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プロ雀士インタビュー

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第163回:第7期麻雀グランプリМAX優勝特別インタビュー 佐々木 寿人  インタビュアー:日吉 辰哉

2017/04/26
インタビュアー:日吉 辰哉


インタビューも終わりに近づいた時、男は絞り出すように口にした。

「決勝戦の麻雀は自分の理想的なものではなかったかな。僕らしくなかったかもしれない。それだけ必死だったんですよ。そこをお伝えできればいいかなとは思いますね」

プロデビュー直後からテレビ対局において華々しい活躍。
スポットライトがよく似合う男も連盟G1タイトルとは無縁だった。
日本プロ麻雀連盟入会11年目。G1タイトル戦、初優勝。

今回のインタビューでは人知れず悩み続けたであろう男のこれまでの軌跡に迫りたいと思う。

 

 

【フレーフレーお父さん】

 

日吉 「グランプリMAX優勝おめでとうございます」

佐々木「ありがとう!」

日吉 「決勝戦では、娘さんからもらった手紙をお守りとしてポケットに入れて対局されたと伺ってますが」

佐々木「そうなんだよ。こういうのは効くよね。モンド杯の決勝の時にも入れてたんだよ」

 

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ご存知の方も多いと思うが、佐々木の奥さんは日本プロ麻雀連盟の手塚紗掬プロ。そして7歳になる娘さんがいる。この手紙は娘さんが5歳の時に書いたものであり、佐々木はそれをとても大事にしている。

日吉 「娘さんも応援してたんですか?」

佐々木「パソコンの前で応援してたらしいんだよね。フレーフレーお父さんって。こりゃ負けらんねーなって」

日吉 「いいですねー」

佐々木「娘は麻雀わかんないのにね。嬉しかったよ」

日吉 「娘さんを労ってあげましたか?」

佐々木「決勝戦の翌日、川に行って一緒に遊びましたね。勝ったら一緒に遊ぼうって約束してたんだよ。娘の力は大きかったからね」

麻雀プロの厳しい顔から父親の優しい顔になる。普段の佐々木からは想像できない一面である。

日吉 「普段はどんなお父さんですか?」

佐々木「かわいいから甘やかしちゃうんだよね。だから娘も甘えてくる。だけど躾も大事でしょ。その辺りは嫁がフォローしてくれてるよね」

日吉 「お父さんは甘やかしているわけですね」

佐々木「僕も厳しいところはありますよ。礼儀とか挨拶はしっかりしてほしいなと。やっぱりそういうことって大事なことだよね」

今回決勝で敗れた白鳥が言ってたことがある。
「寿人さんって無礼な人だし、言葉遣いが悪い時もあるけど、先輩に対する礼儀とか、社会のルールとかはしっかり守る人だよね。本当に真面目なんだと思うよ」

今回のインタビューでも端々に強気な寿人節が飛び交う。
それと同時に、言葉を選び適切に返答しようとする側面も伺える。
佐々木の人柄は世間に十分に認知されてるであろうが、今回のインタビューはその辺りも楽しんでいただければ幸いである。

 

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【苦しい時期があいつを育てた】

 

日吉 「少し前の不調が信じられないくらい最近好調ですが、何かきっかけがありましたか?」

佐々木「もともと力はあるんだよな」

日吉(おっ!早速の寿人節ですね)

佐々木「結果が出なかった時は若干打ち方が狂うんだよね。例えば手牌を目一杯に構えられなかったりして徐々に調子を崩していく。だから自然に打って今まで結果が出ていた時の打ち方をするしかないとこにいきついたんだよね」

こう聞くと鋭い攻めを得意とする佐々木の麻雀を想像してしまう。
しかし決勝戦の麻雀は、明らかにそれとは違うものだった。

ここ数年の佐々木は好調とは程遠いものだった。
31期鳳凰戦A2リーグにてA1昇級を目前にして無念の残留。
翌年の32期鳳凰戦A2リーグでは序盤戦から苦戦をしいられる。後半の巻き返しも及ばずまさかの降級。
更に33期鳳凰戦B1リーグ前期では平凡なポイントでの残留。
そして遡ること半年前。33期鳳凰戦B1リーグ後期、第2節終了時に▲70ポイント。16名中15位という成績だった。

そんな折、私は女流桜花の実況・解説で佐々木と同席した。
放送開始前、解説室には2人だけである。そして佐々木はつぶやいた。

「俺もうダメだ。ダメダメ。ホントにバランスが悪いんだろうな・・・情けないよ。どうなってんのかな・・・」

こんな佐々木の横顔を見たのは、麻雀界広しとはいえ私だけであろう。
しかし佐々木はこの後、残り3節で280ポイントという驚異的なポイントを叩きだし1位でA2リーグ復帰を果たす。
あの苦しそうな顔を見ていた私には何が起こったのか理解できず、そして信じられなかった。昇級直後、復調の要因を聞く機会があった。そして佐々木はこう答えた。

「人のアガリを見るようにはなったかな。結果を待って受け入れるようにはなったね」

佐々木と親交の深い現鳳凰位・前原雄大はこう言う。
「苦しい時期が人を育てる。苦しい時期があいつを育てたんだよね」

佐々木「その通りだよね。ブレーキの性能が良くなったかな。負けていた時は突っ込み過ぎてたよ。もっと長い目で見なきゃいけないのに、性格的に一発勝負が好きなんだよね。その辺は成長できたのかな」

日吉 「雀風、雀質が変わったんじゃないかと多方面で聞きますが」

佐々木「日本プロ麻雀連盟公式ルールは変わった、WRCルールは変わんないね」

日吉 「どう変わりました?」

佐々木「手役重視になったかな」

雀風、雀質が変化した印象があるのは、手役を狙うことによってこれまで以上に押し引きが明白になったのだろうか。

日吉 「以前はスピード重視、今は手役重視と。それ以上に受けの強さを感じますが、ひょっとして守備覚えましたか?」

佐々木「おいおい、守備は昔から強いんだよ。やらないだけで、やろうと思ったらなんでもできるんですよ」

日吉 「本当かなー?」

「寿人はね決勝戦では自分のやりたくない麻雀をやったんだと思う」

これもまた前原の言葉である。
今回の決勝戦。それを象徴する1局がある。

 

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佐々木「勝又がこんなの見たことないって言ってたんだよね。こんなのオリたことないもん」

三色の1シャンテン。攻撃の選択をする方も多いのではないだろうか。
佐々木は親の白鳥のリーチに対して現物の五筒を抜いてオリる。仮に真っすぐ打ってもテンパイはしなかった。

 

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佐々木「白鳥のリーチはもちろんだけど、ウッチー(内川幸太郎プロ)にも気配あったんだよね。ここは勝負所じゃないしね。苦しい時期が大事なことは本当に良く分かった。今までなら絶対に勝負してたよ。何で早く気が付かなかったのかな。若い頃からよく言われてたんだけど、人の話も聞けなかったしな・・・」

日吉 「それが若さかもしれませんよね」

佐々木「だね、最近は人の話も聞けるようになったしね」

日吉 「本当かなー?」

 

 

【勝つためにオリます】

 

日吉 「決勝のシミュレーションはしてましたか?」

佐々木「決勝が終わった翌日以降のことを考えたんだよね。負けた時のことを考えると非常に気分が沈むなと。だから結果にはこだわろうと思ってた。負けたら何も変わらない。絶対に負けちゃダメだって。特に白鳥みたいな若造に負けると鼻高くなって、次の日から屁理屈ばっかり言われるしな」

日吉 「普段から熱い麻雀談義を繰り広げて小競り合いしてますもんね。今回の結果を受けて白鳥はおとなしくなりましたか?」

佐々木「全然なってない。きっと負けたこと忘れてんだよ」

日吉 「いやぁ、悔しくて寝むれなかったはずですよ」

佐々木「今回は白鳥の供託取りが上手くいった場面もあったよね。でもそれ自体に打点力があるケースは少ないでしょ。局面を制するのは上手いかもしれないけど、俺は1回大きなパンチを食らわせてやろうと思ってたね。」

日吉 「供託だけで15,000点以上取ってましたよね」

佐々木「まぁ供託が白鳥の生命線だからな。実は予選もそうだけど、リーグ戦も調子よかったから決勝戦初日に100ポイント勝とうと思ってたんだよね」

日吉 「へぇ、それは意外ですね。丁寧に打っている印象でしたけど」

佐々木「途中でウッチーにアガリ牌を喰い流された局面があるんだけど、あれがなければ100ポイント勝ってたかもしない。意識してたのは相手の親を出来るだけリスクなく落とす。そこに気を使ってましたね。この局なんかはうまくいったかな」

 

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アガリ役はピンフ。鋭い攻撃的な麻雀を打つ佐々木からは非常に地味に感じる1局だが佐々木はこの局のことを嬉しそうに話した。

佐々木「基準は親において、テーマは親落とし。7巡目でより安全な一索を残すことも考えたんだけど、親には通っている六索を残したんだよね。ターツの振り替えはもちろんだけど、やっぱり親の現物だから残せたんだよ。アガッた時の感覚は非常に良かったよ。ギリギリの選択だったね」

 

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日吉 「意外としっかり考えてるんですね!」

佐々木「あたりめーだろ!」

日吉 「失礼しましたー。麻雀の内容で、視聴者の寿人さんに対するイメージを裏切ることに対するプレッシャーみたいなものはなかったですか?」

佐々木「僕はそこにこだわってないですね。結果出てこそだと思ってるから。自分がそうしたいからそうしてるだけですよ。攻めダルマと言われてるから攻めなきゃとかはないですよ」

日吉 「最近鳴いてもオリてますもんね」

佐々木「オリてる、オリてる。今後も勝つためにオリます!でも基本的にはオリないんだよ。7、8割はオリない。でもたまーに、こりゃ見合わねーなって時はありますよね」

 

 

【勝負を焦るな、ぐっと我慢だ】

 

日吉 「見事な優勝でしたが敗因となりえた局はありましたか?」

佐々木「我慢しきれなくてリーチ打った局があってね」

 

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佐々木「1巡ヤミテンにしたんだけど思い直してリーチしたんだよ。ヤミテンならすぐアガれてたと思うんだよね」

佐々木のリーチ宣言によりアタリ牌を柴田が止める。そして追っかけリーチの白鳥が3,900オールのツモアガリとなった。

 

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日吉 「ヤミテンにした理由は?」

佐々木「安全に局を消化できれば1,300でOKと思ってたんだけど、相手の手を進めるのが嫌でリーチしちゃったんだ。6巡目に発を切る手もあったんだけどね。とにかくこういうのは危ないよ」

 

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日吉 「勝因となった局は?」

佐々木「7回戦南4局1本場の三色は大きかったけど、前原さんはその前の局じゃないかと言ってたね」

日吉 「あの局は絶対行くと思ってましたけどね」

 

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佐々木「ウッチーの捨て牌から字牌があてにならないと思ってたのよ。テンパイした時から東が出てくれたらラッキーくらいにしか思ってなかった。だから冷静に考えられてたんだよね」

日吉 「これっていつからオリれるようになったんですか?」

佐々木「今回が初めてじゃないかな。今まで行ってたでしょ」

日吉 「間違いなく行ってましたね。オリたの見たことないですよ」

佐々木「何回も自分に言い聞かせましたよ、負けたらだめだよって。負けたらだめだから六索行っちゃだめだよって。勝負を焦るな、ぐっと我慢だと」

そして次巡テンパイ復活。待ちは五索八索。先ほどよりは期待できる待ちかもしれない。それでも佐々木はその後、三索を掴まされ再度オリを選択。

 

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佐々木「五索八索出してくれって願ったよ。でもね・・・」

 

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トータルポイントで白鳥に首位の座を明け渡し焦りもあったであろう。
しかし佐々木の脳裏にはもう一つの思考があった。

佐々木「でもね・・・一発勝負ではないでしょ。半荘もう1回あるしなって」

次局、三万を引きアガった佐々木の手が卓上で踊った。

 

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佐々木「今回の決勝戦で一番見直した場面はこの一連のところだね。ビタ止めの寿ちゃんからの手役派の寿ちゃんだよ!自分を現した2局だね」

日吉 「そうなるとチームガラクタ引退じゃないですか?これはチーム繊細ですよ」

佐々木「いやいや進化形なのよ。ガラクタの進化は繊細なのよ。前原さんも自分のこと繊細だって言うでしょ」

日吉 「言ってますね。決勝メンバーの中で一番繊細で安定感が合ったように感じますね」

佐々木「日吉君、やっと気付いたかね!」

日吉 「やっとて・・・今回初めて見ましたから・・・」

 

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【自分の麻雀を通じて】

 

佐々木「個人的に面白い決勝戦だった。でも自分らしくはなかったかもしれないね」

日吉 「今回の勝ち方が今後の麻雀に影響しないですか?」

佐々木「決勝だから我慢できたんだよね。僕は頭が良くないから今回のことは忘れちゃうよ。くたびれましたよ、攻める方が楽だもん」

日吉 「やはりガラクタが性に合いますか?」

佐々木「麻雀界がガラクタで満たされれば良いなって思いますよ。総帥とこないだ話したんですけど、今年のG1タイトルは全部ガラクタが獲っちゃおうって」

日吉 「寿人さんが思うガラクタって何ですか?」

佐々木「前原さんがよく言うのはきちんと放銃してきちんとアガるってこと。別に愚形リーチばっかり打っているのがガラクタじゃないしね。普通の人が行けないとこ行って特大トップ取るんだよ」

前原は今回の決勝を観戦しこう評した。
「寿人は2つ目のG1タイトルを獲れるかが大事だよね。そして寿人なら獲れるだろうね。次はガラクタで獲ってほしいよ。でも僕も鳳凰戦はいつもの自分の麻雀ではなかったんだよね」

自分の理想通りの勝ち方、自分の型で勝つことの難しさ。
前原と佐々木の話を聞き、そんなこだわりは必要ないのかもしれないと感じさせられた。

佐々木「柔軟さだよね。総帥とは共に頑張っていきたいですよね」

日吉 「いきなり鳳凰位と肩ならべましたね。今後は更に進化した佐々木寿人が見られるわけですね?」

佐々木「自分しか打てない麻雀で勝ちたいよね。ファンの方が求めている麻雀で勝てるのが理想だし・・・」

そして佐々木は黙り込んだ。
続けて絞り出すように冒頭の言葉を口にしたのだった。

連盟入会から11年目にして初のG1タイトル獲得。
11年目での初タイトルが早いか遅いかはわからない。
しかし鳴り物入りで連盟に入会した佐々木には先輩からの期待と周囲からの妬みが混じり合わさり想像以上のプレッシャーがあっただろう。
プロ連盟のリーグ戦、タイトル戦で苦戦が続くなか、テレビ対局で活躍すればするほど、それは佐々木にとって大きくのしかかっていったはずだ。

佐々木は普段から冗談交じりに、時には真剣に強気な発言を繰り返す。いわゆる寿人節である。
しかし、それは厳しい麻雀界で生きていく自分を鼓舞するために発せられていたのかもしれない。

その上で今回のタイトル獲得はこれまで先行していた知名度に、11年目にして本当の意味で実力の裏打ちがされた瞬間なのだろう。

佐々木「随分遠回りしましたね。もどかしい時期を過ごしていましたけど、お世話になった先輩方にやっと少しだけ恩返しできたかなって。これで終わることなく、いろんな対局あるから出たものは勝ちますよ」

日吉 「ファンの反応はいかがですか?」

佐々木「長いことかかりましたけどずっと応援してもらえてありがたかったです。SNS等でそういう声が沢山届いてますよ」

プロ連盟入会前、いわゆるアマチュア時代から佐々木の実力は多方面に響き渡っていた。
何度もプロ連盟入会を勧められるも佐々木はそれを断り続けた。
プロ連盟に入会していなければ、現在の佐々木はいかに・・・

佐々木「麻雀は打っていると思うよ。ただ、どうなってたんだろうね・・・」

本人談の通り麻雀は打ち続けているのかもしれない。
しかし麻雀プロの道を選択していなければ、佐々木の麻雀が人を魅了し、そして人が歓喜することはなかっただろう。
今ではその姿を闘牌を、そして勝利を皆に喜んでもらえる。佐々木は連盟に入会したことにより、こんなにも影響力のある人間に変わったのだ。

佐々木「人との出会いは大事ですよね。連盟に入ってなかったらこんなことはなかっただろうし。今後は自分の麻雀を通じていろんなことを発信できたら良いよね。自分の攻める姿勢や、いらない牌を切る胆力が皆さんの力に少しでもなれたら嬉しいよ」

 

 

【涙はまだ先だよ】

 

日吉 「まもなくマスターズですが、好調だしあるんじゃないですか?トーナメント得意だし」

佐々木「俺は歩くトーナメントだよ」

佐々木はトーナメント形式の対局で全く勝てないことは有名な話である。

日吉 「今回初めて勝ったくせに・・・」

佐々木「バイオリズムが良い時に勝っとくのが大事だしな!」

日吉 「今年は僕もやりますよ。どっかで絶対寿人さんと対局しますよ。リーグ戦は無理ですけどね」

佐々木「待ってるよ。当然勝ち上がってこないと思うけどな!そういえば連盟ウィークリーで泣いてるような写真あったけど泣いてないからな。目を掻いてただけだから。ふざけた写真使ってんじゃねーぞって思ったよ!」

日吉 「実際どうなんですか、初のG1タイトル感動しませんでした?」

佐々木「涙はまだ先だよ。これで終わりじゃないんだからさ」

最後の質問にそう答えた佐々木の戦いに終わりが訪れることはあるのだろうか。
これまでは自身のために打ってきた麻雀。今後もそれは変わらないのかもしれない。
そして、それと同時に佐々木はこれからのプロ連盟の屋台骨を支えていく存在である。
潜在的にでも責任というものを背負った時、それは変化していくのだろうか。

自身を【覇道】と称する佐々木が涙する日。
きっとその涙は自身のために流すものではないように思う。
そんな日が訪れるのもそう遠くないのかもしれない。

 

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