女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記

第15期女流桜花決定戦 初日観戦記 越野 智紀

日本プロ麻雀連盟に所属する女流選手で年間のリーグ戦を行い、女流ナンバー1を決める女流桜花も今年で15年目。
今年からCリーグがC1とC2に分かれて4リーグ制に拡大。
入れ替え戦も二日制になり、険しくも夢があるタイトル戦になりました。
多くの女流選手が公式戦の中で一番力を入れているという試合。
真剣に勝負している姿は観ている人を熱くさせます。

 

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(自身最終戦で目標クリアのアガリを上家取りで奪われた藤井すみれには全米が涙)

その激戦を制した仲田加南・二階堂亜樹・川原舞子の3人が、桜の花を奪いに古谷知美のもとまでやってきました。

 

1回戦
開局、川原にリーチが入ります。

 

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川原舞子(今期女流桜花リーグ戦データ)
リーチ率 :10.1%(12位/15人中)
フーロ率 :12.4%(14位/15人中)
アガリ率 :18.6%(10位/15人中)
平均打点 :5,275点(4位/15人中)
放銃率  :17.5%(15位/15人中)
平均放銃点:2,731点(1位/15人中)
流局聴牌率:37.9%(10位/15人中)

今期初のAリーグで決定戦に進出した川原。
経験面からか下馬評では厳しい結果を予想する意見も出ましたが、Aリーグ1年目で女流桜花を獲得した魚谷のように一気に駆け上がるパターンも過去にはあります。
最近の女流桜花では少数派になっているメンゼン重視の高打点スタイルで新しい風を吹かすことが出来れば面白い存在です。

 

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そんな川原のリーチは本来のスタイルとは違うリーチのみの手。

 

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そのリーチに対し、仲田が独特な選択を見せます。
七対子一本に絞った現物の五万切りでも、真っ直ぐに無筋の四索を切って縦横両天秤でもない七索切り。
まさかのシュンツ手一本の選択です。
序盤は動ける手にして自身の状態を判断しているような節がある仲田。

 

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この局は川原のロン牌五索を吸収しながら1シャンテンまでいくも上家古谷に警戒されてテンパイ出来ず流局に終わります。
川原はリーグ戦の時とは違ったリーチ選択の範囲を見せることができ、まずまずのスタートとなりました。

 

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1回戦で好スタートを切ったのは現女流桜花として決定戦からの登場になった古谷。
今期の女流桜花では解説をすることが多く、その落ち着いた様子に女流桜花の風格が見えました。
連覇して女流桜花でいたい、成長した姿を見せたいと言う古谷の昨年の女流桜花での麻雀は

リーチ率 :14.6%(8位/20人中)
フーロ率 :17.4%(12位/20人中)
アガリ率 :22.9%(4位/20人中)
平均打点 :4,036点(16位/20人中)
放銃率  :12.2%(15位/20人中)
平均放銃点:3,271点(4位/20人中)
流局聴牌率:39.7%(9位/20人中)

全体的に穏やかなスタイルでした。
リーチヤミテンの選択の巧さがアガリ率の高さに繋がっていて、その代償として平均打点が少し下がっているようにも見えます。
守備面に関しては相手の安い手には積極的に押していますが致命傷は避けていたような数字です。

女流桜花獲得から1年たち、古谷が見せたいと言っていた成長した姿が1回戦から出ました。

 

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親番の連荘でトップ目に立った古谷。
シュンツ系の手に見えるように捨て牌に気をつけながら、七対子本線で手を進めます。

 

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美し過ぎる捨て牌の並び。
狙いが見事に決まり、亜樹からリーチ七対子で4,800点は6,000点のアガリ。
リードを広げることに成功しました。

 

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一本取られた形になった亜樹は、次局一万一筒を1巡目からポン。
ドラが発ということもあり、かなり大胆なブラフ気味の仕掛けを入れます。
他家の進行を縛りながら、ゆっくり手作り高打点狙いのラテン系舞姫です。

 

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その激しい舞いに割って入ったのは連荘中の古谷。
234の三色の1シャンテンとはいえ、ドラの発が余っている状態での一索切り。
1年間解説をしながら各選手を見てきた古谷は、亜樹が去年より多彩な仕掛けをしていることに気づいていました。

 

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二階堂亜樹(今期女流桜花リーグ戦データ)
リーチ率 :12.8%(10位/15人中)
フーロ率  :22.1%(7位/15人中)
アガリ率 :21.2%(8位/15人中)
平均打点 :5,292点(3位/15人中)
放銃率  :10.6%(7位/15人中)
平均放銃点:4,100点(9位/15人中)
流局聴牌率:53.6%(2位/15人中)

亜樹の特徴はアガリと貰ったテンパイ料を足した加点率が31.6%で今期2位、放銃と払ったテンパイ料を足した失点率が19.6%で今期1位と非常に優れています。
リーチ率は低く成功率は高めでアガリ率と放銃率が平均的だがテンパイ率は高め。
これは終盤でのテンパイ取りに長けた選手に見られる数字なのですが、亜樹から出るオーラで他家がオリているという説もあります。
もう一つの特徴はフーロ率。
あまり鳴かないと思われている亜樹が実は平均以上に鳴いていて、1局の中で2フーロ以上する『多フーロ率』も7.5%の6位と意外にも遠い仕掛けをしていることが解ります。

亜樹の打ち筋を見てきた古谷は、攻められる局と判断して※一索を切りました。

 

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しかし3巡の間に一索九筒を引いていた亜樹にポンテンを取られてしまいます。
清老頭には変化せず、このままツモアガって純チャン三色同刻で満貫になりました。
序盤の好スタートが活きて1回戦はトップのまま終われたものの、積極策が裏目に出たことで古谷の歯車が少しずつ狂っていきます。

1回戦成績
古谷+15.8P 川原+5.1P 亜樹▲4.1P 仲田▲16.8P

 

2回戦

 

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仲田はカンをすると亜樹のハイテイを消せるが、あえてカンせず。
亜樹がツモ切って流局、仲田以外の3人テンパイで古谷の親番が連荘となりました。
初日が終わった後に聞いた仲田の話では

「去年まではゆーみん(魚谷侑未)をマークしてたけど、今年はゆーみんいないから初日は古谷さんマーク。」

ここでのカンせずは1人ノーテン回避もありますが、亜樹がツモって古谷の親が流れたらOKという意図もあったようです。

仲田は女流桜花で圧倒的な成績を誇り、その麻雀スタイルは個性的です。

 

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仲田加南(今期女流桜花リーグ戦データ)
リーチ率 :14.5%(8位/15人中)
フーロ率 :30.1%(1位/15人中)
アガリ率 :22.6%(3位/15人中)
平均打点 :4,508点(10位/15人中)
放銃率  :11.7%(9位/15人中)
平均放銃点:4,703点(11位/15人中)
流局聴牌率:45.8%(5位/15人中)

フーロ率が高い仲田ですが、何を鳴くかの判断は繊細です。

 

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九索をポンした仲田は打点を求めて四万のチーテンはスルーします。

 

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現物以外の喰い変えが出来るのが日本プロ麻雀連盟公式ルール。
打点を求めていたと思っていた仲田だが四万を引いた後に出た一万は喰い変えせずスルー。
自身のアガリ率を下げないように、相手に与える情報を少なくします。

 

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その後一万を引いてチャンタに変化。
九索を加カンしたのち七筒をツモって1,600・3,200。
このアガリで今日はイケルと判断した仲田は、ここから攻め寄りにシフトを切り替えていきました。

 

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川原らしさが見えたのが南2局1本場。
タンヤオ三色ドラ2のチーテンをスルーします。

 

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山に残っていなかったカン七筒のターツを払い、メンゼンでタンヤオ三色ドラ2のテンパイを入れます。

 

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川原のアガリかと思ったら、この六索を止める亜樹。
九索を切っている人から何巡か空いて八索が出た場合、六索を持っているパターンが多いと言われています。
場に六索が1枚出ているのでシャンポンの可能性も無く、一見安全そうに見える六索でしたが亜樹は危険な一般論より自分の読みを信じていました。
川原が長考しての八筒六筒ターツ落としで、手に別の愚形ターツが残っている可能性が高く見えます。
その愚形ターツがカン六索の場合。
八索はフリテンの九索の受けを増やす有効牌として手に残されていた可能性は考えられます。
川原はメンゼン高打点を狙うタイプで八索が余った以上、1シャンテンから六索を切るのは見合わないと判断。

 

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亜樹が六索を止めている間に川原は五筒を掴み、古谷に一通ドラ1を放銃。
純カラになるチーテンを避けてメンゼン高打点のテンパイに辿り着いた川原と、危険を察知し回避した亜樹。
2人の特徴が出た見事な攻防でした。

 

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南3局、北八万をポンする亜樹。
1回戦でも見せた遠めの仕掛けです。

 

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1回戦での三色同刻のアガリも影響したか、全員が受けに回る亜樹得意の展開になり1人テンパイで流局しました。

オーラスは調子が上がってきた仲田がアガってトップを逆転。
2回戦は1回戦と逆の順位で勝負は振り出しへ。

2回戦成績
仲田+14.1P 亜樹+6.0P 川原▲6.7P 古谷▲13.4P

2回戦終了時
古谷+2.4P 亜樹+1.9P 川原▲1.6P 仲田▲2.7P

 

3回戦

 

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八万をポンして六万切りの亜樹を気にせず、古谷は二万を切ってカン五万を選択すると

 

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今度の亜樹はポンテンで満貫テンパイ。
自在な鳴きで古谷を翻弄します。

 

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仲田・亜樹の厳しい攻撃に劣勢の古谷が状況を打破しようと西五索をポンします。

 

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しかし周りが全然止まりません。
場に見えていない役牌が中だけになり、一万のほうに狙いを切り替えた仲田はツモ切りリーチを選択。

 

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狙いの一万をツモアガリ700・1,300。
3回戦も経験豊富な仲田・亜樹が試合をリードする展開に、離されたくない川原・古谷。

 

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南2局1本場、川原は2シャンテン戻しの暗カンで高打点を目指します。

 

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10巡目にピンフのテンパイが入った古谷がドラの八筒を切ると

 

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川原に南三暗刻ドラ4の跳満が炸裂。
前を走る仲田・亜樹を追いかけます。

 

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川原に12,000点の後、仲田に5,200点も放銃して窮地に立たされた古谷。
通常の4着に付く順位点▲8.0Pと違い、1人沈みの4着は順位点が▲12.0Pとなるルール。
この状態を避けるため、仲田から出た五万を見逃します。

 

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初日から追い込まれた古谷でしたが、この手をリーチツモタンヤオイーペーコーの2,000・3,900にして一矢報いることに成功します。

3回戦成績
仲田+25.7P 亜樹+13.0P 川原▲5.1P 古谷▲33.6P

3回戦終了時
仲田+23.0P 亜樹+14.9P 川原▲6.7P 古谷▲31.2P

 

4回戦

 

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東1局、リーチツモピンフドラ2。

 

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南2局、発ドラ2。
3回戦で踏みとどまった川原がドラ2のチャンス手を2度アガリにつなげ、好調仲田を抑えながらトップ目でオーラスを迎えます。

 

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オーラス、3フーロのテンパイを崩す仲田。
仕掛けた3種は北東南
南北ホンイツトイトイの跳満テンパイを崩した小四喜狙い。
この瞬間、西は山に全部残っていました。

 

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仲田の切った白を亜樹がポンすると、次巡引いたのが西

 

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14巡目になり仲田は小四喜を諦めてテンパイ復帰させます。

 

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待ちをカン二筒に変化させる仲田。

 

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二筒六筒の選択を迫られた亜樹。
北東南を仕掛けている人が西の後に切った一筒は手に関連した牌。
一筒二筒三筒一筒一筒一筒だと西単騎に受けているので一筒一筒か※一筒二筒一筒三筒
小四喜を諦めてテンパイを取るぐらいの手なので打点は高そうで、捨て牌はホンイツに見えます。
仲田は西の前に三筒を切っているので一筒一筒からの一筒切りが濃厚。
現状一筒のシャンポンテンパイからカン二筒に変化させるのは打点が安くなる上に待ちが読まれそうなので不自然な選択。
仲田の手は一筒三筒七筒八筒西から三筒を切って一筒を引いた形、

一筒一筒七筒八筒ぐらいしか無さそうです。

その場合は一筒の手出しは空切りで六筒がロン牌になります。
二筒切りを選択して亜樹は、仲田に8,000点の放銃。
仲田の跳満テンパイ壊しが亜樹の精密な読みも狂わせました。

4回戦成績
川原+22.1P 仲田+10.6P 亜樹▲11.7P 古谷▲21.0P

4回戦終了時
仲田+33.6P 川原+15.4P 亜樹+3.2P 古谷▲52.2P

北家スタートが好きじゃないと言った仲田。
2回戦以降は北家スタートの席に座らず初日トップに立ち、5度目の女流桜花獲得へ向けて好スタートです。

(文:越野智紀)