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王位戦 決勝観戦記

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第45期王位戦 決勝観戦記 藤崎 智

2019/12/30
執筆:藤崎 智


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11月24日王位戦の決勝が夏目坂スタジオにて行われた。最終5回戦でまさかの展開となった今年の決勝戦の熱戦をお伝えしたい。

1回戦 林+20.7P 森下+9.4P 小笠原▲12.2P 柴田▲17.9P
2回戦 柴田+14.5P 小笠原+7.7P 林▲6.9P 森下▲16.3P 供1.0P
3回戦 森下+46.3P 林+19.3P 柴田▲21.0P 小笠原▲30.2P
4回戦 森下+12.6P 柴田+3.8P 林+1.4P 小笠原▲17.8P

4回戦まで 
森下+52.0P 林+20.7P 柴田▲21.2P 小笠原▲52.5P 供1.0P

 

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小笠原奈央。日本プロ麻雀連盟所属の人気女流プロ。準決勝では、最終戦のオーラスに大逆転して4位で決勝に駒を進めてきた。映像対局ではおなじみのプロだが、タイトル戦決勝の大舞台は初めてとなる。昨年の魚谷侑未プロに続いて3人目の女流プロの王位獲得を目指す。

「とうとう夢の舞台まで!!やっぱり自分の事は信用できなくて不安ですが、ここまできて改めて皆さんの応援がすごく嬉しいです。だから自分の感じるままにやってみます!皆さんに良い報告がしたいです。ありがとうございます。」

私の小笠原の印象は、手数は少ないものの打点力と受け重視のメンゼン型でアガれば高いという印象である。

今決勝はとにかく手が入らない。私の目からはほぼノーチャンスの戦いにみえた。

4回戦南1局2本場供3(小笠原249、森下315、林303、柴田303)
ここまでアガリはわずかに3回、1,000点と800・1,600と2,900点のみ。リーチは6回あるものの、リーチのみとリーチ・ピンフのみ。小笠原らしい打点のあるテンパイは一度もない。しかも6回のリーチは全て空振りで勢いにも結びつかない。こんな状態。

 

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親番の小笠原の配牌。供託が3.000点ある状況で皆さんならどうします?ってほとんどの人は九筒切り九索切りの差はあれどダブリーといくだろう。しかし、冒頭のスコアをみてもらいたい。3回戦まで森下と76.5ポイント差。この4回戦もラス目に沈んでいる。残すゲームは半荘1回と半分。ツモアガるなり森下からの直撃がとれれば非常大きなアガリとなるが、そうでなければどうだろう?もちろん大きなアガリにはなるが、果たして残りゲームで届くのか?小考となった第一打はこんな事を考えていたはずである。小笠原はチンイツを目指す結論を出す。

 

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6巡目に親倍のテンパイを果たすも七筒はすでに切られておりペン四筒待ち。ヤミテンで全て押すものの、四筒が河に放たれることはなく林に捌かれる。

続く南2局でも

 

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字牌が1枚も切られていない自身の河で、生牌の中待ちではいかにも苦しく流局での1人テンパイまでが精一杯であった。こんな配牌やこんな手がもう少し早くきてくれていれば・・・。勝負の世界に「たられば」が無いのが原則なのはわかっていても、そう思わずにはいられない2局であった。

彼女にとって初めてのビックタイトルの決勝は、ほろ苦い思い出となってしまったが、今期の王位戦での活躍は大勢の彼女のファンには素晴らしい思い出として残ることだろう。

 
 
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林ひろたか。日本プロ麻雀協会所属。プロになって1年目の新人で29歳。関西予選にて国士無双の13面をアガるなど、ここまで抜群の安定感で勝ち上がってきた。

「プロになって1年目でこんな大舞台に立てる事を誇りに思います。頑張ります。」

とにかく爽やかな好青年。・・・麻雀とは全く関係ないのだがとにかく書いておきたかった。準決勝も1位通過で圧勝。最終戦では4人目の最後の決勝進出者を決める戦いに水をささないような気配りまでみせてくれた。もちろんビックタイトルの決勝は初めて。
私からみた彼の麻雀の印象は、とにかくバランスを意識した麻雀で、比較的鳴きは少ないようにみえる。

2回戦南2局

 

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14巡目の林の手牌。第一感は五筒。ドラ3枚は固定させる人が多そう。しかし林の選択は四筒。私には選択肢にすら入らなそう。

 

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次巡三筒を引いて巡目は遅いものの迷うこと無くリーチと行く。

 

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親の森下のテンパイ打牌をきっちり捉える。
また4回戦では

 

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森下と小笠原の仕掛けが入り、親の柴田さんにはヤミテンが入っている。こんな局面でも丁寧に受けながら

 

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テンパイを入れる。とにかくうまい麻雀をみせてくれた。

 

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森下剛任。日本プロ麻雀連盟中部本部所属。39期王位。6年ぶり2度目の王位を目指す。
昨年、2年前と連続で準決勝の最終戦で敗れており、今期は準決勝でのリベンジを達成しての決勝進出である。

「久しぶりの決勝です。がむしゃらに勝ちにいきます。」

とにかく彼の持ち味は攻め。準決勝では最終戦でうまく立ち回っての勝ち上がりも狙えたが、彼らしく果敢に攻め抜いて2位で勝ち上がり。今決勝でもとにかく攻めた。理屈ではなく「俺は攻めたいから攻める!」とそんな感じ。

2回戦南4局1本場供託1本。

 

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まだ2回戦。ツモアガリでもわずかに浮かない。しかも1回戦目トップの林が沈んでいてアガれば林と同点。ツモアガリなら林をかわす。林にアガられれば浮かれて最悪1人沈み。理屈なら即リーチだろう。

 

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「俺は浮きたいから崩す!」。「一般的な理屈など知らん!」。結果は小笠原の連荘。

4回戦南4局2本場供託2本。

 

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3回戦で持ち味の泥臭い攻めで大トップをものにして、トータルトップにたっての4回戦目のオーラス。林が2フーロでテンパイを入れている。アガれば浮き。三索で小笠原か柴田さんからアガれば2着。それ以外のアガリは全てトップとなる。アガリさえすれば最終戦はかなり有利に戦えるはず。そんな局面。ただもしかしたら自分がリーチする事によって、林のアガリ逃しが発生するかもしれない。そんな森下の感性が打たせたリーチであった。これもかなり泥臭いリーチではあるが、三索を切っている親の小笠原から追いかけリーチがきての林からの出アガリとなった。

5回戦(起家から林300、柴田300、小笠原300、森下300)

4回戦まで森下+52.0P、林+20.7P、柴田▲21.2P、小笠原▲52.5P 供託1本

森下圧倒的有利。林はだいたい森下を沈めて20,000点差をつければ優勝。と、まあ普通はそう考える。従って森下は自分が浮いて林の親を2回捌いてしまえば優勝と考えるハズである。

東1局。森下を追う林と柴田さんの仕掛け合い。軍配は柴田さんに上がり1,300・2600。林の東場の親番流れる。
東2局。親の柴田さん、小笠原から9,600。これで森下のラス遠のく。
東2局1本場。森下1,300・2600ツモ。これで森下圧倒的リード。

東4局2本場

 

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柴田さんが跳満確定のリーチ。

 

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放銃は林。跳満の1シャンテンまで育っていた、追う側の林には止める事はできなかった。
これでトータル2番手が入れ替わり柴田さんへ。しかし、柴田さんの条件は、森下と約60,000点の差をつける必要がある。森下圧倒的リード!優勝へのカウントダウン。

南1局1本場供1。まず1回目の山場。

 

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林意地の連荘で迎えた1本場。この林の親を流してしまえばほぼ優勝という状況の森下。2巡目の自身の捨牌の五万を頼りにリーチと行く。

 

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柴田秀昭さん。一般代表。関西を拠点に活動する選手。

「一時やめていた麻雀を7年前にまた始めたきっかけがこの王位戦でした。王位戦で使用される公式ルールが好きで、地元大阪の公式ルールのお店で年間600半荘くらい打っています。関西からの応援をたくさん頂いているので期待に応えたいです。」

本人もおっしゃっているのだが、麻雀はメンゼン派でスピードよりは打点重視のようにみえる。関西の予選を勝って、約4分の1勝ち上がりのA級予選を勝ち、72分の15勝ち上がりのA級決勝では国士無双をアガるなど、堂々のトップ通過、そして16分の4の勝ち上がりの準決勝を3位で勝ち上がってきた。
今決勝では初戦と2回戦目はいつも通りのメンゼン主体で闘って、どうも分が悪いと思えば3回戦以降少し仕掛けを増やして苦しい展開ながら粘っている。こういう対応力と柔軟性はさすがである。毎年のような話なのだが、決勝まで勝ち上がってくる一般参加選手は上手いのは当たり前で、しかも何か「持っている」というところが必ずある。この「持っている」というところが対戦相手のプロからすれば脅威になる。

 

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この時の柴田さん。実は5巡目に国士無双の1シャンテンになっており、一索九索共にまだ2枚ずつ残っている。国士無双をツモられる分にはまだほぼ並びですむが、もし直撃となれば一気に大逆転となってしまう。森下も柴田さんの手がここまで育っているとは思っていなっかったであろう。このリーチの瞬間対局場の外はざわめき出す。

 

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決着はすぐついた。絶対にオリの無い最後の親番の林がすぐに掴んだ。「攻めの森下」自力決着!これでマジック1となり、林、柴田さん2人の最後のチャンスを自ら摘んだ!森下完勝!と解説していた私は思っていたのだが・・・。

南2局。柴田さんの最後の親番。

 

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柴田さん2,000オール。

南2局1本場

 

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柴田さんがドラポンからの3,900オール。これで森下との差17.3ポイント。後4,000オールでほぼ並び。

南2局2本場。予想外の2度目のクライマックス。

 

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柴田さんドラ暗刻のリーチ。5巡目の五索がポイント。ツモアガリならほぼ並び。

 

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森下テンパイ。リーグ戦などであればほぼ打たない三索だが、ツモ番は後1回だがアガってしまえばほぼ優勝。もし一旦逆転されてもオーラスの親番は残っている。五索の切りが早くて3枚切れ。タイトル戦の決勝の最後の状況で基本的には四索五索五索の形からの五索の先切りなどはあまりないくらいの状況で、リーチのみの愚形の足止めリーチも多い場面。さて「攻めの森下」の選択は?

 

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打たず。見事なものである。もし打っていれば7.9ポイント逆転となっていた。
結果は柴田さん1人テンパイで流局。その差14.3ポイント。

南2局3本場は柴田さん、森下両者テンパイせず流局。

南3局4本場供託1本

 

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柴田さんの手牌。最後の親番の小笠原の先制リーチを受けてはいるものの、先程の国士無双に続いて、今度は大三元の1シャンテン。仕掛けているのは九万のポンなので小三元でも倍満。とにかく「すごい」しか言葉が見つからない。結果は小笠原の1人テンパイで流局。

南3局5本場供託2本
森下が小笠原に1,500は3,000の放銃でこの半荘3着に落ちてその差9.3ポイント。

南3局6本場。3度目のクライマックスで事実上この激闘に決着の局。決着をつけたのは森下か柴田さんか?

 

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森下がまずテンパイ。

 

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次巡、小笠原リーチ。

 

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同巡、森下無スジの七万。マンズの全てとソーズのほとんどが通っていない小笠原のリーチ。打点も全く見当もつかないだろう。まだ9巡目で先にリャンメンのテンパイを入れている森下。おそらく全て勝負であろう。覚悟を決める小考の後、七万を静かに河においた。

 

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森下剛任プロ2度目の王位獲得おめでとう!!!

 

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それにしても柴田さんは強かった。森下からすれば南4局最後1牌まで「ツモ。3,000・6,000!」と言われるような恐怖を感じていたはずである。「森下完勝」の雰囲気を粉砕する「人」では無い何かのような闘牌であったと思う。麻雀を離れれば人の良さそうな大阪のおじさんなのに・・・。

森下はというと麻雀は常に泥臭かった。しかし優勝を決めた瞬間の彼は誰よりも美しく、カッコよかった。

2年連続で王位戦の観戦記を書かせて頂いた。昨年に引き続き素晴らし対局だった。麻雀というゲームの素晴らしさをあらためて実感させてもらった。こころから選手たちに感謝したい。