女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記

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第8期女流桜花決定戦 初日観戦記

2014/01/24
執筆:黒木 真生


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【都合の良い祈り】

「神様…」
昨年の女流桜花決定戦の最終戦オーラス。
ツモれば優勝のペン七万待ちでリーチをかけた和久津晶は、一発目をツモる前にそうつぶやいた。

この最終戦が始まった時点で、首位魚谷侑未との点差は50ポイント以上。順位点が最大で12ポイントにしかならず、一発と裏ドラがない日本プロ麻雀連盟Aルールでは、まず逆転不可能な点差である。ニコニコ生放送の視聴者たちも「消化試合」「見る価値なし」「風呂入ろう」とコメントしていたぐらいだった。

だが、少女の頃から毎日のように牌を握り、麻雀で勝つことばかり考えてきた和久津の執念深さは尋常ではなかった。何と道中、魚谷を逆転してしまったのである。

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これには視聴者たちも「消化試合などと言って悪かった」と前言撤回。
番組制作の現場監督を務めていた私も驚いた。

闘争心をムキ出しにして戦う和久津と対照的に、ほとんど表情を変えずに淡々と摸打を繰り返す魚谷は、逆転されても冷静に見えた。なすべきことをキッチリやろうと自分に言い聞かせ、彼女らしく再逆転。
あとはオーラスの親で1局をやりすごせば優勝だ。

その状況で、満貫ツモ条件の和久津がリーチをかけてきた。
「神様」と祈りながらツモる。

「ツモるな!」
本当は魚谷はそう言いたかったに違いない。あんたが神様に「ツモらせてくれ」と頼むなら、こっちだって「ツモるな!」と頼みたいわ。そう思っていたはずだ。

実際、事前のインタビューで魚谷は「私だって神様って言いたかったよ!」と言っていたが、それはそうである。1年間、コツコツと積み上げてきたものが、このリーチの成否にかかっているのだ。

たとえるなら、自分の全財産がいまテーブルの上に載っていて、それが全部取られるかどうかの瀬戸際。それぐらいの状況なのである。敵がツモれば自分の栄光はどっかへ行ってしまうし、その後の生活にも影響する。相手が空振ればこちらのものだ。再び華やかな舞台に立つチャンスがもらえ、そこで勝てばさらにのし上がることができる。

もの凄い正念場で、誰だって体中がシビれる。
しかもある意味で辛いのは、こうなってしまうと、自分の力がほとんど及ばないことである。

もちろん、道中の戦い方など、目に見えない色々なものを積み上げてきていると信じてはいるものの、最後の最後、究極の局面では、本当にただ祈るしかできなくなる。ただそこに裏返して置いてある牌を、敵がツモるか外すかだけの超シンプルな勝負になるからだ。

最後はこれを見守るだけが仕事になってしまうのが、麻雀プロのしんどいところなのである。
だから、別段信仰心に篤くなくても祈ってしまう。そして他人の純粋な「祈り」を否定するようなことを心の中で思うのだ。

私はこの2人の戦いを見て、これが麻雀プロの仕事だなと思った。

試合が終わった瞬間、和久津は眉間にシワを寄せ、鬼の形相で卓上の一点を見つめていた。何を考えているか分からないが、半荘12回の間にあった、本人なりのミスを悔いていたのだろうか。それともただ、悔し涙をこらえていただけなのかもしれない。

対照的に、それまでのポーカーフェイスを一気に崩したのが魚谷だ。幼稚園児のように号泣し、嗚咽する。
それまでずーっと和久津のことが怖かったのだと思う。だが、彼女も勝負師だから、怖がっていることを悟られたくないから必死で我慢していたのだろう。

それが、決着の瞬間弛緩した。
見ているこっちがビックリするような超・号泣だった。

男とか女とか関係なく、人間が必死に苦しみながら戦っている様は面白い。
それはオリンピックとか高校野球を見て思うことだが、麻雀にもそういった可能性があることを知らされた。

 

【アマゾネスとマーメイド】

だから今回の決勝メンツを見た時、やっぱり魚谷vs.和久津だと思った。
今年も私が現場監督と演出を任されたのだが、そっちにしか頭がいかなかった。

私だって日本プロ麻雀連盟の一員なので、麻雀がそう単純なものでないことぐらいは分かっている。
彼女たちの一騎打ちになるはずはないし、安田麻里菜と吾妻さおりもそれなりの努力をし、勝ち上がってきたのである。

彼女たちだけをクローズアップせず、無視したような形をとるのはどうかなと思った。しかし結局「彼女たちには悪いなぁ」と思いつつも、番組宣伝用のVTRを作る際には、やはり「分かりやすさ」を優先し、
魚谷vs.和久津の対立構図のみに絞らせていただいた。

蛇足かもしれないが、魚谷と和久津の通り名は私がつけたもので、結構気に入っている。
麻雀最強戦の時に「近代麻雀」のライターとして、通り名を考えせられた時につけたものだが、それなりにハマっている気がしているのだ。

和久津は褐色の肌の女戦士っぽいのでアマゾネス。ただそれだけだとつまらないから、元々攻撃的な戦士のイメージのアマゾネスにあえて「攻撃」をつけ、さらに頭に「超」をつけて超攻撃型麻雀アマゾネス。

魚谷は「一番早く泳ぐ人魚」のイメージで最速マーメイド。苗字の「魚」からとっただけで、両方とも大して苦労せずついたものだが、何となくしっくりきていると思っているのだ。

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和久津も気に入ってくれたのか、大事な対局の前には、ちゃんと(?)焼いてガングロにしてくれているようである。

この両者、マーメイドとアマゾネスのライバル物語で構成したVTRは、ナレーション録音に立ち会えなかったこともあり、その部分だけ微妙だったが、次回は担当の古橋君の手腕に期待したい。

後半の魚谷のインタビューは非常に良かったと思う。あれは実は一発で録ったもので、事前打ち合わせもほとんどなし。彼女にはただしゃべってくださいと頼んだだけである。

それをああやってピシャっと決めてしまうのだから、口が達者というか、アウトプット能力が高いのだろう。

私は麻雀は自己表現のゲームであり、麻雀プロはその表現能力が高ければ高いほど人気が出るし、また大舞台で活躍できると思っているのだが、彼女は麻雀歴約5年、プロ歴約2年程度で初タイトルを獲り、その翌年あたりからずっと今の感じ。たぶん一種の天才なのだろう。

 

【麻雀くのいち】

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魚谷と対照的に、表現力が拙く損しているのが安田だと思う。
彼女にも最強戦では通り名がついていて、これも私が考えたのだが、それが「麻雀くのいち」。

最強戦では藤崎智が人気が高く、視聴者から「麻雀忍者」とアダ名をつけられ、それがそのまま通り名になっていた。

安田は藤崎と同じ東北の出身で、しかも麻雀がヤミテン多用なので「もう安田も忍者ってことにしちゃえ」と半ば雑な感じでつけてしまったのである。苦し紛れと言ってもいい。

昭和プロレスの世界なら「いやもうマジで妹ってことにしよう」となり「というか、腹違いの兄妹で東北の隠れ里で忍術修行をしたことにしとこうぜ」と、破天荒なストーリーがつけられるところなのだが、さすがに麻雀の世界でそんなウソはマズい。

だからイメージだけで、とりあえず「麻雀くのいち」とさせてもらったのであるが、これがいまいちハマらなかった。

ひとつには、やっぱり守備型の雀士はファンや関係者からの評価が厳しい。
攻撃型は多少失敗してアガリ逃しをしても、その後アガればインパクトが大きいのでミスが目立たないが、守備型は「たった一牌」のヌルい一打がとがめられる。

それが鳴かれてツモられただけでアウト。ファンや大会委員長からは「ウーン」としょっぱい顔をされるのである。守備型だからその後派手なアガリをするでもなく、頑張って守っていても、あとは空気扱いされて終わりになるのだ。

安田の雀風で認めてもらうには、結果を出すしかないのである。
それと、安田が口ベタなのも関係していると思う。

我々は麻雀のプロなのだから、本来は麻雀が強ければそれで良いはずなのだが、世の中はそう単純ではない。
今回のようにインタビューのVTRを作ろうと誰かが考えた時「安田さんはあまりしゃべるのが好きじゃないからなぁ…」と思われただけで出番が減るのである。

安田は第10期のプロクイーンであり、2年前、魚谷が女流桜花で初優勝した時は、序盤は快調に飛ばしていたのである。インターネット麻雀日本選手権でも準優勝するなど、実績はそれなりに残している。本来はアオリのVTRにも登場し、注目の選手として扱われてしかるべきなのだが、今回はスルーされてしまった。

 

【中学の国語教師から転身】

安田と同じくスルーされてしまったのが吾妻である。
実は彼女がこの中ではプロ歴が最も長い。一番先輩なのであるが、タイトル戦の決勝は初めてである。

対局前に得た情報は、彼女が公立中学校の国語の教師をやめて麻雀プロになり、現在は麻雀教室の講師を務めているということのみ。

どんな麻雀を打つのか、どんな考え方をしているのかが分からなかったため、試合後、彼女にだけは取材させていただいた。

聞けば、彼女は元々、超攻撃型雀士だったそうである。
アガれるとかアガれないよりもまず、自分が気に入った形や手役を作ってリーチする。相手がこようが攻める。前に向かって行って振ってもよし。血液型O型らしく、ケレン味たっぷりで歌舞伎イズムを持った麻雀打ちだった。

だが、それだけじゃプロの世界でやっていけない。
彼女はマイナーチェンジを繰り返し、試行錯誤して今の打法を身につけた。

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だが、今回、初の決勝を戦うにあたっては「簡単には退かない」と決意したという。
和久津は言わずと知れた超攻撃型。魚谷は劣勢ならやむを得ず守るが、本来は敵に対応させたいタイプ。
そして安田は、滅多なことでは先手を打たず、対応を基本とする打ち手である。

この中に自分が入り守備的な姿勢をとったら、攻撃2vs.守備2になり、守備側が劣勢になると大まかに展開予想したというのだ。

みすみす相手の思い通りに打たせてなるものか。
その意識を胸に秘め、戦いに臨んでいた吾妻だが、その意識が垣間見えたのが1回戦の東3局1本場だ。

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安田のリーチを受け、678三色の1シャンテン。皆さんならどう打つだろうか。

四索四万と通っていない牌が2種類あり、ペン三筒がドラ表示牌ならオリを選択するかもしれない。
いや、無スジとは言っても、場に出たタンヤオ牌は六万五索五万と少なく、まだまだ何が危険か安全かを論じる段階でもない。真っ直ぐ行くという選択もある。

どちらもアリだと思うのだが、これが気楽な友達との麻雀なのか、タイトル戦の決勝なのか。
それによって意味がかなり違ってはくるだろう。

特に吾妻にとっては初舞台。事前に「退かない」と決めていなければ、現物が六万一筒とあるだけに、撤退を決め込んでいたかもしれない。

しかも彼女は四索をつかんだ瞬間「ああ、これは危ないかも」とインスピレーションを感じたという。
まだ1回戦の東3局で、この巡目につかんだ牌に対し「嫌な予感」がしたというのは、ほとんど「気分」に近いのだが、そう思ったものを切るのには勇気がいる。それに、もし本当にアタった時の後悔は大きい。

だが彼女は、事前に自分がとろうと決めた戦略をやすやすと否定するような真似はできないと、意を決して四索を打ったのである。

結果、これが345の三色のカン四索待ちに放銃となる。

痛いはずの満貫放銃だったが、それよりも吾妻は思った通りに打てた感触を大切にした。
この局は放銃になってしまったが、吾妻が初日に大ブレイクし、1人浮きで終了させることができたのは、この「退かない」という決意があったからかもしれない。

 

【間違えなかった四索タンキ】

とは言いつつ、吾妻がどれだけ強い決意を持って戦いに臨んでいようが、何かきっかけがなければ勝てないのが麻雀だ。吾妻の初日大ブレイクの最初のトリガーとなったのは、1回戦東4局1本場のこのテンパイだ。

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暗刻の六索を切ってテンパイして以来、初めての手変わりチャンスである。
セオリーなら、ドラまたぎでど真ん中の四索よりも、端っこの一筒で待つべきだ。

だが、場全体にはピンズが高く、逆にドラ色のソーズが安いという特殊な状況である。
吾妻もそういった事情を加味して四索を手に入れ、一筒の方を打ち出した。
すると何と、ここまで磐石だったトップの和久津がカン三索をチーし、余った四索で吾妻に9,600点の放銃となったのである。

牌譜を見ると、すぐに魚谷が一筒をツモ切っているが、前巡に八万を合わせ打ちしているように、魚谷はすでにベタオリ状態。この巡目でこのバラバラ手牌から危険牌を打ち出すことはありえない。

この局の続きは見ることができないが、もしかしたらこの四索タンキが唯一アガリの道だったのかもしれないと考えると、吾妻にとっては本当に大きな意味を持つ。
そしてこの後も、吾妻の「退かない」姿勢は崩れない。

1回戦トップ、2回戦2着で迎えた3回戦目の東1局1本場。

ご覧のように、和久津のホンイツ仕掛けに対し、四索をツモって七索を勝負。
本人いわく、九索八索と切って七索を切ると1メンツ落として放銃することになるし、相手がペン七索じゃないかとも思っていた。だから本当はやめたかった七索なのだが、ドラドラでタンピン。試合前。数日前から「退かない」と決意した以上、腹をくくって押したのだと言う。

もちろん、この局面を切り取っての、この放銃の是非については様々な意見があるだろう。
正直、私も見ていて「これはやめる」と思った。

そして和久津も負けていない。

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東2局。吾妻のドラと三索のシャンポンリーチに対し、まさかのドラ勝負。
親満を放銃し、先ほどのアガリにのしをつけて返すこととなった。
さらに次局、東2局1本場。今度は安田のリーチに吾妻が飛び込む。

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ファンの中には、プロの麻雀はもっと放銃が少なく、無駄な失点がないように地味に戦うものというイメージを持たれている方も多いだろう。

特に日本プロ麻雀連盟のAルールは一発・裏ドラがなく、守備的雀士が有利なように感じられるかもしれない。だが、実際にはそうでもなく、上のレベルの打ち手たちの麻雀は、激しい殴り合いに近いものだったり、通常の損得勘定では導き出せない打牌を選択することも多い。

彼女たちのこの「どつき合い」が果たして麻雀として正解なのかどうかは私には分からない。
個人的な見解はあるが、それをここで語ってもあまり意味がないのでやめておく。
それよりも、とにかく、2日目も最終日も面白い戦いをやっていただきたい。
そういう意味では、初日は非常に面白かったと私は思った。
この後、東3局1本場では、国士無双とドラポンの戦いもあった。

この日の最終戦である4回戦では、和久津がツモり四暗刻でリーチをかけている。
1回戦でも、三色のカン四索放銃の次局、吾妻がツモり四暗刻でリーチをかけた。
いずれも流局となったが、彼女たちの戦いには華がある。

第8期女流桜花決定戦 初日終了時成績
吾妻さおり +92.5P
和久津晶  ▲10.3P
安田麻里菜 ▲37.4P
魚谷侑未  ▲44.8P

ご覧のように、タイトル戦決勝初出場の吾妻が1人浮きで独走状態。
ディフェンディングチャンピオンで、3連覇がかかる魚谷が最下位という結果で初日が終わった。

だが、女王・魚谷がこのまま何もせずズルズルいくとは思えないし、瀬戸熊直樹が気になることを言っていた。

「吾妻さんのこの状態は僕が初めて鳳凰位決定戦に出た時と似ている。その時僕は負けました。吾妻さんには2日目以降、もの凄く大きなプレッシャーがかかるはず。魔の時間帯が必ずある。そこを乗り切れるかどうかがカギ」

私の原稿が遅く、すでに2日目は終了してしまっているので白々しいが、最後まで目の離せない戦いであることは間違いない。