プロ雀士インタビュー

第266回:プロ雀士インタビュー 白鳥 翔   インタビュアー:神森 天心

はじめまして。
日本プロ麻雀連盟38期前期生の神森天心(かみもり てんしん)と申します。
普段からお世話になっている白鳥翔プロが、第23回モンド杯で優勝され、インタビューをさせていただくことになりました。
ぜひ最後までお読みいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします!

【もくじ】
・対局へ向けて
・第1戦
・出会いのきっかけと、練習風景
・第2戦
・おわりに

 

 

【対局へ向けて】

各団体のタイトル戦やMリーグなど、数々の決勝に進出し、優勝経験も豊富な白鳥。
そんな白鳥が、決勝というものをどう捉えているのか、非常に興味深かった。

神森「まずは、この決勝をどのように戦おうと考えていたか教えてください。」

モンド杯のルールは25,000点持ち30,000点返しで、終了時の順位点はウマ・オカ含めて 1着+40P、2着+10P、3着▲10P、4着▲20Pとなる。いわゆる『オカ』があるルールで、トップに大きくポイントが加算されるシステムである。

白鳥「オカありで2回戦勝負だから、絶対にどっちかでトップを取らなきゃいけない。だから1回戦目は思い切ってトップを取りにいこうと思っていたよ。もし1回戦目にトップが取れたら、優勝できる確率がかなり跳ね上がると思っているから。でも仮に1回戦目にトップを取ることができても、2回戦目も緩めないつもりだった。そうじゃないとこのルールでは結構やられちゃうと思う。逆に、『1回戦目にラスを取ってしまうと次の条件が厳しくなってしまうから、ラス回避が大事』って言われたりすることもあるけど、僕はあまり気にしてなかったかな。」

神森「かなりトップを取ることに比重を置いていたということですね。詳しくはまた触れますが、実際1回戦目にトップを取った後、2回戦目もかなり強く攻めていく場面が多くとても印象的でした。」

白鳥「あとはやっぱり決勝だから、みんな普段のバランスよりも押しが強くなるよね。だから押しが強い人がいても、それを過大評価しすぎないようにしようと意識してた。普段ならテンパイかなと思う状況でも、今日なら1シャンテンのこともあるかな、とか。そのあたりは決勝ならではのバランスだと思う。」

普段とはまた少し違う、決勝ならではのバランスや高いトップ意識を持って、対局に臨んだ。

 

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インタビュー時の様子。

 

【第1戦】

まずは対戦カードから。

 

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東家スタート 柴田吉和(日本プロ麻雀連盟) 5年連続決勝進出 優勝2回

 

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南家スタート 白鳥翔(日本プロ麻雀連盟) 2年連続4回目の決勝進出 優勝2回・前回優勝

 

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西家スタート 滝沢和典(日本プロ麻雀連盟) 3年ぶり9回目の決勝卓進出 優勝1回

 

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北家スタート 石橋伸洋(最高位戦日本プロ麻雀協会) 3年連続の決勝卓進出 優勝1回

神森「みなさんの実績がすごい!全員に優勝経験があり、決勝も常連の4名です。」

白鳥「柴田さんなんて5年連続で決勝に残っているしね。」

神森「白鳥さんは昨年の優勝者です。ディフェンディングチャンピオンとしてのプレッシャーなんかもあったのでしょうか。」

白鳥「プレッシャー?それはなかった(笑)。でも今回は生き残り方が劇的だったんだよね。すごい接戦だったけど、予選の最終戦で9位くらいのところからトップを取って、2位になってジャンプアップできた。だから展開はいいかなと(笑)。」

神森「なるほど(笑)。」

 

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東1局 南家 ドラ西

神森「8巡目にこのテンパイ。先制リーチや仕掛けはまだ入っていません。リーチ、ヤミテン、テンパイ外しまで様々な選択肢がありますがいかがでしょうか?」

白鳥「ヤミテンにするのが一番弱いかな。三索を切ってテンパイを外すのも丁寧でいいと思うけど、僕はこのままリーチを打っても結構リターンがあると思った。リーチ・タンヤオに加えて一発や裏が加われば一気に高打点になるから、かなり勝負手になるよね。今回は愚形だったけど、赤なしのこのルールなら仮に押し返されても打点がそこまで高くないことも多いから、リーチが強いと思う。逆にもしこれが赤ありルールなら、高い手で押し返されることが多くなるから、この手でリーチを打つのは怖いと思っちゃうかも。その場合は三索を切りそう。」

白鳥はこれをリーチして、ドラを2枚使った1シャンテンの石橋からロンアガリ。裏ドラが1枚乗って5,200点の収入になった。

白鳥「もちろんアガれたのはラッキーだったけど、これを捉えられた時は本当に大きいよね。これを1,300で終わらせるのと、リスクを負ってでも5,200にするのとでは大差だと思う。」

1局目から、とても良いスタートを切ることができた。

その次局、

 

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東2局 東家 ドラ八索

神森「親番でこの配牌。なかなかこういう記事には取り上げられづらい牌姿だと思いますが…(笑)。実はこの局は、かなり思考が気になった局面のひとつでした。今回の配牌のような何をしたらいいかわからないような悪いものほど、打ち手の実力が問われると思うからです。とても配牌が良い時は、みんな同じような選択になって同じようにアガれることも多いですよね。でもそれだと実力差があまり出ないんです。このような悪い手をどう考えて進めていくのか、ぜひ白鳥さんの考えをお聞きしたくて取り上げました。」

白鳥「決勝のこの状況のこの手なら、まっすぐ自分の手を進めるようにするのがいいと思った。一筒や字牌から切って進めていく感じ。この先6巡とか経ったらどうなっているかわからないからね。九筒八万が暗刻になったりソーズが横に伸びたりして、メンツ手で戦えるようになることもあると思う。ダブ東が重なってすぐポンできたら主導権を取れることもあるし。この瞬間だけで言えば七対子に一番なりそうだけど、それでも色んな可能性を見て端の牌や字牌から切っていくのがいいと思う。逆に決勝のこの場面では、結局強く押されちゃうことが多くなるから、ブラフみたいな動きとかはあまり意味がないなと思っていた。(ブラフとは、実際は安い手だが高い手であるように見せたり、ノーテンだがテンパイに見せたりする戦術のこと)それに加えて、こういう局面で真ん中から切り出していくと、あんまり早くなさそうとか舐められちゃうこともあるよね。そうすると周りはより強く押せるようになっちゃうから、そうはしたくないと思った。端から切ってちゃんと私もいますよって主張するのも大事。」

神森「この局は、発を暗刻にした滝沢プロがカン三万待ちをヤミテンにして、1,300点の横移動になりました。」

白鳥「僕の捨て牌がもっと弱そうに見えていたら、もしかしたらリーチって言われていたかもしれないよね。僕が普通に進めているような河をしていたから、滝沢さんはリーチって言いづらかったのかも。」

 

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滝沢 1,300(←石橋)

次局、大きく試合が動く。

神森「この局は優勝に近づくかなり大きな1局でしたよね。」

 

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東3局 北家 ドラ九万

ドラは0枚、形も悪く、お世辞にも良いとは言えない配牌。おまけに、既に下家の親がダブ東をポンしている。

神森「この配牌に点数をつけるとしたらだいたい何点くらいでしょうか。」

白鳥「ダブ東をポンしている人が下家にいるということまで含めると、100点満点で10点もないくらい。」

神森「下家が仕掛けている時、チー・ポンをされてしまうことに対してどれくらいケアをすればいいかいつも悩んでしまいます。自分はこの配牌なのに対して相手はダブ東ポンなら、もうベタオリしてしまおうかなと考える事もあります。」

白鳥「僕も昔は結構そうする事が多かったかも。自分の手を完全に崩してでも、下家に絞り切ろうって。でもそれって、絞った自分と絞られた下家が損をして、相対的に対面と上家が得をすることになる。それで対面や上家の大きい手が決まってしまったら、それも嫌。それだったら、この手はアガリ切れないわけではないし、自分都合でアガリにいっちゃおうかなって思った。」

 

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道中で一気に勝負形になる七索を引き、

 

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中盤に一番嬉しい七万を引いてテンパイ。

リーチをして高目でアガれば満貫以上が確定。安めでも最低1,300・2,600で、一発や裏ドラ次第で跳満まである勝負手のテンパイにたどり着いた。
これをリーチすると、

 

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高目をツモって、裏ドラも乗って跳満のツモアガリ!
このアガリで持ち点は40,000点を超えて、一歩抜け出すことができた。

神森「配牌は100点満点で10点もないと言っていたところから、非常に大きいアガリになりましたね!」

白鳥「さっき親番の局の時にも話したけど、最初から諦めるのではなくて丁寧に手を組んでいれば、こういうアガリを捉えられることもあるってことだよね。
それにしても、ここで跳満をアガることができたのはすごく嬉しい!」

 

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その後の局にて、全く勝負できる形ではないところからリーチを受けるも

 

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うまく回ってツモアガる。
石橋、滝沢の大物手テンパイをかわして、点差以上に大きなアガリになった。
この後も大きな失点はなく、磐石の立ち回りでトップを獲得。

神森「完璧すぎてもはや検討の余地がないです。書くことがなくなってしまいました。」

白鳥「いやいや(笑)。でも展開はすごく良かった。」

1回戦目終了時の成績
白鳥 +57.3P
柴田 +3.9P
滝沢 ▲23.0P
石橋 ▲38.2P

完璧な内容で、強く意識していた「初戦トップ」をきちんと取り切った。

 

【出会いのきっかけと、練習風景】

さて、普段から白鳥さんと一緒に麻雀の練習をさせていただいている私だが、簡単に白鳥さんと知り合ったきっかけをお話しする。
私が初めて白鳥さんとお会いしたのは、2022年5月に行われた日本プロ麻雀連盟のタイトル戦『十段戦』に出場した時だ。当時プロ1年目の私は、運よく初段戦から七・八段戦まで勝ち上がり、そこで白鳥さんと初めて同卓することになった。

 

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2022年5月 第39期十段戦 七・八段戦で同卓した時の写真。
後頭部だけ映っているのが神森です。

神森「六段戦を勝ったあと、運営の方に『明日の七・八段戦の相手、翔ちゃん(白鳥翔プロ)と亜樹ちゃん(二階堂亜樹プロ)だから頑張れ(笑)。』と伝えられました。その時の絶望感は、今でも忘れられません。さすがに辛すぎる!と思いました(笑)。
それでも、プロ歴2ヶ月目だった私が、ずっと画面越しで観ていた憧れのトッププロの方々と対戦させていただけるとは夢にも思っていませんでしたし、実際に対戦できて本当にいい経験になりました。」

白鳥「ここで当たったのがきっかけで、それから一緒に練習するようになったんだよね。」

神森「そう考えると、本当にここまで勝ってこられてよかったと改めて思います。この対戦がきっかけで、その後も白鳥さんたちと一緒に麻雀の勉強ができて、本当に恵まれていると感じます。」

十段戦のあと、白鳥さんを初めて麻雀に誘った時、私は「麻雀を教えてください!」とメッセージを送った。しかしそれに対する白鳥さんの返事は「僕も未熟だから人に教えることはできない。一緒に考えることはできるからそれでよければやろう!むしろ僕の手で疑問に思うことがあったら言ってほしい」であった。

その言葉の通り、一緒に考え一緒に疑問をぶつけ合いながら、今も勉強を続けている。

 

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普段の勉強会の様子。左手前から時計回りに、沢村、神森、白鳥、伊藤

沢村侑樹 38期生 第29期麻雀マスターズ4位

伊藤俊介 37期生 第12期WRCリーグ3位 第30期發王位ベスト16など

 

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普段の勉強会の様子その2。 左から仁科、白鳥

仁科優太 37期生 第13期WRCリーグ2位

 

【第2戦】

神森「この2戦の中で、私が一番好きな局です。」

 

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東1局1本場 ドラ東
前局に2,900点のアガリを決めた次の局。まずまず悪くない配牌から、

 

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ドラの東を切ればピンフのテンパイ。
三索五索六索七索八索を引くとタンヤオや三色がついて打点が上昇するため、東を切ってヤミテンとする。

白鳥「このまま五筒八筒でリーチしても結構アガれそうだと思ったけど、ソーズで5種類も手変わりがあって、何を引いても打点が上がって嬉しいよね!ここで大きくアガることができたら、それこそ優勝が近づくと思った。」

その言葉の通り、

 

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八筒をツモ…

 

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はせずにフリテン5面張リーチ!

 

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そしてタンヤオがつく五索をツモ!!
一発や裏ドラはなかったが、この状況での2,000オールはより優勝に近づいたように思える。

神森「対局映像を見ていて、私が一番興奮したシーンです!ヤミテンの判断も秀逸で、本当に大好きな1局です。」

白鳥「ヤミテンにできたのはすごく冷静で自分でもナイス判断だったなって思う!これをアガらずにフリテンリーチして、2,000オールにできたのは本当に大きかった。」

この後は、1戦目トップの白鳥と、1戦目2着の柴田のアガリ合いとなる。

 

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白鳥 8,000(←滝沢)

 

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柴田 3,000・6,000

オーラスを迎え、4人の順位点を含めたトータルポイントと条件がこちら。

白鳥 +74.5P アガれば優勝
柴田 +61.7P 白鳥との12.8ポイント差をまくれば優勝 オーラス親番
滝沢 ▲49.1P ツモダブル役満
石橋 ▲87.1P ツモトリプル役満

実質白鳥vs柴田の一対一の構図。滝沢・石橋の両名はかなり厳しい条件だが、柴田は1回のアガリで白鳥を捲ることもできる点差だ。(なお、アガリやめはできないため、柴田が白鳥のトータルポイントを上回っても次局に続く。)

 

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白鳥は第一打にドラから切っていく。

白鳥「この局で決めようと思った。アガれそうな手だと思ったから全力で前に出たよ!」

 

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6巡目、親の柴田が先制でタンヤオのカン六索を即リーチ。

 

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白鳥はこの1シャンテンから一索をプッシュ!

神森「1シャンテンですが、一発目から無筋を切って勝負に出ましたね!ここも非常に胸が熱くなるシーンでした。」

白鳥「最初に話した、決勝特有の押しってまさにこれのことだよね。もし僕がオリたら、柴田さんがアガるのを待つだけになっちゃう。自分は形が良くて、役ありになる可能性もある1シャンテン。通っている牌も少ないし、まだまだ全然オリないよ。ちなみに、三万六万を引いて役なしのノベタン二筒五筒待ちになったら、追いかけリーチを打とうと思ってた!」

その後白鳥もテンパイを入れるが、柴田が六索でツモアガる。

 

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柴田 2,000オール

これで2人の点差は約5ポイントとなった。

南4局1本場、条件は変わらず、アガれば優勝の局面。

 

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白鳥「テンパイしたらリーチ!三索が山にいるかはわからないけど、アガれたら優勝だからね!もちろんリーチするよ。」

 

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柴田から追いかけリーチを受けるも…、

 

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ツモって優勝を手繰り寄せた!
このアガリで第2戦が終了。トータル1位の白鳥が、第23回モンド杯の優勝者に決定した。

 

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優勝を決めてウイニング水飲みをする白鳥

神森「特にこの終盤は2人のぶつかり合いが激しく、食い入るように観ていました。最後に追いかけリーチを受けた時は背筋が凍りかけましたが…(笑)。そしてその同巡にツモ!最高の瞬間ですね。」

白鳥「うん!そして本当に、この決勝は自分でも満足いく内容で打てたと思う!」

神森「最初から最後まで本当に強かったです。改めまして優勝おめでとうございます!」

白鳥「ありがとう!」

 

【おわりに】

神森「それでは最後に、今後の目標や意気込みなど、簡単にひとことお願いします。」

白鳥「今後は王座も控えているので年間チャンピオンになることが目標かなー。僕が今メディアにたくさん出られているのは本当にモンドさんのおかげだと思っていて、自分の成長を見せる意味でもずっとこの舞台で勝ち続けたいかな!そううまくはいかないと思うけどモンド王座獲得と3連覇目指します!!!」

神森「モンド王座も優勝を期待しています!たくさん貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました!」

今回のインタビューでは書ききれなかったが、取り上げていない局の中にも好プレーや名場面がたくさんあった。解説の金太賢プロ(日本プロ麻雀協会)は、「白鳥プロの麻雀の内容が本当に完璧で、全麻雀打ちが勉強になる麻雀を見せてくれました!」と絶賛していた。ぜひ本編の放送もご覧いただければ幸いである。

最後に、この優勝インタビューを私に任せていただいたことに、深く感謝を申し上げたい。
そして、今後も成長し続ける白鳥翔プロに、ぜひご注目いただきたい。

最後までお読みいただいて、ありがとうございました!

 

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