鳳凰の部屋

「~連覇への道のり~」 佐々木 寿人

「1年間リーグ戦を打てないことに対する不安はなかったのですか」

歴代の偉大な王者達は、この問いにどう答えてきたのだろう。

日本プロ麻雀連盟の歴史を遡れば、38期を迎えるまで21名の鳳凰位が誕生している。
その内、連覇を達成されたのはわずか5名である。これを見ただけでもいかに防衛することが難しいかがわかる。

リーグ戦を勝ち上がってきた3名の勢いと、ディフェンディングとしての1年間のブランク。
これらを単純に比較することはできないが、過去のデータからは前者が優勢となっている。

では、鳳凰位となることで一体どれほど実戦数が減るのかについても触れていこう。
前年度で言えば、まずリーグ戦13節にあたる52戦。それに加えて、各タイトル戦のシードを得ることでの予選のカット分。これがおそらくは40戦程度あるだろうか。つまりは約100戦ということになる。

問題は、防衛戦を迎えるに当たりこれがデメリットとなるかどうかだ。
まぁ、その間ずっと寝過ごしているわけでもなし、自身では何の不安もなかった。
10月からはMリーグも始まり、それ以外は稽古に明け暮れる日々を過ごしていたからだ。
もし不安があったとするなら、それは実戦数ではなく、Mリーグにおける成績不振の方であろう。

これに関しては、決定戦の期間中もずっと頭から離れることはなかった。
特に1月、2月は4着を重ねるゲームが続いてしまい、とてもではないが2つを切り離して考えることなどできなかった。
ゆえに、決定戦の初日、2日目で圧倒的なリードを奪っても、決して心が晴れることはなかった。
全てを勝つことへの難しさを、改めて痛感した4週間でもあったのだ。

さて、今決定戦の対戦メンバーであるが、一番の注目は何と言っても黒沢咲さんだったように思う。
『女性初の鳳凰位誕生なるか』を期待されたファンの方も多かったことだろう。
もしそうなっていたら、今でさえとんでもない例の小説の売り上げも、更に凄いことになったことは想像に難くない。
“セレブ打法”と呼ばれる豪快な打ち筋で休養明けのリーグ戦も首位で勝ち上がり、最も勢いに乗る打ち手と言えよう。

前田直哉さんは、“岩”の呼び名通り、固い守りを売りにする選手だ。
Bリーグ時代から何度か対戦経験もあるが、会話をするようになったのは2016年からだったと記憶している。
そのきっかけが「第1回麻雀プロ団体決定戦」だった。
初日、前田さんはいきなりの3連勝。私も初戦で地和と、我々は好スタートを切ることに成功した。
その夜、すっかり気分が良くなって白鳥翔と3人で終電を逃すまで飲み、莫大なタクシー代を払ったことも今となってはいい思い出である。
今決定戦でも、最も崩れるイメージのない相手だ。

そして最後が古川孝次さんである。
「佐々木寿人と戦うために復帰した」
この言葉を言われた時、私がどれほど嬉しく、又どれだけ身が引き締る思いだったことか。
プロ入り当初、私は16時からのリーグ戦を前に、11時からA1リーグの観戦をするのが常だった。
荒正義さん、前原雄大さんの後ろについて、それぞれのエッセンスを取り入れることが主な目的だったが、ほどなくして、1人の打ち手に惹かれるようになっていた。
それが古川さんだった。

一番の魅力は、切れ味鋭い仕掛けだった。
面前高打点を目指す選手が多い中、あの手数の多さは異質だった。
私自身が元々は鳴き麻雀だったため、主導権を奪いながらアガリ回数で勝負する古川さんの打ち筋に、すっかり虜になってしまった。
鳳凰位決定戦も常連組と言っていいほど勝ち残る率が高かったし、過去には3連覇も達成されている。
そんなレジェンドにここまでのメッセージを投げかけられて、燃えないはずもない。
 
第38期鳳凰位決定戦を迎えるにあたり、私は2つの試合を何度も見返していた。
1つが、麻雀日本シリーズ2021年の24回戦。そしてもう1つが、第46期王位戦の準決勝最終戦である。
両方ともトップを獲得したゲームであることは言うまでもないが、その2試合には共通項がある。
それが親番での爆発である。

いつも言うようだが、勝ち切るためのポイントはやはりこれに尽きる。
この2試合に関しては、正に自分が理想とするような親番の戦い方ができた。
私にとって、イメージ作りほど大切なものはない。

ちなみにこの2試合の他には、昨年の決定戦での
リーチタンヤオピンフツモイーペーコードラ2
リーチツモタンヤオドラ3
ジュンチャン三色ドラ1
リーチタンヤオ三色
リーチタンヤオピンフイーペーコー
メンホンイーペーコードラ2
ダブ南ドラ2
リーチツモ七対子
そして最後のアガリとなったリーチツモピンフドラ2をひたすら見た。

寝る前、起きてすぐ、移動の電車、暇さえあればこれの繰り返しだ。
頭の中は、「これだけアガれりゃ圧勝でぃ!」である。

目の前には、放銃も負けたシーンも一切ない。
私クラスになれば、早送りボタンも使い慣れたものである。

これが決定戦を迎えるまでの日常。
準備は整った、いざ決戦である。