この手牌で言えば七万の中抜き以外考えられない。
が、藤島の選択は打一索
その後も二筒一筒六筒一万と無筋を連打。
15巡目にオリを選択したが、明らかに昨年の藤島の戦い方とは異なっている。

そして次局7巡目にテンパイ。
 
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役なしの二索五索、東谷がオリる事は考えられないのでセオリーはヤミテンだろう。
だが藤島はリーチ。
まるで一年前の自分を振り払うかのように攻め抜く藤島。
 
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過去を乗り越えた先には栄光が待っていた。

藤島はJPML WRCリーグというタイトルを携え、来期A2リーグに挑む。
前原・沢崎に挑戦し、2人を破ってのタイトルは藤島にとって何よりも価値のあるものである。
麻雀人生の中で最も濃い4半荘であったに違いない。
ただ、これがゴールではないし、挑戦はまだ終わらない。
"鳳凰位"という頂点に立つその時まで。

 
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