プロ雀士コラム

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戦術の系譜7 西川 淳

2020/05/29
執筆:執筆:西川 淳
イラスト:千葉 みほ


はじめに。
深淵なる麻雀の世界のことを私はまだまだよくわかっておりません。偽らざる本心です。
正解が果たして何なのか、真理は何か。今でも探求するつもりで麻雀と向き合っています。

とはいえ、今年鳳凰位決定戦を戦った立場。
何かをお伝えすることができるかもしれません。
ここに至るまで、私が考え、整理してきたことを私なりの言葉でお伝えしていきたいと思います。
平易な内容にしたいと考える一方で抽象的なことも多く書くつもりですが、たまには毛色の違うものを試すつもりで読んでいただければ幸いです。

 

第1章

【① あの山を登りきるには】

 

麻雀はアガリへの道標として「シャンテン数」という概念がよく利用されます。

あと1枚有効な牌が来るとテンパイする状態を1シャンテン
あと2枚有効な牌が来るとテンパイする状態を2シャンテン
あと3枚有効な牌が来るとテンパイする状態を3シャンテン
と、最大で6シャンテンまであります。

3シャンテン2シャンテン1シャンテンテンパイアガリとシャンテン数を上げてアガリに近づいていきます。

しかしその道のりは均一ではありません。
[3シャンテン⇒2シャンテン]の道のりと[2シャンテン⇒1シャンテン]の道のりは険しさが違います。

例をみて確認してみましょう。

下の図は[3シャンテン]の牌姿です。

二万二万五万五万六万一索三索六索八索三筒五筒西北

シャンテン数を上げる「有効な牌」の種類は二万四万五万七万二索七索四筒7種類で24枚あります。

そこに有効な牌の四万を持ってきたとしましょう。
シャンテン数は上がり(アガリ形に一歩近づき)[2シャンテン]となります。

二万二万四万五万五万六万一索三索六索八索三筒五筒西

シャンテン数を上げる「有効な牌」の種類は二索七索四筒3種類で12枚になりました。

有効牌が半減している=シャンテン数を上げにくくなっているのですね。

つまり[3シャンテン⇒2シャンテン]より[2シャンテン⇒1シャンテン]のほうが困難な道のり、ということです。
[1シャンテン⇒テンパイ]は更に更に険しく、累進的に道のりはキツくなっていきます。
※もちろんこれはひとつの例であり、牌の組み合わせによってその度合いは変化しますし、細かい条件の話は多々あります。

ただ原則として、シャンテン数が上がる(アガリ形に近づく)と、道のりはより険しくなるということは間違いないと考えられます。

このアガリまでの道程の構図は、あたかも登山のようだな、と私は常々感じています。
頂に近づくほど、傾斜が厳しくなり、山頂付近が「胸突き八丁=物事を成し遂げる過程で一番苦しい正念場」。
全ての行程の中で最も苦しく難しい局面となります。

「そんなことはわかりきっている。常識として知っているよ。」と思われた方もいるかもしれません。
確かに、単純なことで、初心者教室で教わる内容と大差ありません。そしておそらく真理にかなり近いことだとおもわれます。

しかし、私たちは本当にこの真理に沿った打牌、選択を常にしているのでしょうか?
登りたい山の頂をしっかりと踏みしめるために適切なアプローチをしているのでしょうか。

ベテランの方こそ、もう一度振り返っていただきたいことなのです。
この連載の中で常に根幹となる要素ですので最重要事項としてはじめに記しました。

 

 

【② 麻雀はBINGOゲームだ】

 

アガリが近くなるほど、道のりは険しくなる。
このことは、往々にして初心者にとっては不思議に感じる現象を起こします。

・抜群の好配牌をもらい早々に1シャンテンになった人が最後までテンパイできない。
・一番乗りでテンパイした人が、配牌がボロボロだった人に先にアガられる。

実際の牌姿をみて、検討しましょう。
(A、 B共に配牌)

A:四万四万六万八万三索四索五索六索七索八索五筒六筒八筒

B:二万二万六万一索四索七索三筒七筒東西北白発

Aは配牌にして1シャンテン。
Bの配牌は5シャンテンです。

誰が見てもAのほうが好配牌です。
アガリやすいのも、もちろんAのほうです。
ところが、少なくない確率でBのほうが先にアガることがあります。
経験豊富な人は、それをカラダで理解しているため、Aの配牌でもアガれるかどうかは微妙だと感じるし、Bの配牌でも決してあきらめたりはしません。

それはなぜなのでしょうか?

[1シャンテン⇒テンパイ][テンパイ⇒アガリ]は道のりが険しくなかなか進めないことがあるため、その間に逆転されることがあるからです。

逆に言えば、[5シャンテン⇒2シャンテン]くらいまでは、すいすい進むことが多いのです。ほとんどの牌が有効牌、となりますからね。

この現象は、麻雀を知らない人に伝えるとき、BINGOゲームに喩えるとわかりやすいことがあります。
BINGOは、パーティーのイベントなどでよく楽しまれるポピュラーなゲームです。
主に「5×5マス」のカードに抽選した番号のマスを空けていき、一列に揃ったら「BINGO」となり景品がもらえる、といった仕組みです。
あと1マス空いたら「BINGO」の人は「リーチ!」と手をあげ、参加者の前に進み出て注目されますが、その人が無事景品をゲットすることは思いのほか少ないですよね?
麻雀と同じで、最後の1マスを埋めることこそが、一番確率が低くて困難だからです。

 

100

 

時々、こんな愚痴を聞くことがないでしょうか。

「配牌からこんな形の1シャンテンだったんだけど、最後までテンパイさえしないんだ!ありえないよ!」

三万四万五万六万七万三索四索五索二筒二筒四筒五筒五筒

たしかにツモ運はかなり悪かったと思いますが、確率的にそれほど珍しいことではなく2%弱くらいの割合でおこることなのです。
※少々乱暴な計算方法で実際の数値と少し違いますが計算してみましょう。
有効牌が7種類で、麻雀牌の種類が34種類ですから、有効な牌を1巡の間に引ける確率はざっくり34分の7しかありません。
流局までの18巡で有効牌を引けないことは、
(27/34)^18≒0.016=1.6%、となります。
これは「稀にみかける」程度の運の悪さ、です。
有効牌を10巡の間ひけないのは10%くらいあり、5巡の間ひけないことにいたっては3割程度もあります。
それ程に「テンパイすること」は難しく、有難いことなんですよね。

それなのに、上の牌姿で、12巡目に五万をチーすることを「もったいなすぎて論外だ」と糾弾するかたもいます。
上記の真理から鑑みれば、これらの考えや発言は、麻雀の本質から離れたものではないか、と私はみています。

 

 

【③ 山登りのコツ】

 

それでは、麻雀は、山頂に登るための険しい「胸突き八丁」を、「運よく」登れた人が勝つ単なる運ゲームなのか?というと私は違うと考えています。
なぜなら、険しい坂道を登るためのコツや技術が、登頂の成否に大きく影響すると考えているからです。

みなさんが、シャンテン数を上げるために、「達成確率を上げる魔法をどこかで1回だけ使って良い」と言われたら、何シャンテンのときに使用するでしょうか?
やはり、5シャンテンの時には使わず、一番達成が困難な1シャンテンやテンパイの時こそ使いますよね?
BINGOゲームなら、最後の1マスを空けるときにこそ、確率を上げる魔法を使うべきです。

ところが、麻雀では、魔法を使わなくても、技術や視野の広さでそれを成し得るのです。

具体的にはどういうことか。
幾つか例を挙げましょう。

例えば、
・テンパイしたときに待ちがリャンメン以上など良い待ちにする技術。
ペンチャン待ちに比べれば、最後の急坂を登りきる確率は格段にあがります。

例えば、
・テンパイしたときに、他から出てきやすい色の待ちにする読みの技術
・ヤミテンにしたらアガリやすいと判断できる技術
などなど。

これらは、登山ならば、山頂手前の崖に、道具を用意して登りきることに似ています。
それらは、経験や技術によって、事前に準備することができるのです。
逆に言えば、テンパイ時に慌てて用意できるものではありません。
事前に、3シャンテンや2シャンテンのときから先を見据えて備えておく必要があるのです。

また、コースが2つあったとしたら、どちらが登りやすいか見抜く眼力があるとも言えます。
つまり、南斜面と北斜面でどちらが登りやすいかを麓から千里眼で見抜き、地図を読み取り、計画的に踏破する力があるということです。

下の図の2つの山は、どちらが登りやすいと思いますか?
Bのほうが距離は長いし標高も高いのに、登れそうな気がしませんか?

 

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登山の達人は、ペース配分を間違えません。
最初からハイペースで飛ばして、最後の苦しいところでパワーが残っていない、といった失態はさらしません。
少し回り道をしても、結果的に登頂をしやすいルートを着実に選び取ります。

登山の目的を登頂とするならば、麻雀の目的は「1シャンテン」や「テンパイ」ではなく、「アガリ」でしょう。

・3シャンテンの時に、ポンやチーをしてテンパイまでを急ぐあまり、実はアガリから遠ざかってはいないでしょうか?
・手狭な手組にしたり安全牌を抱え込み過ぎて、アガリが遠くなってはいないでしょうか?

この機会にご自身のフォームで思い当たるフシがないか見直してみませんか?

 

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最後に私の実践譜(鳳凰位戦A1リーグ第6節)からです。
これはプロ連盟の何切る問題にも取り上げられました。

実践譜(鳳凰位戦A1リーグ第6節)

現在1シャンテンですが、ここで六万を切って2シャンテンに戻しました。
「そのほうが最後の『胸突き八丁』を登りやすいから!」と判断したからです。
1シャンテンを維持する七索切は、「テンパイまで」と「アガリまで」の坂がキツすぎると考えます。
時にはゆったりとあせらずに構えることが、実は近道となり有効であると考えています。

 

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今回お伝えしたかったことは、2点です。
麻雀は、シャンテン数が上がるほど、その先に進むのが難しくなる。1シャンテンやテンパイが最大の急所で力の使いどころ!
そして、その急所を乗り越えるためのコツは、実は序盤~中盤にあり、そこでの工夫や読みがものをいう!
これは、シンプルな話ですが、初心者~上級者まで本質的に重要なことで、常に合致しているかチェックしておきたいことだと思います。

次回は、このことを踏まえて、しかし全く違う方向性のことを書くつもりです。