女流プロリーグ(女流桜花) レポート

女流プロリーグ(女流桜花) レポート/第11期女流桜花入れ替え戦レポート 楠原 遊

11月23日、女流桜花の入れ替え戦が行われた。
今期初の試みとなるこの対局は、日本プロ麻雀連盟の女流リーグであるABC3つのリーグの選手4名が、Aリーグへの昇級、残留を賭け全4半荘を戦う。
トータル1位になった選手は来期女流桜花Aリーグに、それ以外の選手はBリーグで来期の女流桜花を迎えることとなる。特にCリーグの選手にとっては、Bリーグを飛ばしてAリーグにジャンプアップできる大チャンスとなる対局となり、熱のこもった戦いになること必至である。
まずは出場選手の紹介から
100
吾妻さおり Aリーグ15位 東京本部所属 第8・9期女流桜花。
「(あなたにとって桜花とは、との質問に)吾妻という打ち手を生み、育ててくれた親のようなタイトル戦です。今日しっかり打つことが恩返しの一つになると思います。」
 
 
100
稲岡ミカ Bリーグ5位 関西本部所属
「チャンスがせっかく得られたので、今できることを精一杯したいと思います。多方面の方々に、沢山応援していただいているので、期待にこたえたいです。強い打ち筋ができたらと思います。」
 
 
100
井上美里 Bリーグ6位 東北本部所属 第29期新人王
「ミスが無ければ必ず勝てると思います。先に昇級を決めた4人よりも1回多く映像対局が出来てラッキーくらいの気持ちで挑みます。」
 
 
100
土田小緒里 Cリーグ優勝
「一生懸命悔いのないように頑張ります」
 
 
泣いても笑っても、半荘4回。
残留を目指すもの、昇級を目指すもの、それぞれの戦いが今始まる。
なお、この対局も女流桜花のリーグ戦と同じく、一発裏ドラ無しの日本麻雀連盟Aルールによって行われる。
 
100
 
1回戦 稲岡・吾妻・土田・井上
東1局 3巡目
はじめに動いたのは南家・吾妻
一万三万三万六万六万六万七万九万五筒東南西西  ドラ九索
ここから東家・稲岡の切った二万をチー。打五筒
巡目を考えると、随分と思いきった早い仕掛けに見える。スピード・打点とも期待はできない手だが、他家からはそうは見えないかもしれない。過去に桜花を連覇し、キャリア的に3者のかなり先輩となる吾妻。ほぼ初対局の3名に対するプレッシャーとなり得る一手である。
しかし親の稲岡も、ひるまず七万南発八万と切ってゆく。
その八万も鳴いて、吾妻テンパイ。
三万四万六万六万六万西西  チー八万 左向き七万 上向き九万 上向き  チー二万 左向き一万 上向き三万 上向き
親の稲岡もまっすぐ打って1シャンテンの手だったが、吾妻がすぐに五万をツモって500・1.000。開かれた手を見た3者は、何を思ったのだろうか。
東3局1本場
西家・稲岡が4巡目にテンパイ
三万五万八万八万八万九筒九筒九筒西西西中中  ドラ九索
三暗刻・西の7,700。ここはさらなる手の成長を見てヤミテン。
南家の井上も仕掛けてこの形。
一万三万四万四万六万四索五索九索九索九索  ポン南南南
ドラの九索を暗刻にしての勝負手だ。一発裏ドラのないAルールにおけるドラ3の価値は極めて大きい。
しかしここで稲岡が2枚目の中を鳴いて三万単騎から次巡二万引いて以下の手。
二万八万八万八万九筒九筒九筒西西西  ポン中中中
西中・トイトイ・三暗刻の12,000。すぐに井上もテンパイ。
一万三万四万四万四索五索六索九索九索九索  ポン南南南
こちらも大きな勝負手になった。
2人の欲しい二万は山に2枚残されていたが、誰の手にも引き寄せられることなく流局。
終盤にテンパイを入れねばった吾妻と合わせて3人テンパイとなった。
南3局、吾妻と井上の手がぶつかる。
吾妻
一索二索三索三索四索六索六索  ポン発発発  チー八索 左向き七索 上向き九索 上向き  ドラ六万
井上
四万五万六万三筒三筒三筒四筒五筒九筒九筒  ポン南南南
すぐに吾妻がラス牌の六索を引いて一索四索五索の高目一気通貫のテンパイとなるが、ここは井上の六筒ツモで1,000・2,000。
今日の井上はいつもにも増してアガリにストレートな道を選択している。この手牌、二筒切りテンパイで、一筒四筒待ちにすることも出来た。河と自分の手牌からは、1枚しか差がない選択だったが、ここは間違えず先に六筒を引いて最速のアガリを手にした。
南4局、親番の井上が3本場まで積みトップの稲岡に迫るが、最後は稲岡自身が300・500は600・800で1回戦を終わらせる。
1回戦結果
稲岡+17.3P 井上+8.4P 土田▲9.2P 吾妻▲16.5P
 
2回戦 吾妻 稲岡 土田 井上
今回、入れ替え戦に登場する稲岡・土田と井上はそれぞれ関西本部、東北本部の所属。毎月、女流桜花に参加するため新幹線で東京まで通っている。もちろん麻雀の技量に移動距離は関係ないけれど、それだけの時間や経済的なビハインドを持って対局に臨むには、きっと準備も覚悟も必要だと思う。
東1局、はじめにテンパイしたのは西家・土田。
五万六万七万九万九万五索六索七索四筒五筒六筒七筒九筒  ドラ一筒
この手をヤミテンにして、ツモ三索で打九筒、ツモ二索でメンピン三色のリーチ!
しかし親の吾妻もだまっていない。
四万五万三索三索一筒二筒三筒  チー五索 左向き六索 上向き七索 上向き  ポン白白白
この手でこちらもテンパイしていた稲岡から2,900をアガる。
東3局1本場、親番の土田
六万六万三索四索五索六索三筒四筒七筒七筒八筒九筒九筒  ドラ三筒
ここに八筒を引いて、親リーチ。
そのリーチに、南家の井上が仕掛けていく
二筒三筒四筒五筒五筒七筒南北北白  チー三筒 左向き一筒 上向き二筒 上向き
1回戦2着スタートだった井上、ここはまっすぐ押してゆく。
一筒二筒三筒四筒五筒北北  チー六筒 左向き五筒 上向き七筒 上向き  チー三筒 左向き一筒 上向き二筒 上向き
西家の吾妻も
二万二万二万三万三万四万四万五万三筒四筒五筒五筒発発
この形になるが、リーチと仕掛けに挟まれ五筒は切らず、五万を外していった。
2人のアガリ牌の行方に注目が集まったが、終盤、最後まで押しきった井上がホンイツドラドラの2.000・3.900は2100・4.000をアガって土田の親を終わらせる。
オーラス、稲岡・井上のトップ争いかと思われたが、3着目の吾妻が井上から6,400をアガリ、稲岡のトップ。
2回戦結果
稲岡+18.2P 吾妻+12.4P 井上+2.8P 土田▲33.8P
トータル
稲岡+35.6P 井上+11.2P 吾妻▲4.1P 土田▲43.0P
 
3回戦 稲岡 井上 土田 吾妻
稲岡の2連勝によって、3者に課題が与えられた。各々のプラスを目指すことはもちろん、この半荘、稲岡を沈めること。最終戦が残っているとはいえ、ここで浮かれてしまうと勝負がほぼ決してしまう。逃げるトップ目の稲岡に対して、包囲網は作れるか。
東1局、北家・吾妻が7巡目にホンイツ役役のテンパイ。
四索五索六索六索七索八索八索発発発  ポン北北北  ドラ七筒
ここに1シャンテンの稲岡
一索二索三索六索一筒二筒三筒五筒七筒八筒九筒南南
発を引いてツモ切る。これを吾妻が大明カン!!
日本プロ麻雀連盟のAルールには大明カンの責任払い(パオ)があるため、ここで吾妻が嶺上ツモの場合は稲岡の1人払いとなる。
普段なかなか見ることが出来ない大明カンの責任払いだが、吾妻は稲岡が発を切ったときのことも想定していた。もちろんテンパイがほぼ明確になってしまうが、その代わりにトップ目からの大きな直撃チャンスとなる。
しかし嶺上牌にいたのは四筒。直撃はならず。
そして稲岡もソーズを引き入れテンパイ。
一索二索三索六索七索一筒二筒三筒七筒八筒九筒南南  リーチ
五索八索待ち対決となったが、すぐに吾妻が五索をツモって2,000・4,000。直撃はならなかったが、親かぶりという形で稲岡の親を終わらせる。
南1局1本場、ここも稲岡の親番、南家・井上が
一索三索三索三索三索七索八索九索東東  ポン南南南  ツモ二索  ドラ三万
このダブ南・ホンイツをツモり、またしても大物手の親かぶりで稲岡の親を落としていく。
この半荘は3者の狙い通り、稲岡に苦しい展開になった。その中で多くのアガリをものにした井上がトップに、そこに吾妻、土田が続き、稲岡は4着。
3回戦結果
井上+16.1P 吾妻+6.0P 土田▲7.7P 稲岡▲15.4P
トータル
井上+27.3P 稲岡+20.5P 吾妻+1.9P 土田▲50.7P
 
最終戦 稲岡 吾妻 土田 井上
稲岡の4着によって、トータルトップ目が井上に変わった。鳴いても笑ってもこれが最後の一戦。晴れてAリーガーとなるのは、この中の誰になるのか。
※規定により、最終戦の席順は起家からトータル2位→3位→4位→1位の並びとなる。
 
100
 
東3局1本場、はじめにテンパイしたのは西家・稲岡
二万四万六万七万八万三索四索五索二筒二筒六筒七筒八筒  ドラ九索
しかし親の土田もすぐに追いつく。
一索二索三索四索四索六索七索八索九索九索  ポン北北北
緊迫しためくり合いが続くが、三万が土田の現物だということもあり井上が稲岡に1,300は1,600の放銃。
トータルトップ目の井上が沈み、稲岡・吾妻が浮いたことによりポイントはこの三つ巴の戦いとなった。もちろん大きく沈んでいる土田も含め、各々親番が残っているので、全員にチャンスはあり、それぞれの親・子方での打ちまわしに注目が集まる。
東4局、井上の親番、南家の稲岡が仕掛けていく。
牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背  ポン一筒 上向き一筒 上向き一筒 上向き  ポン九万 上向き九万 上向き九万 上向き  ドラ八万
見えている部分を考えると非常に役牌が切り辛い状況である。
これを受けて井上、
二万四万五万六万三索四索五索六索七索七索六筒七筒発  ツモ八筒
このツモにより発をノータイムで外していく。
実際の稲岡の手はこちら。
六索七索七索白白中中  ポン一筒 上向き一筒 上向き一筒 上向き  ポン九万 上向き九万 上向き九万 上向き
白でも中でも仕掛けられる手がたちだった。ここに自力で白を引き入れ、高め満貫のテンパイ。
一方、西家・吾妻も一歩も引かない。2枚目の一万を鳴いてこの牌姿。
四索四索八索八索八索西西西中中  ポン一万 上向き一万 上向き一万 上向き
連荘したい井上、その井上の親を落としたい稲岡・吾妻。この3者のアガリ競争となったが、ここはドラが重なった土田が井上に2.900の放銃となった。
四万五万五万六万七万四索五索六索七索七索五筒六筒七筒  ロン三万
南2局、ここは吾妻の親番。まず仕掛けたのは親が残っている井上。
七索八索九索二筒三筒七筒八筒九筒南発  チー八万 左向き七万 上向き九万 上向き  ドラ一万
しかしそうはさせない、と1番最初にテンパイしたのは親番・吾妻
三万三万三万一索一索三索四索五索五索六索七索七索八索  リーチ
真っ直ぐ向かえなくなる井上と対照的に、このリーチに真っ向勝負を挑んだのは南家・土田。
一筒二筒三筒三筒五筒五筒七筒八筒九筒九筒中中中
迷いなく親のリーチに、無筋のマンズ・ピンズを押していく。
しかし、2番目のテンパイはまわっていた北家の稲岡。
二万三万四万六万七万八万四筒四筒四筒六筒六筒発発
片アガリではあるが、リーチのスジの八筒を切ってテンパイとした。
ここに次巡、吾妻のアタリ牌である九索を引いてくる。自身の待ち牌の発は生牌、六筒は1枚切れ。
小考して、稲岡が選んだのは吾妻の現物である六万。さすがに無スジの牌は打てないと一旦まわったか。
しかし次巡すぐにまたツモ九索。その後場に出た発を仕掛けて、
二万三万四万九索九索四筒四筒四筒六筒六筒  ポン発発発
粘ってテンパイ、流局。
吾妻・稲岡の2人テンパイ。互いの開けた手を見て、吾妻、稲岡の2人が思ったことは何だろう。
南2局1本場、南家の井上が南を、北家の稲岡が北をポン。2人とも、吾妻の親を早く流したい。
三万四万五万三索三索四索四索七索八索九索  ポン南南南  ドラ南
一万二万五万六万七万五索六索七索七筒七筒  ポン北北北
しかも井上はドラ3。ここは何としてでもアガリたい。
しかしドラの南を切った吾妻もこの親は落とせない。
七万七万八万八万二筒三筒四筒四筒四筒五筒七筒八筒九筒  ツモ一筒
フリテンの牌を引いて、一通は見切って即リーチ!
勝負どころと踏んだ井上から2,000は2.300をロン。連荘に成功した。
しかし2本場、早々に南をポンした稲岡が吾妻から5,200は5,800をアガリ、吾妻の親番を終わらせた。
南4局、現時点でのトータル成績は
稲岡+40,0P 井上+17.6P 吾妻+6.8P 土田▲64.4P
跳満直撃の必要な吾妻が、井上に2,000を放銃して連荘。
南4局1本場
三万四万五万六万七万八万二索二索六索七索八索五筒六筒  ロン七筒  ドラ三索
稲岡が2,000は2,300をアガリ、自身の優勝を決める。
最終戦結果
稲岡+25.8P 吾妻▲4.4P 井上▲6.7P 土田▲14.7P
最終成績
稲岡+46.3P 井上+20.6P 吾妻+2.5P 土田▲65.4P
こうして稲岡の優勝によって、初の女流桜花入れ替え戦は幕を閉じた。
優勝した稲岡はAリーグで、井上・吾妻・土田はBリーグで来期の女流桜花を迎えることとなる。
各々が打ったこの日の麻雀が、きっとまた、次回の糧となることだろう。
彼女たちの熱い活躍を、楽しみにして欲しい。