文字サイズを小さくする 文字サイズを元に戻す 文字サイズを大きくする

特別昇級リーグ 決勝観戦記

一覧

第19期特別昇級リーグ 決勝レポート 東谷 達矢

2016/02/16
執筆:東谷 達矢


日本プロ麻雀連盟が誇る最高峰の戦い、鳳凰位決定戦が行われている最中、いつの日かその舞台で戦うことを夢見て4名の決勝進出者が座席に着いた。
特別昇級リーグ(※以下特昇リーグ)は、プロリーグまたはタイトル戦成績優秀者に参加資格があり、全8節の合計ポイントで優勝を争う。7節目までの上位4名だけが、最終節となる8節目の決勝で戦う権利を持つ。

7節目終了時点でのトータルポイント
中村慎吾 +199.9P
斉藤豪 +179.0P
一井慎也 +163.6P
吉野敦志 +31.5P

上位3名は半荘1回で順位が変わる点差だが、4位吉野はかなり苦しい。連盟Aルールの1半荘でのポイント変動は、素点に大きく左右される為、この決勝4回戦を全て1人浮きのトップで終えたとしても優勝できる保証はない。唯一の救いは、上位3人が競っている為、吉野が先手を取った時に3人が向かってこない可能性が高いことだろうか。うまくプレッシャーを掛けていきたいところだ。
さあ、果たしてこの中の誰が来期B2リーグへの切符を手にするのだろうか。

 

1回戦(起家から一井、中村、吉野、斉藤)

誰もが主導権を取りたいと思っているであろう。最初にリーチと発生したのは親の一井だった。

一万二万三万六万七万一索二索三索五索六索七索三筒三筒  リーチ  ドラ二筒

一発裏ドラの無いAルールにおいて、このようなピンフのみの手でリーチを掛けるか否かはしばしば議論になることがある。メリットとして、打点がわずかながら上昇すること、相手の手牌進行を遅らせ、場合によってはオロすことができるということが挙げられるが、一方でリーチを掛けていなければ出アガリできていたであろう牌が出てこなくなったり、手の入った者から押し返された際のリスクが高い等のデメリットもある。決して、リーチを掛けることが悪いというわけではない。点数の状況や場況、相手の心理状況等を総合的に勘案して、そこに意義を見出すことができるかが重要となる。
この一井のリーチは功を奏した。狙い通り、中村、吉野は早々にオリ、前に出てきた斉藤から2,900をアガリ、本人としてもほっと胸を撫で下ろしたことだろう。

一井は17期生である。17期生のプレイヤーを挙げれば、鳳凰位前田を筆頭に、リーグ戦や各タイトル戦で活躍している猛者揃いである。今もっとも勢いに乗っている世代だといっても過言ではないだろう。一井も前年度十段戦でベスト8まで進んだことは記憶に新しい。また、今期リーグ戦でも既に自力でB2昇級を決めている。だが、それでも同期の活躍を目の当たりにしては満足のいく成果をあげたとは言えないだろう。渇望しているのはタイトル戦優勝の座。この、特昇リーグでも簡単に後輩に負けるわけにはいかない、そう思っているはずだ。
1本場、その一井が更なる攻勢に出る。

一万一万二索三索四索一筒一筒六筒七筒八筒  加カン白白白白  ドラ一万

テンパイ打牌となった二万に他家の視線が一斉に注がれた。というのも、一井はこの数巡前に四万を手出ししているのだ。全員がこの瞬間に、一井が一万をトイツ以上で持っていることを確信しただろう。
更に、この時下家に座っている中村の手牌はこうだった。

一万三万七万七万八万一索一索七索八索九索七筒八筒九筒

一井の放った二万を鳴き七万を切れば、片アガリだが7,700のテンパイである。一井のテンパイ気配を感じ、打点も決して悪くなく、余剰牌も比較的安全。鳴くには十分すぎるほどの材料が揃っているが、この時中村は二万を鳴くことを良しとはしなかった。
急所はここではないと思っているのだ。鳴いて形を他家に悟られるよりも、先に九万を入れてのカン二万待ちに魅力がある、対局後に中村はそう語っていた。
中村は、先日V7という対局で7回連続勝ち上がりを達成したことで話題となった。第23期チャンピオンズリーグの覇者でもあり、勝負強さは抜群である。メリハリのある攻守の切り替えが持ち味で、突出した武器はなくとも総合的な実力では若手の中では頭ひとつ抜きんでている。
中村の読み通り、山に眠っていた二万をすぐに引き入れ、自力でテンパイを果たしたが、九万が場に出ることはなく流局となった。

東1局2本場、局面は動いた。ファーストテンパイを入れたのは斉藤。

三万三万五万五万五万七万八万九万七筒八筒九筒東東  リーチ  ドラ八筒

未だ5巡目。東でアガることができれば打点としては申し分ないだけに、斉藤の手に力が入る。だが、他家も楽はさせてくれない。

10巡目、親の一井

一万二万三万四索五索一筒一筒一筒三筒五筒六筒八筒八筒

ドラ2枚持ちの1シャンテンである。オリるつもりはないとばかりに、生牌の白をノータイムでツモ切る。これに反応したのは吉野。

一索一索七索八索九索中中  ポン白白白  ポン南南南

こうなっては吉野もオリるはずがない。誰がチャンス手をものにするのか、3者の摸打に一層緊張感が強まった。
決着が着いたのは2巡後。一際高くツモの声を発したのは、吉野だった。一索を手元に置き2,000・4,000。
斉藤は表情にこそ出さなかったものの、肩が静かに落ちた。放銃という最悪の結果にはならなかったが、中村との差を縮めるチャンスをひとつ失ったのだ。それは一井も同様だった。
そんな2人に東2局、親の中村が追いうちをかける。

三索三索五筒六筒七筒東東  ポン白白白  ポン発発発  ドラ五索  ツモ東

この4,000オールだ。

落胆する暇もない。1本場10巡目、親の中村の口からリーチと声が出た。
一井、斉藤共に戦える手牌ではない。これ以上中村の独走を許すわけにはいかない。そう思ってはいても、2人にはオリて耐えることしかできなかった。
そして、中村からリーチの声が掛かるまではマンズのホンイツを狙っていた吉野は、ドラを引きこの形、

三万四万五万六万六万八万九万二索発発  ポン白白白  ドラ二索

唯一戦えそうな吉野だが、果たして発が鳴けたらドラを切り勝負するのだろうか。ただ、このドラの二索は中村の待ち牌なのだ。

二万三万四万一索三索五索五索七索八索九索二筒三筒四筒

中村がリーチ前に少考したのは、このリーチにはリスクがあるからだ。他家をオロしてツモることができれば2,000オールだが、如何せんドラのカンチャン待ちでは出アガりは期待できない上、押し返された時に弱い。ただ、吉野がマンズで染めているのならドラも出るだろう、そう思いリーチに踏み切ったのだ。

確かに注文通り、吉野はドラを引いた。だが、これが誤算だった。吉野はこの後、なんとドラを2枚引き暗刻となりテンパイ。

三万四万五万六万六万二索二索二索発発  ポン白白白  ドラ二索

こうなっては中村に勝ち目はない。発を掴み満貫の放銃となった。
リスクは承知で抑えこみにいってのリーチなのだから悪いとは言い切れない。しかし、対局後本人が悔いていたように、やはりこのリーチは不要であっただろう。これは全員が優勝を狙う決勝戦なのだから。

東3局 前局放銃という結果になったが、中村の勢いが落ちない。

三万四万五万六万七万八万五索五索六索八索六筒七筒八筒  ドラ南

5巡目にしてこのテンパイである。当然のようにヤミテンに構える。更に次巡五索をツモると、三色はなくなるが好形でリーチを打った。

三万四万五万六万七万八万五索五索五索六索六筒七筒八筒  リーチ

これに飛び込んだのが斉藤。斉藤は中村の1期後輩の28期生である。リーグ戦やタイトル戦では突出した結果こそ出ていないものの、平均的にかなりの好成績をキープしている。だからこそ斉藤はこの決勝で勝ちたいはずだ。斉藤の安定力はリーグ戦でこそ真価を発揮する。麻雀に対する強い熱情も持っている斉藤は、早く上のリーグで戦いたい、そう思っているはずだ。
※尚、斉藤は決勝メンバーの中で唯一準優勝や3位でも意味を持つ(準優勝ならC1リーグ、3位ならC2リーグへ特別昇級)。

ただ、この放銃を見る限り、その勝ちへの執着が少し焦りを生んでいるのかもしれない。

一方、中村は、放銃直後のアガリで気分が悪かろうはずがない。2着だが、一井、斉藤が原点から大きく沈んでいる為、このままこの半荘が終わればかなり大きなアドバンテージを得ることになる。
そんな中村に待ったを掛けたのが吉野だった。

南2局

二万三万四万五万六万七万九万九万九万東東白白  ドラ一索  ツモ東 2,000・4,000

南3局

二万三万四万五万六万一索二索三索三筒三筒四筒五筒六筒  ドラ南  ツモ四万 700オール

南3局1本場

六万六万八万八万二索四索四索八索八索七筒七筒発発  ドラ三筒  ロン二索 2,400(+300)

この3連続アガリで、持ち点は一気に60,000点を越えた。その後は一井と斉藤もアガリ、中村の独走に歯止めを掛けた。

1回戦結果
吉野:+36.5P 一井:▲6.2P 中村:▲8.6P 斉藤:▲21.7P

トータルポイント
中村:+191.3P 一井:+157.4P 斉藤:+157.3P 吉野:+68.0P

 

2回戦(起家から吉野、一井、斉藤、中村)

1回戦で大きなトップを取った吉野は上位3人と50ポイント前後の点差を縮めたことになる。つまり、単純に考えれば同じことをあと3回やれば優勝できることになる。
吉野はリーグ戦がマイナス成績だったことで残念ながら特昇権利はない。モチベーションを高く持つのは大変だが、吉野はプロ意識が高い為、緩むことはないだろう。それに、このままライバル視する中村を簡単にB2に送り出すわけにもいくまい。もしここで逆転優勝を叶えることができれば、大きな自信がつき今後の対局に間違いなく活きるはずだ。

東1局

どうしても連荘したい吉野の配牌は

三万四万七万九万一索二索九索三筒六筒西西北白白  ドラ二筒

うまく寄れば高打点にもなり得る、悪くない配牌だ。吉野はここから打六筒とした。そしてその後出た白をスルー。
落ち着いているが、ここは上家の中村にプレッシャーを掛ける為に鳴く手もあったか。ここは雀風によるところだろう。
だが、この手が中々思うように寄らない。そして、斉藤は6巡目にテンパイ。

三万四万五万七万七万二索三索四索七索八索三筒四筒五筒

ドラ引き、又は五索を引いて三色が確定したらリーチといく腹だろう。無論、その間アガリ牌が場にこぼれればアガるはずだ。
ただ、この六索九索がなかなか顔を出さない。そして13巡目、誰もがいやがる中村のリーチが飛んできた。

四万五万五索六索七索七索八索九索二筒二筒二筒八筒八筒  リーチ

ドラが暗刻の強烈なリーチ。斉藤もトータルトップ目の中村がリーチを掛けてきているのだから、役なし良形、又は高打点のどちらか一方は当てはまるであろうことを想定しているはずだ。
だが、斉藤にとってはここでオリる理由がない。当然ヤミのまま押し続ける。
それを見た一井、吉野もここは斉藤を応援していたはずだ。
だが、ツモの発生は中村だった。

四万五万五索六索七索七索八索九索二筒二筒二筒八筒八筒   リーチ  ツモ六万 2,000・3,900

またもや先行する中村を追うことになってしまった3人。だが、中村に安心できるほどのリードを与えたわけでもない。東2局、斉藤はテンパイすると、即座にリーチと打ってでた。

六万七万八万一索二索三索四索五索六索七筒七筒南南  リーチ  ドラ九索

リーグ戦ならおそらくリーチは掛けないだろう。理由は冒頭のピンフのみでリーチを掛けるか否かで述べた通りだ。このリーチの打点は1,300~4,000で、押し返された時のリスクを考えると得られるリターンが大きいとは思えない。もし七筒を拾える自信があれば話はまた変わるのだが、本局に限ってはそういった情報も河にはない。
斉藤の狙いは中村の足止めで、出アガリは期待していないということであろう。
ただ、代わりに前に出たのは親の一井だった。

三万四万五万七索八索九索四筒五筒九筒九筒東東東  ツモ六筒

一井は12巡目にこの3,900オールを決め、中村を追う1番手に浮上した。斉藤としても、放銃にならずに中村の点数が削られたことを考えれば、悲観するほど悪い結果だったとは思っていないはずだ。

そして次局、いよいよ中村に勝負所がやってきた。

東2局1本場 西家中村の3巡目手牌

一万二万三万七万八万九万二索三索四索二筒四筒白白  ドラ四索

役なしカンチャンのテンパイである。1回戦親番の時とは形が似ているようで違う。雀頭が翻牌であることも大きく、ここはヤミテンに構える。
そして、親の一井が12巡目に追いつく。

一万一万四万五万六万六索七索八索四筒五筒中中中  リーチ  ドラ四索

こうなると、中村としても勝負にいきづらい所だが、この瞬間に中村の手元に四万が来た。一万を切れば確定三色となり、役あり5,200ならば危険牌を押す価値もある。
もし中村が追う側ならほとんどオリることはないだろう。しかし、リードする側は押し引きに選択の余地がある。有利である反面、選択を間違い敗因を作ることもあり得る。
そして、導かれるように次巡中村の手に完全無筋の七索がきた。

ドラ筋だからといって、放銃した時の打点が安いとは限らない。複合形でドラを使われている場合には7,700~12,000は覚悟しなければならない。
中村が長考に沈んだ。高打点の放銃をすればトータルポイントで逆転してしまう。一井の河は何度見ても、待ちを推測するだけの十分な情報は落ちていない。押すか引くか、ただそれだけのことだが、その選択が終局までの運命を決めてしまうことも麻雀には往々にしてあるのだ。

そして中村が意を決して河に牌を放った。その牌は七索。通った。
そのごほうびだろうか。次巡、中村の手に三筒が舞い降りた。

南1局 まだ2半荘目だが、吉野にとってはラストチャンスだろう。この親番を簡単に落としてしまえば優勝は非現実的なものとなってしまう。

四万六万三索四索二筒三筒四筒六筒六筒六筒八筒南中  ドラ六索

吉野は5巡目、この形から五万をチーした。確かにドラは無く、連荘しなければならないという点を考えれば鳴く気持ちもわかる。鳴けばアガれる可能性は非常に高いだろう。ただ、マンズが変化すれば234の三色も狙えるだけに、この形から鳴くのは若干もったいないようにも感じる。
ただそれはあくまで外から見たものの意見だ。この鳴きは、このまま終われないという吉野の意地がそうさせたのだ。
この後、吉野は3本場まで粘るが、原点を下回ったまま親権を落としてしまう。

2回戦結果
中村:+24.3P 一井:+5.4P 斉藤:▲12.0P 吉野:▲17.7P

トータルポイント
中村:+215.6P 一井:+162.8P 斉藤:+145.3P 吉野:+50.3P

 

3回戦(起家から斉藤、中村、一井、吉野)

東1局 斉藤が優勝する為には自身が浮き、中村を原点以下に抑えるのが必須。その上で可能な限り点差を広げたい。そんな斉藤にチャンス手が入った。

三万四万五万二索三索四索七索八索二筒二筒四筒五筒六筒  リーチ  ドラ三万

7巡目のリーチで、高めの六索をツモれば3,900オールだ。そうなれば反撃の狼煙としては十分である。中村はテンパイが入っていない限りは押してこないだろう。悠々とツモればいい。
しかし、ここで斉藤に立ちはだかったのは中村ではなく一井だった。

三万四万五万一索一索五索六索六索六索七索中中中  ロン一索

斉藤から3,200の出アガリである。一井にとってはアガるのが自然だ。もしこれを見逃したとして良い結果を生むことはほとんどないだろう。ただ、このアガリで一井以上に喜んだのが中村である。

東2局 一井が早々に切ったドラの発を斉藤が鳴いた。

四万五万六万三索三索七索八索八索九索九索  ポン発発発  ドラ発

これを見た瞬間、中村はすぐに撤退する。中村が親の為、斉藤がツモることができれば親被りをさせることができる。だが、一井の河にこぼれた七索を斉藤は掬った。
本局に関してもアガるのが自然だ。斉藤はもちろん優勝を最後まで狙うが、最終的に優勝が非現実味を帯びた場合準優勝狙いにシフトする為、斉藤にとっては一井も浮上させるわけにはいかないのだ。ただ、この局も中村の失点はゼロである。

そして南2局、決定打が出た。

三万四万五万六万七万八万二筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒  ツモ五筒  ドラ八索

中村のこの2,600オールで大勢は決した。

3回戦結果
中村:+22.5P 吉野:+5.9P 斉藤:▲4.6P 一井:▲23.8P

トータルポイント
中村:+238.1P 斉藤:+140.7P 一井:+139.0P 吉野:+56.2P

4回戦結果
中村:+22.6P 斉藤:+7.5P 一井:▲8.7P 吉野:▲22.4P

トータルポイント
中村:+260.7P 斉藤:+148.2P 一井:+130.3P 吉野:+33.8P

こうして特昇リーグの決勝の幕が下りた。
トータルポイントだけみればかなりの開きがあるが、2回戦での結果如何では最終結果はまったく別のものとなっていたかもしれない。
ただ、この日の中村は押し引きの精度が非常に高く、優勝者にふさわしい戦い方を実践していたと言えるであろう。

これで来期B2リーグで戦うことになった中村、「1期で降級しないようにがんばります」とは言っていたが、おそらく昇級戦線に食い込んでくるはずだ。
今回敗れた一井も、リーグ戦昇級により来期B2で戦える為、次は中村にリベンジをすべく調整してくるだろう。
斉藤は4回戦で一井に競り勝ちC1昇級の権利を手にした。吉野は残念であったが、地力はあるので本場所のリーグ戦で来期は奮起するだろう。

さて、この特別昇級リーグだが、以前存続が危ぶまれたことがあった。それはリーグ参加者のレベル低下を懸念してのものだ。
”いや、そんなことはない、特別昇級リーグ参加者の中には有望な若手がいる”と声を大にして言う為には、特昇権利を勝ち取ったものが技術向上への意欲を持ち続け研鑽し、また公式戦で結果を出さなければならない。

今回決勝に残ったものはそれができるはずだ。そして来期以降登場する特昇リーグ参加者もそうあってほしい。

”いつかこのリーグ出身者から鳳凰位が誕生することを願って”