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王位戦 決勝観戦記

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第43期王位戦 決勝観戦記 清原 継光

2017/12/14
執筆:清原 継光


 

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野方と太田、王位戦決勝を争った東京本部の若手2人の明暗は分かれた。
麻雀の決勝を戦うことにおいて、優勝と準優勝には大きな差がある。
優勝者とそれ以外。その差はどこにあったのか。

まずは第43期王位戦決勝におけるもう2人の主役について触れておこう。

山井弘。第1回リーチ麻雀世界選手権優勝、第5回インターネット麻雀選手権優勝、第20期チャンピオンズリーグ優勝、第15回モンド杯優勝。

 

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決勝メンツの中では圧倒的実績を誇る山井だったが、今決勝の入りの感触は良いとは言えなかった。
起家で先制リーチを打つも、段谷に追いかけリーチを受け高目をツモられる。
山井は自分の運がいまいちだと感じたのか、その後は我慢の麻雀に転換。守勢にまわり、場に対して控えめに徹した。
1回戦4着、2回戦4着。その結果を受けて、休憩中に外に出る山井の姿があった。
後に質問すると「気分転換に少し冷たい空気にあたりかった。」と答えてくれた。
「半荘5回戦、このままでは届かなくなる」そう考えたかどうかは分からないが、3回戦から山井が攻撃に転じる。放銃がありながらも戦える形に持っていく。
ホンイツトイトイ三暗刻、タンピン三色ドラ。アガれば戦線復帰となりそうなテンパイを入れるも、野方に競り負ける形となった。

 

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山井の王位戦は事実上ここで終わった。

段谷昭夫さん。京都からの一般参加、最強戦の決勝のイスにも座ったことがあり、準決勝を1位通過。

 

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開局、山井とのリーチ合戦を制すと、好位につけ着実にプラスを積み重ねる。
時折見せる勝負どころを見誤らない攻め判断は他家の勝負手をつぶし、歴戦の強者の風格を感じさせた。
後半になるにつれ少しずつ攻めに転じ始め、最終半荘の5回戦で見せたフリテンリーチからの跳満ツモは「見事」の一言に尽きる。

 

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しかしながら、記者は東京本部の若い2人に焦点を当てたい。

 

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決勝戦で優勝を争った若い2人は前日の勝ち方も対照的であった。
太田は最後に勝負リーチを制してからの大きい手をアガっての大勝。一方、野方は崖っぷち敗退を覚悟してからの奇跡的生存。
その2人がどんな前日を過ごしていたかは分からないが、それぞれに心に秘するものがあっただろう。
そんな選手の気持ちが垣間見える瞬間があった。

1回戦、東1局。立会人の合図とともに始まるが、その際に「よろしくお願いします」と挨拶する。その挨拶で、野方の声が最も大きく元気が良かったのだ。
記者は野方をよく知るが、どちらかというと元気は無いし声も小さい方だ。その野方の声の大きさに、野方自身の秘めたる覚悟を感じ取った気がした。
対局中も野方は積極的に仕掛けを駆使する。緊張からかちょっと小さい声になりそうなところを大きく言い直す。野方自身の少しでも自身を奮い立たせようとする心の持ちようが伺える。

元気よく声を出した野方だったが、立ち上がりからスタートダッシュを決められたわけではない。
今決勝で毎回見せた野方らしい仕掛け。しかし親の太田にドラドラのリーチを入れてしまう。その親の太田のリーチにまっすぐ打って11,600点の放銃。最初の半荘は太田がものにする。

二万二万四万五万七万八万九万六索七索八索七筒八筒九筒  リーチ  ロン三万  ドラ二万

「最初の半荘を終えて誰が一番運気がいいと思いましたか?」。決勝終了後の山井に質問すると「もちろん太田だよ」との答えが返ってきた。
1回戦、太田はトップと好スタートを決め、野方は沈みの3着で終える。

2回戦がはじまる。
その際も野方が一番大きい声で挨拶をする。「よろしくお願いします!!」。
本来、挨拶は、最初の「よろしくお願いします」と一番最後の「ありがとうございました」の1回だけでよく、2回戦以降に「よろしくお願いします」などと言う必要はない。
だが野方は気持ちよく声を出した。自分自身を奮い立たせるかのように。
野方の気持ちが伝わる。大きく声を出すことは、自分の心を整理すること、自分の覚悟を決めることにつながる。どこまでも自分の信じるやり方を貫きとおすことに決めた。これからの半荘で麻雀で自分を主張する。その自分の気持ちを示すかのように声を張り上げる。

その野方の覚悟が実を結び、2回戦はトップ、3回戦は山井の勝負駆けに競り勝ち、2連勝。トータルでも野方が首位に躍り出る。 

(3回戦終了時、野方+50.6P 太田+17.9P)

4回戦、1回戦のトップからやや静観を決めていた太田だったが、このまま野方に離されるわけにもいかない。
東2局、太田がメンピンツモドラの2,600オールのアガリ。

二索三索五索六索七索七索八索九索四筒五筒六筒七筒七筒  リーチ  ツモ一索  ドラ六索 

これで太田が配給原点を上回り、野方が配給原点を下回った。
連盟公式ルールは配給原点を上回るか下回るかで順位点が変わる。この瞬間、太田は野方と並んだ。

そして南3局、野方にドラの二万が暗刻の勝負手。
野方はこの4回戦で配給原点を上回れば優勝にグッと近づく。是非とも野方はこの手をものにしたい。
一方、野方を追う立場の太田は、野方に配給原点を上回らせないことが課題となる。
まずは太田に先制テンパイ。

一万一万一索一索三索三索七索二筒二筒西西白白  ドラ二万

そこに太田を試すかのような親の段谷からのリーチが入る。

六万七万八万二索四索六索七索八索六筒七筒八筒九筒九筒  リーチ 

そして、野方の追いかけリーチ。

二万二万二万九万九万五索六索七索九索九索九索一筒三筒  リーチ 

太田に試練の時、そして太田は勝負からの撤退を選択。すぐさま打たれる太田の当たり牌。
不思議なもので、あがり逃しをした直後に太田がつかんだのは野方の当たり牌。

 

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終盤、野方がツモアガリ。価値ある2,000・4,000。
それを確認した時の太田の表情には悔恨がまざまざと見てとれる。

 

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結局、4回戦を野方はトップで終える。これは大きい分岐点になったか。

 (4回戦終了時、野方+69.3P 太田+25.6P)

5回戦。
本日恒例の「よろしくお願いします。」の挨拶。しかし、今までとは違う。今回は太田の声が一番大きい。
この半荘の太田は違う。何かやってくれる。そう期待させる太田の覚悟を感じさせる声である。4回戦の悔恨を残したまま決勝を終わるわけにはいかない。その思いが声となったのか・・。

東1局、いきなりの4,000オール。太田の思いは実を結ぶ。

三万四万四万五万五万七万八万九万二筒二筒五筒六筒七筒  リーチ  ツモ三万  ドラ八万 

5回戦開始時、野方との差は65Pあったが、このひとアガリで順位点込みで32ポイントほど縮めた。もうあとひとアガリで野方に追いつく。

南1局、最後の親番。現状で太田と野方のポイント差はおよそ満貫一つ分。
その太田は親権を維持すべく仕掛けてテンパイをとる。そこに段谷からのリーチが入る。太田の一発目のツモはドラの南
またも太田に試練。太田は考え、悩み、そして現物を抜いた。

 

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太田の考えは理解できる。このままオーラスを迎えれば満貫ツモ条件が残る。しかし、ここで放銃すればその条件もなくなる。
ドラの南を打てない以上、この手で放銃のリスクは負いたくない。ゆえのベタオリ。
とてもクレバーな判断ではあるが・・・。

そして流局で迎えた南2局2本場。野方が仕掛けから入りドラを重ねる。これに放銃するは太田。野方が3,900は4,500を太田からアガる。

二万二万二万七万七万二索二索  ポン白白白  チー七索 左向き八索 上向き九索 上向き  ロン七万  ドラ二索

直接対決相手からの直取り、さらにはこのアガリで野方は配給原点を上回る。太田の逆転条件を一気に粉砕する大きい大きいアガリである。

南3局、太田の打牌に力を感じない。
ふいに崩れかけた牌山を太田が手で押さえる。「すみません」。その声は、か細く力なく今にも消え入りそうな声に聞こえた。
その声を聞いて、記者は太田の心が折れていることを察する。
オーラス満貫ツモ条件を残すことを考え、そのために南場の親番までも放棄した太田。その条件が残っていることが太田にとっての心の支えだったのだ。
野方のアガリはそれまで太田の心を支えてきたものを壊した。
あの3,900が太田の心を折ったのだ。
勝負が決したことを肌で感じるには十分であった。

「チャンスを残すこと」と「チャンスをつかみとること」は似て非なるものである。
太田はチャンスを失うことを恐れた。対照的に野方は積極的にチャンスをものにしにいった。
実質的に太田との勝負となった5回戦。東場の太田の親番。野方は太田からリーチを受けるも無スジを切り飛ばして400・700のツモアガリ。
リスクをとり、しっかり戦い、太田の親を落とす。
チャンスを失うことを恐れず、チャンスに手を伸ばし自分のものにすることに対して常にアグレッシブな野方の姿があった。

2人の心模様が対照的な局は、実は1回戦目からあった。
オーラス、太田の親番。太田は4万点超えのトップ目。そしてこの1シャンテン。

五万六万七万三索三索六索七索七索八索八索六筒七筒西  ドラ三索

親でタンピンイーペーコードラドラの1シャンテン。アガれば決め手である。
しかし、段谷がマンズのホンイツで3フーロ。
西家の段谷に西で放銃すると満貫もあり得る。せっかくのトップ目の貯金を失いたくない。西を切れない以上、野方に当たるような他の危険牌も切りたくない。
太田の判断は実にクレバーである。
しかし、見方を変えるなら「満貫放銃しても配給原点を割らない」と強気にリスクをとっても良さそうな局面ではある。
だが太田は二筒をツモると、冷静に現物の七万を抜いた。

 

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同じ局面、野方は仕掛けて2,000点のテンパイ。

六索七索二筒三筒四筒五筒五筒  ポン二万 上向き二万 上向き二万 上向き  チー三索 左向き二索 上向き四索 上向き

野方はアガっても配給原点に届かない沈みの3着のままである。
しかも、段谷に放銃すると最低3,900以上の失点であり、さらに必ずラス落ちする。
さらにさらにラス目の山井はオリ気配、ここでオリてもラス落ちする確率は低く、アガリをとるメリットは実質2,000点だけ、対して放銃リスクは順位点込みで8,000~12,000。
しかし、野方はここから西白八万と押すと、段谷から八索で2,000点をもぎとる。

 

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戦いを終えた野方に質問をした。「あそこは損得で言えば損が勝りそうなのになぜ押したのか?」と。
野方は答えてくれた。
「まだ1回戦目だし、1回戦目はラスになってもいいと思っていたし、今日は全部自分でやるつもりだったから、ラスになってもいいから全部行こうと決めた。」
太田はクレバーだった。しかし、幸運の女神は覚悟を持った方に次第に心を動かされる。

最後に、この決勝で見せた野方のファンタスティックなアガリに触れないわけにはいかないだろう。
3回戦、南3局2本場、勝負を賭けた山井の乾坤一擲の親リーチ。

三万四万五万四索五索二筒二筒三筒四筒五筒六筒七筒八筒  リーチ  ドラ四索

対して野方の手はこれである。

四万五万一索一索八筒九筒白  チー七索 左向き八索 上向き九索 上向き  ポン南南南 

形も打点も圧倒的な差がありながら、野方の心は簡単には屈しなかった。
まずは無スジの一索を2巡連続でつかみ4枚になる。ここで放銃を恐れるなら一索を4枚河に並べる選択肢も残しそうだが、そんな後ろ向きな選択を消す暗カン。
さらに無スジをひいて一旦形を壊すと、引いてきた字牌を残して数牌を切る。
「数牌で放銃したら」「字牌の方が通りやすいかも」とは思わない。字を重ねたらホンイツになって打点がアップするがゆえの数牌切り。
1シャンテンで危険牌の四万を叩き切ると、字を重ねてホンイツのテンパイ。無理やり勝負できる形にしてしまった。
あとは親リーチとのめくり合いも、山井がすぐに七索をつかむ。役牌ホンイツで一索の暗カンもあり7,700の出アガリ。

六索八索発発  暗カン牌の背一索 上向き一索 上向き牌の背  チー七索 左向き八索 上向き九索 上向き  ポン南南南  ロン七索

後で野方に聞いてみたが、けして山井の手を読んでいたわけではない。勝負できる形をつくってめくり合う覚悟を持って打つ。
序盤こそ仕掛けから入るが、その後の野方は高打点の目を残し、手役を追い、そして後手を引いても簡単にはギブアップせず、最終的にめくり合いに持ち込み、めくり合いに勝つことを目指す。
貪欲にアガリに向かい、貪欲に打点を高くする。
野方の麻雀に対する考え方が伺える野方らしいアガリの1局と言えるのではないだろうか。

第43期王位戦は野方の優勝で幕を閉じた。
勝利インタビューで野方は言った。「ツイてましたね」。
しかし、幸運の女神は最初から野方に味方していたわけではない。
その覚悟に、その後退のドアに鍵をかけた戦いぶりに、少しずつ心を動かされていった。
そして最後には、チャンスをつかみとろうと必死に戦った者に微笑みを向けた。
「チャンスを残すこと」と「チャンスをつかむこと」の違い。優勝者と準優勝者、その間を隔てる大きな溝を超えるもの。野方はそれを持っていたように思える。
自らの覚悟と戦いを見せ、そして自らの力で勝利を勝ち取ったのだ。
幸運の女神を振り向かせた世紀の色男への祝杯を掲げ、この文もまた締めくくることとしよう。

 

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