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プロクイーン決定戦 決勝観戦記

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第12期プロクイーン決定戦観戦記~前編~ 黒木 真生

2015/01/22
執筆:黒木 真生


褐色の女戦士

アマゾネスとはギリシャ神話に登場する女戦士の部族で「弓を射る際にジャマ」という理由で左の乳房を切り落としていたというほど「戦闘」に特化したヤバいオンナたちのことである。
もちろんこれは神話なので、フィクションかあるいは随分と「盛った」話なのだろうが、かなりインパクトがあって、強い女性を表現するのに良いなぁと、以前から思っていた。

特に私は、プロ雀士のキャッチというかニックネームをつけるよう依頼されることが多いので「アマゾネス」は、いつか女性プロの誰かにつけたいなと思っていた。
だが、あまりこの言葉が似合う人が現れず、温存し続けていたのだが、2年前、やっと「アマゾネス」の引き取り手が現れた。

日焼けサロンで仕上げた褐色の肌、手足が長くて長身で、気の強そうな面構え。
まさに「アマゾネス」にピッタリだ。
和久津晶プロが「麻雀最強戦2012」に出場する際に、私は迷わず「アマゾネス」をつけさせてもらった。
ただ「麻雀アマゾネス」だけでは見てくれだけでつけたと思われそうだったので、あえて前に超攻撃型をつけて強調した。

現在ではこの通り名をご本人も気に入ってくれているようで、今回のインタビューの際には
「私が本当に戦士だとしたら、負けたら死ぬんです。でも私は死にたくないから絶対に勝つ。そういう気持ちでやっているし、負けた過去の自分は死んだと思って、新たな気持で戦いに臨んでいます」
とコメントをしてくれた。

この人、ちょっと喋らせただけでも凄いなーと思う。
口先だけで「戦士」とか「死ぬ」とか言ってもサムイだけなのだが、彼女が言うと迫力があるのだ。

たかがオンナの麻雀。
もしかしたら、世間一般から女性プロの麻雀はそんな風に見られているかもしれない。
だが、そんな先入観を蹴散らしてしまうほどの迫力が彼女の打ちざまにはある。

彼女が筋肉を隆起させるほど力を込めてツモり、バイオハザードマーク付きの超・ド危険牌をガツーン!と打ち付け、そして本当に当たる牌だけはピタリと止める戦闘シーンを見たら、誰も軽口を叩けなくなる。

だから彼女は、女性プロやプロ雀士そのものの存在を高めてくれるような凄い選手だと私は思っているのである。

和久津はそんな凄い人なのだが、ここ数年で優勝は1回だけ。
3年前のプロクイーンを獲得して以来、タイトル戦で勝てていない。

ただ、本当に惜しい「あと1牌」で優勝を逃した準優勝がいくつもあった。
前回のプロクイーン決勝、その後にあった女流桜花、マスターズもそうだった。
全部、試合を面白くするだけ面白くして、栄冠は他人に奪われてきた。

麻雀のゲーム性をご存知の皆さんには釈迦に説法かもしれないが、3年間で1回だけ決勝に残って1回優勝することよりも、3回準優勝で優勝はゼロという方が難しい。どちらの選手が強いかと言えば後者である。でも、麻雀の「プロ」としては前者が圧倒的にエラい。

和久津も当然それを身にしみて分かっているから、インタビューで「死ぬ」という物騒な表現を使ったのだろう。

 

立ちはだかる天才

だが、さすがに今回だけはアマゾネスもダメかと思った。
ダメというのは勝ち負けの話だけではなくて、良いところを見せることすらできずに試合が終わってしまうのではないかという心配があったのだ。

「天才すぎるオンナ雀士」茅森早香プロ(一般社団法人最高位戦日本プロ麻雀協会所属)が、あまりにも絶好調だったからである。

初日、茅森プロはトップ、2着、2着、トップで+110.6ポイント。
対する和久津は2番手で+43.2ポイント。
実はこのポイント差は大したことがないと思っていたのだが、2日目の戦いぶりに「天才」を感じたため、さすがの和久津も無理かなーと思ったのだ。

茅森プロは初日はどちらかといえば、ツイていた。
もちろん、ただツイていただけではなくて、天才がツイていたわけである。

ある程度のレベルのプロになれば、調子が良ければ必ず勝つ。
だから茅森プロは当然勝ったのだが、翌日、風向きが変わってからの戦いぶりを見て、やっぱりこの人は凄い打ち手だなーと感心したのだ。

実は彼女のキャッチを名づけたのも私である。
和久津と同じく「麻雀最強戦」出場に際して、実行委員長の金ポンこと金本晃さんから依頼されてつけた。あの、いつも「誰だ!」という挨拶をやる生真面目そうな東大卒の編集者である。

最初は金ポンも「えー! そんな簡単に天才とかつけていいんですか? 面倒くさいからテキトーにつけたんでしょ」とニヤニヤしながら言ってきたし、ニコ生のコメントでも「この人は誰?」とか「天才なわけない」「テキトーすぎるキャッチ」という反応ばかりだった。

だが、試合が始まってみれば「本当に天才?」とか「すげー」というコメントだらけになり、茅森プロは優勝。金ポンも「いやー黒木さんの目は確かでしたねー」と手のひらをクルーっと返してきた。

金ポンにはドヤ顔した私だったが、いったいどういうところが天才なのかというと、実はよくわかっていない。彼女はあまり喋ってくれないし、他団体の方ということもあって、全容はつかみきれていないというのが正直なところだ。

ただ、これまでに麻雀の質問や取材をさせていただいた中でいえば、基礎雀力がとてもしっかりしている上にめちゃめちゃカンが鋭いのだと思う。場況についても明確に読まれているし、手作りやゲーム回しなど、論理的な部分について確認すると「なるほど!」と思える答えが返ってくる。

ただ、普段は感覚派で無口な人なので、こちらが聞かないと教えてくれない。
前に「近代麻雀オリジナル」で私が連載していた「強者の一打」で取材した際は、実戦譜を見せて「相手のリーチは何待ち?」と聞いたら、少し嬉しそうな声のトーンになって「ちょっと待ってください。えーっとねぇ、これは…たぶん四筒七筒」と一点で当てたこともあった。
他に通っていないスジもあったし、一点読みができるわけはないと思ったのだが「なんでそう思ったんですか?」と聞いても「んー、何となく。でも、当たってるでしょ?」としか返ってこなかった。

こんな調子の人なので、何となく天才っぽく見えるのである。
また、卓から離れた時の茅森プロは終始脱力感にあふれていて、対局前のインタビューなどでも「ヤル気ゼロ」にしか見えない。本人は「ヤル気あります」と言うのだが、まったく覇気が感じられなくて、軍隊ならブン殴られるぞ、というぐらいの態度なのである。

だから5回戦終了時点で首位に立ち、最初に抜け番の選択権が与えられた時も迷わず「明日の最初」と答えた。つまり7回戦である。

翌日、少しでも長く寝てから来たいというのがその理由で、自分がいない会場でどんな戦いが行われているかということには、ほとんど興味がない。否、たぶん質問したら「興味なくはないけど、朝は眠いので」という感じなのだろう。

だが、彼女のこの「気負わなさ」が勝負に奏功し、天才性となって現れるのであろう。

二索四索五索六索六索七索七索八索白白  ポン南南南  ドラ白

2日目の茅森プロの最初の半荘、8回戦の東2局2本場6巡目。
親の宮内こずえがソーズを余らせずに満貫のテンパイ。即、茅森プロが三索をつかみこの手に飛び込んだ。

宮内の捨て牌はソーズのホンイツがミエミエであったが、2枚切れの東が出たばかりで、テンパイを警戒してベタオリするには早過ぎる。茅森プロも1シャンテンだったので、この放銃は仕方がないだろう。

また、南1局でも不運と言える放銃があった。
9巡目に親の和久津からリーチが入っている状況で10巡目にこの手牌。

二万二万四万五万四筒六筒六筒七筒八筒二索二索三索五索  ツモ四索  ドラ九筒

二万二索も無スジなのだが、茅森プロが選んだのは二万の方で、無事通過。実はどちらを切ってもリーチには当たらなかったのだが、次巡、当然もう1回二万を切ると宮内から「ロン」の声。
茅森プロがトイツ落としをしている間に宮内が二万五万待ちでテンパイしたのだ。
点数こそ3,900点で済んだが、あまりにも「間」の悪い放銃。指運が悪いとも言える。

この2つの放銃は仕方ないと言えば仕方ないのだが、彼女は「仕方ない」で終わらせず、その後の対処に活かすから天才じゃないかと思ってしまうのだ。

南3局、南家の茅森は8巡目に以下の手でヤミテンを選択。打牌は当然二索だ。

一筒二筒三筒四筒五筒六筒八筒九筒二索六索七索九索九索  ツモ五索  ドラ二筒

これはまぁセオリー通りと言えるのだが、10巡目に、宮内が以下の捨て牌でリーチをかけてきた。

八索 上向き南西白発四万 上向き八筒 上向き二筒 上向き一万 上向き発

この時点での点数状況は宮内がトップ目で47,300点持ち。茅森はわずか7,100点持ちのダンラス。
そして一発で六万をツモった茅森プロは、大人しく八筒を切った。

待ちはペン七筒と良くはないかもしれない。宮内がリーチをかけてきたので、他家からは出なくなった。しかし、親がオーラスに残っているとはいえ、リーチをかければ満貫になる手が目の前にある。相手はトップでこちらはラス。直撃できればオーラス逆転へ向けてはずみがつく。そもそもラスより下はないのだから、仮に悪い目が出たところで、大したダメージにはならないだろう。

そうやって肯定的な材料を用意して、六万を切ってリーチをかける人も多いと思うが、茅森プロはアッサリと諦めることができる。いわゆる勇気ある撤退ができる打ち手なのだ。

これが正しい選択かどうか、私には判断ができないが、結果的にはこれが正解だった。

一索二索三索五索六索七索五筒五筒七筒七筒七筒東東

宮内のリーチはこの手で、茅森プロのペン七筒はすでに純カラ。
また、リーチの2巡後、茅森プロは高目の東をつかんでいた。
もしヤミテンだったとしても、六万を勝負していたらこの東は止まらなかっただろう。

結果は、それでも安目の五筒ツモアガリで2,600点オールと宮内の好調ぶりが目立つアガリとなったが、私はこの茅森プロの我慢強さに驚かされた。

流れ論者のベテラン男性プロなら、こういった芸当も平気でやりそうなのだが、女性プロでこういった打ち回しができる人は少ないと思う。

対局から約1ヶ月後、茅森プロに訪ねてみたら「覚えてないです」と言われてしまったが、根気よくそれまでの試合展開を説明すると「ああ、まず宮内さんに向かっていく必要があまりなかったから」という言葉がもらえた。追い上げてきている宮内ではあるが、ポイント差を考えればまだ圏外。直撃さえ避けていれば問題はない。

対抗すべき相手は和久津であるから、先ほどの一通、和久津からのリーチなら押したのだろうか。
「いや、誰が相手でも待ちが悪ければ行かないです。それたぶん、待ち悪かったんですよね」
ペンチャン待ちだったから、という理由ではない。
場の状況的に七筒が苦しかったという判断があったのだ。

「私、待ちが悪かったらほとんどリーチしないんです。リャンメンでも厳しいと思ったら掛けません」

見ているこちらは、それまでの試合展開を考えてのヤミテンとオリの判断かと思ったが、茅森プロ本人の理由はいたって平面的なものであった。

こうやって聞いてしまうとあまり面白くない理由なのだが、私が関心するのは、あの舞台で、あの雰囲気の中でそうやって冷静に判断できることである。自分で決めたルールを貫き通すことができる鉄のメンタルがあるからこそ「天才」と呼ばれるのだと思う。

8回戦が終わって、和久津と茅森プロのポイント差は倍満1回分以内にまで縮まった。

勢いを考えたら和久津の逆転が予想されそうなのだが、9回戦は和久津が抜け番。
そこで茅森はキッチリ浮きをキープし、10回戦にはトップをとって、再度2位以下を引き離した。

やっぱり「天才すぎるオンナ雀士」は強すぎるのではないかと思ったのである。

(後編に続く)