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プロ雀士インタビュー

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第11回天空麻雀男性大会 優勝特別インタビュー:荒正義
「運の芸も磨かなければ・・・」

2013/04/19
インタビュアー:黒木 真生


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荒(正義)さんは最近「魅せる麻雀」を意識しているという。
最初は冗談かと思った。

なぜなら、私の中での荒さんのイメージは「魅せる麻雀」の真逆で「全然魅せないけど実利的で辛い麻雀」だったから。

以前、ビートたけしさんがCSの番組の収録中、荒さんのことを「薄情な麻雀打ちやがんだよなぁこの人は」と評された。コレ、本当にピッタリな言葉。さすが天才たけしさんだと思った。この人、卓上では本当に冷徹なマシーンのようにコワイのである。

荒さんはもし、自分を慕ってくれている中堅どころ。たとえば黒木真生プロが「ここでアガれないとプロ引退」という場面でも、急所はちゃんと鳴いて、シレっと千点をアガるだろう。それが勝負の世界のオキテだからである。

でも、勝負が終わったら「あン時はゴメンね。でも、キミは麻雀プロやめたって別の方法で生活できるよきっと」と、私を送り出す会を開き、声をかけてくれるだろう。卓から離れたらそういう優しさを持った人である。

そんな勝負の鬼のような人が、いったいどうして魅せる麻雀などやるというのか。
私はこの件について「近代麻雀リアル麻雀プロ4大タイトル戦DVD BOOK」(確かこれだったと思うが)でも書いたのだが、その時はあえて本人に直接取材しなかったので、まだモヤモヤ感が残っていた。

今回「天空麻雀11」で優勝したインタビューをやれといわれたついでに、その真意を確かめるため、荒さんのご自宅にお邪魔した。

黒木「やっと優勝ですね」
荒 「10回連続で出してもらってるのに初めて優勝。でも、10回連続で出て、1回もラスを引いてないからそこは評価してもらわなきゃ」
黒木「天空麻雀は予選でトップをとればいきなり決勝。ラスなら敗退でその他は準決勝ですが、確かに荒さんは必ず準決勝か決勝にいってます」
荒 「ただ、実際は、プロ雀士はそういうの評価されない。優勝以外は意味がないから」
黒木「もちろん、内容で見せることに意味があるとは思いますが、結果としては優勝かその他か、ですよね」
荒 「プロだから内容が良いのは当たり前で、その上で勝たなければいけない。ベストなのは、キチンとした内容で勝負して勝つ。しかも、そこにファンが驚くような大技とか、感動するような戦いぶりとか、プロにしかできないプラスアルファがあるということ。これがプロ雀士としての理想だね」
黒木「最近そういう考えになったんですか?」
荒 「前から思ってたけど、表現する場がなかったじゃない。でも今は映像媒体で打つことが多いでしょ?」
黒木「確かに。今、一番多く見られているのはMONDOTVの麻雀番組。毎日4~5時間麻雀番組をやってて、それをずーっと10万人近い人が視聴しているっていうんですからね。のべの視聴者数ではなく、同時に見ている人の数ですよ」
荒 「そんなに見てるの!?」
黒木「視聴率から単純計算するとそうなるんです。今はだいたい、東京ローカルの高視聴率番組ぐらい見られている計算になります」
荒 「特に有料で見てくれるファンの方に対局を見せるわけだから、クオリティの高いものじゃないとね。それに、地味で単調なのはすぐ飽きられるし」
黒木「だからといって魅せる麻雀というのは荒さんのキャラじゃないのでは?」
荒 「魅せる麻雀といったって、小島武夫さんのように華麗な手作りを見せるだけじゃない。ボクにはボクなりの魅せ方があるかなって思ってたんだよね前から。映像なら何とかなるかもって」
黒木「なるほど。雑誌の牌譜は、途中の細かい芸は見つけてもらえませんからね。小島先生のように華麗なアガリ形を披露すれば、それがアイキャッチになって牌譜も見てくれるけど…そう考えるとやっぱり小島先生って凄いすね。ただのプロ雀士じゃなく編集長のような発想を持っていたということですよ」
荒 「あの人は天才よ。ただ、皆が小島さんのようにやったってマネっこの二番煎じじゃ認められない。ボクはボクなりに自分の麻雀を追及するしかなかった。でも映像の麻雀は途中経過をすべて映し出してくれるから、ボクの緻密な芸も披露できる」
黒木「でも、それじゃ今までの麻雀をただ見せているだけじゃないですか?」
荒 「いや、やっぱりちょっと変わったね。読みを体現するというのかな? たとえば今までは読みを入れてある程度確信を持っていても、状況的にやっぱり踏み込まずガードを固めようとか、そういう判断をしていた。けど、読みと心中するという選択だってあるわけ」
黒木「この牌を切ればテンパイで、ほぼアガれそう。でもこの牌はかなり危険に見えるとか?」
荒 「でも、その牌は実はこういう理由で通るのではないかと、読みを入れていた。そのまま大人しくオリちゃったら、ただ危険牌をやめただけで、行動としては中級クラスの打ち手と変わらないよね。でも読みを信じて勝負すれば、視聴者はなぜ? と食いついてくれる」
黒木「ちょうどそれにふさわしい例があったので、ちょっと見てみましょうか。ここまでずーっと麻雀牌が出てこなかったので」

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黒木「決勝1回戦の南2局。親の勝又健志プロからリーチが入っていますが、荒さんはこの手からなぜか四索切り」
荒 「二索四索を切ってアガリにいこうと思ったんだけど、四索の方が安全だからね」
黒木「これ実は、近代麻雀オリジナルで私が連載している企画・強者の選択ですでに取材したので驚くのは白々しいのですが、最初に聞いた時はナルホド! と思いました」
荒 「勝又君だから、なんだけどね。4万点以上持っているトップ目で一索が4枚切られている一索-四索でリーチはしないだろうと読んだわけです。七索が切られているから四索-七索もないし。だから二索より四索の方が安全度が高い」
黒木「そういう風に人の心も読まないと、深く踏み込むことはできないんですね」
荒 「麻雀は総合力だから、卓上にある情報を総動員しないとダメだから」
黒木「私も若い頃、そういう風に考えて努力したつもりでしたが、全然できませんでした。たとえば相手の目線を追っていても、そればかり意識してしまって手元がおろそかになったり。かなり難しいですよね」
荒 「それは本当の意味で努力してないからよ。必死さが足りない。そうしなければ、この世界で生きていけないと、そういう風に追い込まれればできるようになるとボクは思う。プロって本来そういうもんじゃないかなぁ」
黒木「…おっしゃる通りです」

 

運の芸

黒木「少しだけ時間を戻して、決勝1回戦の東1局について教えてください」

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黒木「荒さんなら九索を切るかなと思ったのですが、実際は二万切り。一万が3枚出ていたからですか?」
荒 「それもあるけど、それよりもトイツ場の気配があったからトイツは崩したくなかったんだよね」
黒木「相手の捨て牌から分かるんですか?」
荒 「対面は普通だけど、上家の捨て牌が変則じゃない?あぶらっこいところがズタズタ切られているけど、ピンズのホンイチともちょっと違うような」
黒木「まぁそうですけど」
荒 「分からないけど、トイツの多い手格好じゃないかなと思ったんだよね。で、下家はトイツとは限らないけど、早そうな捨て牌はしている。まだ早い巡目なのに一万二万四万とカンチャンを外しているからね」
黒木「なるほど」
荒 「で、自分の手に4トイツだから、トイツ手の方が早いかなと。というより普通に打っても間に合わないだろうと思った。七対子なら、まともにぶつけずにかわせるかもしれないから。それと、場の捨て牌相がトイツ場を表していると思う。序盤にカブリの牌が多く、自分の手にもトイツが多い時は、その後のツモもカブる傾向にある」
黒木「そういう、トイツ場という特殊な場は、本当に存在するのでしょうか?」
荒 「してるじゃない。現に」
黒木「いや、荒さんてあまりオカルト的な発想されないと、前は思っていたので」
荒 「オカルトというのは論外。デジタルもちょっと…。ボクはアナログが麻雀の王道だと思う。目の前で起こっている現象を素直に受け入れ、対処する方が強くなるとボクは思うんだよね。科学的に検証するのが難しい現象があったとしても、実際に勝負の最中に起こることだから。それを解明し追求するのがボクらの仕事です」
黒木「運の芸の追求はオカルトではないと?」
荒 「運と麻雀は、切っても切り離せない関係。相手と自分の運の把握が大事で、正しい応手とはそこから選ばれるべきものとボクは信じる」
黒木「その運は人間がコントロールできないし予想できないから、とにかく普通に構えようというのがデジタル的発想です」
荒 「でも、それは楽な道の選び方で上達はありえない。思考放棄でしょう」
黒木「そこまで言いますか」
荒 「考えてもムダと思っているんだから放棄じゃない。麻雀の基本的な技を磨くのは当然の修行。プロを名乗るのであれば、その上に運の芸も磨かなければならない。そう考えて色紙に書いたりしてたんだよね。運をコントロールできないまでも、潮目を読んで対処できなければ一流の麻雀打ちとは言えない思う」
黒木「運の潮目を読む…船乗りみたいですね」
荒 「ツキの流れは目に見えないから、暗闇で舟をこぐイメージかな?真っ暗闇でわずかしか見えないけど、ボクは死にたくないから情報を総動員する。風の向きを気にしてみたり、潮の香りを嗅いでみたり。それがムダな努力と笑うなら笑え、と言うカンジだね」
黒木「デジタル麻雀はダメですか?」
荒 「まぁ、麻雀の基本ではあるからダメというつもりはないよ。それに、考えが違う人を攻撃するのは無意味。ファンや若手に求められればアドバイスはするけど、それをどう受け止めるかは個人の自由だからね」
黒木「荒さんらしい、優しい突き放し方ですね」
荒 「馬を水飲み場に連れては行けても、水を飲ませることはできないから」
黒木「ちなみに、先ほどの局面、答え合わせをしてみるとこうです」

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荒 「ああ、上家はトイツが多くはあるけどメンツ手でもだったんだね」
黒木「下家も読み通りで1シャンテンです。やっぱり、読みの精度は高いですね」
荒 「プロなら当然とボクは思うけどね」
黒木「この次の局面。決勝2回戦の東1局1本場も、やはり読みが入っていたと思うのですが」

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荒 「ああ、ここから七索を打ったんだね確か」
黒木「これ、普段なら切らないんじゃないですか? どういう読みがあったのでしょう」
荒 「切っちゃダメだよこんなの」
黒木「じゃあなぜ切ったんですか?」
荒 「この戦いがアタマ取りだったというのがひとつ。優勝以外は同じというシステムだった。それと、前局に勝又君がボクにカン二筒を放銃してくれたんだよね。しかもオリ打ちだというのが明白だった」
黒木「つまり、前局に失敗した者とその恩恵を受けた者との勢いの差があると?」
荒 「そういうこと。普通なら、こういう四索-七索のつかみ方した時はオリなんだよ。でも、ここは勢いを信じて真っ直ぐ攻めるべきだと読んだ」
黒木「実は決勝1回戦で前原雄大プロに四暗刻をツモられてしまい、勝負あった的なムードだったのですが、2回戦でよく盛り返しましたね!」
荒 「まぁ途中で前ちゃん(=前原プロのこと)がハイテイで放銃したりとか、色々ラッキーがあったからね」
黒木「内容については、テレビの再放送牌譜データサービスでご覧いただくことにしましょう」
荒 「うまいこと宣伝するね。でも、この対局は全体を通じて色々と魅せられたと思うよ」
黒木「いつもは、荒さんはアタリ牌だけをピタっと止めて魅せてくれますが、今回は攻める方で魅せてくれましたね」
荒 「テンパイしているのにアタリと読んで止めるのも勇気がいるのよ。アタってなかったら、コイツ何してんの? ってバカにされちゃうじゃない。でもファンの皆さんにプロの芸を見てもらいたいから、読みと心中してるんです」
黒木「確かにそうですよね。ファインプレーは一歩間違えたらサムい打牌にもつながる。だからテレビ対局では特に無難な打牌や選択をしがちですが、そこを突き破ってこそのプロであり、魅せる麻雀だということですね」
荒 「これからの麻雀プロは、目の前の敵と、ツキという魔物と、そしてファンの厳しい目と戦っていかなきゃならない。因果な商売だけど、その分やりがいもあるって考えなきゃね。これからの若いプロは、そういうステージがあるだけ幸せだと思うよ」
黒木「確かにそうですね。荒さんが若い頃は、あまり華やかな舞台がありませんでした」
荒 「不毛の土地を必死に開墾してきたから。耕して種まいて水かけて。実ってきたなぁと思ったら還暦だから。実ったもの食べるのは黒木君たち、若い世代だから」
黒木「最後に出ましたね荒節が!」

 

最後は冗談で締めてくれた荒正義プロだったが、今回、インタビューしてみて色々と勉強になった。
普段は私が質問しても、冗談ばかり言うしケムにまくし、あまり本音を言われないことが多いのだが、今回ばかりは仕事なので私も結構食い下がった。
すると、荒さんもマトモに答えてくださって、今まで聞けなかった話が聞けたのである。

冗談ばかり言って飄々と生きている荒さんも、色々と考えながら、プロの麻雀を追及されているのだなぁと。考えてみればそんなこと当たり前だし、荒さんほどの人に対して私がつべこべ言うのは失礼なのだが、日常があまりにも冗談だらけの人なので、ついつい忘れてしまいがちなのである。

結局この人はシャイなのだ。「マジメか!?」と言われるのが恥ずかしいのだと思う。
だから若い頃、うまくいかなくてヘコんだ話や、悩んだそぶりはあまり見せない。荒さんみたいな天才雀士が難しい一手を打っても、それが理解されないこともあったはずだ。ヘタをすれば、取材もされぬまま「ただの悪手」として処理されてしまうことだってあっただろう。

それに比べれば、現在は恵まれている。
荒さんが言うように、映像の世界になり、一打一打を見てもらえるから、技術さえあればプロとして魅せることができる。もし打牌だけで表現できなくても、荒さんがそうやったようにブログなどを通じて発信することだってできる。目立たない一手も、ファンにアピールすることができるようになったのだ。

活字時代のように書き手の筆力に頼むことはない。
TVカメラの前でパフォーマンスできれば、それがそのままファンの目に届く。

荒さんの「魅せる麻雀」宣言は、同業者やファンへの呼びかけなのかもしれない。
麻雀プロとして表現の舞台は大きく広がった。才能のある者が努力さえすれば、華やかな舞台で戦い、ファンに認めてもらうことができる。

しかし逆に言えば、力のない者は廃業を余儀なくされるということだ。そんな時代になったということを、シャイな荒さんは遠まわしに、丸ノ内線で後楽園から四ツ谷に行くぐらい遠まわしにおっしゃっているのだと、私は勝手に解釈している。