プロ雀士インタビュー

プロ雀士インタビュー/第164回:第20回BIG1カップ優勝特別インタビュー 奈良 圭純  インタビュアー:安村 浩司

「奈良の思考が重くなっている」
これは6年前、奈良圭純プロが初タイトルである麻雀マスターズを獲得した際の、瀬戸熊プロが書いた観戦記の一文である。
第20期麻雀マスターズ決勝観戦記 瀬戸熊 直樹
思考が重くなる…道中リードし初優勝を前に、様々なプレッシャーから判断能力が落ち、気持ちが守りに入っている状態のことだ。
ニュアンスは様々だが、麻雀プロは思考が重くなる生き物なのである。
その重圧を乗り越え、初優勝を果たした奈良プロ。観戦記では「想いの強さと普段の稽古が栄冠をもたらした」と締められている。
 

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第20期優勝の瞬間

 
それから6年。
今年3月、麻将連合主催の第20回BIG1カップにおいて、奈良プロが再び優勝という栄冠を掴んだ。若くして2つめのタイトルである。
今回のインタビューでは奈良プロの喜びの声と共に、マスターズとの比較を交え、タイトルを取る秘訣をお届けしたいと思います。
都内の居酒屋で待ち合わせ
安村「奈良さんお疲れ様です」
奈良「オーツカさんです」
安村「今日はよろしくお願いします。BIG1の事に入る前に、せっかくなので改めて奈良さんのことを教えてください。まず自己紹介をお願いします」
奈良「22期生B2リーグ所属、青森県出身なのに名前は奈良です。好きな牌は白一索です。こんなので良い?」
奈良プロはどちらかというと口数は少なく、寡黙で真面目に見えるタイプの人だ。
会うたびに人見知りになっていくと某プロが言っていた。
そんな奈良プロだが、お酒の入った時には普段の3倍増しで話してくれる。
本当はお茶目で、最後は同じことを何度も言うようになるが、楽しいお酒の奈良プロと飲むのが好きだ。
奈良プロの奥深さを知るにはお酒の席がおすすめである。
安村「そうですね、では麻雀との出会いを教えてください」
奈良「麻雀は高校生の時に覚えて、フェンシングの部活の間に毎週やってたよ。その後、美容師の専門学校に通ったのだけど、その頃から麻雀店に遊びに行くようになった。」
安村「フェンシングに美容師ですか。小さい頃から目指していたのでしょうか?」
奈良「中学生の頃はバンドマンになりたかった。そこから美容師になって、今やっているのが麻雀プロ。麻雀プロになるのは想像もしてなかったよ。」
安村「そう考えると不思議ですよね。」
奈良「自分の頃はいなかったけど、今は映像対局が増えてきたから、子供の頃から麻雀プロになりたいという人が出てくると嬉しいよね。」
安村「プロを目指すきっかけは何かあったのでしょうか?」
奈良「美容師になって2年目の頃かな、朝8時半から23時まで働いて、休みも週1回でその休みも勉強会とかで、麻雀が全然打てなくなって、すごいストレスをかかえたんだよね。ある日、我慢できなくなって麻雀店に行くともう楽しくってさ。」
安村「その麻雀楽しすぎる気持ちわかります。僕も23、4の頃は麻雀店に入り浸ってました」
奈良「もう休みの度に行ってた。その頃に麻雀店で二階堂瑠美さんを見てプロの存在を知ったんだ。もうその年には美容師やめて、プロ試験受けてたよ。」
安村「昔から行動力あったのですね」
昨年の第19回より久しぶりにBIG1カップに日本プロ麻雀連盟も参加することになり、奈良プロも参戦したのであるが、出場していない連盟員も多数いる中で、この行動力は見習うべき長所だと思う。何より出場しないと勝つことも出来ないのだから。
安村「改めてBIG1優勝おめでとうございます」
奈良「ありがとう、嬉しいよ」
安村「羨ましいなーこれで2つ目ですよね?」
奈良「うん。あんまり言うと怒られるから言わないでおくけど、若手の中で2冠は少ないよ(笑)」
安村「言ってますね(笑)でも2冠は確かに他に思い浮かばないかも」
奈良「マスターズ獲って5年以上経つし、一発屋と言わせたくなかったのも強かったから、優勝出来て良かったよ」
安村「マスターズを獲ってからもうそんなに経つのですか。その頃と何か違いはありましたか?」
奈良「そうだね。マスターズの決勝に残った時はこんなチャンス二度と来ないって思ってたけど、幸運にも優勝できて、こんなことってあるんだなっていう感じだった。でもそれからは、そのチャンスがいつ来てもいいように、普段から出来ることをやっておくことを心掛けていたよ。」
安村「なるほど。そして今回チャンスが巡ってきたわけですね。決勝に残ってからは具体的にどのような準備されましたか?」
奈良「決勝が決まってからは、会長や先輩方に獲ってこいと言われて、余計にやってやるぞ!という気持ちになったのは覚えてる。準備としては決勝前日にマスターズの決勝の牌譜を見てた。今見ると当時わからなかった自分の下手さがよくわかったよ。でもあの頃の心境を思い出して、結果的には経験として今回の決勝に生かせたと思う。あとはイメージトレーニング。自分が凄いアガリを決めるシーンや、優勝する姿をとにかく思い浮かべた」
安村「スポーツ選手がやる自己暗示みたいなものですか?」
奈良「そうそう、展開を考えたり牌譜をみたりもしたけど、プラスのイメージを持てるようになるまで何度も自分のスーパープレーとか、かっこいいシーンを思い浮かべたよ。決勝の前には頭の中が、絶対自分が勝てるという状態になってた。」
奈良プロの人間らしい一面を見た気がした。
勝手な憶測だが、麻雀プロの多くはプロ入り当時が一番自信のある時期かもしれない。そこから実力が足りてないことに気が付いて、自信の無い中で頑張る人が多いのではないだろうか。
プラスイメージを持つ準備がどのような作用をもたらしているかの科学的な根拠は不明だが、勝負の世界にいる以上、大切な行為の一部であることは確かである。
安村「実際に卓について決勝が始まった時の心境を教えてください」
奈良「蓋をあけると1回戦でラスを引いて、言葉では表しにくいけど、自分でも対局に入れてないことに気が付いた。緊張はしてないと思っていたのに。」
安村「決勝の重圧で思考が重くなっていたということでしょうか?」
奈良「まだ自分には分析できないけど、麻雀に入れないことは中々ないから、決勝のプレッシャーなのかな。でもそのラスで開き直ることが出来て、それ以後はただ優勝だけを目指してがむしゃらに戦えたと思う。」
安村「内容で印象に残っていることや勝因はありますか?」
奈良「勝因は正直分らない。自分はまだ内容で魅せられるプロじゃないと思っているので、とにかく結果だけを考えて戦った」
安村「魅せられるプロじゃない?」
奈良「うん。魅せて勝つのはとても大変なことで、今の自分にはまだ難しいと思っている。観てくれていた方にはつまらない麻雀に見えたかもしれない。でも負けはゼロで、内容が伴わないとしても勝ちたいと思って対局していたから、勝ててホッとしたし本当に良かった。」
安村「内容と結果は難しい話ですけど、今回、奈良さんが優勝した結果による反響は各方面であったと思います。」
奈良「そういってもらえると嬉しいよ。もちろん今後の課題として、自分にしか出来ないアガリや守備を表現できるようにレベルをあげていきたい。」
安村「なるほど、レベルアップのために普段から取り組んでいることはありますか?」
奈良「人から言われたことはどんなことでも聞き入れて、考えてみる癖をつけてるよ。考え方が凝り固まったら損でしかないし、自分が一番上手いとも思っていないから、人の考え方を取り入れることで、常に選択肢を増やせるようにしていることが一番かな。」
この心掛けは奈良プロが常々言っていることだ。言葉だけでなく、勉強会などで実践しているのを何度も目にしている。
プロは各々自論やベースを持っているので、人の意見を取り入れることは簡単なようで難しいことだと思う。自分とは異なる価値観を持つことの重要さを奈良プロは知っているのだろう。
奈良「もう1つ最近で言うと、スタジオスタッフとして、1年間A1リーグを間近で見れたことがとても大きかった。やっぱりA1は最高峰のリーグだよ。いつかはあそこで対局者として打ちたいよね。」
安村「あの場所とあの対局者ですよね!わかります!」
スタジオスタッフは奈良プロが志願して携わっていることだ。
安村「2つ目のタイトルを取ったことで、チャンスが増えると思いますが、今後の目標をお願いします」
奈良「もっと有名になりたいし、モンドなどのTV対局にも出たい気持ちはあるけど、まずは鳳凰戦のAリーグに昇級することが目標かな。そこが今の一番の目標だから。そして内容でも魅せられるプロになれれば最高だと思う。」
安村「Aリーグですね自分も負けませんよ!」
奈良「そうそう、BIG1を優勝した翌日のお昼に、藤崎さんに「奈良、ハイおめでとう!」ってネクタイをプレゼントしてもらった。その翌日には藤原さんにも。驚いたけど、ただただ嬉しかった。連盟に入ってタイトルを獲れて良かったと。この場をかりてお礼を言わせて下さい」
奈良「今回、BIG1でも多くの方に応援していただき、とても励みになりました。お祝いの言葉も多数いただきましてありがとうございます。今後も頑張りますので、よろしくお願いします」
安村「今日はありがとうございました」
奈良「やすしくん酔っぱらっちゃったよ。もう飲めないよ」
安村「僕もです(笑)」
奈良「やすしくん次行こうず」
安村「はい」
既に思考が軽くない2人は夜の街に消えていくのだった。
 

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