鳳凰の部屋

「~持つべきものは善き後輩~」 前原 雄大

「前原さんて、ツモる時、牌山に指を差し伸ばすのが、ワンテンポ速いと思います。」
ある日の勉強会で言ってくれた白鳥翔君の言葉である。

「そうか、ありがとう」
礼を述べたのは、若い白鳥君が年長者である私に申し訳なさそうに言葉を選んでくれたこともあるが、その言葉の中に色々な意味合いが込められていたからである。

私は時折、牌山に指が触れかかったと同時に「ポン」の声がかかる時がある。
遅ポンくらいに考えていたのだが、それは違うことを白鳥君は教えてくれたのである。
指を差し伸ばすのが早く、上家の打牌が他家、殊に私の下家からは見づらかったのだろう。
当たり前の事なのだが、それが出来なくなっている。

休憩時間にそのことを勝又健志君に伝えたところ、彼は言った。
「そういうことならば、僕も言わせていただきますが、前原さんの場合、リーチの発声と打牌が8割方間違っているように思えます」
勝又君にはきちんと礼を述べた。
その後、勝又君とは何度かセットを組んでもらい、基本的なマナーだったり、ルールを教えてもらった。

原因はハッキリしている。
大きな対局の前、集中的に佐々木寿人さん相手に三人麻雀を打ち過ぎるのだろう。
寿人の打牌は本当に速い。攣られて寿人に合わせるとどうしても指がワンテンポ速くなるのだろう。
彼は普通にツモって普通に打牌しているのだが。

三人麻雀の良い処は一人少ない分だけ流れが読みやすいし、押し引きに的確さが求められる。

二索四索六索一筒二筒四筒四筒四筒六筒八筒八筒白発中

仮に2巡目の手牌だったとする。ただし、寿人が既に九索をポンしている。良い時ならば、字牌に手をかけるなり、打二索も悪くない。
悪い時はどうするか。私は打四筒とする。それが、正しいかどうかは解らない。私は打四筒以外の選択肢は持っていないということだけである。
若い時からそう打ってきたし、これからも変わらないだろうと思う。

要は形勢判断の問題である。
このことは麻雀だけとは限らない。物事は徹底させなければならないということである。

私の若い頃はよくラジオを聞いた。FMなどは放っておくとすぐ周波数がずれてしまう。そのため、まめにチューニングをしなければならなかった。それと少し似ている気がする。

カーナビもそうである。便利である。ただ、自分で地図と睨めっこして覚え込んだ道はカーナビより正確である。
殊に、近場を走る時は必要以上に注意する。

先日、巣鴨道場に車で向かう折り、私の目の前を年配の方が自転車で走っていた。それが、いきなり、コテンと倒れたのである。
ゆっくり、注意深く走っていたから良いものの、危うくお互いの人生を棒に振る所だった。あのことは本当に勉強になった。
免許証の返納まで考えた。道路標識も、おそらく全ては把握していないだろう。どんどん、新しい標識が増えているようにも思える。

麻雀も同じで何処かで基本的なルールや、新しいマナーを勝又君や白鳥君に学ばねばならない時期に来ている。
「大体においてムダな動作が多すぎるんですよ」
佐々木様に最近言われた言葉である。

~プロ連盟ⅤS天鳳~
公式ルールは特別な準備はしなかったように思う。いつも通りセットを組んで稽古したくらいである。
WRCルールはセットを組んだり、勉強会でも一打一打を考えながら、流れに乗り損なわないよう努めた。

ロン2もかなりやりこんだ。

 

100

 

11月はとにかく数をこなした。
元来、不器用な性質{何をやらせても}の私は数をこなすうちにそれなりの、私なりの方向性、方法論を身に着けるタイプである。
それでもというか、やはり、結果は芳しいものではなかった。
ベスト10にも入らなかった。この現実を突き付けられた時、少なからずショックを受けた。

原因を考えてみた。
ロン2の方がリアル麻雀よりやりやすい部分がある。手出し、ツモ切りを憶えなくて済むからである。このことはかなり、ありがたい。

原因はハッキリしていた。
ロン2に向かう姿勢が悪かったのである。
帰宅して、それとなく初めて、それとなく数をこなしていた。これでは向上しようがない。

12月に入る前に最低打荘数は16戦と決めた。散漫としてやるのではなく、集中してやるためである。
帰宅して風呂に入り、しばらく横たわり机の上に飲み物を用意した。煙草は集中の妨げになるので、灰皿ごと別の部屋に置いた。
ここまでする必要はないのかもしれない。ただ、不器用な私にとっては最低限、ここまでは必要とする。

決勝メンバーが決まった。連盟側で残ったのは私一人だけだった。言い様のないプレッシャーが私に重く圧し掛かった。
私の気持ちを直ぐに察したのが森山会長だった。

「3人対1人になった時点で連盟の負けだよ」
※決勝が天鳳位3名と前原さん

駅伝のことがフラッシュバックした。
「だから、前ちゃんはいつも通りの麻雀を打って欲しい」
「わかりました」

個人戦であれば次に頑張ればいいや。また、プレッシャーは何処か気分が高揚して楽しくもある。楽しいというと語弊があるかも知れない、心地良いのである。
ただ、個人ではなく、ⅤS天鳳位なのである。大げさではなく、ある意味鳳凰戦より重圧は大きかった。
ロン2の12月度の結果が出た時、少しの不安が取り除かれ、多少の自信が付いた。
やるだけのことはやったのだから___。
そう自分に言い聞かせながらも、一方でどうしても結果を欲しがる自分が間違いなく存在した。

結果は前シーズンに続き、優勝というカタチと結果で終えられた。
カタチと記したのは天鳳のプレイヤーの方々の麻雀に対する純粋さを感じ、余計なモノが何も卓上に存在しなかったからである。
最終局にリーチが入った局面で、最後のリーチ者のツモ番の表情を見て、後日、東海地方に住んでいる後輩に窘められた。
「祈るような表情は前原さんらしくないと思います」
そういうつもりは無かったのだが、彼にはそう映ったのだろう。
普段、物事を冷静に見つめ続ける彼がいうのだから、その方が正しいのかも知れない。

この戦いが終わったのは良いが困ったこともあった。
間近に控えている鳳凰戦に気持ちが向かわないのである。
勿論、稽古は勤しんでいるのだが、気持ちが上がっていかないのである。

高校の友人に尋ねたところ
「お前、それは燃え尽き症候群だよ!らしくないナ」
言葉そのものは知っていたが、こういうモノだとは知らなかった。
「どうすればイイんだ?」
「放っておくしかないだろ」
「じゃあ、そうするわ」
人ごとだと思って、、、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。