プロ雀士インタビュー

プロ雀士インタビュー/第142回:第14回日本オープン優勝特別インタビュー 山口 大和  インタビュアー:阿部 謙一

僕が初めて彼を見た時の印象…デカイな。
大きな体で十段戦の条件計算を小さな紙切れに一生懸命書いていた。
僕は持っていたノートを1枚破き彼に渡した、それが最初の出会い。
その後チャンピオンズリーグで何度か対戦したが、言葉を交わす事はほとんどなかった。
彼と話すようになったきっかけは、僕が講師養成講座に参加する事になってから。
年齢が近い事で話も合い、講師と生徒という間柄ではあったが少しずつ親交を深めていった。
私事になってしまうが、先のチャンピオンズリーグ決勝前に彼とある『約束』をしていた。
それは優勝したら果たす事になっていたが、早くも2ヶ月が過ぎようとしていた。
そんな中、日本オープンの準決勝へ山口プロが残った事を知る。
グランプリMAXの出場を控えていた僕の為に、Aリーガーとのセットに呼んでくれるなど、他人の為にここまで尽くしてくれる人がいるのだと感じた事を覚えている。
そんな彼に対して心残りがあり、今の僕に出来る事をしようと思った。
急遽対局前日に時間を作ってもらい、激励も込めあの日の『約束』を果たす事となる。
そして3/20…山口大和プロは日本プロ麻雀協会主催のタイトル戦である『第14回日本オープン』でオーラス跳満ツモ条件をクリアし見事、逆転優勝を決める。
山口大和プロと共に、初決勝で初タイトル栄冠という28期生の阿部謙一が彼の軌跡と魅力に迫っていく。
とその前に、事前にリサーチした山口大和プロの基本スペックを公開。
名 前:山口 大和 
所 属:C3リーグ 三段 26期生 
身 長:186cm
血液型:A型
出身地:秋田県
部 活:サッカー部 ポジションGK
資 格:調理師免許
愛 車:PS250
趣 味:料理 ラーメン食べ歩き
前 職:モデル
現 職:麻雀講師
苦 手:お酒
麻雀との出会い:高校時代に雪国ならではの室内遊戯
好きな手役:七対子
前職がモデルという異色の経歴を持つ山口プロ。
背も高くて甘いマスク、モデルだったのも頷ける。
当時の写真をお借り出来たのでご紹介。
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イケメン過ぎる…
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オーディションではあの妻夫木聡さんと一緒だった事もあるらしい…
桜が満開を迎えた4月某日都内
イクメン雀士(自称)からイケメン雀士への優勝インタビューが始まる。
阿部「山口プロ、日本オープン優勝おめでとうございます!!」
山口「ありがとう、チャンピオンに続いたよ!!」
阿部「タイトル獲るとその…鳳凰位とか十段位とか、なんて呼べばいいのかな?」
山口「オープン様って呼ばれたよ笑」
阿部「なるほどー笑」
   
プロアマ混合でのタイトル戦、そして日本プロ麻雀協会主催のタイトル戦という事で不慣れな部分もあった中で、初決勝からの価値ある優勝、対局前の心境などを聞いてみた。
山口「麻雀を楽しむ事だけ考えたよ。いつも教室でみんなに伝えている事だしね。」
僕自身、講師養成講座のOJTで何度かその光景を目撃していた。
山口プロの教室は活気があり、生徒さんが楽しそうに学んでいる姿がとても印象的だった。
麻雀はとても楽しいゲーム、その事を多くの人に伝えていきたい。
その想いの先にあったのが講師としての山口プロなのだ。
山口「社会に貢献しているって自信を持って言える!!」
麻雀教室の帰り道こう言っていた。
自分自身に誇りを持ち、前向きな彼がとても羨ましく思えた。
昨年惜しくも準決勝で敗れた日本オープン、今年は1回でも多く麻雀がしたいという気持ちで対局に臨み決勝への椅子を勝ち取る。
1回でも多く…この事も教室で伝えていた事だった。
続いて対局について聞いてみた。
山口「対局ではどっしりと構え、腰を据えて打とうって思った。」
牌譜データを基に、それが実践された局をピックアップして貰った。
1回戦 南3局 東家 29,500点 トップ目 ドラ発
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1枚目の南を見送りドラの発を暗刻にし上の牌姿へ
この形であれば2枚目の南はほとんどの人が仕掛けると思うのだが山口プロは違った。
山口「急所は七筒、それ以外は仕掛けない。」
カン七筒のチーテンを取り四万ツモの4,000オール、この半荘の決定打となりトップ。  
五万六万四筒五筒六筒南南発発発  チー七筒 左向き六筒 上向き八筒 上向き  ツモ四万
次の場面
4回戦 南4局 北家 35,900点 トップ目 ドラ北
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3回戦終了時のトータルポイント
小山プロ +77.0P
山口プロ +34.0P
松崎さん +12.9P
坂本プロ ▲123.9P
4回戦オーラスでは、トータル首位の小山プロとの差は僅か100点。
ここで小山プロにトップを取られると最終戦は厳しい条件となってしまう。
南を仕掛け、一翻確定させたい局面でも自分のスタイルを貫き300・500、トップで4回戦を終える。
四万五万六万七万八万九万六索七索八索二筒四筒南南  ツモ三筒
4回戦終了時のトータルポイント
小山プロ +92.5P
山口プロ +91.0P
松崎さん ▲34.0P
坂本プロ ▲149.5P
上位2人が抜け出し着順勝負となった最終戦。
小山プロが東場で順調に得点を重ねるも、南場では山口プロが追い上げを見せる。
そして運命のオーラス、それぞれの持ち点は小山プロ42,000点 山口プロは28,300点
親番である小山プロは伏せれば優勝、対する山口プロは満貫直撃か跳満ツモ。
小山プロは危険牌を先に処理し流局狙い、山口プロは11巡目にテンパイも条件を満たしていないので手替わり待ちのところ13巡目に下記の牌姿となる。
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跳満ツモ条件をクリアするには2つ、山口プロは長考に入る。
二筒の暗カン→リーチ
ドラの五筒切りリーチ
小山プロの手牌は見えないとして、関連牌は一筒2枚、三筒2枚、四筒4枚、五筒3枚、六筒3枚見え、皆さんならどちらを選択するだろうか?
インタビュー前にアンケートを取ってみた。
二筒暗カン→8人  五筒切り三色→2人
カンドラ、カン裏ドラ期待、六筒のアガリ逃しが嫌というのが主な理由であった。
山口プロの選択は五筒切りリーチ。
そしてラス牌の三筒を一発ツモ、山口プロの優勝で幕を閉じた。
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勝負の世界にifはない、しかしここでは敢えてifの世界に踏み込んでみたい。
小山プロが手組みをしていると最終手牌は、
三万四万五万五索六索七索三筒三筒五筒五筒六筒七筒八筒
もしくは
三万四万五万五索六索七索三筒三筒五筒六筒七筒八筒九筒
ドラを打ち出さない前者の方が多いように思える、そうすると山口プロの打五筒が放銃となっている。
また、小山プロが手組みをしていなく、二筒を暗カンしているとリンシャン牌は三万、恐らくチーが入る。
山口プロの三筒は食い取られる形となっていたという。
(牌譜検証の為、協会の方が牌山を確認したそうです。)
※槓裏に一筒があったので山口プロはどちらを選択しても優勝であった。
小山プロの選択を否定するつもりは全くない。
むしろ5回戦すべてプラスで終えた部分を讃えたいと思う。
半数近くの人が同じような選択をしたように思えるが、勝負の結果を委ねた者と最後まで諦めなかった者の差はあまりにも大きかった。
どちらにも優勝チャンスがあった事を僕は忘れない。
山口プロに五筒切りを決断するに至った経緯を聞いてみた。
場況からアガリがあるとするならば六筒ではなく三筒、もう1つは『2つの条件ではなく1つの条件』にしたかったとの事、こちらは瀬戸熊プロが言っていたそうだ。
具体的には二筒暗カンだと一発裏or裏裏、五筒切りだと一発or裏が条件となる。
目に見えないものを2つ追わないという事だ。
冷静な状況判断、先輩プロの教えを実践できた五筒切りだった。
『死ぬまでにタイトル1つは獲りたい。』
プロである以上タイトル獲得は大きな目標であると同時に夢でもある。
優勝の余韻にもう少し浸っていたい頃だと思うが今後について聞いてみた。
山口「プロとして本当のスタートラインに立てた。 講師としても選手としても、これからどうしてくかが重要だと思うんだけど、今までの自分がいたから今の自分がいる。だから基本的な部分は崩さないでやっていきたいと思うよ。』
この言葉はとても共感できた。
大局観・状況判断などは日々実戦で培われるモノ、一般的な麻雀プロと比較すると打数は及ばない。
代わりに、対局の迎え方や気持ちの作り方など、そういった部分をしっかり持っている。
麻雀を打てる喜びに込められる一打、麻雀に身を置いている人には感じ得ない想いだと思う。
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お酒は苦手なのでお茶を飲んでいる。
最後に、教室の生徒さんと若手プロにメッセージを頂く。
山口「教室の生徒さんには優勝の報告ができて良かった。たくさんのお祝い本当にありがとうございました。これからも麻雀を楽しんで下さい。」
山口プロのSNSでは、生徒さんからの心暖まる寄せ書きなどが公開されていた。
今回の優勝は生徒さんも自分の事のように喜んでくれたに違いない。
山口「チャンスは待っていても来ない。受け入れる準備と見つける努力、これはプロとして当たり前の事。」
これは人それぞれ違うと思うので自分に合った方法でいいと思う。
自分に合う方法が見つかったらそれをやり続ければいい。
違ったらまた探す、その繰り返しだと思う。
阿部「今日はありがとうございました!!」
インタビューが終わりかけた瞬間…
山口「ひとつお願いがあるんだけど。」
阿部「???」
山口「ラーメン食べに行きませんか?」
そこは新小岩にある超有名なラーメン屋で常に行列が絶えない。
僕の決勝戦前に2人で食べたラーメン、そして先日果たした『約束』がラーメンを食べに行く事だった。
そしてお互い初決勝で初優勝、縁起のいいラーメン屋である。
山口プロは4/28に麻雀最強戦2016~修羅の道~への出場が決まっている。
僕は2つ返事で了承した。
ラーメン食べたから優勝だなんて…と笑う人もいるかもしれない。
ただ僕達にとってそれは紛れもない真実であり、それをひとつの手段として捉え実践しようとする気持ちが大切だと思う。
僕が彼といて心地良い気持ちになれるのは、そういった部分が似ているからかもしれない。
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『神は細部に宿る』
山口プロはきっと他にも自分での決め事をしっかりとやり遂げているはずだ。
何かを信じてやり遂げれば必ず正しい選択ができる!!
オーラスでの五筒切りからの三筒ツモがその事を証明してくれたような気がする。
2人がラーメンを食べ続ける限り活躍は続く…
最後までお付き合い頂きありがとうございました。