文字サイズを小さくする 文字サイズを元に戻す 文字サイズを大きくする

王位戦 決勝観戦記

一覧

第44期王位戦 決勝観戦記 藤崎 智

2018/12/25
執筆:藤崎 智


100

 

100

 

魚谷13巡目のリーチ。

 

100

 

15巡目にツモ。これで決着がついた。第44期王位の栄冠は逆転で魚谷が手にして現三冠王となった。
このアガリは最終5回戦のオーラスの1本場での出来事である。苦しみながら勝ちきった魚谷と、その魚谷を最後まで苦しめた現東北チャンピオンの菊田政俊とプロになってわずか二ヶ月の浜野太陽という2人の無名プロの激戦を振り返ってみたい。

この決勝戦が行われたのは11月25日。夏目坂スタジオ。前日の準決勝を勝ち上がってこの日を迎えたのはプロ連盟所属の4人のプロ達。試合前のコメントと共に紹介する。

浜野太陽。プロ入りわずか二ヶ月の新人で慶應義塾大学出身の25歳の新人でEリーグ所属。「入会二ヶ月でこのような舞台に立てて信じられない気持ちです。気負わず直球勝負で体当たりしていきます!」

菊田政俊。プロ入り3年目。36歳。昨年早くも東北リーグの頂点東北天翔位のタイトルを獲得。東北本部期待の若手である。「いつもどおり打ちたいと思います。東北にビッグタイトルを持ち帰りたいです。」

この2人の若手プロの挑戦を受ける形となったのは、現在二冠王の女流のトッププロの1人と麻雀界を代表するトッププロの1人。

魚谷侑未。現日本オープンチャンピオン、現女流日本シリーズチャンピオン。ご存知最速マーメイド。過去最速の女流桜花など獲得タイトル多数。「諦めないことでたくさんの奇跡を起こしてきたと思っています。どんなに辛くても全身全霊をかけて戦い抜きます。素晴らしい舞台で戦えることを誇りに思います。」

前原雄大。現鳳凰位、現グランプリチャンピオン。獲得タイトルは十段位5回など多数。別名もゴジラ、総帥など多数。「持てる力の全てをこの場所に置いていきます。」

1回戦は菊田のワンサイドゲーム。2度のドラ3をアガるなど大きなトップをものにする。

菊田 +27,1P
魚谷 +4,4P
浜野 ▲10,0P
前原 ▲21,5P

2回戦 東1局3本場

 

100

 

西家浜野の配牌。ついこの間まで半年間の三次試験を受けていた浜野と講師の私。とにかく浜野は仕掛けが多かった。今風といえばそれまでなのだが、連盟の公式ルールが今風のルールではない。このルールに慣れてきたら自分なりに色々アレンジしてもらって自分のスタイルを構築してもらえばよいのだが、最初は5,200点をベースに手を進行させていく訓練から始まる。にもかかわらず浜野はバラバラの手牌から1巡目に役牌をポン。「その仕掛けでアガれると思うの?相手は5,200点以上を目指してきてあなたは遠くに1,000点が見えるのみ。打点で遥かに劣り、スピードでも勝っていない。分が悪いとは思わない?」だいたいこんな会話から始まる。それが自分の知っている浜野という男であった。自分の予想では役牌以外からでも鳴ける牌は全て鳴くと思っていた。

 

100

 

「半年前の自分なら2巡目の六索にチーの声が出ていたと思います。でもこの王位戦は予選から自分なりに打点を意識して打つようにしていました。この局は自分が成長できたと実感出来る局です。今日は相手が強すぎて勝てませんでしたが、自画自賛出来る局でした。」と対局後に若者らしい爽やかな笑顔で語ってくれた。

 

100

 

このアガリが二ヶ月前に出来れば間違いなくD3リーグスタートとなっていたはずである。ほんの少し遠回りしたようだが、彼はようやくプロとして第一歩を踏み出したのだと思う。第44期王位。逃した魚は果てしなく大きいかもしれないが、彼はもっともっと大きなものを手に入れたように思えてならない。これからの活躍に期待したい。
南1局。この局と次の局が今決勝戦の全てだったような気がする。

 

100

 

この日、前原が親番で何度も見せた、いわゆる「ガラリー」。これに対してすぐ下家の菊田。

 

100

 

六万がフリテンだとしてもこの好形から三万を抜いてしまう。この局が一番好形から抜いた局なのだが、前原との戦いを極力避けていた印象である。今回の菊田は幸か不幸か序盤から調子が良すぎた。調子が良いのだから素直に戦えばいいのだがポイントを常にリードしているので親への放銃は避けたい。菊田ほどの打ち手ならそんなことは百も承知であろう。これがビッグタイトルの決勝の重圧である。だがこれはトッププロへの階段である。今活躍中のトッププロは誰しもが通った道である。自分も東北本部でプロ活動をスタートさせた人間として菊田の活躍を願っている。
南1局1本場。

 

100

 

前局1人テンパイの前原のリーチ。今回はドラが暗刻の本物のリーチ。この本物を効果的に織り混ぜることで前原の戦略は成立する。この本物といつもの「ガラリー」の区別は対局者には判断できない。いやもしかしたら見当をつけられる選手もいるのかもしれないが数多くの対戦経験がある私にもいまだに見当がつかない。

 

100

 

この前原のリーチに対して、先に仕掛けを入れていた菊田と浜野がオリを選択。この2人のオリを見て魚谷が前原の1人旅にはさせまいと前原からでた二万をポンしてテンパイをとる。牌姿を見て欲しい。二索五索は前原の現物待ちではない。打点は1,000点である。二万は魚谷の手牌で唯一の安全牌である。これをポンすることは「この局戦います!」と宣言するに近い行為だと思われる。

 

100

 

次巡の四万もブン!

 

100

 

前原の掴んだ五索を捕らえる。

前原の麻雀はとにかくアガリを積み重ねることにある。勢いがついてくれば先制リーチから、本物もガラリーも全てアガる。それが前原の麻雀である。前原にとって今決定戦は厳しい戦いであった。とにかく先制リーチまではいつもどおりいく。しかしアガリなりテンパイなりで、前原の手が開かれるのはガラリーの手牌のみ。「本物」を一度も対局者の目に焼き付けることが出来なかった。そこが前原のゲームプランを狂わせた最大の原因だったように思う。
逆に魚谷は戦った。もちろん戦うことが魚谷のスタイルだとは思うのだが、自分が勝つために一番の障害前原が不調ならそのままずっと沼の底に沈んでいてほしいと思うのは当たり前で、よみがえさせるきっかけは極力与えたくないと考えるのもいたって普通である。おそらく菊田のポジションで常にリードする展開でも彼女は戦う方を選ぶとは思うが、好調菊田を追う立場としては普通の作戦であったはずである。
だが、この2局の親の前原の先制リーチに対する魚谷と菊田の戦い方の違いが、最後の最後に僅かな点差ではあるが、勝者と敗者という大きな差となってしまったように思えてならない。

この2回戦は
菊田 +12,4P
浜野 +5.6P
前原 ▲6.7P
魚谷 ▲11,3P

菊田2連勝。魚谷は小さいながらもラス。
2回戦まで
菊田 +39,5P
浜野 ▲4,4P
魚谷 ▲6,9P
前原 ▲28,2P

3回戦
魚谷 +15.4P
浜野 +7,7P
前原 ▲5,3P
菊田 ▲17.8P

2回戦とは逆に魚谷トップ。菊田ラス。
3回戦まで
菊田 +21,7P
魚谷 +8,5P
浜野 +3,3P
前原 ▲33,5P

4回戦
魚谷 +32,1P
菊田 +14,1P
浜野 ▲9,3P
前原 ▲36,9P

激しくなった戦いを魚谷が制して2連勝。トータルもわずかにかわして最終戦へ。
4回戦まで
魚谷 +40,6P
菊田 +35,8P
浜野 ▲6,0P
前原 ▲70,4P

最終戦。東2局に菊田が浜野に12,000の放銃。この時点でトータルが菊田と浜野がほぼ並び、魚谷を追いかけるのが菊田から浜野に変わったか?という空気になっていた。たた魚谷からすればかなり楽なポイント状況になったのは確かである。
しかしここからの姿が本来の菊田の姿なのだと思う。東3局のドラタンキツモなど、南1局にはトータルで魚谷をかわしてしまう。
1本場で魚谷再逆転の後の南2局では、浜野が意地の2,600オールツモで、あと4,000オールで3人ほぼ並びのところまで迫る。
南3局で3度菊田逆転。南4局ではアガれば優勝の菊田が先にテンパイ。親の魚谷はまだ2シャンテンという大ピンチをしのいで流局。からの冒頭の3,900オールであった。

浜野は我慢強かった。あまり手が入っていない中、3者の殴り合いを冷静に見ながら失点を最小限に抑え、最後跳満ツモ条件を残した戦いはとてもプロ歴二ヶ月の男の者とは思えない。
菊田は清々しかった。もちろん自分が一番ツイていたのはわかっていただろう。試合が終わった直後に、はきはきとした喋り方で「力負けとしか言いようがないです。」と語ってくれた。東北チャンピオンとしてのぞんだ今決勝で悔しくないはずはないのにである。

明暗がはっきり別れた魚谷と前原。この2人はもはや自分には計り知れない舞台で戦っている。この2人の評価に関してはファンの皆さんがするべきものと自分は考える。ゆえに、ファンの皆さんにお任せして筆を置くことにする。

 

100