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王位戦 決勝観戦記

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第40期王位戦 決勝観戦記 前編 前原 雄大

2014/12/26
執筆:前原 雄大


第40期王位戦~決勝戦~
―――――時はあまりにも早く過ぎ行く。喜びも悲しみもすべては束の間だったように思える。

荒正義が第5期王位に輝いたのは、若干23歳の時であり、私はそれを麻雀専門誌で知り心を震わせた。
その年の盛夏に、今は亡きホテルニュージャパンで、盛大なる祝賀パーティが催された。
このことは以前どこかに記したことだが、主賓挨拶で荒はこう述べた。

「私の鼻が少しでも高くなったと感じられたときは、どうぞみなさん叱ってください」

荒さんの短い挨拶は、その短さの分だけ私の心の中に鮮明な記憶として残されている。
あれから三十数年が過ぎた今もなお、連盟最強の打ち手の1人として今回の王位戦を含め6度目の決勝進出と相成った。

6度目と記すと簡単なように聞こえるが、これは存外難しいことで、砂漠の中で小さなオアシスを6度見つけることに等しい。
王位戦は現存するタイトル戦で最も歴史が深く、それはあたかも荒正義の生涯を映しているようにさえ思える。
生きる伝説(レジェンド)と言っても過言ではないであろう。

予め私が用意したアンケートで各選手の紹介を記したいと思う。
(各選手が記したものをそのまま掲載してあることを予めご了承お願いいたします。)
選手紹介(五十音順)

氏名:荒正義
生年月日:1952年4月12日(62歳)
所属団体:日本プロ麻雀連盟
所属リーグ:A1
獲得タイトル:
血液型:A型
出身地:北海道北見市留辺蘂町

■決勝戦マークする相手は?
自分 行き過ぎないように

■王位戦に対する意気込み
(三度目を狙う)
軽四輪車を買う資金にするの!

―――さすが全てにおいてデジタルである。

氏名:五十嵐毅
生年月日:1959年11月27日(18歳)
所属団体:日本プロ麻雀協会
所属リーグ:B1
獲得タイトル:第21期最高位
血液型:О型
出身地:新潟県

■決勝戦マークする相手は?
解説席

■王位戦に対する意気込み
何もない。
気負っていると、ろくな結果にならないと思っているから。

アンケート用紙を見て五十嵐さんに尋ねてみた。
「18歳ってどういうことですか?」
「私の心の年齢です。」
――胸を張って答える五十嵐さんは、さすが日本プロ麻雀協会の代表である。

氏名:清原継光
生年月日:1979年1月20日(35歳)
所属団体:日本プロ麻雀連盟
所属リーグ:D3
獲得タイトル:なし
血液型:B型
出身地:宮崎県

■決勝戦マークする相手は?
自分が一番格下なので誰もマークしません。

■王位戦に対する意気込み
この舞台でやれることで満足です。
精一杯やって、結果を受けとめて、次の経験にします。
―――始まる前からこれでは、まるで敗者の弁ではないか、しかしこれも清原君らしい真実の言葉である。

氏名:矢島亨
生年月日:1979年1月15日(35歳)
所属団体:日本プロ麻雀協会
所属リーグ:Aリーグ
獲得タイトル:なし
血液型:A型
出身地:神奈川県

■決勝戦マークする相手は?
荒さん

■王位戦に対する意気込み
勝ちます!
―――矢島さんらいい意思と決意を感じさせる言葉ではある。

 

100

 

1回戦(起家から五十嵐、矢島、清原、荒) (以下敬称略)

荒のDLТ (Dilect Line Trap) と天を仰ぐ五十嵐。
荒正義という人は本質的には奇手を好まず、本手を好む。
そんな荒が9巡目に、奇手とも呼ぶべき打五万の即リーチを敢行した。

東1局、荒手牌

一万三万六万七万八万九万九万三筒四筒五筒七筒八筒九筒  ドラ六万

普段の荒ならば、打一万と構えマンズを柔らかい形に持っていく。
それをせずDLТ(もろ引っかけリーチ)を選択したのは何故か私なりに考えてみた。

これは恐らく間違った推察ではないであろう。
相手の出方を見て今後の出処進退を決めるといった、相手のデータ収集を計りたかったに他ならない。
荒に誤算があったとすれば、五十嵐の追いリーチである。

五十嵐手牌

三万四万五万六万六万五索六索四筒五筒六筒七筒八筒九筒  リーチ  ドラ六万

五十嵐が追いかけリーチを打ってくるということは、少なくともこのリーチは嘘手ではない。
さすがに荒も、この五十嵐の追いかけリーチには肝を冷やしたことであろう。
王位戦のようなシステムにおいては、麻雀力の比重も大きいが、その日の運が占める部分も決して少なくはない。

幸運にも荒は二万をツモアガることが出来た。
このこと1つでこの先の全てを判断する訳にはいかないが、少なくとも五十嵐にはこたえたツモアガリである。

「膨らんだ風船が、急に萎んでしまったような気持ちに落ち込んでしまいました。」

これに関して清原はこう応えている。
「初タイトルの王位戦は緊張と重圧でいっぱいでした。開局、荒プロがダブ東を打ち出していることにも気づかず、自分が何も見えてないことに気づきました。このままだといけないと思い集中するよう意識しました。そこで入った2件リーチ、形は良かったのですが、様子を見てオリました。結果は、荒プロがカン二万のリーチをツモる。五十嵐プロの手は見えませんでしたが、本手の可能性が高く、荒プロの良さを感じたのと、そのリーチを敢行した荒プロの戦略が垣間見得た気がしました。「今日は若い時のやり方でいく」という言葉を思い出しました」

100

 

東2局3巡目 親:矢島

一万三万二索二索五索五索六索二筒三筒五筒五筒六筒白白  ドラ五筒

今半荘に関して矢島はこう述べている。

「普段の一発裏ありの協会ルールなら、ドラを打ち出すのを辞さない構えで一万を打ち出すのですが、素点が重いAルールでは、ドラドラを使い切るために六筒を打ち出しました。11,600点を五十嵐プロからアガれたのですが、結果にかかわらず、自分の中ではAルールに対応出来ている感触を得られました。」

この放銃に関して五十嵐はこう語った。
「私の心の中の膨らみきった風船の破裂する音が聞こえた。」
この放銃に関して私はこう考える。

五万五万二索三索四索七索六筒七筒  チー二万 左向き三万 上向き四万 上向き  暗カン牌の背八索 上向き八索 上向き牌の背  打七索

五十嵐自身のこの仕掛けはともかくとして、問題は打七索にあったのではなく、前巡にツモ切った一索が疑問手だったように思える。
ここで手仕舞えできれば良かったと思われる惜しい1局ではある。

矢島捨牌
六万 上向き七万 上向き六筒 上向き五索 上向き発三万 上向き発一万 上向き二筒 上向き二万 上向き七万 上向き中八筒 上向き七筒 上向き二筒 上向き

南3局、五十嵐にまたしても難解な1局が訪れる。
配牌

二万三索四索七索九索九索一筒二筒七筒九筒九筒南発  ドラ九筒

5巡目に、下家より打ち出された発をポンする。

三索四索六索七索九索九索一筒一筒九筒九筒九筒  ポン発発発  ドラ九筒

そして五十嵐はこの牌姿から打六索としたが、これはテンパイ効率を考えれば最善手である。
難しい局面である。私ならば牌譜解説の折りに述べたように、打九索か打一筒と構えるところだろう。
実際卓に座ってないので何とも言えないが、打六索と構えた時のツモ五索が惜しく感じられるからである。

実戦はより難しい方向に進み、五十嵐の思惑通り九索をポンすることが出来た。
ただ、河に六索七索と払ったことで二索五索が浮き彫りにされ、さらにまた縦形の手も相手に意識される結果となった。
さらに、実際荒の手牌には二索がポツンと浮いていたが、それは打ち出される気配は全くと言っていいほどなかった。

そしてさらなる選択が五十嵐を襲う。

三索四索一筒一筒九筒九筒九筒  ポン九索 上向き九索 上向き九索 上向き  ポン発発発  ドラ九筒

この手牌にツモ三索が訪れる。このツモ三索は五十嵐の想定内の事であったが如く少考の末、打四索と構える。
五十嵐の持ち点が17,000点ということを考えれば、これもやむなしの選択の1つではある。
ただもう一方の考え方として、17,000点しかないからこそ、満貫で収めるという形も無きにしも在らず。

麻雀には間違いがあっても正解がないという考えを私は持っている。
このケースは、まさにそれが当てはまり、どの選択をしても間違えではないと私は思っている。
ただはっきりしていることは、清原から8,000点をアガっていたことは事実であろう。

清原11巡目

三万六万七万八万五索六索七索八索三筒三筒六筒七筒八筒  ツモ五万  打五索  ドラ九筒

恐らくこの局面では、清原は打八索とすることなく打五索としたものと思われる。
今局に関して清原はこう語っている。
「最初の半荘は、南3局の親番が印象に残っています。本来なら生牌を打ち出さない形なのですが、前局、簡単にアガれたので、とことん押してみようと思いました。五十嵐プロに仕掛けが入り、六索を打ち出した後の九索ポンしての七索切り、リャンメンを嫌ったポンにトイトイへの志向、矢島プロのドラ切りに反応しないことに、五十嵐プロのドラ暗刻の可能性を感じました。手出し二筒があるので一筒で打つと12,000まである局。対して自分の手はかなり微妙な形でしたが、まだ初戦ということ、その前に簡単に2,000・3,900をアガらせてもらったことから、放銃してもいい気持ちで打ち出しました。結果はまぁまぁ、アガれず、振り込まず、混戦から抜け出すには早いと感じて、気を引き締めた局です」

矢島
二万三万二索三索四索四索五索六索二筒三筒四筒八筒八筒九筒

「ドラを打ち出せば高目タンピン三色のテンパイですが、ラス目の五十嵐プロが仕掛けを入れてテンパイ濃厚です。リーグ戦であればドラは打ち出さないのですが、半荘5回で1位しか意味のない決勝戦ですので手が入っている時は積極的に行こうと決めていました。」

100

 

清原の覚悟
1回戦は、荒か矢島がトップを取るかに思えたが、荒の親番で勝負を決めるべくリーチを打つ。
これは荒が事前インタビューで答えたように、30代の麻雀を打つという証左に他ならないと私は思う。
技よりも力ということである。待ちよりも打点ということである。

一索一索三索四索五索六索一筒二筒三筒五筒七筒八筒九筒  ツモ七筒  打六索 左向き  ドラ一索

結果は、荒から清原への放銃で収束を見た。これは清原の覚悟が実を結んだ局である。

清原
一万二万三万四万四万七万七万八万九万九万一索白白  ツモ六万  打一索  ドラ一索

荒の2巡目の打二索から、ドラ一索がトイツ以上であることを清原自身も十分に感じていたと思う。
それでもなおかつ清原は、荒のリーチに向かって、一発目でドラである一索を打ち切って見せた。
中々に打ちきれない打牌である。

次巡、ツモ四万、打九万と構えると共に、荒から五万が打ち出された。
この5,200は価値ある大きなアガりである。

清原牌姿

一万二万三万四万四万四万六万七万七万八万九万白白  ロン五万

そして清原は初戦を飾った。

1回戦成績
清原+19.5P  矢島+10.6P  荒▲7.8P  五十嵐▲22.3P

100

 

2回戦(起家から五十嵐、矢島、荒、清原)

今日は僕の日ではなかった

100

東1局、五十嵐12巡目に打八万でリーチを打つ

五十嵐手牌
一万二万三万六万六万南南南北北北発発  リーチ

この八万を矢島が仕掛け、五十嵐より三万を出アガる。
これは流石に五十嵐には応えた放銃であろう。五十嵐の勝負処である。

リーチを打つかどうかの選択は是非を問えないが、誰が打っても最終形はこうなるであろう。
リーチ時の残り枚数に、私はそれほど意味があると思っていない。
それでも五十嵐のロン牌は、山に3枚残っており、矢島のロン牌は残り1枚である。
五十嵐は後日語っていた。

「この結果を見て、闘気を失ったわけではないが優勝は難しく感じられた」

五十嵐にとっては大きなダメージの局であり、矢島にとっては、大きなアドバンテージの1局であることは間違いない。
さぞや気分を良くした1局であろう。
観戦者である私には、五十嵐にツモアガらせたい、成就させたい1局ではあった。

東2局、テンパイ一番乗りは荒。

一万二万三万七万八万三索四索五索四筒五筒五筒六筒六筒  ツモ七筒  ドラ七万

役なしテンパイながら、冷静に打八万と構える。
荒のテンパイと同巡に、五十嵐にもツモ二万でテンパイが入る。

四万五万五万五万七万八万九万西西北  ポン白白白  ツモ二万  ドラ七万

荒にツモ七筒で役ありテンパイに変化、その2巡後、ラス牌のドラである七万を五十嵐が掴まされ放銃。
1回戦のラスという結果を加味して、これは致し方ない放銃だろう。

逆に、荒にとっては値千金のアガリである。
ただ言えることは、役なしヤミテンに構えた荒のいぶし銀のプレーが生み出した結晶と私は考える。

役なしドラ単騎待ちリーチを打つ若い打ち手が多い中、役なしドラ単騎待ちだからこそ、ヤミテンに構える荒そのもののような1局である。
まだ始まったばかりの2回戦にしても、2局連続放銃の五十嵐にとって、私は既に崖っぷちに立たされているように感じた。
もちろんポイントの事もあるが、放銃せざるを得ない状況に崖っぷちを感じたのである。
五十嵐は後日こう語っている。

「今日は僕の日ではない、と感じた2局だった。」

2回戦東3局

100

 

矢島
「最初のインタビューで『人の3倍鳴きます』と言ったのですが
○遠くて安い鳴き
○安牌が無く安い
は基本的にはしないです。主な鳴きの基準としては
○遠くて高い鳴き
○安くても安牌がある
は積極的に鳴くので、これは一筒を鳴きました。」

このことに関しては、私と矢島の麻雀の価値観が違うため事の是非は問えない。
1枚目の中を動かずに、ドラの七万を立て続けにツモった以上、私ならば自分のツモに身を委ねる。
仮に一筒を仕掛けなければ、同巡、さらにドラである七万が矢島の手元に訪れる。
結果はどうなったかは分からないが、

四万五万六万七万七万七万三索五索一筒一筒  ポン中中中  ドラ七万

このような形にはなっていた。
興味深かったのが、五十嵐は結果ツモ一索でアガったのだが、「ツモ」の発声にかなりの時間を要したことである。
おそらくは、打四万のアガらずの選択を考えていたのだろう。

所詮、ラススタートで2戦目も現状1人沈みのラスであるということを考慮すれば、好手であったようにも映る。
ただ、矢島が2フーロしている以上、ツモアガリの選択は自然かつ至当なアガリである。

 

見上げた天の先にあるもの
南1局、五十嵐がドラである絶好の五索を引いてリーチを打つ。
同巡、荒が「500・1,000」と発声したとき、五十嵐から大きな溜め息がこぼれ、天を仰いでいた。

五索六索七索三筒三筒四筒四筒五筒五筒六筒七筒七筒七筒  ドラ五索

―――――仰いだ天の先には一体何が映っていたのだろう。

南3局、16巡目、五十嵐が大長考の末、打七万のリーチを打つ。

六万六万七万八万八万九万一索一索一筒一筒六筒六筒中中  打七万 左向き  ドラ一筒

そして一発目のツモが裏目の七万である。
不調時の長考の末導き出した答えは、ほとんどが間違うという典型的な例である。
ちなみにテンパイまでに、五十嵐は4つトイツを捕まえ損なっている。
南3局までラスに期していたオーラスでアガリ、3着に浮上したのはやはり五十嵐の本来の力だろう。

100

今局に関しては清原もコメントを寄せている。
100

 

清原
「トップで迎えた次の半荘はややラフに攻めてみた局です。印象に残っているのは、五十嵐プロからリーチがかなりかけられたこと、それらが全部不発だったこと、特に七万切りリーチに一発で七万を引いてきた南3局、「あれ?これ、しくじったんじゃないかな?」と思って流局して開けられた手が七対子ドラドラの地獄単騎には、五十嵐プロの精神が落ち込んでいくのを感じました。対局中は荒プロ、矢島プロにも手が入っているように感じながら、どのような手組みか分からず、右往左往しながら中途半端に打っていました。このままだとダメだと思っていたら、やはりラスになり「この内容なら当然の結果」と受け止めました。」

清原がラスを引いたことで、3回戦以降が面白くなったことは間違いない。

 

楷書(かいしょ)の麻雀

2回戦の荒の勝因は東4局と私は睨んでいる。

9巡目
五索五索六索六索七索八索九索四筒七筒八筒九筒発発発  ドラ四筒

ここからテンパイ取らずの打九索に尽きる。
四筒のドラ打ちをして、その後のソーズの変化を見る方法論も在りかとも思う。
特に、この時点でこの半荘、荒はトップ目であることを考えれば打四筒も不自然ではない。

牌譜解説のコーナーで、今局を取り上げたのは滝沢和典であるが、私は打九索の一択しかないと思っていたので、滝沢がなぜ今局を指定したのか意図が分からなかった。
だが、改めて譜を眺めると、打四筒も自然な一打であり、己の不明さを恥じる思いである。

最終形
五索五索六索七索八索四筒五筒七筒八筒九筒発発発  ツモ三筒  ドラ四筒

故・阿佐田哲也氏は荒正義を称して、楷書のような麻雀を打つ人である、と言った言葉を思い出させた荒らしい手筋である。

100

2回戦成績
荒+15.4P  矢島+5.0P  五十嵐▲6.6P  清原▲13.8P

2回戦終了時
矢島+15.6P  荒+7.6P  清原+5.7P  五十嵐▲28.9P

 

3回戦(起家から荒、矢島、五十嵐、清原)

矢島の逸機と荒の対応

100

 

東2局3本場、14巡目、

矢島手牌
三万三万三万四万五万六万四索六索五筒六筒  チー二索 左向き三索 上向き四索 上向き  ツモ五索  ドラ三万

五十嵐手牌
五万六万九万九万北北北  ポン南南南  チー一万 左向き二万 上向き三万 上向き

これはあくまで私の偏見に過ぎないかもしれないが、私ならばこの局面、五十嵐に合わせ打六筒と構える。
1つには、上家の荒が徹底的に矢島に対応しているからである。
それと、明らかな下家の五十嵐のホンイツ模様を意識するからである。

矢島は今局、若さの特権である力技を使い打六万としているが、やはり現場で見ている時も打ち過ぎの感は否めなかった。
戦前のインタビューで矢島は、マークする相手を荒さんと記している。
そうであるならば、ここで打六万とすることは荒はもちろん、清原からもマークされることである。
勿論、麻雀本来のベースはツモアガリにあることは紛れもない事実ではあるが、ここで打六万とするからには、キッチリと四筒七筒を引きアガって欲しいものである。

それともう1点、ここで四筒七筒に受けるということは、この後すべてのマンズの牌を切り出して行かなければならない。
私の考えの中には、麻雀は大胆になるべき局面はドコまでもラフに攻め抜くべきだと思う反面、繊細になるべき局面は、どこまでも淡く打つべきものだと思っている。
ここはやはり柔らかく、五十嵐の現物である打六筒とすべきだったように思えてならない。

この点に関して矢島はこう語っている。
「3回戦東2局、親1本場ドラ三万の時にミスをして、11,600点をアガリ逃がしてしまったのが忘れられません。このミスを絶対に次に生かして、同じ過ちを繰り返さないように強くなります。」

結果は、2巡後の矢島の五筒のツモアガリ逃しと、五十嵐の待望の七万での満貫ツモアガリであった。

東3局、荒がツモり三暗刻をアガリ、2,000・4,000。

五万五万五万一索一索六索七索八索九索九索九索一筒一筒  ツモ一筒

続く東4局1本場、荒

四万五万六万九万九万五索六索七索一筒二筒三筒五筒七筒  リーチ  ツモ六筒  ドラ四万

全対局終了後、清原は私に尋ねた。
「何故あそこで荒さんはカン六筒のリーチが打てるんでしょうか。あの局面でカン六筒待ちのリーチの意味が私には解りません。」
私は答えに窮した。
「意味を考えても仕方がないように思う。あなたの質問の意図とは異なるかもしれないが、意味の麻雀は存在の麻雀には及ばないように思う。大切なことは意味よりも存在にあるように思う。」

 

運、鈍、根

100

 

南3局、今王位戦、初めてのぶつかり合いの局面である。
矢島は戦後、こう述べている。

三万四万二索二索三索三索五索七筒八筒白白白中

「Aルールでは、3万点を越える事を目標にしているので仕掛けたくは無いのですが、メンゼンで行っても2,600点になる可能性が高く、それでは3万点を越えないので、少しでも点数を稼いでオーラスに託してみました。また、白の暗刻を安牌をとして打ち出せるのですが、8巡目の親の五十嵐プロのリーチに対して無スジの四索を打ち出したのは、

○リャンメンでテンパイをしている
○アガればオーラス1,000点で30,000点を超える
○まだ通ってないスジが多いので、四索の当たる確率がまだ低い

このような事から勝負しました。もう少し通っているスジが多かったら白を打ち出しております。」

奇しくも清原も今局をとりあげていた。
「印象に残っているのは南3局、矢島プロの仕掛けの後に、親の五十嵐プロがリーチを打った局面。自分はピンズの一色手なのですが、五十嵐プロの五筒を仕掛けませんでした。悪いと思いながら1シャンテンで五十嵐プロの親リーチにぶつけたくないと思い、ツモ次第では引くつもりでした。思った以上にピンズが伸び、チンイツをテンパイしたのですが五十嵐プロに三筒をツモられる。五十嵐プロに抜かれた感覚があり、敗退を強く意識した瞬間でした。」

矢島は今局リーチが入った同巡のツモ四索に、相当の時間をかけ、そして次巡のツモ一索にも時間を取った。
いつもテンポよく牌を切り出していく矢島にしては、珍しい光景を見る思いだった。
それだけ今局にかける思いが強かったのだろう。

一方、清原の感心したところは、リーチ後の五十嵐のツモ切った五筒を仕掛けなかったことである。
良し悪しはともかく、私ならば動いたような気もする。
ただ言えることは、清原の鈍感力に敬意を表するばかりである。勝負に必要なものは「運、鈍、根」と言われている。
その中の大事な部分、鈍の部分を清原は間違いなく持っている打ち手なのである。

100

荒、14巡目手牌

八万八万一筒一筒三筒三筒六筒七筒七筒九筒  暗カン牌の背六索 上向き六索 上向き牌の背  ツモ二筒  ドラ九万

その清原の持つ鈍の部分が、あの荒正義をしてアタリにはならなかったが紙一重の二筒を打たせている。
荒は戦後、こう語っている
「あの局面は印象に残っているよ。清原君のメンゼンチンイツはまだテンパイ気配がそれほど漂っておらず、打二筒と構えたのだけど、後で考えてみたんだけど、あの局面は打八万が正着な応手だったように思える。なぜならば、五十嵐君に八万で打つ分には3,900止まりがはっきりしているからね。」

荒の言葉が示すように、清原の鈍感力はある意味才能なのである。

そして五十嵐は遂に待ちに待ったトップを飾った。
戦いはさらに混戦へと入って行った。

3回戦成績
五十嵐+17.6P  荒+11.6P  矢島▲6.6P  清原▲22.6P

3回戦終了時
荒+19.2P  矢島+9.0P  五十嵐▲11.3P  清原▲16.9P

 

麻雀は人なり

3回戦が終わり、食事に入った。
私はなるべく選手と距離をあけ、離れた場所で用意されたお弁当に少しだけ箸を付けた。
その際、未使用の爪楊枝を机の下に落としてしまったのだが、私が拾う間もなく離れた場所にいたにもかかわらず、矢島が素早く駆け寄り明るい表情で、拾ってくれた。
この矢島の人間性、反射神経に感心させた。
これは間違いなく矢島の長所である。

「人の3倍鳴きます」

逆に、この言葉をインタビューの冒頭でを聞いた時、私は矢島が何を伝えたいのか、全く理解できなかった。
少なくとも私の中の王位戦は連盟の主催する至宝と考える。
ならば、抱負として他の言葉を選ぶべきと考える私は頑固なのかもしれない。
ただ、それは礼儀だと思う。

要はバランスの問題で、矢島にはこれから幾らでも可能性がある。
どうか、あらゆる意味で一流を目指して頂きたい。

「私のことは前原さんの好きなように記して欲しい。観戦記とは人を記すものだから、ただ、矢島のことは色々な意味で書きすぎないようお願いいたします」

インタビュー時の五十嵐の言葉である。
やはり、大人の自分自身の真実の言葉である。

後編へ続く・・・