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鳳凰の部屋

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「~時は待ってくれない~」 前原 雄大

2018/07/26
執筆:前原 雄大


第33期鳳凰位決定戦が終わり、1週間ほどした後、近藤久春さんとスタジオからの帰り、タクシーに同乗した。
「あれは、どういう意味だったのでしょうか?」
近藤さんは私に尋ねた。
「何のことですか?」
私は問うた。
「初日の開始直前に前原さんが言った言葉です」
私は覚えていなかった。
「選手集合の声がかかった時に、前原さんは、「良い舞台を創ろう」そう言ったじゃないですか?」
私は全く覚えていなかった。
「そうか、そんな事をいいましたか__」

憶えてはいないが、自分自身に向かって言ったのかもしれない。
私達はプレイヤーに過ぎない。言葉を変えるならば演者に過ぎないのである。
勝負は時の運である。勝つこともあれば、負けることもある。勿論、己の勝利を目指して卓に着く。

ただ、それが全てではない。視聴して下さった方々が面白い、もしくは、観て良かったな__。大切なことはそこにあると、少なくとも私はそう考えている。

実況者がおり、解説者がいる。彼等がいるから、彼等が頑張っているから番組が面白くなる。
出入り禁止とドアに記されたコントロールルームの中には、牌譜チームがひとつでもミスが無い様に集中して、キーボードを叩いている。
10時間にも及ぶ長い闘いを立ち続け画面を睨み様々な合図、指示を出し続ける黒木真生さんがいる。

以前、黒木さんに尋ねたことがある。
「座らないのですか?」
「立ち続けた方が見やすいし、見落としが少ないのです」
彼はそう答えた。

その年の立会人は紺野真太郎さんだった。
彼の机の上にはいつも目薬が常備されている。ずっとモニターを睨み、選手の気配を伺っている。
4日間の鳳凰位決定戦が終わった後、熱を出し寝込んだという話もしばらく経ってから聴こえてきた。
他にも多くの連盟員によって番組は作られている。

ここまで記せば当然のことだが、プレイヤー、演者は己の持っている力の全て出し切らねばならない。それでも、ミスをする。
結果エラーにはならなくともミスをする。

私の場合でいえば、半荘4回で細かいことも含めれば200前後のミスを見つける。
他人からは解らないだろうが、これは事実である。

鳳凰位決定戦が終わり、大庭三四郎さんに御願してDVDにダビングしてもらい、寝る時はそれを観て起きたならばまた観る。
何百日そうした生活をしたか自分でも覚えていない。
そして、それから稽古に向かう。

結果として、2017年度は幾つかのタイトルを掌中にすることが出来た。
「半分はぼくのおかげですね」
佐々木寿人さんがそう言うのも頷ける。
とにかく、調整には良く付き合ってくれた。他にも多くの後輩達が忙しい中を付き合ってくれた。
ただ、ただ、感謝するのみである。

それと、振り返れば20代の若い頃に森山茂和さん{現会長}が研修係だったことが私の運のあるところである。
何も知らない頃に誰に学ぶかはその人の運である。
そして、何事であれ、人が人に何かを教え、学ぶことは大変なことだと大人になって分かった。
教わった一言、幾つかの教え、それを何処まで真摯に受け止め、それを生涯、身体に沁みこませるかである。

私の考えでは、こうだと教えられたモノを死ぬまで忘れないという覚悟と感謝が無ければならないと思う。
私はこの歳になるまで、先輩から懸命に教わったこと、学んだことはずっと心身に残っている。
その日、その先輩が私を見つめた目、表情を今でも忘れない。
他人に何かを教わるということはそういうことではないだろうか。

 

100

 

結果は瀬戸熊直樹さんのツモアガリである。このアガリをどう捉えるか。
内川幸太郎さんの大物手であることは感じていたし、瀬戸熊直樹さんのテンパイも確信していた。
人によっては瀬戸熊さんに放銃する打ち手もいるだろう。その打ち手を否定するつもりは毛頭ない。ただ、私はその方法論は取らない。

余計なことはしない___。
それが、私の麻雀プロとしての在り方である。

カタチこそ違えど、瀬戸熊さんも同じであると考える。
ヤミテンで押し切り、そして、数パーセントあるかないか分からないような親番に全てをかける。
後輩でありながら尊敬して止まない瀬戸熊さんの考え抜いた方法論である。
そして、ツモアガリである。

瀬戸熊さんの最後の親番は怖いな__!!
そう感じさせる南2局の譜である。

そして、瀬戸熊さんの親番。
私は4巡目にしてテンパイした。

 

100

 

私は打八万として、白に賭けた。
内川さんは当てにはならないが、瀬戸熊さん、HIRO柴田さんからは白が打ち出される可能性があると読んだ。
ところが私よりもっと速いテンパイ者がいた。
瀬戸熊直樹さんである。

 

100

 

5巡目にツモ五筒で瀬戸熊さんからリーチが入る。私は直にオリを選択した。
前局、私が懸命にオリていたにも関わらず西をツモアガった親番である。
オリに向かうのは私の中では当然の選択である。

怖いナ__そう感じた相手にテンパイだからと言って立ち向かうことほど愚かしいことはないと今でもそう考える。
結果だけを摘み上げればペン七万に受けていればアガリがあった。

 

100

 

私は1日に200ほどのミスをすると記した。今局に関してはミスともエラーとも考えていない。
麻雀に絶対は無い!常々廻りに言っている言葉である。

スタッフは全員、懸命に仕事をしている。私は私なりにベストを尽くしたつもりではある。
麻雀は麻雀プロの為に存在しているわけではない。麻雀をやっているのは99パーセントアマチュアである。
そしてその何パーセントの方々の声無くして麻雀プロの存在は在り得ないし、成り立たない。

今の私には打六万と構えリーチに向かって打五索は出来ない。そして、七万を捕まえることも叶わない。
そんな今の私には時は待ってくれないのかもしれない。
ただ、人は変容していく生き物である。
あの七万を捉えられる日が来るようならば、時は待っていてくれるのかもしれない__。

考えて考え抜いて稽古し、やり抜いて、ようやく何かが出るのが私達の人生であり、たとえ結果が出ずとも、それをやり続けることにしか、生きる尊厳は無いのだと思う___。
果たして、時は待っていてくれるのだろうか。