プロ雀士インタビュー

第184回:第27期麻雀マスターズ優勝特別インタビュー 沢崎 誠  インタビュアー:西嶋 ゆかり

沢崎誠プロに初めてお会いしたのは、わたしがプロテストを受ける1年ほど前だったと記憶している。当時のわたしは、連盟のプロテストのことを知り、受験しようか迷っていた。
北関東プロリーグの見学へ行った際、対局後の食事の席に誘って頂いて、そこで初めて沢崎プロとお話したのだった。

縁は異なもの粋なもの。
あれから8年ほどの間にいろんなお話をさせて頂く中で、沢崎プロはわたしの母の高校時代の一年後輩で同じ美術部に所属されていたことが判明した。人との縁は本当に不思議なものである。

そして今回、沢崎プロと同郷、群馬県安中市出身の私西嶋ゆかりがインタビュアーを務めさせて頂くこととなった。

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沢崎プロが群馬在住の頃は、一緒に麻雀を打たせて貰ったり、みんなで食事に行ったり、わたしの演奏を聴きにきて頂いたりとお話する機会が多かったが、最近は年に数回しかお会いできない。わたしもなんだかわくわくしてしまって、待ち合わせよりも早く沢崎プロの道場ゲストを覗きに行った。

道場に着くと、最終半荘の真っ最中で沢崎プロは8万点超えのトップ目。その日の健康麻雀の部で優勝していた。沢崎誠はどこに在っても強い。そして麻雀がとっても楽しそうである。

 

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西嶋「マスターズ、沢崎さん自身のコンディションはいかがでしたか」

沢崎「悪かった。年末に照準を合わせて身体づくりのトレーニングをしているから。試合も大事だけど、運動は一度辞めちゃうとまた始めるの大変だからな。準決勝の時はトレーニングしてクラクラしたので、決勝の前は休んだ。試合行くまでずっと寝てた」

群馬に住んでいた頃の沢崎プロは、毎日5kmや10km歩いていた。歩きすぎて足を痛めたこともあるほどだ。

西嶋「出だしは意識してましたか?初戦12局中リーチもフーロもしなかったのは3局だけでした」

沢崎「そうだね。最初状態は悪かったよね」

西嶋「開局して3局連続流局して、供託も溜まっていくんですけど、その間ずっとリーチかフーロしてましたね。結果、初アガリは沢崎さんの2,900は3,800」

沢崎「そう。いきなり4万点近くなったよな。あれはアガったことに対して貰った点数じゃない、瓦礫の上の点棒みたいな、危ない状況よな」

供託貰えたら普通に喜んでしまう。でも確かに言われてみれば、自分の手牌に対する対価として得た点棒ではない。観戦していて、序盤に沢崎プロが主導権を握ったと感じた人も多かったと思うが、当の沢崎プロは危機感を感じていたのだった。

西嶋「とにかくフーロが多かったですね」

沢崎「うん。誰であっても一人旅なんて絶対許さないもん。それに阿部くんがいたでしょ」

西嶋「やっぱりマークしてたんですか」

沢崎「もちろん。徹底的に親を流しにいく。他に放銃になってもいいと思ってた。阿部くんは吹かせたくないからな。彼とは昔Aリーグでずっと打ってたからな。彼は技術高いしミスが少くない」

沢崎プロは阿部プロマークだろうと解説の瀬戸熊プロも話していた。あえて言葉にするなら、ある種の信頼感みたいなものだろうか。

西嶋「沢崎さんのリーチ判断が印象的でした」
強烈だった初戦南3局のこのリーチ。

 

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武田プロの5面張待ちも掻い潜り、ラス牌の七万を引きアガる。

 

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沢崎「いろいろあるね。例えば誰かが動いた時なんかは行けってサインていうか、運気を感じるわけよ。だからリーチといく。アガれれば急浮上するし、放銃になればその後は放銃しないように何局かはじっと気をつける。最終戦ラス前、四筒七筒待ちのテンパイ入ったでしょ。あれはリーチしちゃダメ」

 

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西嶋「役なしだし、リーチ打つ人もいそうですよね」

沢崎「阿部くんあの手牌で七筒止めたろ。リーチしなくても止まるんだよあの牌が。」

 

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沢崎「リーチを打つっていうのはどういうことかというと、先制してアガリきるということ。あの時は山田君にテンパイが入ってるのを感じていた。じゃあなんでヤミテンなんだろう?と考える。12,000くらいはあるだろうと予想する。ヤミテンのまま押して12,000放銃するのは別にいいと思っているんだよ。でも、自分がリーチをしたことにより追いかけリーチされて、18,000や24,000を打つと状況はガラッと変わってしまう」

その時山田プロに入っていたテンパイはこちら。

 

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沢崎プロは言った。

沢崎「誰かのために麻雀してるわけじゃない。自分で納得のいく麻雀を打つことが一番大事。そしてそれを見たファンの方達が納得してくれることが大事だと思っている」

その局、アガリ牌七筒が続けて河に置かれても沢崎プロは静かに押し続け、結果400・700をツモりアガる。しかし、結果だけでなくその過程を自分で納得できていること、その積み重ねがプロのあるべき姿であると改めて感じさせられた。
もちろん結果も欲しい。正直、出来ることならなるべくたくさん(できれば全部)勝ちたい。しかし麻雀は勝ったり負けたり。勝てたところで、その過程を自信を持って人に語れることこそが誇りである。
とは言え、わたしたち若手にとって、1つでも多く勝ちたいという本音は隠しきれない。

沢崎「勝つことを目指してる訳じゃない。今の子達は勝つことを望んでいる。タイトルを欲しがっている」

(ばれてる。わたしの勝ちたい欲がばれちゃってる…)

沢崎「タイトルは目的ではなく、戦って、あとから付いてくるもの。付録なんだよ。わかるか?じゃあ何が目的かっていうと…」

西嶋「何ですか」

沢崎「決勝で戦うことだよ。」

はっとした。今まで沢崎プロがかけてくれてきた言葉の意味が、そこに詰まっているような気がしたからだ。
当時のわたしには未熟すぎて理解できなかったが、

決勝戦は楽しいぞ
決勝戦に行けるよう精進しなさい

きっとそんな意味が込められていたのだ。

沢崎「みんなが勝ちたいと思ってる中で戦うことに意味があるわけ。予選は予選で凄い難しいんだけど、決勝戦というのはまた特別なの。あそこで楽しむ。麻雀は楽しむものなんだよ」

決勝の解説で瀬戸熊プロも言っていた。「沢崎さんは、自分の選択の結果が悪い方に出ても、そういうのも楽しんでる人だ」と。

昨年9月のこと。
私がプロクイーン準決勝オーラスアガリ勝負で競り勝った後の沢崎プロからのメッセージ。

沢崎『危ない状況は楽しいだろ~。(^-^)/』

目を疑った。

西嶋『まだ手が震えています笑』

沢崎『そういうのも楽しむんだよ。(^.^)♪』

そんなことできる人いるんだろうか。

西嶋「あの苦しさを楽しむのは私はまだ難しいです」

沢崎「今回のマスターズの準決勝も、みんな迫ってくる中で、みんな苦しい苦しいって言うけど、戦ってるんだからみんな苦しいのは当たり前じゃん。僕はいろんなものを見てきた。ある時Aリーグの最終戦オーラスで、南家の荒さんが満貫ツモらないと降級なわけ。南1枚切れでリーヅモダブ南のリーチ打って、それ南引けないと降級なの。でもそれ引くんだよ。確かに苦しいだろうけど、ずっと降級しなかった人間はそういう牌ちゃんと引いていった。だから僕は思ってるんだよ。勝つべき者が勝つって。僕が勝つに決まってる。自分を信じている。だから苦しくないんだよ。」

西嶋「自分で自分を信じる…」

沢崎「自分で自分を信じるにはどうしたらいいか、それは練習量だよ。僕もこの先あと20年は打てると思うけど、若手が育って来ないからな。やっぱ下手だもん。勉強会とかやって細かい技術は覚えるんだろうけど、本当に身についているのかな。麻雀はいろんな要素あるからさ。技術も確かに必要。でも教わって身につくものじゃない練習しないとな。その人の麻雀というのが必ずあるから」

みんな自分の麻雀を探している。そのために若手は皆練習しているはずだ。

しかし、沢崎プロ程のトッププロであっても練習を怠ることはない。この先20年は打てると話されていたが、フィジカル面でもトレーニングに励んでいる沢崎プロのことである。もっと長く第一線で活躍されることだろう。きっと今日もどこかで麻雀している。何もしなければ差は広がる一方である。私たちがその差を縮めていくことはとても難しいが、それでも追いかけていくしかないのだ。

自分の麻雀
自分で納得のいく麻雀
自身が信じるに値する自分
そして楽しい麻雀を目指して。

 

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