麻雀日本シリーズ、麻雀日本シリーズ レポート

麻雀日本シリーズ/麻雀日本シリーズ2017 決勝レポート 黒木 真生

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何かの試合を見るのは「戦い」が見たいからだと思う。
一生懸命に守ろうとするのも戦いではあるし、必死に逃げるのもまた「戦い」なのかもしれない。
しかし、最も、人間の、特に男性の闘争本能を刺激する「戦い」は「攻撃」だと思う。
守ろうとするのは相手が攻撃してくるからである。逃げるのも同様で、攻撃してくる敵がいなければ逃げる必要はない。
つまり、戦いはすべて「攻撃」から始まるのだ。
しかし、戦いが佳境に入ってきて、優勢な者と劣勢な者の差がハッキリしてくると、両者が攻め合うのではなく、一方が攻め、一方が守るという構図になりがちだ。
麻雀の決勝戦も同様で、ポイント差と残りの局数を考慮して打牌を選ぶようになり、勝っている者は自ずと無難な打牌選択をするようになる。
これが常識的な発想であり、そうやって打つ選手を非難する気はない。
勝つために必死でやっているのだから仕方がないのだ。
でも、である。
かくいう私も、専門外のゲームを観ている時は相当勝手なことを口走っている。
プロ野球で、牽制球ばかり投げる投手がいたら「ランナー誰やと思てんねん、赤星ちゃうぞ、関本やぞ! 早よ投げんかい!」と言ってしまう。
プロ野球の投手が投げる牽制球には色んな意味があるのかもしれない。
盗塁を警戒しているだけではなく、相手のサインを読もうとしていたり、打者との間合いをはかっていたり、自分を落ち着かせようとしていたり。
でも、こっちは素人であり、関係ない。
「面白い」が正義であって「時間ばかりかかるつまらない行為」は「悪」なのである。
それが興業の理屈であり、選手の競技の理屈に沿うか沿わないかは関係ない。
ボクシングも然り。ボクシングは相手を殴り倒すのが目的であって、ポイントを稼ぐためにチョコンとグローブを当てにいく様子を見せられてもつまらない。
たとえそれが高度なテクニックだとしても、目いっぱいの力で殴ってもらわないと面白くないのだ。
サッカーでも、すぐコケてファウルをもらおうとする行為を連発されると興ざめする。
レベルは男性よりも低かったかもしれないが、なでしこジャパンの試合の方が、私のような素人には面白く感じられた。少なくとも、わざとコケるという姑息さはなかったと思う。
とまぁ、このようにややこしく野蛮なオッサンの琴線をキンコンカーンと打ち、うるさい口を黙らせたのが鈴木達也プロの、3回戦オーラスのリーチだった。
八万九万九万九万三索四索五索六索七索八索八索四筒五筒  ツモ二索  ドラ九筒
リャンメンのテンパイなのだから、リーチで良いと言うのは早計。
だが、現状トータル2位の沢崎誠プロからリーチが入っており、しかも、この時点での点数状況は以下である。
1位 鈴木達也 +43.1P
2位 沢崎誠  +16.5P
3位 勝又健志 ▲22.9P
4位 白鳥翔  ▲36.7P
つまり、現状沢崎プロとの差は26.6ポイントで、もし満貫をツモられたとしても、最終戦を前に14.6ポイントが残る。
逆に、ここで失点するとかなりひどい。
実はこの時、3着目の勝又プロとの点差が3.5ポイントしかなく、もしリーチ棒を出して沢崎プロに2,600点以上を放銃すると3着に落ちる。
すると順位点がさらに10ポイント減る。仮にちょうど2,600点を打ち込んだとしたら以下のようになる。
1位 鈴木達也 +29.5P
2位 沢崎誠  +20.1P
3位 勝又健志 ▲12.9P
4位 白鳥翔  ▲36.7P
点差は9.4ポイント。オリて沢崎プロに満貫をツモられたケースと比較すると、約5ポイントの差である。
実際は、沢崎プロはツモれず流局の可能性の方が高いし、打ち込んだら2,600点よりもっと高いかもしれない。
また、たったの5ポイント差だと思うかもしれないが、この5ポイント差は果てしなく大きい。
WRCルールの順位点は5・15で、着順1つにつき1万点の差がつくようになっている。
つまり、14ポイント差なら2着順差が必要だが、9ポイントなら1着順差だけで済んでしまうのである。
こういったことをすべて考えると、追っかけリーチをするには、かなりの勇気が必要である。
だが、鈴木プロはビシっと、ほぼノータイムでリーチを宣言した。
勝つために様子を見ることもできるが、あえて沢崎をKOするため、踏み込んでいったのだ。
負けた時のリスクも大きいが、勝てば一気に突き放すチャンスでもある。
簡単には引きませんよというメッセージにもなり、相手の戦略的選択肢の幅を狭めることにもつながる。
色んな理由があるとは思うが、いずれにせよ、とにかく、観ていて面白い。興奮する。
これが戦いであり、プロの「試合」だと思う。
ポイント的には苦しい状況だった白鳥も意地を見せた。
二万二万三万三万四万四万四万四万一索二索二索三索三索
ピンフリャンペーコーをテンパイし、ヤミテン。
鈴木から直撃してラスにすれば、以下のようになる。
1位 鈴木達也 +24.1P
2位 沢崎誠  +15.5P
3位 勝又健志 ▲12.9P
4位 白鳥翔  ▲26.7P
確かに厳しくはあるが、現状と比較すれば、はるかに逆転優勝が現実的になる。
その「乾坤一擲」を狙ってヤミテンに構えたが、最後の一索を打ち出したのは勝又だった。
ここからだと意味がないので、当然スルー。次に三万をツモってくると四万を暗槓し、今度は四暗刻狙いに切り替えた。
そしてさらに、
二万二万三万三万三万一索二索二索三索三索  暗カン牌の背四万 上向き四万 上向き牌の背  ツモ一筒
一筒をツモったところで断念し、一索を切ってオリ。次に四筒をツモると完全にやめた。
この一筒四筒が沢崎のアタリ牌だった。
五万六万七万五索五索六索七索八索一筒二筒二筒三筒三筒  ドラ九筒八筒
結局、最終戦でもつれにもつれ、優勝したのは沢崎プロだったが、これまた激しい戦いであった。
鈴木プロと沢崎プロの一騎打ちだと決めつけていたが、最後に沢崎プロを脅かしたのは勝又プロだった。
いったい、どれだけ上下左右に蛇行するジェットコースターのようなゲームだったかは、FRESH!で実際にご覧いただきたい。
本当に、掛け値なしに面白いので、最終戦だけでも見ていただきたいのである。