女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記

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第10期女流桜花決定戦 二日目観戦記 魚谷 侑未

2016/01/08
執筆:魚谷 侑未


100

 

二階堂亜樹
100
18歳の時に麻雀プロとしてデビューし、注目を集める。現在では人気、実力共に連盟トップを走り続けている。
彼女の麻雀は守備よりのバランス型で、とても繊細だ。卓上の些細な変化にとても敏感である。
それがいつもの彼女の強さであり、持ち味でもある。

しかし、少しポイントを離されてしまったこの決勝戦2日目において、「いつもの彼女らしい」守備よりの麻雀は果たして勝利へと繋がるのだろうか?
可能性が無いとは言わない。普段の自分を信じるのが正しいのかもしれない。
しかし、彼女はそれが正しいとは思わなかったのだ。

「いつもと異なる打ち方になってもいい、勝つための最善を尽くす」

この日の彼女はこう考えていた。そして、勝つことに対して、ただ一生懸命だった。

一万二万二万三万六万七万五索六索八索八索八索六筒七筒  ドラ八索

親番7巡目、上家から打たれた五筒を仕掛けるか?

手牌の損得で考えれば、仕掛ける事が有利であるとわかる。
シャンテン数が進み、更にはメンゼンで仕上げなければいけなかったはずの手が仕掛けも利くようになる。
しかし、プロの試合ではこの手を「仕掛ける事は損だ」と判断される事も多い。それは何故か?

それは、他家からの見られ方にある。
競技麻雀で7巡目の両面からのチーは、大抵の場合ドラ2枚以上、もしくはホンイツなどの手役が絡む高い手であると他家は考えるのだ。

つまりは、手が出来上がってない人間はそれを見て手じまいしかねない。手じまいまでは行かなくとも、警戒レベルがMAXまで跳ね上がる。
その周りに与える影響は、自分がアガリたい手であるのなら、損である事も多々ある。
だから、この手を鳴く事を損だと考え、鳴かない選択肢を取るプロも多いのではないだろうか。

(この手を鳴くのが得か、鳴かないのが得か、という話を私にさせたら日が暮れてしまうので、今は割愛させて頂く)

そして、最初の議題に戻る。

5回戦 東2局

一万二万二万三万六万七万五索六索八索八索八索六筒七筒  ドラ八索

上家から打たれた五筒を亜樹は仕掛けた。
仕掛ければ、11,600点の両面2つの1シャンテンになる。
他家に警戒されてもいい。特に上家の宮内が亜樹にいつも辛く打ってくることも重々承知していた。
1つ仕掛けて十分形であるなら、あとは自分で手牌を作り上げればいい。亜樹はそう考えていた。

〔勝つためのチャンスは待っていてもくるかどうかはわからない。それならば、自分で道を切り開く!〕

この手は結局、成就はしなかった。しかし、この後の亜樹の強気の攻撃へと繋がっていく大切な局となったのだ。

〔亜樹の勝利への想い〕

東2局1本場

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亜樹は2シャンテンから放銃した。
親とはいえ、亜樹の手の形は相当苦しい。打ち出していく牌も通るかわからない牌が多い。
普段の亜樹ならば考えづらい放銃。でも、これが今日の亜樹の戦い方だった。
極限までテンパイを諦めない。リスクを背負っても攻めることは止めない。

この日のコメントを見ると、「亜樹らしくない」といったものが少なからずあった。

しかしそれらを眺めながら、私は思うのだ。

「自分らしい麻雀を追い求め続けるのが本当に正しいのか。そして、それは勝ちに繋がるのだろうか」と。

彼女は戦っている。勝利のために。
それが、勝負に対していつも真剣な「彼女らしさ」であるのではないか。そう感じた。

5回戦の成績
二階堂亜樹+12.5P 宮内こずえ+5.5P 和泉由希子▲5.6P 吾妻さおり▲12.4P

5回戦終了時
和泉由希子+34.1P 宮内こずえ+29.3P 二階堂亜樹▲14.2P 吾妻さおり▲49.2P

 

6回戦

〔満貫テンパイからのオリ選択ほど胆力が必要なものはない〕

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2軒リーチを受けている。しかし、自分はリーチ者の現物の三索六索待ちでテンパイ。出アガリで高め満貫、安めでも5,200ある。実はこの五筒は吾妻のリーチの当たり牌である。

「あー、放銃したなぁ・・」

なんて見ていると、和泉の選択はオリ。

「えー!?これをオリられるの?凄い・・・」

素直に私は驚いた。そして感心した。
確かに、ドラ跨ぎの筋でどちらにも危険牌である。しかし、自分の手もツモれば満貫の良形テンパイだ。
満貫テンパイをオリるのは見た目以上に胆力が必要だ。
自分がオリた牌が当たり牌じゃなかったら?次の誰かのツモが自分の当たり牌だったら?
オリた時に自分がカッコ悪く映る材料はいくらでもある。

逆に、例え五筒が当たり牌だったとしても、自分も満貫テンパイであるという言い訳はつくのだ。
つまり、この五筒は押すのは簡単でオリるのはとても難しい牌だ。
それを止めた和泉の嗅覚は研ぎ澄まされているように見える。

この局の結果は流局。
地味な局として、人々の印象には残らなかったかもしれないが、記憶には残してほしいと思う良判断のある局だったので書き記した。

東3局

〔真似の出来ないオリジナルアガリ〕
100

吾妻の打ち筋は、なかなか理解できないものも多い。
彼女には独自の感性があり、理では説明出来ないような手順やアガリが時折見られる。

理に拘って打つことが正しいことだと私は考える。
しかし、理に拘りすぎると、創造性や感性の限界を早めてしまうのではないか。

吾妻の手作りは、創造性で溢れている。

100

吾妻は親の第一打の九万をポンした。
一色に行くにしても、手牌はまだかなり苦しい。しかも、中張牌から仕掛けるならまだしも、ヤオ中牌の九万からの仕掛け。
周りからもかなり警戒されてしまうであろう。普通は、ここまで思い切りの良い仕掛けはなかなか出来ない。

しかし、この後吾妻は無駄ヅモが一切なく、最速でマンズのチンイツテンパイを果たす。

一万二万三万四万四万五万五万六万六万八万  ポン九万 上向き九万 上向き九万 上向き  ドラ二万

まさかあの遠い仕掛けがチンイツの最速テンパイを果たすとは・・・
他の誰かがあの配牌を貰ってこの最終形まで持っていけただろうか。吾妻の創造性にはいつも驚かされる。
しかし、その直後に亜樹にも五万八万待ちのヤミテン満貫のテンパイが入る。

吾妻は八万単騎の仮のテンパイであるために危ないか・・・?と思われたが・・・

100

まさかの和泉が八万を掴んで12,000の放銃。
ダブロンの場合、競技ルールは放銃者から見て上家の人間のアガリだけが適用される。
つまり、アガリが発生したのは吾妻だった。

ヤミテン満貫テンパイなのでなかなか難しいとは思うが、亜樹がリーチを打っていたらどうなっていただろうか。
麻雀の世界にたらればは存在しないが、それでもその先を想像せずにはいられない。

〔亜樹の必死な仕掛け〕

東4局

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亜樹は1枚目の発を仕掛けた。ドラ2枚であり、遠くにホンイツも視野にいれての仕掛けであったと思う。少し遠い仕掛けではあるが、一般的な仕掛けである。
しかし、2フーロ目の仕掛けには少し驚いた。吾妻から放たれた五索をチーして二索切り。
打点が3,900に固定されやすい上に、愚形が残る可能性がかなり高くなる1シャンテンへの仕掛け。普段の亜樹ならこの五索は見送ったのではないだろうか。

次に場に打たれた西も仕掛ける。

五万五万六索八索  ポン西西西  チー五索 左向き四索 上向き六索 上向き  ポン発発発

手牌を4枚にしてのこのテンパイは、とてもではないが綺麗な形とは言えない。
それでも勝つために、アガリ続けるために、亜樹は自分の可能性を信じ続けるのだ。
すぐに七索をツモりアガリ、必死の想いを込めた1,300・2,600ツモとなった。

南2局1本場

亜樹の必死の攻撃は続く。

100

この7巡目の二万を仕掛ける亜樹を見たことがあるだろうか?
メンゼンで仕上げれば678の三色などが見え、高くなりそうな手である。
ドラは中なので、タンヤオ風に仕掛けると他家からの反撃も受けやすい。

しかし亜樹は、7巡目で「この手はメンゼンではアガれない」と見切って、仕掛けて捌くという判断を下したのだ。

その後、吾妻からのリーチ、和泉のドラポンと反撃を受けるが、危険牌を押してアガリきった。
亜樹の仕掛けが得であるのかは、正直わからない。それでも、亜樹の勝利への想いは伝わってきた1局であった。

100

6回戦の成績
二階堂亜樹+22.6P 吾妻さおり+12.3P 宮内こずえ+2.4P 和泉由希子▲37.3P

6回戦終了時
宮内こずえ+31.7P 二階堂亜樹+8.4P 和泉由希子▲3.2P 吾妻さおり▲36.9P

 

7回戦

〔再び意地を見せる和泉、丁寧に打ちまわす宮内〕

2日目は亜樹の2連勝スタートで始まった。亜樹の強気の攻めが上手くハマっての結果だった。
逆に苦しいのは和泉だ。初日のポイントを全て吐き出し、トータルポイントはマイナスとなってしまった。

東2局2本場、和泉に久しぶりの大物手が入る。
100

二万四万四万五万六万七万八万九万南南南中中  ドラ八筒

8巡目にしてメンホンテンパイだ。更に、2巡後には一万を引き入れて、一気通貫もつく形となった。
捨て牌はいかにもホンイツのような捨て牌になっているが、亜樹は初牌の南中を吾妻は無筋の八万を押している。
つまりは、さほど和泉のテンパイは警戒されてはいない。

そして、宮内にもテンパイが入る。

100

自分の待ち牌は場に4枚切られているが、タンヤオドラ1の両面待ちのテンパイだ。
親に六万を勝負して、リーチを打つか?ヤミテンにするか?・・・と見ていたが、宮内の選択は二索のトイツ落としのテンパイ崩し。
冷静に和泉の手牌状況を捉えている。これには心の底から感心した。

100

そして、次巡に宮内が持ってきた牌は三万
宮内以外の誰かがそこに座っていたのなら、まず放銃となっていた牌であろう・・・。宮内の研ぎ澄まされた感性が12,000放銃を回避させた。

宮内が素晴らしい打ち回しを見せ、この局は流局濃厚だろうか?と思っていたが、和泉は最後の1枚である自分のアガリ牌の三万をツモりアガったのである。
止められてもツモるアガリ牌。渾身の6,000オールの声が響き渡った。

7回戦の成績
和泉由希子+22.8P 吾妻さおり+8.3P 宮内こずえ▲13.1P 二階堂亜樹▲18.9P

7回戦終了時
和泉由希子+19.6P 宮内こずえ+18.6P 二階堂亜樹▲10.5P 吾妻さおり▲28.6P

 

8回戦

総合トップが目まぐるしく変わる展開が続く。
視聴者にとっては、痺れる展開で楽しいだろうが、対局者は一瞬たりとも気を抜けない苦しい状況である。

〔最前線で戦い続けるために必要なものは、更に上にいくための向上心〕

南1局1本場

100

15巡目、亜樹にメンホンテンパイが入ったが、テンパイ打牌の発が宮内のヤミテンに放銃となった。
この発は和泉が2巡前に切っていた牌である。亜樹は一瞬切り遅れてしまったのだ。
しかし、発はメンホンをテンパイするためにも必要な牌である。手の内に残すのも仕方ない。そして、この放銃も必然としか言いようがない。

しかし亜樹は、対局終了後のインタビューでこの放銃を悔やんでいた。

「あの発放銃は良くなかったです。発を切らない形になるようにテンパイを壊せば良かった」と。

常に攻撃の姿勢で構えながらも、守備の意識も疎かにしない。確かに放銃となってしまったが、この放銃を悔いる事が出来る事。それは亜樹が最前線で戦い続けられる理由のように感じた。

宮内はこの8,000をアガるとその後も堅実にアガりを重ね、2日目の最終戦は宮内がトップで終了した。

8回戦の成績
宮内こずえ+17.8P 二階堂亜樹+12.5P和泉由希子▲6.3P 吾妻さおり▲24.0P 

8回戦終了時
宮内こずえ+36.4P 和泉由希子+13.3P 二階堂亜樹+2.0P 吾妻さおり▲52.6P

2日目が終わると宮内が総合トップに立った。
宮内は派手に吹き上がる展開にはならなかったが、着実なアガリを重ねてトップに立ち、女流桜花の栄光に少し近づいた。

2番手につけたのは和泉。和泉は初日のポイントは少し減らしてしまったが、最終日を迎えるには良い位置につけたと言える。

3番手は亜樹。亜樹は攻撃的な姿勢を繰り返し、点数を大きく伸ばしてきた。もう少しポイントを伸ばせそうでもあったが、最終日を迎えるには十分な位置だろう。

そして、苦しいポイント状況になってしまったのは、現女流桜花の吾妻。1人沈みで最終日を迎える事になった。

トップを走る宮内とのポイント差が91ポイント。苦しい事には間違いないが、現実的には優勝はまだまだ可能性はある。
残すはいよいよ最終日。プロ連盟の女流トップを決める熱きラストバトルをお楽しみに。