第13期女流桜花決定戦 最終日観戦記 紺野 真太郎
2019年01月21日
仲田加南は誰と、いや、何と戦っていたのだろうか。もう勝負はついたはず。それでも手を緩めない。緩めてしまったら、大事な何かが零れ落ちてしまうからだろうか・・
2日目終了時
仲田+62.8P 魚谷+10.2P 中野▲2.6P 石田▲68.4P
初日の出遅れを取り戻し、トータルポイントをプラスに戻した魚谷侑未。50ポイント差は十分射程圏内と、本人も捉えているであろう。だが、残り4戦と考えると、1戦、1戦確実に詰めていくことが求められる。初戦から勝負処だ。
中野妙子はポイント的には大善戦と言えるが、内容的には本人も、もっと出来たはずと思っているであろう。経験値の差は仕方ないし、それは分かっていたこと。ハートの部分でどこまで負けずに戦えるか。
「今年こそ・・」石田亜沙己だけでなく、応援する全ての人がそう思っていたであろう。「勝ちたい」という気持ちが普段以上に慎重にさせてしまっていた部分はあるであろう。トップラスを最低3回、且つ、魚谷、中野のポイントも伸ばさせないことが条件。限りなくゼロに近いが、ゼロではない。
仲田はプロ野球の様に表現すれば、マジック2といったところか。いきなりのトップラス且つ、中野を沈めると、3連覇が濃厚となってくる。
9回戦 起家から 石田、中野、仲田、魚谷
東1局、中野がうまくソーズのメンツを捕まえてリーチ。
ドラ
手変わりを待つ手もあるが、東1局でもあり、積極的にリーチに出た。勿論、「仲田からアガれれば・・」などという甘い考えではなく、むしろ、仲田に来させない為のリーチでもある。
直後の仲田。
ツモ
ドラ2のチャンス手。現物はだけなので、逆に迷わなくていい。場を見るとが現物でが3枚見え。目一杯の打でなんの問題もないように思える。
当然の打。しかし、これが当たり牌。
3,900。トータルポイントからすればどうってことないように思えるが、これだけで、順位点込みで中野と27.8ポイント縮まる。何にもしていない魚谷とさえ、17.9ポイント縮まるのだ。
対局室には得点モニターがあり、選手はリアルタイムでポイント差を知ることが出来る。この時、中野、魚谷がモニターに目を向けたかどうかはわからないが、このままいけば、逆転も十分ありえる展開となりえる、アガリであった。
東2局1本場、トータルポイントを詰められたとはいえ、原点に復帰すれば、元の差に戻せる仲田、12巡目にポンテン。
ポン ドラ
ドラが2枚あり、3,900のテンパイ。取り戻すには十分だ。
そうはさせまいと魚谷も参戦。
更には石田もドラを切って、リーチで参戦。
仲田がを掴む。石田にはスジだが、魚谷には無スジ。普通なら、多少は考えたり、現物を抜いたりしたくなる場面。しかし、仲田は幾度となくみせてきたのと同じように、を河に置いた。そして、幾度となく観たように石田からのを捕らえた。
このシリーズ、この展開になれば、この後は仲田の時間になっていくことが多かったが、どうもそうはならない。
東3局、親の仲田がを仕掛けたところに、中野も自風のを仕掛け、前へ出る。
ポン ドラ
仲田の上家であり、絞れなくなるリスクもあるが、殴り合いに行かなければ、いつまでもガードを上げ続けなければならない。
中野2フーロ目でテンパイ。
チー ポン
仲田も応戦。ダブを仕掛ける。
ポン ポン
少しの違和感。仲田のこのような仕掛けはよく見たが、これは何か違う。これは「後手」の仕掛けだからか。
仲田の守備意識が高いのは前回触れたが、この仕掛けはスピードが足りていないので、先にアガリ切って、相手の攻撃の芽を摘むことが出来ない。ちなみにを切ってきたのは石田。あの石田が煮詰まりつつある場面で生牌を切ってきた。仲田の立場で考えれば、アガリまでの距離はよくて3番手。ここで「」という盾を2枚消費してしまうのは、得策とは思えない。
この後をツモ切って中野に7,700を放銃(中野はとを入れ替え)してしまったのも含め、目の前に見えるゴールへの焦りなのか、それとも・・
南1局1本場、追い上げる中野、仲田とのトータル差はちょうど20ポイントまで迫ってきた。
5巡目、親の石田がドラのを暗カン。
暗カン ドラ
逃げる仲田、追う中野、魚谷共にここに打つ訳にはいかないので、自然と受けの進行となる。1度はテンパイを入れた魚谷もでギブアップ。流局かと思われた。親の石田がをツモ切ると、中野がそれに合わせ打。それに仲田が鳴きを入れてテンパイ。ツモ切りが続いていた石田だったので、2人テンパイかと思われたが、石田はテンパイ出来ず。仲田、望外の1人テンパイ。対局室の空気が変わったのを感じた。
仲田は直前に通っていないを切ってきており、中野はが切れたはずなので、合わせたのが悔やまれる。
南3局、仲田は僅か4巡でこのリーチ。
ドラ
仲田を支配していた重苦しさが消えた。ここは安目ながらも2,000オールをツモアガリ原点オーバー。オーラスも親の魚谷のリーチに対して、無スジを3枚通してリーチ。これをアガリ切り、どちらに転ぶか分からない、境界線上の半荘を切り抜けた。
全てが終わった後、「あのオーラスのリーチが勝因」と言った者がいたが、私は南1局1本場の1人テンパイだと思う。
9回戦終了
中野+21.0P 仲田+12.1P 魚谷▲14.1P 石田▲19.0P
トータルポイント
仲田+72.9P 中野+18.4P 魚谷▲3.9P 石田▲87.4P
10回戦 起家から 魚谷、仲田、中野、石田
東場は大きな動きは無く進行していく。ただ、仲田は沈む事無く、堅実にアガリ、テンパイを重ねて行った。
南1局、仲田の配牌がいい。
ドラ
この手にツモもマッチする。4巡目にリーチ。
リーチ
麻雀の教本に出てくるような綺麗な6面張。もう、3者は追いつけないのか・・
決着は早いかと思われたが、この6面張がなかなかツモれない。そうこうしている内に中野が追いついた。
こちらも負けじと4面張。打点こそ低いが、仲田を止めることが先決。魚谷も追いつく。こちらは打点も十分。
ドラ
仲田がを掴めば・・しかし、その場合は中野の頭ハネ。ツモれるか。
仲田のツモは。すり抜ける。中野ツモれない。魚谷ツモれない・・
「ツモ」手を開いたのは仲田であった。安目でも値千金の・・
オーラス、もう後がない石田、先制リーチ。
ドラ
石田も簡単にアガれるとは思っていない。それでもきっかけを掴みたい。本来ならあっけなく終わってしまう親番を少しでも伸ばせればもしかしたら・・
思惑通り、流局までもつれたが、アガれはしなかった。しかも、仲田は粘ってテンパイ。
この後も石田は攻め続けた。引かずに5本場まで積み上げた。それでも仲田のポイントは削れない。最後はテンパイ取りに動いた石田から打ち取り、決定的となるトップを仲田は決めた。
10回戦終了
仲田+27.7P 石田+11.7P 中野▲16.0P 魚谷▲23.4P
トータルポイント
仲田+100.6P 中野+2.4P 魚谷▲27.3P 石田▲75.7P
11回戦 起家から 魚谷、中野、仲田、石田
その差約100ポイント。大勢は決した。後は消化試合・・でも、それは選手が諦めてしまった場合。もう2回しかない、ではなく、まだ2回ある。
東2局、中野は親でストレートにリーチ。
リーチ ツモ ドラ
2,000オール。親番で形になんかこだわっていられない。
東2局1本場、魚谷渾身のリーチ。
ドラ
は自ら切っている。カンからのフリテンリーチ。もし、の所でを切っていたとしても同じくフリテンリーチを敢行していたと思う。もう500・1,000で局を進められる状況では無い。
魚谷の最後のツモはであった。3,000・6,000。みな必死に仲田に食らいつく。
南1局3本場、中野先制リーチ。
ドラ
仲田は怯まない。追いかけリーチ。
ドラ
一見、無謀なリーチに見えるが、は山にありとの読みを入れてのもの(は山に3枚)
もう、本当に落とせない親番の魚谷。手応え十分の3軒目リーチ。
ドラ
、、・・場に打たれるピンズは隣ばかり・・アガリ牌のは無情にも石田の元に・・
13巡目魚谷のツモ牌は。中野のアガリ牌。魚谷4冠の夢はここで潰えてしまったと言っていいであろう。
南2局、中野の親。現実的に抑えつけないギリギリのラインで入れたテンパイでリーチ。
ドラ
最後の山場と踏んだか、仲田は切り込む。
ツモ ドラ
打。勿論、通っていない。。これも無スジ。何事もないかのように切る。中野がをツモ切ると、動く。打。これも・・更にポンから打。言うまでもなく、無スジ。そしてテンパイ。
ポン チー ドラ
は山に無く、この段階で仲田の方が1枚分有利。だが、そんな事はどうでもいい。そして、当たり前の様にを引きアガる仲田であった。
もし、100ポイントリードしていなかったら、同じ手順を踏めたかどうかは愚問であろう。仲田はポイント差よりも、勝負処か否かで判断していると思える。逆にここでポイント差に胡坐をかいて、引いてしまったら、ひっくり返されることもある怖さも知っている。何よりも一番信じられるのは、稽古量からくる、身体の反射なのだろう。
そして、仲田はここからゾーンに入っていく。南3局の親番で怒涛の連荘。1本場、2本場、3本場・・仲田の親番だけで1時間。8本場まで積み上げた。
勝負は決したはず。では、仲田は何と戦っていたのだろうか。自分自身?それとも麻雀自体?もしかしたら、戦っていたのでは無く、麻雀に愛され続けようとしていただけなのかもしれない・・
11回戦終了
仲田+42.6P 石田▲10.7P 魚谷▲13.6P 中野▲19.3P
トータルポイント
仲田+144.7P 中野▲8.4P 魚谷▲47.4P 石田▲89.9P
12回戦 起家から 中野、魚谷、石田、仲田
中野がこの決勝に残るなんて、開幕当初は誰も予想していなかった。決勝に残っても、勝てるなんて予想されなかった。連盟を受ける前、受けた後、合格した時、その後・・いつも落ちこぼれ・・でも、どんなにダメ出しされようが、勉強会にはいつも顔を出していた。仕事の都合で静岡に住居を移してもそれは殆ど変わらない。それを努力と呼ぶかはわからないが、人よりも時間を掛けていることは事実である。今回の決勝進出はそれが形になったということであろう。結果は伴わなかったが、経験を積むことはできた。また道場の片隅でダメ出しされに来ることであろう。経験を結果に変える為に・・
「性格は1番プロ向き」プロテストの書類を整理していた時に、魚谷が受験した25期の審査表が出てきた。汚い字で書かれた短評にはそう記されてあった。10年くらい前の事なので、そう記していたことなどすっかり忘れていたが、今の活躍を見ると間違っていなかったなと思うと同時に、頑張ったんだろうなと思う。魚谷にしてみれば当たり前の事をしてきたに過ぎないのかもしれないが・・現在の女流プロのトップを走る魚谷なら、この忘れ物は直ぐに取りにくるであろう。
2年連続の決勝も勝つことは出来なかった石田。必死に戦うだけであった去年とは違い、手応えも感じての今年だったはずなので、悔しさも大きいと思う。石田にとっての仲田、魚谷は巨大な壁なのだろうか。今年の石田は仲田、魚谷の強さを知ってしまったが為に大事に行き過ぎたと思う。でも、今年の経験で、仲田、魚谷の強さを理解したと思う。また来年戻ってこられたら、戦うことが出来るであろう。
「完勝」今回の仲田の防衛には、この言葉しか見つからない。初めから魚谷マークで入り、初日で差を付け、2日目に追い上げが来ると、必要以上に詰め寄られないようコントロール。最終日には、挑戦者が「どうやったら勝てるのだろう」という心理状態にまで追い込んでいたように見えた。来年には前人未到の記録を伸ばす4連覇への挑戦が待っている。また己を鍛えて、この舞台に戻ってくることであろう。
12回戦終了
魚谷+30.9P 石田▲2.8P 中野▲10.6P 仲田▲21.5P
最終成績
仲田+123.2P 魚谷▲16.5P 中野▲19.0P 石田▲92.7P
仲田を止めるのは誰か・・それとも4連覇なのか・・ストーリーは続いていく。
カテゴリ:女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記