鳳凰の部屋

鳳凰の部屋/~振り返りと決意~ 藤崎 智

決定戦の2日目も好調のまま終える。
藤崎+98.4P
沢崎▲12.6P
瀬戸熊▲20.6P
伊藤▲65.2P
トータルでこうなっていた。
半分の2日間、半荘8回戦を残しているのでまだまだわからないが、それでも圧倒的に有利なポイントであることは間違いない。
自己評価で少し辛めに見ても、優勝確率80パーセントくらいはあるだろう。
それなら藤崎に対して甘い評価をしてくれる身近な人達ならどうだろう。
おそらく95パーセントを超える状況なのだろう。
「藤崎さん優勝おめでとう。」「祝勝会いつにします?」「いやー俺も嬉しいよ。」等々。
日頃からお世話になっている人達である。
自分の事のように喜んでいる姿を見ていると「まだ負けるかもしれませんよ。」とはなかなか言い出せない。
とにかく2日目から3日目までの1週間は「負けたらどうしよう」という不安との戦いであった。
プロになって、17年間経験したことのないプレッシャーを感じた長い長い1週間だった。
タイトル戦の経験だけは豊富な私でもこれである。
つい数週間前に、初タイトル(第8期女流桜花)でこれを体験したはずの吾妻プロは偉いなと心底思う。
先輩である私がプレッシャーに負けるわけにもいかず、いつも以上に笑顔で過ごした1週間であった。
さて3日目。
初戦の9回戦、私自身の中で今決定戦一番の失着の局。
東3局、南家。ここまで2局連続で点数は安いが、局面的にはかなり価値あるメンゼン捌きで局面をリードしている。
この2局は、荒プロの観戦記に載っているのでここではふれない。
東3局14巡目
100
この局面は、荒プロの観戦記にも滝沢プロのインタビューにも載っているのだが、最終形だけをみれば、九筒はドラを2枚以上は持っているだろう、親の瀬戸熊プロのリーチに危険牌である。
だが、アガリを目指して九筒を勝負するのは、自分の中では当然の一打なのでそれはいい。
しかし過程で大きなミスがあった。
100
この日の1回戦目。しっかり初日の1回戦目のように、最初から対局に完全に入り込んでいればこの4枚目のドラ表示牌の七万はツモ切りできた。
ここまでの2局は、この日のツキをかなり感じていた。ならば、結果はともかく、この局は攻撃的でなければならないはずである。
しかし、巡目もかなり微妙で、国士崩れのこの手も微妙。
しかも場にピンズがかなり高く、七筒九筒とタイミング良く払えるのかも微妙で、そろそろ店仕舞いも考えて1枚切れの一索を打ってしまい、七万を1巡持ってしまった。
このたった一瞬の迷いが大きな失着を生むこととなる。
もしここで七万をツモ切りできていれば、九筒は手順で12巡目に処理できていた。
これは決して結果論ではなく、明らかに私のミスである。
あまりに大きなポイント差があったことによる油断といってもいい。
ここから冬眠中の熊を起こしてしまったようだ。今決定戦初のクマクマタイム。
だが、私のこの日のツキもそれ以上であった。この竜巻のような嵐の中、浮きの2着をキープする。
続く10回戦。ここが今決定戦のクライマックスとなりえる勝負の半荘である。
瀬戸熊プロの立場からすれば、9回戦目に私に浮きをキープされてしまった以上、まだ90ポイント近い差を逆転するためには、クマクマタイムの連発が必要である。
逆に私の立場からすれば、この半荘、瀬戸熊プロの勢いを封じて、さらに差を広げるようなら大勢は決すると思っていた。
南3局、南家。9巡目。
100
ここまでは自分にとって絶好展開。
このままの順位で、私が30,000点を超えて終われば、今決定戦が終了するといっても過言ではない。
瀬戸熊プロ最後の親番。
普通、王位戦やマスターズのように、1日で勝負を決める決勝戦でここまで大きなリードを持っていれば、トータル2位の親のリーチにドラを切ることはない。
しかしこの局は、この瀬戸熊プロのリーチを捌いてしまえばほぼ勝ち。逆に振り込みとなっても、局面が大きく変わるというわけではない。
ならば当然勝負である。結果流局。
南3局3本場。瀬戸熊プロが必死の連荘で、クマクマタイムの入り口を探す。
逆に忍者は、必死にクマクマタイム発動阻止を狙う。4巡目。
100
上家の瀬戸熊プロからは、すでに殺気にも似た気配が漂っている。
これでリーチを打った場合の、その後の展開は簡単である。
瀬戸熊プロは全く怯むことなく前進あるのみ。沢崎プロと伊藤プロは「行け瀬戸熊!藤崎を引きずり落とせ」と心で叫びながらベタオリ。
再び創られたかのような、忍者vs熊の一騎打ちである。
ここで長考させてもらったのだが、第一感は九万切りで、あくまでヤミテンを目指すちょっと賢い風な打ち方。
しかし、正々堂々正面から勝負を挑んでくる相手に、そんな小細工は失礼ではないのだろうか?
ましては「絶対王者」とは呼ばれていても、卓を離れればかわいい後輩であり、麻雀に人生の全てを捧げると公言している男である。
”鳳凰位”
ずる賢い者が呼ばれる称号ではない。
1番強い者に与えられる称号でなければならないはずである。
しかし、ここでパソコンの向こうで応援してくれている人達の顔が頭に浮かぶ。
2日間独走状態をあれだけ喜んでくれた人達の顔が。そして五万を静かに河に置いた。
100
鳳凰位決定戦は終わった。
自分は初めて鳳凰位のタイトルを獲得した。
しかし、敗戦同様のリーグ戦や、大量リードがあるにもかかわらず、逃げ腰だった決定戦等を考えても、けして「鳳凰位」にはなっていない。
今年も瀬戸熊プロが、頼もしい後輩2人を引き連れて決定戦に戻ってきた。
昨年の非をわびるとともに、その時の後悔を払拭する機会をいただいた。
勝ち上がってきてくれた瀬戸熊プロに心から感謝している。
今年は瀬戸熊プロの攻撃を正面から受け止め、殴り合い上等の戦いをさせてもらう。
そして連覇した暁には、胸を張って「鳳凰位」を名乗らせてもらう。
1年間読んでいただいた方々に感謝します。
またいつかこの部屋に戻ってこられるよう頑張りますので、これからも応援よろしくお願いします。
さて荷造りしましょ。