プロ雀士インタビュー

プロ雀士インタビュー/第91回:滝沢 和典

紺野「もう13年か早いな・・」
滝沢「ホントあっと言う間でしたね・・」
なんかの合間に何の気無しに話した。
お互い良い時もあれば悪い時もあったし、特にここ最近は大変だった。
滝沢「Bに戻れた時、喜びました?」
紺野「・・喜んだってよりはホッとしたかな・・」
自分の事を置いといて笑顔で返してくれる。優しい男だ・・
紺野「俺の事より、そっちこそよく戻ったなあ。実は心配してたんだよ・・」
滝沢「うっす・・」
滝沢とはプロテスト以来の付き合いだが、会話はいつもこんなもんだ。でも、それでいい。
お互い形は違えど、目指す方向は同じだと理解しあえていると思うから。
そんなある日編集部から依頼が届く。
編集部「滝沢さんがモンド杯で優勝したのでインタビューをお願い出来ますか?」
紺野「はい。いいですよ」
2つ返事でOKしたが、本心はただ滝沢と話がしたいだけだったかもしれない・・。
紺野「モンドも勝ったんだって?言えよ。水臭いな」
滝沢「まあ、放送もまだだったですし・・」
当然、選手は放送が済むまで結果を漏らす訳にはいかない。それを守るっていうこともあるが、元々滝沢は自分の勝ちをひけらかすような男ではない。私もくだらない事を言ったもんだ。
紺野「てな訳でインタビューやるからよろしく」
滝沢「うっす・・」
場所は酒を飲みながらでも・・とも思ったが、せっかくなので、モンドの決勝戦を見ながらということにした。ただ単に私が見たかったこともあるが・・

091_01
091_02

紺野「この決勝のシステムは?」
滝沢「予選の持ち越し無し。順位点が10-20の25,000点持ち30,000点返しの2回戦です」
紺野「じゃあ最初トップとれたら相当有利だね。トップとったの?」
滝沢「まあ、それは見てからということで・・」
1回戦東1局いきなり滝沢にチャンス手が入る。
8巡目に、
六万七万八万二筒四筒七筒七筒七筒八筒八筒九筒五索五索  ドラ五索
この1シャンテン。
紺野「これって八筒のポンテンは取るの?(九筒が2枚切られている)」
滝沢「1枚目は少なくとも取らないです。これを鳴くのって1,000点で捌くのとあんまり変わらないと思うんですよ」
紺野「順位点やオカを考えればか・・だよな・・ドラの五索ならともかくなあ・・」
滝沢「緊急事態ならもちろん話は違うんですけど」
この後、10巡目に三筒を引き七筒切りリーチ。
六万七万八万二筒三筒四筒七筒七筒八筒八筒九筒五索五索  リーチ
紺野「これも即リーチに行ったね」
滝沢「九筒が2枚飛んでいるし、ヤミで3,900も流局テンパイも大差ないかなあって。
九筒が1枚切れならまた違うんですけど・・」
紺野「確かに九筒がもう1枚あると感覚的に全然違うよね。九筒がもう1枚あれば満貫を拾いに行く気も起きるけど、1枚しかないなら、跳満引きにいっちゃえみたいなところでしょ?」
滝沢「うっす・・」
この局は流局となり、また見進める・・と、東3局10巡目に再び興味を引く手牌に。
四万五万二筒二筒三筒四筒五筒六筒六筒六筒七筒八筒五索  ツモ六万  打五索  ドラ二索
紺野「六筒九筒二筒かあ。各1枚しかないし、ヤミは分かるんだけど、テンパイとるんだ・・」
滝沢「まだ、この後があるんですよ」
程なくして、九筒をツモ。
紺野「お、300.500か・・ん・・」
ツモアガるかと思ったが、画面の滝沢は二筒を切ってリーチしていた。
紺野「へえ、これを行くんだ。ノータイムだったけど、決めていたの?」
滝沢「九筒ツモは決めていました。周りの速度も感じなかったし、東パツの考え方と似てるんですけど、
チャンスを掴みにいこうかなと。失敗してもなんとかなるかなと」

紺野「ふーん。掴むと言うよりは作りにいった感じかな」
滝沢「うっす」
画面の中で、解説の前原も言っていたが、こんな滝沢を見た記憶がなかった。
アガれる手はアガるのが滝沢だと思っていたからだ。
滝沢本人は「けっこうやりますよ」と言っていたが・・
紺野「こういうことが出来たから勝てたんじゃないかなあ。このモンドもリーグ戦も」
滝沢「どうなんですかね・・」
たまに持ち上げようとすると交わす滝沢。謙虚な男だ・・
1回戦2着だった滝沢は、優勝する為にはこの2回戦のトップが最低条件。
そんな中、東1局に1,000・2,000をアガる。
一万二万三万四筒五筒六筒八筒八筒五索六索七索中中  リーチ  ツモ八筒  ドラ七索
1度ペン七筒のテンパイを外して八筒を重ねてツモアガった。
紺野「ふーん(何か言いたげ)」
滝沢「最近、こういう場面で強い人ならどうすんだろうってよく考えるんですよ。荒さんならどうするんだろうとか、前原さんなら、森山さんなら・・別に大御所の先輩だけでなく、同世代や後輩でも強いなって思う人のは参考にしてます。それを場面に応じて使い分けて・・」
紺野「それだけ引き出しとその中身が増えたってことかな・・」
こっちが質問することなく答えを返す滝沢。勘がいい男だ・・
その次局、親で2,600オールをアガリ優勝に近付く滝沢。だが・・
紺野「乗ってきたね。こりゃTT(タッキータイム)の始まりかな」
滝沢「そのつもりでしたけど・・」
とある牌姿で画面を一時停止させる滝沢。
滝沢「これ何切ります?」
二万三万四万五万六筒七筒八筒三索五索五索六索七索七索  ツモ五筒  ドラ三万
東2局1本場、親3巡目。
紺野「何って三索切ればいいんじゃないの?」
滝沢「そうですよねえ・・」
と言いながら画面の滝沢は二万を切っていた・・
その後の関連牌のツモは五万七索六万・・うまく打っていると一万四万七万待ちの高め三色となっていた。
その後下家から中の暗カン、そしてリーチが入る。
紺野「うまく打っていたらアガリがあったかもしれないじゃん。この時の心境は?」
滝沢「必死にアガリがあったかを頭の中で検証していました。アガリがあったとしたらオリも考えなきゃなと。でもチーが入って難しくなって(笑)」
紺野「そうだよな。そういうとこで戦ってるんだもんな」
結局、オリを選択して事無きを得た。ミスを認めさっと引く。
言葉では簡単だが、なかなか実践するのは難しい。
南2局の親で滝沢は、立続けに2,000オール、2,600オールとアガリ抜け出す。
そしてオーラス、この局をアガリ切れば悲願の、本当に悲願の初優勝となる。その配牌。
六万七万八万一筒六筒八筒五索七索東東發發中  ドラ一索  西家
(画面の中)滝沢「チー」
紺野「あれ、まだ何もツモってないけど鳴いているよこの人」
滝沢「(笑)いいんですかね?」
紺野「でも、なんて言うのかな。これって魂の鳴きって感じがするな。もちろん、普段はしないもんな。滝沢でもこういうことするんだって。それだけ勝負賭けてんだなって。小島先生だってグランプリ勝ったとき、最後の勝負処で3フーロしての1,000点てあったけど、やっぱり勝負に対する執念みたいなものを感じさせてくれたもんな。めったに開けない引き出しの1つならいいんじゃないかな」
滝沢「最後ならいいかなって・・」
紺野「うん。伝わると思うよ」
六索チー、重ねた六筒をポンとしてテンパイ。親からリーチが入っても怯まない。
紺野「(親リーチに対して押した絵を見て)これ發ツモるんだろうな・・」
滝沢「ここで怯むようなら元々発進していませんよ」
紺野「そうだよな・・だから、魂の鳴きなんだよな・・」
そして、滝沢は發を静かに手元に置き優勝を飾った。
紺野「おめでとう。これってプロレスで言ったらG1クライマックスを勝ったようなもんなんだから、
今度はIWGPっていうベルト(鳳凰位)を目指さないとな。ほらここではチャンピオン(瀬戸熊)倒したんだからさ。」
滝沢「あ、そうか。そうっすよね」
紺野「あ、そうだ。今度なんかの時に『瀬戸熊さん僕の挑戦受けてください』ってマイクパフォーマンスやれば(笑)」
滝沢「(笑)怒られますよ・・」
紺野「(笑)そうだな・・ま、本当におめでとう」
滝沢「うっす(笑)」
滝沢と私、実はお互い自分からあんまり話すほうではない。ただ、麻雀のこと、連盟のことに関してはお互いいつまで話していても、話は尽きない。そしてこんな男と同期であることを幸せに思う。これからも見守っていきたいと思う・・
・・・いや違う。見守るのでは無く、同じ場所に立たねば・・・
おめでとう、そしてありがとう・・・