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プロ雀士インタビュー

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第136回:天空麻雀17優勝特別インタビュー 小島 武夫  インタビュアー:杉浦 勘介
「僕が太い運を・・・」

2016/01/28
インタビュアー:杉浦 勘介


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ここに1枚の写真がある。
日付は16年前・・・。

向かって左は、ご存知“ミスター麻雀”小島武夫プロ。
毎年大阪で行われている大学対抗麻雀大会の、記念すべきミレニアム開催にゲストで来場された時の写真である。

隣に写る学生の表情は硬い。
それもその筈、19歳になったばかりの若者は、大会に出場することのみならず、出身県外で麻雀を打つことすら初めてだったのだ。
麻雀プロの存在は戦術本や月刊誌などで知ってはいたが、実際に会うのはもちろん初めて。
しかもそれが、“ミスター麻雀”なのだから面食らうのも無理はない。
主体性の欠片も持ち合わせない若者は、引率の方に背中を押されるようにして、どうにか写真に納まった。

大会の成績はまずまずだったと記憶しているが、詳しいところまではわからない。
ただ、あれだけ多くの人が集まって、最後に優勝旗を掲げるのが1チーム(2名)だけだということが、とても新鮮に感じられたことを覚えている。
(※2000年開催大会は、現日本プロ麻雀連盟静岡支部所属、鈴木郁孝プロらの活躍により静岡理工科大が優勝)

競技麻雀にも麻雀プロにも全く関心のなかった若者は、この3年後、日本プロ麻雀連盟の門を叩く。
そして時は経ち・・・。

編集部『天空麻雀17男性大会で優勝されました小島先生のインタビュアーをお願いしたいのですが・・・(略)。』

この連絡を受け、快諾の文面を作成しながらぼんやりと思い出すのはあの日の情景だった。
間違いなく言えるのは、あの日大阪に行かなかったら・・・、小島武夫の英姿に触れなかったら・・・、今の自分もインタビューの依頼が飛んでくることもなかったということだ。
私は、何かに手繰り寄せられるような心地を味わいながら、取材の段取りに入った。

《新春某日、夏目坂スタジオにて》

【戦いの基本姿勢】
杉浦「先生、天空麻雀17優勝おめでとうございます!」

小島「いやぁ、ありがとう。」

杉浦「天空麻雀での優勝は2回目になりますよね。今回の決勝戦は、初優勝をかけた中堅どころの3名が相手でしたが、何か期すものはありましたか。」

小島「相手が誰だからというのは気にしないね。とくに気負ったところもなかったよ。」

杉浦「対局前のコメントでも、『意気込めば勝てるというものでもないから、真面目にしっかり打ちます』とおっしゃっていましたよね。」

小島「そうそう。気持ちを入れ込むんじゃなくて、牌の来方に素直に打つというのが基本にあるからね。気負ってみても空回りすることの方が多いから、狙うべき手を狙いながら冷静に打つということだね。」

杉浦「ですが、天空麻雀のようないわゆる短期決戦では、牌が来ない時でも何とかして切り拓いていかないとって考えてしまいます。」

小島「だけど、牌が来ない時はなかなかアガリに結びつかないよな。そういう時はまず焦らないこと。焦って無理をしてもろくなことにはならないからね。もちろんチャンスは窺うけれど、牌の形を見ながら自然体を崩さないことが大切なのよ。」

杉浦「自然体といえば、収録中に先生の携帯電話が鳴ってしまうというハプニングもありましたよね。オンエアーでもしっかり使われてましたよ。」

小島「それは覚えてないなぁ。そうだったか(笑)ガッハッハ。」

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【圧勝劇】
杉浦「それでは、決勝戦を1回戦から振り返っていきたいのですが、いきなり開局の親番で連荘を重ねて、点棒は6万点台までいきましたよね。」

小島「まだ始まったばかりだから深くは考えないけどね、このリードを守って逃げようとは思わない。ツモの感触が悪くないから、当然それを意識して伸ばしにいくよ。」

杉浦「しかし、ここから前田プロ・山井プロも親番で連荘して追い上げに入ります。」

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杉浦「そして、南場に入って親番という場面、まず、前田プロの先制リーチに対して三索を勝負してヤミテンと構えます。」

小島「これは待ちは苦しいけど、一応はテンパイじゃない。そして、リーチに安全という牌がないから、ここは歯を食いしばって1枚は勝負してみようという感じよね。ただ、アガリまでは苦しいと思っているから、今後の展開次第ではもう1枚三索を外していくことも考えてリーチはかけなかった。先制ならともかく、この形では追いかけないよな。それでは打ち過ぎというか、焦ってる感じもするからね。」

杉浦「さらには、山井プロ・滝沢プロからもリーチがかかったこの場面、4人リーチで途中流局を選択することもできましたが、ヤミテン続行としました。」

小島「土壇場になればなる程、何とかしてみようって気持ちになるんだけどね。牌を持ってくる瞬間は、果たしてツモるか、厳しい牌を握ったら七筒あたりを切って凌ごうかと思ってやっていたよ。途中流局は考えなかったなぁ(笑)ガハハ。」

杉浦「その結果、山井プロが見事一発ツモ!数百点の差まで肉薄してきました。」

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小島「これは山井君をほめるべきだよな。三色を追ったら四筒で放銃となる場面を、ギリギリの勝負で回避してるじゃない。普段もそうだけど、やっぱりしっかりした麻雀を打ってるよ。これだけうまい打ち方をすれば、やっぱりツモるよな!」

杉浦「実際には、この追い上げを見てどうでしたか。」

小島「勝負事だからアガリが続く時もあれば、苦しい時もある。その心構えは卓に着く前からできているからね。ここは今までの自分の戦いを信じて逃げ切らなくては仕方ないじゃないかと思ったね。相手が仕掛けたからとか、相手が良いアガリをしたからとか、相手に合わせて打つというのは、時として『参った』と言うのと同じことになる。もちろん、対応が必要な場面は丁寧に打つけどね。」

杉浦「なるほど。この後、その意志通りに3連続で満貫をアガリ切り、大きなリードを持って2回戦を迎えます。」

小島「点棒は離せば離す程有利になるからね。次も好調を意識して、そうそう守りには入らないと思うよ。」

【決定打】
杉浦「場面は変わって2回戦、条件的にも苦しかった3者に並びを作られ、終盤の南2局を迎えて山井プロが一旦逆転、前田プロもそれを追って三つ巴という状況です。」

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杉浦「分岐は9巡目、ここで打たれた3枚目の七索をスルーして、メンゼンにこだわりました。」

小島「これは鳴かないね。もう少し良い手に持っていこうと思うからね。」

杉浦「ただ、当面のライバル山井プロの親ですから、親番を落としたいという気持ちもありますよね。」

小島「それは当然あるけどね。ここで仮に仕掛けてアガってみても、大勢を左右するようなアガリにはならないじゃない。」

杉浦「確かに。譜を追ってみると、仕掛けていたらおそらくツモアガリとなりますが、依然として状況は苦しいですよね。」

小島「こういう追い込まれた時にはね、結局自分の麻雀を打ち抜くことだよ。さっきも言ったように、ここで動くのは相手に動かされてるのと同じ。立ち向かうべき相手にはしっかり立ち向かって叩き潰さないとやられるぞと思うからね。だから迂闊には引けない。苦しければ苦しい時程、強気に牌を切り飛ばしていくのよ。そうすれば、今度は相手の方が痺れると(笑)そういう考え方だよ。」

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杉浦「そして、山井プロとの天王山のリーチ合戦を一発ツモで制して、これが実質の決まり手となりました!」

小島「しかし最後の牌を良く引いたなぁ!(笑)ガッハッハ。」

こうして、天空麻雀17男性大会は小島武夫プロの圧勝で幕を閉じた。
随所に見せた豪快なアガリに解説席も大興奮だったが、きっとお茶の間も沸かせたに違いない。
紙面の都合上、限られた局しか取り上げられなかったが、繰り返し再生するレコーダーいっぱいに、その勝負哲学が詰まっている。

こうした小島イズムを学べる場の1つに、毎週行われている勉強会がある。
取材に一段落つけた我々は、ちょうど日程の重なっていた勉強会に参加するため、四ツ谷道場へと向かった。

《四ツ谷へ向かう車中にて》

【勉強会】
小島「最近は勉強会に来る連中もずいぶん強くなったよなぁ。」

杉浦「けれど、今回の決勝戦では、先生が壁となって若手の挑戦を退けましたよね。」

小島「そういう意識は全くないんだよな。ただ目の前の牌に一生懸命になるということだよ。」

“麻雀プロ第一号”として、麻雀プロ小島武夫が誕生して、もう何年になるのだろうか。
それ以来、小島先生は、この麻雀に対するひたむきな姿勢を崩すことがない。
囲碁・将棋や落語のような師弟制度を持たない麻雀界で、我々後輩はもちろん、業界関係者や多くの麻雀ファンの方々までが、“先生”と敬慕する所以はここにあるのだろうと思う。
やがて会場に近づくと、傍輩たちの明るい声が漏れ聞こえてきた。

一同「先生、おはようございます!」

小島「よし!じゃあ早速始めようか。」

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地方から通っている私は、毎週の勉強会に休まず出席することができない。
小島先生はそんな私の顔を見かけると、「勘介!せっかく来たんだからここに入りなさい」と、気さくに接してくださる。
とてもありがたいことだが、教えを乞うべき立場から志願するのが本筋だろう。
冒頭の写真から16年も経って、全く主体性が身に付いていない自分が情けない。
ただ、勉強会に参加して色々な考え方を知る中で、麻雀に対する思考は少し柔軟になってきたと思う。
インタビューが残っていたため、この日の勉強会は早めに退出させていただいた。

《酒席にて》

【“魅せる麻雀”】
小島「この店はなかなか良い雰囲気だな。まずはビールをもらおうかな。」

杉浦「お酒の種類もかなり豊富ですね。僕には全くわかりませんが・・・。」

小島「そういえばお前さん飲めないんだったな。おっ!肴も色々揃ってるな。よし、しめ鯖と牡蠣の天ぷらをいただこう。」

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杉浦「料理を待つ間、インタビュー記事を読まれる方へのメッセージなどありましたらお願いします。」

小島「メッセージか・・・。それは難しいなぁ。」

杉浦「では、麻雀のアドバイスということでいかがでしょうか。」

小島「うん。それならね、まずはアガリの形が良いことを目指すのが基本だな。」

杉浦「といいますと。」

小島「最近の麻雀を見ているとさ、ただアガリを目指す、あるいはもっとひどい時は、ただテンパイを目指すような麻雀があるじゃない。」

杉浦「はい。手牌の速度や先手の型は、より重要視されるようになってきました。」

小島「確かに、形にこだわらず速くアガることが大事な場面もあるよ。ただ、それでは本当の意味で“勝ち”に入ってるとは言えないんだよな。」

杉浦「深いですね。」

小島「麻雀というものを突き詰めれば、“どう打つか”よりも、“相手にどう打たせるか”ということの方がはるかに大切なのよ。」

杉浦「それは、牌譜を振り返った時も何度かおっしゃっていましたよね。」

小島「しっかりした手をしっかりした形でアガることで、相手に1つの恐怖心を与えることがある。そうして少しずつ、“勝ち”に近づけていくんだよ。」

杉浦「点棒を積み重ねるだけではなく、相手の心象に残るアガリということですね。」

小島「そう。ただ、強い打ち手はそう簡単には揺れないものだけどな(笑)。」

杉浦「確かに。タイトルをいくつも獲る先輩方は、自分の型に入ったら驚異的な強さを誇りますよね。」

小島「それは、常日頃から自分のスタイルを磨いているからだよ。さらに言えば、信念を持ってそれを貫くこと。僕の場合は、“信念”というよりも“美学”になるのかな。」

杉浦「“魅せる麻雀”ですね。」

小島「ただ取り違えてはいけないのは、ここでいう“魅せる麻雀”というのは、決して奇をてらった打ち方ではないということ。無理な手役を狙いすぎたり、順当なアガリを放棄するような打ち方では、逆に立ち遅れる原因になるよ。」

杉浦「そうですよね。」

小島「“魅せる麻雀”を言い換えるならば、ファンの方々に観てもらって感動を与えるような麻雀ということだから、本来の目的である勝負から外れたらダメなんだよ。」

【生涯現役】
杉浦「今回の天空麻雀のように、先生の豪快な麻雀をもっと観たいというファンの方も多いと思うのですが、今後のご活躍も期待して良いですよね。」

小島「うん、大丈夫。僕ももうすぐ80(歳)になるけど、年齢は関係ないと思っているからね。今の自分でどこまでできるか、ということをいつも感じながらやってるよ。」

杉浦「すごい気力ですよね。」

小島「だから、退こうという気持ちは全くないね。負けても負けても、次は勝とうという気持ちは消えないからね。昔から勝負に負けても、『参った』とは絶対に言わなかったんだよ。」

杉浦「生涯現役宣言ですね!」

【不思議な運命】
小島「最近は麻雀の番組も増えたよなぁ。」

杉浦「はい。CS放送や連盟チャンネルの存在も大きいですよね。」

小島「しかし、人生というものは本当に不思議だよ。」

杉浦「何かエピソードがあれば聴かせてください。」

小島「博多にいた頃、僕の手相を見て、『坊主、お前は将来全国に名を知られるような人間になる。自分を信じて頑張りんしゃい!』と言った人がいたのよ。」

杉浦「では、予言は的中したわけですね!」

小島「それ以来、同じようなことを言う人が何人もいたから、僕もさすがに信じたけどね。だからといって傍若無人なことをするでもなく、ただひたすら麻雀打ちとして一生懸命生きてきたわけよ。それからテレビに出たり、阿佐田先生と出会ったことは本当に偶然だったんだよなぁ。」

杉浦「運命の巡り合わせですね。麻雀プロ小島武夫が誕生していなかった時の麻雀界は・・・ちょっと想像できません・・・。」

小島「今、こうして少しずつ麻雀界が発展してきているということは、僕が太い運を持ってたわけよ。今までも色々なことがあったけど、この先にも多くの場面があると思うよ。大切なのは、その時にどう乗り越えていくかなんだよな。」

杉浦「心に刻んでおきます。」

小島「料理も酒も美味しかったなぁ。じゃあそろそろ帰ろうか。」

杉浦「はい。ありがとうございました!」

暖冬とはどこへやら、急激に寒さを増した夜の彼方に先生を乗せた車を見送った。
目を閉じれば、優しい笑顔の向こうに再びあの日の情景が蘇る。
『僕が運を持ってたわけよ』
思えば私も、その太い天運に引き寄せられた一本の糸なのかもしれないなどと夢想する。
兎にも角にも、この先は無数の糸がそれぞれの道を紡いでいかなくてはならない。