プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記

プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記/第34期鳳凰位決定戦 二日目観戦記 荒 正義

鳳凰決定戦は、週に1回半荘4回戦の戦いを4週にわたって行う。都合半荘16回戦だ。異常気象で外は風が冷たい。
初めに選手は挨拶を交わすが、対局が始まると一切の会話は禁止される。解説者と立会人、実況の古橋も選手と話はできない。話が麻雀になると情報となって、選手に損得ができるからだ。皆、寡黙である。その静けさが緊張感を呼ぶ。
 
100
 
5回戦の起親は前原で、順に柴田・内川・瀬戸熊。
1日目の結果は次の通りだ。
柴田+22.2P 前原+11.6P 瀬戸熊▲10.4P 内川▲23.4P
得点にさほどの動きはなかったが、優勝の平均ボーダーが+70Pである。とするならば、柴田は早めに+50Pにしたいところ。内川と瀬戸熊は焦らずにまずマイナスを消すことから始める。
不気味なのは前原だ。1日目は不調だった。にもかかわらず、浮いてトップ走者の柴田の背にぴったり着いている。今日はどういう打ち方で来るのか、それはゴジラにしか分らない。
第5戦
東1局。ドラ三筒
まず先手を取ったのは瀬戸熊だった。5巡目のリーチだ。
一万 上向き西白発東
この河では、マチが何か見当もつかない。ただ言えることは、マチが両面でないなら打点が高いと想像できる。なぜなら、瀬戸熊にガラリーは似合わないからである。ガラリーとはガラクタリーチのことで、受けが悪く打点のないリーチのことだ。やっぱり、瀬戸熊の手の内はこうだった。
五万六万七万八万八万八万二索四索三筒三筒七筒八筒九筒
ドラの三筒を雀頭にしている。打点は十分で、後は結果である。これに初牌の白をポンしていた内川が、真っ向勝負に出た。安全パイに南があったが、無筋を通す。
 
100
三万三万三万三筒五筒南南  チー九筒 左向き七筒 上向き八筒 上向き  ポン白白白
この時点で四筒は残り2枚。三索も残り2枚だったが、勝ったのは内川で瀬戸熊の2,000点の放銃。この1局から、今日の内川は1日目と同じく前に出て戦う気十分と予想できる。瀬戸熊は無念。
東2局。ドラ七索
今度は瀬戸熊の仕掛け。面前がダメならこっちはどうだ、である。
(瀬戸熊の河)
南八筒 下向き七万 上向き二筒 上向き九筒 上向き発
西
牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背  ポン白白白  ポン東東東
瀬戸熊は(これでも来るか!)仕掛けだ。
すると前原がこれに答えた。
(じゃあ行くよ!)とリーチだ。卓上では言葉こそないが、こうした牌の会話がされているのだ。
(前原の河)
西九索 上向き北九万 上向き六筒 上向き六索 左向き
瀬戸熊の手の内はこうだ。
二索二索八索九索一筒一筒一筒  ポン白白白  ポン東東東
七索がドラだから5,200はある。一方、前原の手はこうである。
一万二万三万五万六万七万一索三索四索五索六索七索七索
入り目が七索である。今度は瀬戸熊がオール勝負だ。しかし、肝心の七索は空テンで前原の二索は1枚残りだ。ただ瀬戸熊も、二索が来ても振り込む心配はない。八索九索を落としてトイトイに変化するからだ。だが、勝ったのは前原で、最後のツモで二索を引き当て、2,000・3,900。また来たか、ゴジラパワーである。
東3局。ドラ七索
ここは内川の親番。13巡目その内川の手がこうなった。
三索一索一索二索三索四索五索六索南南七索九索三索  ツモ五索
理牌していない内川の手である。
すればこうだ。
一索一索二索三索三索三索四索五索六索七索九索南南  ツモ五索
これなら九索を切れば、カン二索待ちである。
しかし、切ったのは三索だった。これではノーテンだ。
この後、八索が出てチーテンを入れたが、痛い失投。
一索二索三索三索四索五索五索六索南南  チー八索 左向き七索 上向き九索 上向き
九索切りのヤミテンなら二索は前原に入り、出ていた。
局後の感想で内川は「九索と隣の三索の、摘み間違え」と語った。
鳳凰決定戦は、連盟で一番の檜舞台だ。勝ちたいという欲望とかかる重圧から、選手は誰でも間違いをおかす。私もそうだ。それにしても、内川は惜しいチャンスを逃した。怖いのは、この後のゴジラの「強運」である。
1本場は、柴田の400・700のツモ。
東4局。ドラ七索
今度は柴田に勝負手が入る。前原にリーチが入ったが柴田が追いつく。
 
100
一万二万三万七万八万九万白白中中  ポン発発発
前原の手はこうだ。
一万二万三万七万九万二索三索四索五索五索五索六索七索
白中生きていたが、生命力のあるゴジラは掴まず流局。
南1局1本場。
瀬戸熊が柴田のリーチに2,600の放銃。
南2局。
瀬戸熊が前原に1,000点の放銃。
瀬戸熊に苦しい流れが続く。
南3局。
内川が柴田に満貫の放銃。
南4局。ドラ八筒
今度は親の瀬戸熊が根性を見せる。5巡目のリーチだ。
四万 上向き六万 上向き五万 上向き白東
そして、9巡目にツモアガリ。
七索七索二筒二筒四筒四筒六筒六筒南南西中中  ツモ西
3,200オールだ、これは大きい。持ち点は27,200で、浮きまでもう一歩だ。
視聴者からも、瀬戸熊に応援のコメントが上がる。瀬戸熊は聡明で優しいから先輩に可愛がられ、後輩に慕われている。ファンにもそれが伝わるのだろう。応援団がいっぱいいてうらやまし限りだ。これも大事な麻雀プロの「資質」である。
しかし、1本場は柴田が1,000点を瀬戸熊からアガリ幕。
トップは柴田で2着は前原。3着が瀬戸熊で4着が内川だった。そして4人の総合得点はこうだ。
柴田+41.1P 前原+19.8P 瀬戸熊▲18.5P 内川▲41.4P
 
6回戦。
起親は内川で順に瀬戸熊、前原、柴田の並び。
東1局。ドラ七筒
これまでのトップは、柴田が3回で前原が2回。瀬戸熊、内川からすれば早く初日を出したいところ。そんな瀬戸熊から、先制リーチがかかった。
(瀬戸熊の河)
九索 上向き二索 上向き南白九筒 左向き
一万二万三万六万六万七万七万八万七筒八筒九筒中中
手牌がこうで、入り目は絶好の六万である。八万でアガリなら相当の打点がある。瀬戸熊も手ごたえがあったはずだ。
1巡後、前原の手はこうだ。
六万三索五索六索一筒一筒三筒五筒六筒七筒七筒八筒九筒  ツモ五筒
ここから無筋の三索切り。次が五万ツモで…
六万五索六索一筒一筒三筒五筒五筒六筒七筒七筒八筒九筒  ツモ五万
無筋の三筒切りである。前原も勝負手、オリル気なし全ツッパだ。
さらに次巡、三色目の七索を引き追いかけリーチだ。
五万六万五索六索七索一筒一筒五筒六筒七筒七筒八筒九筒
そして見事、ラス牌の七万を引き当て3,000・6,000。
東京のど真ん中に突如…『シン・ゴジラ現れる!』だ。
 
100
東2局。ドラ南
今度は瀬戸熊が親番、10巡目(チクショウ!)のリーチだ。
二万三万四万五万六万六万七万七万四索五索六索一筒一筒  リーチ
いや、瀬戸熊は品があるからそんなハシタナイ言葉は吐かない。
これでも五万ツモで2,600オールが見込める。
これに前原が突っ張る。前原はピンフのヤミテン二万五万待ち。
無筋をバンバン通し、流局間際に初物のドラの南も叩き切る。ゴジラは乱暴である。
しかし今度は2人テンパイで、手をつないで仲良く流局。これでは脇の2人は出る幕がない。
東2局1本場。ドラ西
9巡目、柴田がリーチのみだが両面のリーチをかける。これにピンフのみだが、親の瀬戸熊も突っ張る。結果は瀬戸熊が内川から1,500のアガリ。リーチ棒2本のおまけがついた。いや、大事なのは点棒ではなく親権確保の方である。
2本場は、柴田が内川から2,000点のアガリ。
内川にロン牌が集まり、苦しい展開だ。
東3局。ドラ八万
親は前原。3巡目に東をポンして瀬戸熊が仕掛けた。安手の親落としである。これ以上、ゴジラに加点されると後が大変だ。しかし、先に聴牌入れたのは前原だった。
(前原の河)
九筒 上向き白七索 上向き三万 上向き北八万 左向き
一万一万五万六万三索四索五索六索七索八索五筒六筒七筒
普通、こんなリーチは競技麻雀ではありえない。1,500を2,900にしただけのリーチだ。この手は二索五索を引けば三色がある。リーチなら、手変わりしたこの手のときである。
一万一万五万六万二索三索四索五索六索七索五筒六筒七筒
これなら七万が出たら11,600だ。そんなこと前原は、百も承知。打点より、瀬戸熊への圧力を優先しているのだ。
(親番ですよ、来ますか?)
普通なら、千点で親リーチに歯向うのは愚の骨頂である。だから通常は、危険牌を掴めばオリだ。だが、この場面は別である。仮に親の手が満貫だとしよう。だがそれは脇の2人が打っても、ツモアガリしようと前原が遠くに離れる点では同じことなのだ。
ゴジラに、自分の時間帯を作らせてはならない。だから勝負である。
無筋をどんどん切り飛ばす瀬戸熊。さっきのお返しである。
(だからどうなのよ!)
と声は出さないが、打牌がそう言っている。瀬戸熊と前原が戦うと、いつもこうだ。
脇の2人は瀬戸熊に任せて、当然オリである。
結果は前原が五筒で打ち上げ、軍配は瀬戸熊に上がった。リーチ棒込みでたった2,000点だが、価値あるアガリだった。柴田もホッとしたはずである。
 
100
東4局。ドラ二万
今度は、親の柴田が頑張った。6巡目で手牌はこうだ。
五万五万六万七万八万八万九万九万東東西発発
東発も初物である。ここに上家の前原から出た東を、迷いもなくスルーした。すると八万ツモだった。で西切り。するとすぐに発が出る。これはポンテン。すぐに東を掴む瀬戸熊。直前に出ている東だ。一瞬手が止まり怪しんだが、止まらなかった。
五万六万七万八万八万八万九万九万東東  ポン発発発
これは柴田の東スルーした、ファインプレーである。東を鳴いたらアガリができたかどうか分らない。いや、テンパイできたかどうかも怪しいものだ。
これでは、打った瀬戸熊はたまらない。さっきは体を張って前原の猛攻を防いだ。一番助かったのは、前原と競っていた柴田のはずだ。なのに、今度は安心して背中を任したら、闇夜に柴田の槍の一突きである。
いや、これは冗談。
麻雀だから、こういう流れもあるのだ。その逆もまたある。「お互い様」と割り切ることだ。
この後は小場で回って、南2局。ドラ四筒
7巡目に前原のリーチが入る。
(前原の河)
発六万 上向き二索 上向き九筒 上向き発九筒 上向き
白
これに九索を一発で飛び込んだのが、柴田だ。
(前原の手)
一万二万三万一索二索三索七索八索一筒二筒三筒六筒六筒
現状ライバルからの出アガリ、これは大きい。
オーラスはリーチをかけて、内川のアガリ。
二索二索三索四索五索六索七索七索八索八索二筒三筒四筒  ツモ六索
3,000・6,000だが、遅すぎた感…無きにしも非ズ、だ。
これでトップは1人浮きの前原で、柴田を交わして1位に躍り出た。6回戦までの総合得点はこうだ。
前原+51.6P 柴田+37.5P 瀬戸熊▲40.2P 内川▲48.6P
 
第7戦。
さっきの跳満ツモから、内川に軽い手が入り出した。南場が1局の1本場の時点で持ち点はこうだ。
内川40,300
前原30,400
柴田19,600
瀬戸熊29,700
内川からすれば、もっと得点を伸ばし前原を沈める必要がある。
7巡目、内川にリーチが入った。
(内川の河・ドラ二索
北白八万 上向き四万 上向き一万 上向き八索 上向き
二筒 左向き
手牌はこうだ。
三万四万五万七万八万九万一索二索七索七索七索三筒三筒  リーチ
待ちは河に1枚出ている辺三索。ちょっと苦しいがぜいたくは言えない。これでもツモなら相手とは8,000点の差ができるし、前原を沈めることができるのだ。好調の親だ、相手もそうそう向かって来ないはず。
しかし、違った。
2巡後、瀬戸熊のリーチが飛んで来た。
(瀬戸熊の河)
四万 上向き八筒 上向き六筒 上向き東八筒 上向き三筒 上向き
東九索 左向き
なぜか、気持ちの悪い河である。
13巡目、瀬戸熊がツモ牌の中を引き寄せた。
一索二索三索八索八索八索南南発発発中中  ツモ中
3倍満には届かない10ハンの手。見事である。
これで瀬戸熊は一気にトップに立ち、内川は沈みの危機だ。
南2局1本場。ドラ五万
今度は怒った内川が絶好の二筒を引き、リーチをかける。
(内川の河)
九万 上向き一万 上向き一索 上向き北南七索 上向き
九万 上向き三索 上向き四索 左向き
(内川の手)
六万七万一筒二筒三筒四筒五筒六筒七筒八筒九筒中中
ドラの五万ならさっきの失点は、ほぼ戻る。
しかしこの局は、内川の1人テンパイで流局。
この後は、小場で流れて終局。瀬戸熊の初トップで、柴田の1人沈みだった。
「風」は、ゴジラに吹いている。
7回戦までの総合得点
前原+53.2P 柴田+9.7P 瀬戸熊▲17.7P 内川▲45.2P
 
8回戦。起親は瀬戸熊で順に柴田、前原、内川の並び。
東1局。ドラ四万
前原の7巡目の手牌。
二万三万四万五万六万七万六索二筒二筒四筒六筒六筒六筒  ツモ五万
ここで何を切るかは難しい場面だ。くっつきの良さなら四筒切りだが、河には七索が2枚出ていた。それでも、私なら四筒切り。しかし、前原は六索切り。
同巡、親の瀬戸熊の手。
四万五万六万六万七万七索八索九索四筒四筒五筒七筒七筒
ここまで来たら瀬戸熊もオリなし。
柴田も七対子ドラ2のチャンス手。
四万四万四索四索六索六索一筒二筒三筒三筒八筒西西
3人の手がぶつかった。リーチがかかっても、ぶつける場面だ。
最初にテンパイを入れたのは前原。
(前原の河)
九筒 上向き北南中九万 上向き三索 上向き
六索 上向き二万 左向き
(前原の手)
三万四万五万五万六万七万二筒二筒四筒四筒六筒六筒六筒
悪い、くっつきである。
(ほれ、見たことか!)である。しかも、リーチとは何事だ!
瀬戸熊は1シャンテンのまま、無筋の五索六万を強打。
柴田も踏ん張る。
四万四万四索四索六索六索二筒三筒三筒八筒八筒西西
当たり牌を止め、追いかけリーチだ。
ゴジラ危うし!
だが、違った。2巡後、二筒を引いたのは前原だった。
三万四万五万五万六万七万二筒二筒四筒四筒六筒六筒六筒  ツモ二筒
これでリーチ棒付きの2,000・3,900。大きいアガリだ。
こうなれば前原は二番手の柴田に辛く打ち、後は流れに乗って打てばいい。
東3局。ドラ六索
今度は瀬戸熊が燃えた。これが配牌。
二万三万五万一索二索三索六索七索七筒八筒九筒中中
第一ツモで八索を引き、五万を叩きつけダブルリーチだ。3巡目に四万を引き2,000・3,900。親で前原に引かれた満貫を、前原の親で取り返す。
私が前原なら…「ナンタルチア!」である。
意味不明だが、驚きの言葉である。
前原からすれば「そんなバナナ!」だ。おやじギャグである。
この後、点棒の動きはあったがオーラスを決めたのは柴田だった。
四筒五筒五筒六筒六筒七筒七筒八筒九筒東東西西  ツモ東
この手をリーチでツモアガリ。かろうじて浮きに回り、望みを次につないだ。
瀬戸熊は残念ながら沈みの3着で、トップは不動の前原だった。
これで第8戦までの総合得点はこうだ。
前原+68.6P 柴田+14.2P 瀬戸熊▲24.8P 内川▲58.0P
今日は、前原の1日だった。素晴らしい勝負度胸である。有利なのは前原だが、勝負は後8戦あるからまだわからない。次が楽しみだ。