女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記

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第8期女流桜花決定戦 二日目観戦記

2014/02/03
執筆:黒木 真生


【翻弄】

初日の試合終了後のインタビューで、和久津晶は正直に「頭の中がグチャグチャになってます」と言った。
そして控え室では「魚谷さんも頭の中がグチャグチャと言ってました」と発言。

これはどういう意味かと言うと、相手と自分とが麻雀になっていなかったということである。
そしてそれはおそらく、吾妻さおりのこの日の麻雀が理解しがたいものだったのだと思う。
「ここでこの人がアガるの? とか、ここでこの人がこんな牌を打ってくるの?」と思ったと和久津は言った。

その「この人」はおそらく吾妻のことではなかっただろうか。
あるいは、吾妻の動向によって意外な人がアガったという意味だったと思われる。

麻雀はお互いの麻雀観がある程度一致するか、麻雀観に相違があっても、お互いの手の内を知り尽くした者同士で打てば調和のようなものが生まれる。
卓上で牌で会話しているかのようになり、戦いの流れがよどみなくなるのである。

もちろん、時には敵の思惑を超えた仕掛けや攻撃はあるが、軸がしっかりしたものになるため、調和は大きく損なわれない。

たとえば、荒正義、小島武夫、藤崎智、森山茂和といったメンバーで打てば「これぞ達人の麻雀」とも言うべき、美しく調和のとれた作品のような戦いになると思う。

だが、価値観が違う者同士が同卓したり、敵の思考が一切わからないとなると、麻雀がギクシャクする。
ギクシャクしてくると、読みが働かなくなってきて、和久津が言うように「あれ?」「あれ?」となってしまい、ついには頭の中がグチャグチャになってくるのだ。

私はこの原因を勝手に吾妻の麻雀だと決め付けたが、文脈上そうとしか思えないし、初日の戦いは、吾妻がみんなを振り回しているように見えたからである。

初日の原稿にも記した通り、吾妻は「簡単には退かない」と決意し、普通ならやめるべき局面でもあえて頭から突っ込んでいった。その結果、手痛い放銃もあれば、強引にもぎとったようなアガリも出た。

正直、観ていて吾妻の初日の麻雀に美しさは感じられなかった。同じ度の過ぎた攻撃にしても、瀬戸熊直樹や前原雄大、女性なら清水香織や和久津晶のそれとは違っていた。こう言っては悪いが、まだその攻撃が板についていないような感じだった。

それもそのはずで、吾妻は普段からそのようなゴリ押し麻雀をやっているわけではない。年中危険牌を打っているわけではないので、ややギクシャクしているように見えたのである。

だが、だからこそ吾妻の戦略は功を奏したのかもしれない。
キャラがハッキリしている選手が、ガンガン攻めてくるのは当然で心構えもできる。
だが、タイトル初挑戦の吾妻が、元教師らしくない暴牌じみた攻撃を仕掛けてきたからこそ、和久津や魚谷の頭がグチャグチャになったのである。

インテリの吾妻としては、本当はもっとスマートに勝ちたかったと思う。
だが、それでは勝てないということを予習してきたのだろう。

彼女は過去のタイトル戦の牌譜や生放送をできる限り見てきたと言っていた。
クレバーな彼女なら、教科書通りにおとなしく賢く打った人が勝ったためしはないという事実にすぐに気づいたはずだ。

だったらどうすれば良いのか?
自分がこのメンバー相手に優勝するためにはどうするべきか?
その結論が「簡単には退かない」という戦略だったのだと思う。

もっと分かりやすく言えば「格好悪くても何でも良いからとにかく勝ちたい。賢く打とうと思って気取ったら負け!」と開き直り、自意識過剰にならないよう自分に言い聞かせて戦ったのだ。

そしてプラス90ポイントを叩き出し、1人浮きで初日を終えたのだから大成功である。

 

【悪夢】

しかし、その「翻弄」が通用するのは初日だけである。
敵も初日の放送をニコ生のタイムシフトで研究し、吾妻の意図を見抜き、対処法を考えてくるはずだ。
また、魚谷侑未、安田麻里菜、和久津晶はみな吾妻の後輩だが、タイトル歴があり、決勝進出の回数も多い。
今回が初めての決勝戦で、初日に首位独走態勢に入った吾妻の心境は手に取るように分かるだろう。

最初は一心不乱に全力で走っていても、ゴールが近づくにつれ、思うように足が動かなくなってくる。真っ直ぐ走っているつもりが蛇行してしまう。遠くにいるはずの敵がやけに近く感じられ、積み上げてきたプラスの資産が重くのしかかり、まるで負債のように思えてくる。

そんな悪夢のような経験をさせられ、それに打ち克ってタイトルを獲ってきた彼女たちが、今度は吾妻に非情な仕打ちをする番だ。

吾妻が気の毒なような気もするが、このまま独走で「ハイ終了」ではつまらない。視聴者たちが最後までドキドキを楽しめるようにするためにも、ここは吾妻以外の3者に頑張ってもらわねばなるまい。

私は、3者がどのような手を使って吾妻包囲網を敷くのか興味を持って観ていたが、彼女たちが意図してそれを行う前に、偶然(?)によって悪夢への入り口が開いた。
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2日目の緒戦、第5回戦の東2局。

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カン四索を引けば高目三色のテンパイだったが、これでもピンフドラ1でリーチツモなら5,200点になる。
吾妻はリーチをかけたがこれが普通だろう。
このリーチを受けた同巡、魚谷の手牌がこちら。

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打牌候補は七万三筒だろう。どちらもいわゆるワンチャンスであるが、三筒六筒は5枚見えで四万七万は3枚見え。
ドラまたぎでもあるので、三筒の方がやや危険度が高いと言える。

私は七万を打つと思った。だが、魚谷は少考して打三筒を選んだ。
こちらの方がピンフになる可能性が高い分、攻撃力がある。

 

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実際は打六万だと吾妻に放銃なのであるが、初日を最下位で終えた魚谷は、まず攻撃力を重視したのだろう。
2日目の緒戦、東場の親でもあり、五万八万を引けば六万を打つ覚悟だったはずだ。

ところが、これが裏目に出る。次のツモが何と三筒だったのだ。
もし七万切りを選択していれば三筒が暗刻になり、打四筒三万六万四索の変則3メン待ち。
吾妻に放銃しない磐石のテンパイ形であった。

私は、このテンパイ逃しがアガリ逃しとなり、吾妻にアガリが出ることを危惧した。
そうなったら、2日目で勝負が決まってしまうのではないかと思ったのだ。

 

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しかし、私などに見透かされるほど麻雀は浅くない。
牌譜をご覧いただければお分かりのように、この後魚谷が二筒をチーして打七万。そして直後に三万をツモっている。

 

そう、最初に打七万としてメンゼンのテンパイを入れていればこの二筒チーはなく、吾妻が三万をツモアガっていたのである。魚谷にとって打三筒は結果的に失敗かと思いきや、結局は大正解だったのだ。

そして、これが単なるひとつのアガリではなく、吾妻にとっては大きな意味を持つことになる。

東3局、ドラトイツの2シャンテンで、上家から自風の西が出てポン。
当然のポンなのだが、これによって親の和久津にキー牌のカン四筒が入り、リーチツモ。

 

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たったの1,000点オールのアガリであるが、吾妻にはボディーブローのように効いていただろう。
この後も、手は入るものの相手にツモアガリされてばかりでツモられ貧乏。
そして1人沈みのラス目で迎えた東4局。

 

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下家がドラをポンしている状況で、吾妻は五索を合わせ打ちした。
八索を切る手もあったが、上家が五索を通したばかりだ。
五索なら確実にロンされないが、八索はシャンポンなどの可能性がある。確率は低くとも、なくはないのだ。

そう考えて五索を切ると、これを魚谷がチー。
すぐにカン二筒をツモって2,000・3,900のアガリとなった。

 

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これを失敗と見ることもできるし、そうでもないと考える人もいるだろう。
トータルで見れば魚谷は最下位で、吾妻から最も遠いところに位置している。
このアガリでトータル2位の安田と和久津が沈んだのだから、逆に良いという見方もできるのだ。

 

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この良し悪しを決めるのは難しいのだが、間違いないのは魚谷にとっては超ラッキーだったということである。

魚谷は次局も、ほぼ手なりでテンパイを入れ、一発で(Aルールなので一発の1ハンはつかないが)高目をツモった。

 

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4人全員の手牌をずっと見ている裏方スタッフたちは、吾妻がズブズブと沈んでいく展開を予想した。
私も「これは1人沈みあるで!」と期待(当然ながら他意はない。最後までもつれてほしいからそう思っただけである)したのだが、そうはいかなかった。

 

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続く南2局、魚谷の親番。

 

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対面から出た白を、魚谷はここからポンしたのである。
食い仕掛けが得意で、最速マーメイドと呼ばれる魚谷だが、それでも鳴かないのが普通ではないだろうか。

おそらくだが、上家の吾妻の捨て牌を見て、早い手が入っていると読んだのであろう。
ここで白をポンすればけん制になるし、単純にツモを1回減らすことができる。
そして実際、本当に吾妻には凄い手が入っていた。

 

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さらに言うと、魚谷が鳴かなければ吾妻に六万が入り、三万六万九万の3メンチャンでテンパイ。
三万六万ならタンヤオもつくタンピンで、おそらくリーチだった。

じゃあ良いじゃねーか! と思われるかもしれないが、私たちは先輩プロから、こういう時に絶対鳴くなと教わっている。ドラポンとはいえ苦しい形の時に、上家が甘い牌を食わせてくれてテンパイし、ツモアガリをした。
その次局、スムーズにテンパイしてリーチをかけたら一発で高目をツモった。そして迎えた親番である。

自分からバラバラの手で動いたら、ピシャっと頭を叩かれるのである。
たとえ局面が読めていて、マークした敵のツモが減らせるとしても、この流れで鳴くのは勢いの放棄となり、逆に相手にチャンスを与える行為だというのが常識なのだ。

 

 

牌譜を見ても途中で終わっているので、魚谷が鳴かなかった場合の結末を知ることはできない。
だから、結果論ですら語れないのであるが、私はこの局を見て「ウーン」と唸った。
先輩方から習ったことが本当であれば、ここから吾妻は復活してしまうのである。

もちろん、魚谷が間違っているとかミスをしたと言いたいわけではない。
私は先輩プロの教えを信じて修行している身であり、魚谷もまた、自分の信じる麻雀を磨き上げているところなのである。

自分の考えを押し付ける気はないし、批判したいわけでもない。
むしろ、たった3枚の捨て牌から吾妻の手の内を読み取り、対応しようとしたのはさすが魚谷だと思う。
そして実際、吾妻の手を1,000点にまで落とさせたのだから、数字の上では大成功なのである。

しかし、続く南3局。

 

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吾妻は4巡目にしてテンパイし、ドラのカン四索待ちでリーチをかけて一発ツモ。
満貫のアガリとなり、結局吾妻はこの半荘も浮きで終了。
悪夢は途中で醒めたのであった。

 

【覚悟】

この日の緒戦(第5回戦)を浮きで終えた吾妻だったが、2戦目(第6回戦)でこのシリーズ初のラスを引く。
さらに7回戦で3着となり、徐々にプラスが目減りしていく。

普通ならあたふたしてしまいそうなところだが、吾妻はあまりジタバタしなかった。
初日の試合後のインタビューで「必ず悪夢のような時間があると思う」と言っていたように、心の準備はできていたのだろう。

もしかしたら、自分が何をやっているのか分からないような状態に陥った時があったのかもしれない。
だが、所詮、麻雀は目隠ししながら刀で斬り合うようなもの。すべてを読み切って格好良く勝ち切るといった美しい戦い方もあるが、実際には難しい。

プロなら一度は夢見る「完全勝利」を無理に得ようとせず、等身大の自分をそのままぶつけるような戦いを心がけたからこそ、2日目も何とか無事に完走できたのではないだろうか。

ポイントは少し減らしたものの、想定の範囲内だったと思う。

【2日目終了時成績】
吾妻さおり +58.8P
和久津晶  +12.0P
魚谷侑未  ▲31.8P
安田麻里菜 ▲39.0P

和久津はプラスに転じ、吾妻を射程圏内に入れた。
魚谷もマイナスを少し減らし3位に浮上。
安田はほぼ同じポイントのまま2日目を終えた。

初日、2日目と生放送を担当して思い知らされたのは、意外にも、選手全員が同じように人気があったということだ。アンケート等をとったわけではないので、全員均等というのは言いすぎかもしれないが、コメントを見る限りでは、皆が同じように応援されていたという印象である。

魚谷と和久津は、他のメディアやタイトル戦でもお馴染みなので、他の選手よりも知名度が高いのは事実だろう。
だが、実際の戦いを見てもらうことで、他の選手の魅力もファンの皆さんに伝わったのだ。関係者として嬉しい限りだし、もっとたくさんの麻雀ファンの方に、彼女たちの頑張りをご覧いただきたいと思う。

結果はすでに出ているが、しばらくは動画が日本プロ麻雀連盟チャンネルに残っているので、是非、ご視聴いただきたい。拙い観戦記ではお伝えし切れなかった、色々なものがご覧いただけるはずである。