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プロ雀士インタビュー

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第181回:プロ雀士インタビュー 前原 雄大  インタビュアー:内田 美乃里

2018/04/30
インタビュアー:内田 美乃里


桜の花も蕾に戻りそうな花冷えの夕刻、実家で人寄せがありメニューの1つのナムル3種作りに取り掛かっていた。そんな時ライン着信音に気が付き、発信名を何げなく横目で見た。
「とうとう私も老眼になったか・・」と思った。二度見。
「前原雄大プロ?!」「な・・ナゼ?」
胡麻油が付いたままの手で携帯を取ってしまっていた、かなり動転していたのだろう。

前原「前原ですけど、今大丈夫ですか?」

内田「あ、あの今は大丈夫ではないですけど、手を洗ってからなら大丈夫です。」
・・手を洗いながら、動悸が止まらない。あ!挨拶もしてなかったのでは・・

内田「お疲れ様です、お待たせしてごめんなさい。」

前原「忙しそうですね、時間改めましょうか?」

内田「今で大丈夫です」

前原「そうですか、お電話した用件というのは内田さんにグランプリMAX優勝のインタビューをお願いしたくて」

内田「・・・え?!・・・私に?」

前原「去年の女流桜花を観させてもらってね。もったいないなと思ったのね。インタビューが何か良いきっかけになってくれればなぁと思ってね。斯々然々・・そういうわけでお願い出来ますか?」

内田「あの・・ワタシ連盟に入ってから10年ほど経ちますが前原さんとお話したことがあまりないので・・(しどろもどろ・・)」

今考えてみても大先輩に対してとても失礼だったような気がする。それでも前原プロは何度か連絡を下さり、自由に書いてくれれば良いから・・と礼に欠けた後輩に気を損ねることなく少しずつ自ら歩み寄って下さった。

インタビューは北鎌倉、由比ガ浜。前原プロはよく1人でフラッと海を見に行くと言う。前原プロが敬愛される方の縁のお寿司屋さんがあるそうで待ち合わせは北鎌倉駅となった。(残念ながらお店は週一の定休日)

 

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内田「鳳凰位2連覇に続きグランプリ優勝おめでどうございます!」

前原「ありがとう、観てどう思った?」

内田「前原さん強かったです。」

前原「それだけ?」

内田「“憎たらしいくらい“強かったです!」

前原「あのさ、私のこと嫌いなの?笑」

内田「そういう意味ではないです笑。藤崎さんを応援していたので。前原さんが強過ぎて、スミマセン」

前原「誰を応援していたとしても構わないよ、気軽に思ったままを話してくれていいよ」

本来なら若干面白くないはずだ。それにもかかわらずケラケラと笑いながら「真っ直ぐでよろしい。」と嬉しそうにしてくれる優しさと不思議な包容力がある。
また、前原プロのお話の途中、聞き違いがあったらいけないので、幾度となく
「はい?」「はい?」と私は聞いていた。
すると「滑舌悪いよね~笑ごめんね~」と自ら突っ込みを入れてリラックスさせてくださる。
滑舌に関しては長い年月毎日のように麻雀を打ちながら奥歯をギュッと噛み続けたからだよとおっしゃっていた。スポーツ選手も奥歯が磨り減ると聞いたことがある、妙に納得してしまった。色々とお話しさせて頂くうちになぜか緊張している時間が少なくなっていく。

気を引き締めないと・・。

内田「グランプリはどういう気持ちで臨んだのですか?」

前原「まず、研修生の時からお世話になっている森山会長とG1タイトル決勝であたるのは初めてだったの。だから結果ではなく内容で恩返しが出来たらなと思っていたんだ。」

内田「そうだったんですね」

前原「それとこれはいつもそうだけど、とにかく観ている人が楽しんでくれればという気持ちで打っているよ。それからもう1つ、語弊があるかもしれないけれども、タイトルは誰が獲ってもいいと思っている。タイトルを獲るためだけに麻雀をするわけではないからね。」

内田「はぁ。次元が違います・・(普通タイトル欲しいし・・)」

前原「「勝つだけ」に拘ってしまうと、私だけが思っていることかもしれないけど、視聴して下っている方々に面白い対局がお観せ出来ないと思っているから。」

内田「そういう境地になれるってすごいですね。(自分のことで必死だし)・・」

前原「鳳凰位決定戦で私は16半荘も打って親満を一度もアガってなかったのね。今回のグランプリではバットを長く持って振りに行くイメージを心掛けたのよ。自分のフォームに拘り過ぎるのは良くないと思っているから。新しい試みは常に取り込んで行きたいのね。それでも「普段着」通りの麻雀しか打てないし、よそいきの服では麻雀は打てない。だから稽古が大事なの。稽古そのものが本番だからね」

内田「はい。胸に刻みます。」

内田「初日を終わって大きくプラスで終了しましたが、途中劣勢に立たされた場面がありましたね。」

前原「4回戦だね。」

内田「はい。4回戦の東3局に前原さんは持ち点が18,100でした。勝又プロの親番で勝又プロはホンイツ、ぶつける前原さん。流局かと思われた場面でハイテイ・・」

 

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内田「そのあと迎えた親番で5,800点を出アガった後、次局はしぶとくテンパイし流局、その後は連荘のツモが2回、あっという間の60,000点オーバーでした。その時の親番中にはどのようなことを考えましたか?」

前原「あ、波が来たなと思ったよ。」

内田「波とは何でしょうか?」

前原「麻雀とは波を掴む勝負だと思っているから。ハイテイとかリンシャンでアガるとか特殊役のアガリは波が来る前兆だと思っているからね。」

 

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内田「翌日の最終戦も闘う姿勢を崩しませんでしたよね。」

前原「私自身としては麻雀にセーフティーリードっていうのはないものと思っているからね。初日が終わって家に帰ってその対局を何度か観ていたらお昼近くになってしまってね。だから身支度を整えてそのまま対局に向かったの。そういう意味では私って人よりも体力あるよね。」

内田「そうだったのですか??寝不足ならともかく、一睡もしないで決勝最終日に望むことはしないし出来ないものですけど。」

前原「私には結構普段通りのスタイルだよ。それが自然っていうかその自然体のまま対局に向かえたからね。」

内田「それはちょっと変わったスタイルです笑。ターニングポイントとなった局面はどこでしたか?」

前原「森山会長のメンホン七対子が流局した局を見たときかな。森山会長が白ではなく発を選んでいたらそのあとの展開は違っていたと思うから」

内田「どちらも地獄待ち、ノータイムの選択は潔く、しかし残念ながら次のツモは発でしたね・・。」

 

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内田「前原プロは今後、一打ち手としてどのような集大成の形を見据えていますか?」

前原「牌譜を見て、これは前原雄大のだとひと目で分かるような打ち手でありたいよ。自分がその時その時で信じる麻雀を貫きたいし、打ち抜きたいよ。麻雀人生悔いなく終わらせたいからね。」

内田「それと、次世代の後輩達のためにどのようなことを伝えて行きたいですか?」

前原「新陳代謝がない世界は滅びるからね。これは麻雀業界においても同じだと思うから。これからの連盟のためにも思いっ切り本気で倒しに来て欲しいと思っている。ヒールって負けると無様なだけ、だけどね」

内田「ん~、確かにヒーローは勝ってなおのこと、負けても美しかったりしますね。でも、前原さんのように稀有な強い方がいるからこそヒーローはさらに輝くと思います。」

前原「ヒールで有り続けるというのはつらいことだけどねぇ。」

内田「弱いヒールだったらつまらないじゃないですか。麻雀は常勝できる競技ではないですから前原さんの繊細でありながら超人的な強さをまた見せてください、その強さがすごく羨ましいです。」

前原「私自身は一度たりとも自分を強いと思ったことがないよ」

 

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内田「!!!・・・今日はありがとうございました!」

前原「こちらこそありがとうね!」

内田「あの、ところでいつ海に入るのですか?」

前原「内田さんがさっきコンビニに買い物に行っている間に入ったよ。笑」

前原プロは対局後のインタビューで「稽古をしなくなったらプロを辞めます」とおっしゃった。
その言葉は自身のためだけではない「覚悟」の表れでありとても深く重い言葉だった。

昨年12月女流桜花決勝、また惨敗・・それまでの敗戦とは違いなかなか気持ちの切り替えが出来ずにいた自分が恥ずかしくなった。そして喉の奥が詰まるような自責の念に駆られた。大体において私は「消化できないほどのなにかをきちんと死に物狂いでしてきたのか?・・。」と。
同時に何か震い立たせて頂いたような救いの言葉ともなった。

前原プロが日々膨大な時間と労力を費やし真摯に「麻雀」と合わせ鏡のように「自身」と向き合っていることは周知の事実であろう。
すでに前原プロ自身が高い山であり圧倒的な眩しいほどの強さを見せながら、自分は一度たりとも自分を強いと思ったことはないとおっしゃった。
麻雀とは絶対に極められないもの、それでも極めようという気持ちを持ち続けながら向き合うものだからと。
誰も見ることが出来えない更なる高み(極み)を見つめながら愚直なまでの麻雀への鍛錬を繰り返しながら、掘り下げ掘り抜いてきた前原プロにとっては、今立っているところがたまたま回りの地盤から見れば少し高いところに位置しているだけ。ということになるのだろうか。

 

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