プロ雀士インタビュー

プロ雀士インタビュー/第173回:プロ雀士インタビュー 西嶋 ゆかり  インタビュアー:青山 めぐみ

また同期が1人、タイトルを獲得した。
ある時は経営者、ある時は音楽家、またある時は絵本作家。
果たしてその実体は‥
第15期プロクイーンに輝いた 西嶋ゆかりプロである。
そんなマルチな才能溢れる彼女に、私、青山めぐみがインタビューをさせていただきました。
青山「ゆかりちゃん、インタビュアーのご指名ありがとう!」
西嶋「こちらこそ、引き受けてくれてありがとう!」
青山「とりあえず、プロクイーンおめでとう!乾杯!」
 

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1985年1月3日生まれ
群馬県安中市出身。
北関東支部所属、28期後期。
子供の頃、親戚が麻雀をするほど身近に牌があったそうだ。
その牌の綺麗さに惹かれ15歳で朧げに役を覚え、20歳でルールを知ったという。
青山「プロになったきっかけは?」
西嶋「同じ北関東支部の清水香織さんに憧れてプロになったの。私がプロになったら香織さんと麻雀が打てるって思ったら、プロになりたいって。だから今回の決勝で香織さんと戦えるのが本当に嬉しかった。去年決勝に残った時に〝来年は決勝卓で麻雀しよう〟って電話で言ってくれたの。それで今年、ベスト16でも8でも当たらないで本当に決勝の舞台で戦えるのが夢みたいだったよ。〝後輩が戦いたいって言ってるから一緒に戦うまで負けられない〟って言ってくれたのも。香織さんかっこよすぎて本当にすごい。」
青山「プロクイーン戴冠から三週間くらい経ったけど、何が変わった?」
西嶋「群馬にいるとあんまり実感はないけど、東京に来ると色んな人におめでとうって言われるから、プロクイーン獲ったんだなぁって思ったよ。」
レモンサワーをソフトドリンクのように飲みながら、とっても嬉しそうに答えてくれた。
どうやら、彼女はお酒が強いらしい。
青山「表彰式で泣いてたけど、あの時は何を思っていたの?」
西嶋「あの時は両親の顔思い出してたの。プロになるの反対してた両親が、今年は連盟チャンネルに加入してまで見てくれてたから。2人とも麻雀わからないから、写ったり、実況で名前が出たら〝あ、今名前呼ばれてた〟みたいな確認程度にしかならないんだけど、それでも今この瞬間も見てくれてるんだなった思ったら、なんか泣けちゃったんだー。」
青山「去年は準優勝だったプロクイーン、今年はどんな思いで臨んだの?」
西嶋「去年はよそ行きの麻雀をして負けちゃったから、今年は自分らしく戦おうって決めてたよ。去年の決定戦は茅森さん、宮内さん、和久津さん、童瞳さんってベテラン勢相手で、私なんか戦えるわけないって思ってたの。」
確かに相手全員が完全に格上というのは、そうそうあることではない。
ましてや決勝卓ともなると、いつも通りに打てずに萎縮してしまうこともあるだろう。
西嶋「でも実際試合が始まったらあれ?私意外と戦えてるのかもしれないって思った!」
私とは比べ物にならないほどの強い心の持ち主だ。鉄で出来ているのだろうか。
西嶋「去年の結果が準優勝で終わった時、もしまた決勝に来られたら、戦い方が少しわかったから勝てるかもしれないって思った。それでまた今年決勝まで残れたから、絶対にプロクイーンになりたかった。」
そういいながら、もう4杯目のジョッキが空になりかけているし、アヒージョや焼き鳥、天ぷら、きゅうりやキャベツもどんどん食べる。
この細い体のどこに入っていくのか。というかいつ頼んだのだ。タイトルホルダーは隙がない。
 

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青山「去年の決定戦を経験して、見つけた戦い方とは?」
西嶋「私はうまぶってる下手な人だったの。手役派のフリをして必要な牌を集めてた、手狭に受けるのが上手い人だって思ってた。でも実際は手役って誰でも出来るし、出来なければノーテンでしたで終わっちゃうのは、ダメだと思った。本当に強い人は手なりで進める時と手役で進める時、それプラス相手との距離感を測れる人なんだなって。」
いよいよ5杯目である。永遠にレモンサワーを飲み続けている。もしかしたら途中グレープフルーツサワーだったかもしれない。
卵焼きや明太もちチーズ焼も追加していた。よく飲み、よく食べ、よく喋ってくれる。そしてとっても楽しそうだ。
西嶋「決定戦まで来ると、本当にみんな強いし、強い人達は要所要所を捉えれば勝てるかもしれないけど、私は格下だからたくさんの無筋を切り飛ばして危険牌を通さなきゃ勝てないって思った。」
それは彼女の覚悟だったのだろう。3日間、彼女はその覚悟を最後まで通し抜いた。それもまた、彼女の強さなのだろう。
西嶋「麻雀で大切なことの割合が 経験値や場数、読みの精度、度胸とかだとするなら、私に出来るのは度胸のパーセンテージをMAXにして、誰よりもリスクを背負って戦うこと。他の人と同じくらいのリスクじゃ絶対勝てないと思ったから、戦い抜くことを決めてたの。」
青山「危険牌も打つけど、当たり牌を止める局面も多かったよね?」
 

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全ての人が賞賛した、この北についてだ。
西嶋「対局前に決めていたことって色々あるの。こういう局面になったら、この牌は切っちゃダメ。この巡目はこう打つけど、中盤以降はこうやって打つとか。自分の決め事を守りながらの状況に応じた引き出しの開け方が、今回はすごくうまく決まったの。」
西嶋「魚谷さんのリーチ、北家だからまず北は切らないし、二筒はスジだけどドラまたぎ。ドラ、ドラ跨ぎ、ファン牌で打つと致命傷になっちゃう。魚谷さんは私に放銃してほしい局面だから、絶対に放銃しちゃいけない。この手まっすぐ進めて北を切っても、次がどうなの?ってなっちゃうし、九索は1枚通れば2回切れるから、その優秀さで選んだの。ツモって言われて北を見た時、〝やっぱり当たり‥えぇ、七対子?!その河で?しかも高い!〟って思った。でもあの時魚谷さんが北家以外だったら、北を選んでいたかもしれない」
思えば彼女とは同期ではあるが、公式戦では2回くらいしか当たったことがない。
その時に感じたのは火の玉か、猪か、西嶋かというほど彼女は相当攻撃的な麻雀だったと記憶していた。
が、実際は今年のプロクイーンで戦った時はもっと深みがあったし、攻め気だけではなく、読みや押し引きの全てが圧倒的に強く感じた。
西嶋「私はまだ『自分の麻雀』って言えるものが無くて、感覚的に打ったり、理論的に打ったり、そういうのをいいバランスで打てるようになりたいし、必殺・西嶋スペシャル!みたいな技も使えるようになりたい!色んな人の意見を全部信じて、それを理論化して、データとして、いつか自分の打ち方にしていきたい。」
彼女はそういったが、彼女にしか打てない一打は既に西嶋スペシャルなんじゃないかとも思う。
が、その飽くなき向上心が彼女の麻雀に対する愛であり強さの要因であるのだろう。
青山「プロクイーンという夢を叶えて、これからはどうしたい?」
彼女は荷物からある一冊の絵本を出してくれた。
 

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これは彼女が亡き友のために描いた絵本だという。
西嶋「絵本を描くのも子供の頃からの夢だったし、夢がたくさんあるの。経営者としても力をつけたい。これはいつか健康麻雀店を作るためにも繋がるんだけどね。あとは来年また絵本を出したい。」
 

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彼女はBAMSEというお店を経営している。
お客さんが歌ったり演奏するときには、彼女がピアノかドラムで伴奏をするそうだ。
西嶋「いつか一雀荘一チームとして、群馬県内雀荘対抗戦みたいなのもやりたい!私がプロクイーンになったからこそ叶うかもしれないから、5年後でも10年後でも、もっと群馬に健康麻雀を浸透させていきたい。私は麻雀が好きだから麻雀を好きな人が好きなの。」
たくさんの夢を語る彼女は、燃えるように輝いて美しかった。
彼女の目が潤んでいたのは、シメのたこわさ茶漬けが辛いせいではないだろう。
煌めく炎の様な彼女もこれから先はタイトルホルダーの一員である。
彼女は耳が聞こえなくなり、半年ほど休会していた時期もあるそうだ。
両親に反対されて辛かった時もあるだろう。
大切な友を失くしてしまった悲しみも。
それでも様々な試練を乗り越えて、彼女は美しいくらい強い女性になった。
彼女は来年、ディフェンディングチャンピオンとして決勝卓で待ち構えている。そこに辿り着けるように、私も負けられない。
私だけではなく、全ての女流プロがそう思ったはずだ。それは、西嶋ゆかりという女流プロが強く、輝いているからだろう。
彼女の夢はまだ終わらない。
果てしない夢の道のどこかで、またいつか、一緒に麻雀が打ちたいと思う。
 

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