鳳凰の部屋

「~苦難の二日目~」 佐々木 寿人

初日を終え、日課となるものができた。
ただ取り留めもなく成績表を眺めることである。

とにかく暇さえあれば、それを繰り返していた。
何回見たって数字が変わるわけではないが、現時点で自分がどれだけ有利なポジションにいるのかを徹底的に頭に叩き込んだ。

1つの目安は100ポイント。そこに辿り着くことができれば、優勝争いから脱落することだけはないだろう。
早い段階でそれが達成できたなら、今度はゼロに戻った気持ちで戦える。

初日のように大きく打つことを念頭に、2日目がスタートした。

ほとんど動きのないまま迎えた東3局、この日最初の親番で勝負手が入る。

一万一万二万三万四万六万七万二索七索二筒三筒南南発  ドラ二万

下目の三色も見える手牌ではあるが、第一打は二索とした。
ドラの指示牌が一万であることから、ホンイツを強く意識しての一手である。
この後、使えそうな中張牌が来ればピンフ移行もあるが、それはあくまで両面形ができたときのみ。
このままの形ならば、一万などは仕掛けて他家にプレッシャーをかける方が手っ取り早く思えた。

3巡目にドラを引き入れ、2シャンテン。

一万一万二万二万三万四万六万七万七索二筒三筒南南

ネックは三万だが、もはや無理に面前に拘る手ではない。
続く4巡目、白七索を入れ替えた所で場に2枚目の南が切られた。私はこれを仕掛け、ホンイツの2シャンテンと構えた。

すると、7巡目にドラの二万、そして11巡目にはラス牌の一万を引き入れた。

一万一万一万二万二万二万三万四万六万七万  ポン南南南 

五万八万は3枚切れではあるものの、手応え十分のテンパイである。この手が成就するようなら、2日目も私のペースに持っていける。心なしか指先に力が入った矢先だった。

三万四万五万三索四索五索六索六索二筒三筒四筒九筒九筒  ツモ六索

300・500とは言え、私の淡い期待を打ち砕くかのような藤崎さんのアガリ。なかなか上手く事は運ばない。
 
南2局3巡目、親の勝又さんが2枚目の白を仕掛ける。

三万三万四万九万九万二筒三筒八筒八筒八筒  ポン白白白  ドラ六筒

直後、私にドラの六筒がやってくる。

五万六万七万一索三索四索四索五索七索八索九索九索六筒  ツモ六筒

九索として1シャンテン。これで全面勝負の手だ。
だが、ここも跳ね返される。

三万三万九万九万三筒三筒三筒八筒八筒八筒  ポン白白白  ロン九万

6巡目、勝又さんの手牌がトイトイにまで伸びたところでの、7,700の放銃。
この失点が響き、5回戦は1人沈みの4着。約55ポイントあった勝又さんとの得点差も、一気に16ポイントに縮まった。
 

6回戦

安手とは言え、序盤からアガリ自体は取れている。
南1局1本場、私は親番である。

一索五索五索六索七索七索八索九索三筒四筒中中中  ツモ一索  ドラ六筒

7巡目、一索を重ねてのテンパイ。逡巡があったのは、勝ちたい気持ちがはやっているからに他ならない。
仮にこれがリーグ戦だったとして、ピンズを払わない選択があっただろうか。そのための一索残しであり、ここでテンパイを取るより、よほど一索なり五索なりにポンテンをかける選択の方がいい。

それでも結果として打五索でリーチを放ったのは、自ら隙を作らないことを優先させたからだ。こういった決定戦の舞台では、アガリ逃しが普段以上に罪になると考えていたのである。
対戦相手3人に、できるだけチャンスを与えたくなかったのだ。そうは言っても、ソーズ引きだけはご勘弁と思っていたのもまた事実であるが。

今局は、リーチ後に2フーロした沢崎さんから五筒で3,900の出アガリとなった。

五万六万六筒六筒発発発  ポン東東東  ポン白白白

沢崎さんの手が満貫だったことを考えれば、まさに紙一重の勝負である。

親が落ちた南2局、6巡目に以下の手牌となる。

四索五索五索六索七索八索二筒三筒七筒八筒北北北  ドラ九筒

8巡目、ツモ八索。仕掛けた勝又さんに対し、私は前巡に四索を通している。
選択肢としては、ここから八索四索と切っていくか、いずれも無筋の二筒三筒を払っていくかとなる。
もう一度四索を打ち出せば、三索六索九索のツモに対応できなくなるため、ソーズを払うなら八索からの一手だ。

私の中では、前巡の四索を上手く選べたかなという感触があった。ただ、勝又さんがテンパイしているかどうかの判断がつかなかった。五索八索の筋はあまり切りたくないという思いも無論ある。そして結局は、自分の手を優先させる方を選んだ。

一万一万七万八万九万六索七索七筒八筒九筒  ポン東東東  ロン八索

この辺りから歯車が狂い始めた。長打らしきアガリも、ここまで全く出すことができていない。

南3局1本場、6巡目のテンパイ。

三万六万六万六万一索二索三索二筒三筒四筒六筒発発  ツモ四万  ドラ北

三色変化を見てヤミテン。場合によっては、発のポンだってある。
次巡、絶好のツモ四索でリーチ。高目を引きアガることが出来れば、トップも見えてくる大事な局面だ。
だが、ここも親の藤崎さんに潰される。

四万四万四万五万六万七万五索六索七索八索九索五筒五筒  リーチ  ロン七索

この後は浮上のきっかけすら掴めず、痛恨とも言える連続4着。
トータルトップの座も、勝又さんに明け渡す結果となった。

この時の心境は、ただ1つ。
(早くきっかけが欲しい)

6回戦終了時 
勝又+36.6P 佐々木+21.8P 藤崎▲27.4P 沢崎▲32.0P
 

7回戦

出だしから沢崎さんが走る。
勝又さんから、3,900、5,800、藤崎さんから1,500、2,000とアガリ、得意のペースに持ち込んでいく。
勝又さんに突き抜けられることだけは避けたかったので、これは自分にとっても悪くない展開である。
だが、相も変わらず決め手となり得るアガリが出ない。

二索二索二索五索六索七索八索九索三筒三筒六筒六筒六筒  ドラ六筒

東3局3本場のリーチも流局。
遂にはオーラスを迎えるまでノー和了というじりじりした展開が続く。
その南4局、私は親番となった。
せめてもの救いは、勝又さんより上のポジションにつけているということか。

二万七万八万九万五索六索七索九索一筒三筒六筒西北発  ドラ一筒

配牌もまずまずで、出来るならば勝又さんとの浮き沈みで再逆転を図りたいところだ。
3巡目、北家の沢崎さんが五筒をポン。そして5巡目、南家の勝又さんが四索をポンした。

その時の私の手牌はこうなっていた。

七万八万九万五索六索七索八索九索一筒三筒六筒七筒九筒

いずれも両面受けの片割れを鳴かれて、苦しくなったとも取れる。だが、おかげで進むべきルートが明確になった。

6巡目、カン二筒から仕掛ける。

七万八万九万六索七索八索九索七筒九筒南  チー二筒 左向き一筒 上向き三筒 上向き

五索として1シャンテン。上手くいけば5,800以上のアガリが見える。
9巡目、ツモ九筒。打六索。同巡、沢崎さんから八筒が放たれる。チーは当然として、問題はその打牌選択だ。

九筒は目に見えて残り1枚。南は場に生牌だが、浮きを目指すであろう勝又さんにとってはキー牌にもなり得る。だが、南待ちではアガリそのものが期待できない。
私は打南として九筒タンキに構え、一撃での浮上を狙う作戦に出た。その南に声は掛からなかった。

そして終盤、重い扉がようやく開いた。

七万八万九万七索八索九索九筒  チー八筒 左向き七筒 上向き九筒 上向き  チー二筒 左向き一筒 上向き三筒 上向き  ツモ九筒

起死回生と呼べるような3,900オールだった。
帰宅して真っ先に見たのがこの1局だった。
道中での、仕掛けた2人の手迷いにも似た小考が、少し気にかかっていたのだ。

二万四万二索四索三筒三筒五筒五筒六筒白発発中

沢崎さんは、ここからの五筒ポン。

二索三索四索四索四索六索八索一筒二筒南北白白

勝又さんは、ここからの四索ポンだった。

2人としては、私を沈めたままこのゲームを終わらせたいはずである。ある意味、条件戦特有の仕掛けと言っていい。
ただ同時に、勝ち気がはやるのは自分だけではないのだなと感じた瞬間でもあった。
今局は、私のフーロメンツと捨て牌にそれなりの威力があったということか。

次局、私は3,900は4,200のアガリで加点に成功。
2本場の3メンチャンリーチこそ空振ったものの、勝又さんを4着に沈め、再びトータルトップの座を奪回した。
 
この日最後となった8回戦のテーマは、まずこの位置をキープすることだった。例えポイントを伸ばせなかったにせよ、トータルでの順位はあまり落としたくはない。
東2局から勝又さんに7,700を放銃するなど、決していい滑り出しではなかったが、このゲームを浮きの2着で終えた私は、2日目も首位の座を守り切った。

初日と大きく異なったのは、当然ではあるが3者の私に対するマークが厳しくなったことである。
これ以上私を走らせまいとする意識が、随所で見られた。
後は、勝負手が中々決まらなかったことと、大きな放銃が二度あったこと。

特に後者に関してだが、今は相手を突き放しにかかっている段階だからまだいい。しかしながら、これが後半になればなるほどダメージも大きくなっていく。

私にとって過去経験のない4日制の決定戦。相手とのポイント差を把握した上で、いかにバランスを取るか。一瞬たりとも気の抜けない勝負はまだ続いていく。

2日目終了時 
佐々木+48.3P 勝又+39.8P 藤崎▲28.6P 沢崎▲60.5P