プロ雀士インタビュー

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第84回:前原 雄大
「自分がいる世界だけ見ていてもダメなんだよ ・・・」

2012/07/25
インタビュアー:佐々木 寿人


ある朝の電話。

前原「おはよう!佐々木くん。」
佐々木「おはようございます、総帥。何か御用ですか?」
前原「仙台の人間はみんなそうやって話しの腰を折るのか?用があるから電話しているんだろ。」
佐々木「そりゃそうでしょうね。で、何ですか?」
前原「いや、実は頼みがあってさ。」
佐々木「最初から言っておきますけど、めんどくさいのはイヤですよ。」
前原「……今更言うことでもないんだけど、ここまでの会話を聞いただけでお前がどういう人間であるかがよくわかるよ。ほんっとに我ありきだな。」
佐々木「用件はそれだけですか?ならこれで失礼します。」
前原「ここまではただの感想だろうが!じゃあ手短に言うぞ。また俺にインタビューが回ってきたんだけど、インタビュアーをあなたにやってもらいたくてお電話いたしました。」
佐々木「お断りします!」
前原「何で!?」
佐々木「前も言ったと思いますが、僕、脇役嫌いなんですよ。立場が逆だったらお受けしてもいいですけど。」
前原「お前って人のやる気を削ぐことに関して超一流のものを持っているな。電話したことを海よりも深く後悔するよ。第一そんな理由で断るヤツ、日本全国探してもお前しかいないんじゃないの?」
佐々木「わかっていただけましたか。別の人選をされたほうが得策かと思われますよ。」
前原「ところが俺、友達いないじゃん。頼める人がいないのよ。なんとかやってもらえないだろうか?」
佐々木「あれって別に友達である必要はないでしょ。この間、僕のインタビューも蒼井がやってくれたくらいだから。」
前原「あぁ、それで思い出した。お前ね、あのインタビューはない!」
佐々木「どういう意味ですか?よく書けていたと思うんですが。」
前原「いや、よく書けているんだよ。内容もいいし。ただ、書き手が一切光ってない。
ああいうのはインタビューされる側はもちろんだけど、する側も3割は光らないとダメなの!あの回は完全にお前の独演会だから。」

佐々木「そんなもんですかねぇ。って何か前原さんのペースに持ち込もうとしていませんか?上手いこと言ってその気にさせようって腹ですか」
前原「いいから受けなさい。間違いなくあなただって光るんだから。」
佐々木「一応聞いてあげますが、何のインタビューなんですか?」
前原「モンド王座。」
佐々木「はぁ!?それって僕が負けたヤツじゃないですか。お断りします!」
前原「まぁ待て。今回はインタビューっていうより対談形式にするから。
お互いの会話の中からいいところを引き出していこうというのがテーマだから。」

佐々木「うーん…」
前原「悪いようにはさせないから。」
佐々木「光る割合、5、5にしてもらってもいいですか?」
前原「好きにしろ!」

てなわけで、毎度お馴染みのグダグダなやりとりから始まった今回の対談。
しかし何もかもが前回と一緒ではあまりに味気ない。
ということで、ない頭を振り絞って考えたのが、今回の対談のロケーションである。

確か前回の時はカラオケボックスの一室だったと記憶しているが、今回はスケールが違う。
ぶっとびカードを使って………

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前原&ヒサトinハワイ
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ハワイ風景

in Hawaiiである。

どうしてこの場所になったのかは後述するとして、
では、前原雄大×佐々木寿人、特別対談in Hawaii(自分で特別って言うのもどうかと思うが)、どうぞご覧下さい。

≪チームガラクタ≫

佐々木「いやー、いい天気っすねぇ。風も気持ちがいいし、日本に帰るのが惜しくなりそうです。」
前原「あの海を見たまえ。まるで私の心のように澄んでいるだろう?」
佐々木「さて、どこから入りましょうかね?ちゃっちゃと終わらせて買い物行きたいんで。」
前原「そんな切り出し方があるか!これでも俺は勝者だぞ!」
佐々木「冗談ですよ。ちゃんと質問の内容は考えてありますから。」
前原「よろしい。責任感の強いところだけは賞賛に値するな。」
佐々木「まず、今回の王座戦を迎えるに当たっての心構えみたいなものがあったら教えてください。」
前原「逃げないということだね。きちんと攻めてきちんと放銃する。どの戦いでもそうだけど、これができていない時は勝っていないと思う。」
佐々木「それはよく分かる気がします。」
前原「そりゃわかるだろうよ。だって俺らは2人しかいないチームガラクタのメンバーなんだから。」
佐々木「そうですね。僕がモンド杯を勝った時の構えが正にそれで、今回王座戦に負けたのはその姿勢を貫けなかったからだと思います。」
前原「そうかぁ?あのオーラスの一索打ちなんかよかったと思うよ。」

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前原「親リーチの一発目だろうが全く迷いなくって感じだったし。あの放銃でお前はチームガラクタの隊員から部長に昇格したわけだから。」
佐々木「そんな昇進テストがあったんですね(笑)。」
前原「いや真面目な話、俺がヒサトの立場でもあの一索は打っただろうし、荒さんも同じこと言っていたよ。
逆に言えば、あの一索を打つ覚悟がないならハナから仕掛けるなってことだから。」

佐々木「確かに。ただ、今回僕が掲げたテーマが“勝ち急がない”ということだったので、カン七索を仕掛けた瞬間から、出された結果がそのまま答えになるんだろうとの思いはありました。」
前原「なるほどね。あのスピードで切ってきても、色々考えてはいるわけだ。」
佐々木「なんせ、この王座戦は過去2回惨敗を喰らっていますからね。敗因だけはよくわかっているつもりです。」
前原「昔だったら考えられないだろ?それだけヒサトも知識がついてきたってことだよ。
3年前に鳳凰獲ったとき俺がインタビューで言ったこと、今ならわかるんじゃないの?」

佐々木「朝武さんのくだりですね。」

第44回インタビュー:前原 雄大
http://archive.ma-jan.or.jp/interview/044.php

前原「そう。知識をつけた上でガラクタであり続けるのはすごく難しいことなんだよ。局面によって色んな葛藤もあるしさ。」
佐々木「はい。今回の王座戦でそれを痛感しました。」
前原「そんな局面があったわけね?」
佐々木「2戦目の南3局1本場です。事前に伺ったとき、前原さんにとっても1つのポイントとなった局だ、と言われていました。」
前原「あーあ、六索-九索ツモったヤツね。」
佐々木「そうです。」

動画再生

前原「ヒサトからすれば、カン六万で追っかけていれば一発で俺を討ちとっていた局だ。」
佐々木「もちろんあの瞬間にも、全く自分らしさが出ていないという思いはあったのですが、ポイントは6巡目の打二万にあるんですよ。」
前原「続けなさい。」
佐々木「その打二万ていうのは、完全に前原さんに打たされた牌だったんです。直前の前原さんのドラ切りに腰が引けちゃったんですよ。
こちらからすれば123の三色目もあるし、手牌進行上まだ離せない牌なのに、受け駒を持ちたがってしまったんです。」
前原「でも、それも感覚だから一概にダメとは言えないんじゃないの?」
佐々木「いや、僕は普段からそういうことを周りに言っているし、戦術なんかでも書いているわけでしょ。放銃するにしても、真っ直ぐ打って放銃するのが自分の麻雀ですから。」
前原「自分の、っていうよりチームガラクタの麻雀ということだわな。」

佐々木「そうですね。だから最終的に、二万二万二索三索四索五索六索七索一筒二筒三筒南南 という形でリーチを打って、結果、荒さんに放銃するのが本来あるべき姿だったと思っています。」
前原「そうか。俺がなんであの局をポイントに挙げたかと言うと、“条件戦”ということを強く意識していたからなんだよ。」
佐々木「どういうことでしょう?」

前原「先制リーチの荒さんの河に九索が捨てられてあって、こっちは役があるわけじゃない?それでもリーチに踏み切ったのは、
あれだけの僅差ということもあったし、何より引きアガった場合に100点だけ荒さんを上回ってオーラスになることがわかっていたから。
この100点がいかに大きいかは説明するまでもないよな?」

佐々木「そうですね。2戦目の最終局は、前原さんにとってまさにこのアガリが生きた幕切れとなりました。」
前原「ヒサトがリーチを打って、親がノーテン。荒さんと俺がテンパイと。
若い人達なんかに言いたいことがあるとすれば、条件戦というのはオーラスに限ってのことじゃないということ。
そうなって初めて計算するのは遅いんだよ。最終局を見据えて自分をどのポジションに持っていけるか、これが重要なんだと思うよ。」

084
レストランにて

≪決め手となった一局≫

佐々木「今回初めてハワイに来たんですけど、ほんとにカラっとしているんですね。」
前原「俺は3回目だけど、やっぱりいい。改めて言うけど呼んでくれてありがとね。忘れられない結婚式になるといいね。」
佐々木「はい(ハワイでの対談は、こんな経緯でした)。これを機に、インタビューも色々な場所でやれるようになればいいですけどね。今度はイングランドだったらお受けしますよ。」
前原「大丈夫。お前にはもう頼まないから。」
佐々木「けっ。じゃあ、そろそろ時間も押してきたので決め手となった局についてお聞きしたいと思います。」
前原「もう?」
佐々木「ここからどうせ長くなるんだから。」
前原「そうね。それはもちろん最終戦の南2局になるだろうね。」
佐々木「まぁそうなりますよね。」

動画再生

前原「俺がカン四索を仕掛けた瞬間に、親のヒサトがリーチでしょう?あぁやっぱりテンパイ入れさせちゃったな、という思いはあった。」
佐々木「こっちはこっちで最後の勝負所だと思っていました。」
前原「で、俺に四万がやってくる、と。」
佐々木「はい。あのときかなりの逡巡があったのですが、どんなことを考えていたんですか?」
前原「答えを出すまでにかなりの時間を要しているってことは、それだけ自分も弱いってことなんだけど、
あそこで中を打っていったら自分らしくないなって。実際は中に手が掛かっているんだよな。
でも、四万を切らずにヒサトにツモられるなり、流局されたら着火点になり得るなと思ったんだよ。
もう何年もお前の麻雀見てきて、どういうときに噴き上がるかはよくわかっているつもりだから。」

佐々木「放銃するよりも、自分がアガリを逃したときの方が、酷い結果につながりやすいということですね。」
前原「そう。俺にはまだ親も残っているし、放銃したって次があると思っていた。
ただ、ここでオリに回った場合は、急激に体勢が落ち込む可能性も否定できないよね。
後は、確かあの局面まで1回もヒサトに放銃してなかったということも大きかったよ。
まぁ格の違いとでも言うのかな。グレートと言うのかな。」

佐々木「義太夫ですか?」
前原「そう。前原グレート義太雄大。俺はバカか。」
佐々木「いや、面白いです(笑)。」
前原「まぁ、結局前には行くんだけど指が震えているんだよな。
前にも言ったかもしれないけど、俺には残された時間が少ないわけじゃん?やっぱり心を鍛えなければ仕方ないよ。
真っ直ぐ打ち込む稽古をいくら積んだところで、それを生かすハートがなければ意味がないんだから。」

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ロン牌を避ける和製キアヌ・リーブス

≪若手へのメッセージ≫

佐々木「じゃあ最後に、僕を含めて伸び悩む若手に向けてのメッセージをお願いします。」
前原「お前さー、ずっと気になってたんだけど“おめでとうございます”の一言がないんじゃないの?」
佐々木「あぁ全然気にしてなかったです。いいじゃないですか。毎回同じようなパターンになるよりは。」
前原「気にしてないんだったら普通出てくるだろ?人間性を疑うわ。」
佐々木「はい、ではメッセージお願いします。」
前原「急かすな!だからO型はイヤなんだよ。」
佐々木「だって聞きたい人、沢山いると思いますよ。最近色々勝っているじゃないですか。汚い、いやあまり美しくない麻雀で。」
前原「お褒めの言葉、ありがとう。まぁ、綺麗な麻雀は小島先生とか森山さんに任せておけばいいじゃないの?
チームガラクタとしては、「前原?あれで麻雀?」と言われたら幸せみたいなとこはあるよ。」

佐々木「なるほどね。僕は最近、落合博満さんの「采配」という本がお気に入りなんですけど、その中の一文で、『勝つことが最大のファンサービスだ。』という件りがあるんですよ。
自分にとっても目指すところはそこだ、みたいなのがあったから凄く共感できましたよね。」
前原「ヒサトらしいね。」
佐々木「本を読むようになったのも、前原さんの影響が大きいです。将棋の羽生善治さんの著書も読みましたし。」
前原「強くなるということは、自分がいる世界だけ見ていてもダメなんだよ。様々な分野から色々な要素を取り入れないと。」
佐々木「そう、そういうのが聞きたいんですよ。」
前原「だけど、上から目線でモノ言うのあんまり好きじゃないからな。実際、若い人達から学ぶことのほうが多いもん。
ヒサトにしろ、タッキー君にしろ、瀬戸君にしろさ。
いつだったか、タッキー君に「ちゃんとやってください!」って言われたときは猛省したよ。」

佐々木「そうでしたね。あのときは、南家の僕がマンズのメンホンが濃厚な捨て牌で、西家の前原さんが最後のツモ捨てという局面でした。
そこで前原さんが切ったのが、場に生牌の九万だったのですが、いざ終局してみると僕の1人テンパイ。
それで親の滝沢だけでなく、皆がえっとなった。
僕はメンホン七対子の八万単騎で、九万待ちだったとしても何ら不思議のない最終形だったんですよね。
前原さんの目からは七万が4枚見えていたので、トイツの九万に手を掛けたとのことだったんですが、
ノーテンならば他に切る牌があったはずなんですよ。そこですかさず滝沢が、前原さんにどんな手牌構成だったかを聞いた。
その前原さんの答えと、集中力を欠いた打牌に対して出たのが、あの滝沢の言葉だったんでしたね。」
前原「あいつ、普段そういうこと言わないじゃん?だからなおさらに響くってのはあるよね。
あぁそうだよなぁ、皆真剣にやってくれているのに申し訳ないなぁって素直に思ったよ。
お前はお前で言いたいことズバズバ言うじゃない?正直そういうのが嬉しかったりするんだよな。」

佐々木「要は自分を取り巻く環境が大きいっていうことですか?」
前原「そうだね。後はいかに稽古を欠かさないか、これに尽きると思う。だからバンバン誘って欲しい。
最近はできる限り付き合うようにしているつもりだからさ。」

佐々木「確かに出席率は高いですよね。ただ僕が言いたいことがあるとすれば、お昼寝の時間をもっと削って欲しいです。
どんだけ惰眠を貪れば気が済むんだよ、ってことがほんと多いんですから。
前原さんさえ捕まえれば、後はメンバー揃うのにということが過去何度もあったんですよ。」
前原「ご無礼!だって眠たくなるんだもん。仕方ないと思いません?」
佐々木「思いません!」
前原「き、厳しい…」
佐々木「じゃあこんなとこでいいですか?何か言い忘れたことあります?」
前原「たばこ買ってきて。」
佐々木「とっとと帰ってください!」

というわけで、この対談に割いた貴重なハワイでの時間は2時間。
また怒られるかもしれないけど、これだけあれば楽にマジックショーが見られたな。

でも、こんな場所での対談も、きっとこれが最初で最後だろう。
前原さんが、「チームガラクタ」に対してあれほどの誇りを持っていたことも知らなかった。
たった2人しかいないチームだが、総帥と部長とで麻雀界を席捲できる日を夢見て、これからも精進していこうと決意した朝であった。

≪帰国後≫

前原「あのさぁ、最後に隊員募集掛けといてくんない?この間、瀬戸君に断られたでしょ、山井もいやだって言うでしょ。タッキー君も無理だって言うんだよ。2人だけじゃ、さすがに寂しくないか?」
佐々木「いっぱい応募が来ても困るので、やめませんか?」
前原「大丈夫。審査厳しいから。」

この人は一体どこに向かっているのだろう。仮に50人集まったとして、何を見るというのだろう。
まぁ、饒舌な前原さんを見るのは私も嫌いではない。勝っているから、そういられるのだ。
これからも、総帥らしく力強い麻雀を見せつけて勝ち続けてもらいたいものである。

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(このインタビューは2012年7月現在のものです)