上級

上級/第112回『ガラリーの全てパート3』 前原雄大

【打ち損ねたガラリー】
「今日は、3回それとも4回にする?」
稽古のセットを組む時、交わされる会話である。この場合の回数とは1セット4回で、半荘、12回にするか、16回にするかと言う話である。
終わった後は反省会である。居酒屋もあったが、カラオケに行って誰も歌わず、あの時は、ああだったけど、ほんとはこうするべきだった__。
そんな会話が数時間続いた。ただ、終電の関係で参加せず帰る者もいた。
「ホントは反省会の方が大事だと思います」
切なそうな言葉を口にしたのは、滝沢和典さんだった。
「じゃあ、明日は何時からにする?」
「午前中から行きましょう」
佐々木寿人さんである。
「午前中って、それは少し厳しいな」
私である。
「何言ってるんですか!!どうせ惰眠を貪るだけでしょ」
「私はあなたと違いやらねばならないことがある」
「何をするか言って下さい」
「それは軍の秘密だ!いわゆるトップシークレットというやつだ」
「ボクは大丈夫です」
皆の笑顔がその場の雰囲気を物語っている。
「とにかくメールを飛ばしてください」
「わかった」
家路に着き、纏めの酒を呑みながらメールを飛ばす。
「佐々木さんのケイテンを鑑賞する会」
サブジェクトにはそんなタイトルを付けたりもした。
10人ほどに送る。結果2卓分の人数が集まる。それはそれで構わなかった。人数が中途半端になれば5人打ち、それ以上になれば私が抜けていた。
私は観戦が好きだったこともあるが、身体がついて行かなかったのも事実である。ほんの7、8年前のことだが、遠い昔のようにも思える。
__普段稽古している以上の力を本番で出すことはできない。
それが、私の考えであり、皆の考え方でもあった。それは今でも間違っていないと思う。
そして、私には残された時間はそれほどないと考え、若い人たちにはとにかく麻雀を打って欲しかった。
稽古を積んで欲しかった。素振りを欠かすバッターはいない。発声をしない歌い手はいない。稽古をしないヴィイオリニストを私は知らない。少なくとも私の周りには存在しない。
滝沢さんが在る時、私の山にそれとなく触れたことがあった。他家の前の山に触れるなどやってはならない作法なのだが、彼は時折そうした。
あえてその事には触れなかった。答えは考えれば簡単なことだった。
今では当たり前の事だが、山が真っ直ぐに1直線になっていなかったのである。そのことをさりげなく教えてもらっていたのである。
クーラーに身体が対応できなくなった時、自宅まで半袖の開襟シャツを持ってきてくれたのは瀬戸熊直樹さんである。
「そんなに悪いモノではないですから」
私の宝物として今でもクローゼットの中に眠っている。
色々なことを若い人に伝えたかったのだが、実際は若い人から学ばされたことの方が多いように思える。
そんな若い人たちのおかげで、ある年、幾つかのタイトルにも恵まれた。
何処かにも記したように思うが、母親には勝っても負けてもどちらでも良い、そう育てられ、男ならば勝たねばならない、そう育てられた。
翌年全てのタイトルを失った。
単純に稽古をしなくなっただけのことである。
森山茂和さんが会長に就任されると共に、スタジオを持つことになり、麻雀プロの在り方も変容してきたように思う。
会長自身もスタジオをすぐ持つことは考えていなかったようだった。
映像関係に強かった黒木真生さんの進言で決断されたように解釈している。
時代は変わったのである。
それまでは、現A1プロでG1タイトルを初日から観戦してきたプロは3人だけである。
私と沢崎誠さん、立会人の瀬戸熊直樹さんだけである。沢崎誠さんに限っては私より多いだろう。
決勝の最終日に観戦者が増えた。
「最終日だけ観に来ても仕方がないのに__」
沢崎誠さんはそんなことを言っていた。
圧倒的な観戦力が沢崎さんの能力の1つである。解説も面白い。沢崎さんにしか出来ない解説である。
前振りが長くなった。
今回最初の組み立てでは、「ガラリーパート3」【受けのガラリー】を記すつもりであったが、鮮度も大切ということで次回以降に記すことにした。
問題は何を選ぶかだが、最強位戦を考えていたが、道中で十段戦もありA1リーグもあった。
事に十段戦に関しては、自分の事より藤崎智さんの700は800オールのツモアガリを拒否して、ノーテン罰符を取りに行った局を中心に記していたら、ご本人が解説で説明されていた。
何だよ!!言うならもっと早く語ってくれという感じである。
それにしても素晴らしいパフォーマンスであることには間違いがない。
このコラムは御本人に一切確認を取らず、私見で書くつもりである。
私見で記す代わりに、違うと思った方は連盟チャンネルで、前原の記したことは間違いであると語ってもらった方が面白いと考えている。
上手くリンク出来れば書いてよかったというもの。
第32期鳳凰位決定戦 優勝者予想
まずはこちらをご覧いただきたい。本命に近い対抗と私は勝又健志さんを推している。
その理由は、勝又さんのシミュレーションの力による所が大きい。他の3者に関しては、自分の型を持っているところが強みであるが、逆に弱みにもなる。勿論、他の3者がシミュレートの力が劣っているわけではない。勝又さんが高すぎるということである。
勝又さんの優勝した後若手が集まる会の折り、10名ほどに勝因を尋ねた。その時、様々な答えが返って来た。シミュレーションと答えた若手は1人だけだった。
これからの時代、理と感性、両方を持った打ち手しか生き残れないことは間違いないと考える。
理から入っても良い。感性から入っても良い。ただし、最終的には2つを併せ持たねば鳳凰位だけは獲れない。
勝又さんにはシミュレートの大切さを学ばせて頂いた。
私達の世代のA1リーグで、秀でている打ち手は沢崎誠さんだと考えている。
図をご覧いただきたい。
鳳凰戦 第6節 2回戦 東3局 親番・前原
一万七万一索六索九索四筒六筒八筒九筒九筒南発中中  ドラ三筒
このクズ手が他者の仕掛けで育つ。
二筒三筒四筒六筒八筒白白中中中  ポン九筒 上向き九筒 上向き九筒 上向き  ツモ七筒
これを引きアガることができた。。
1本場に、沢崎さんから僅か3巡でリーチが入る。
二万 上向き六万 上向き四万 左向き
私はリーチを受けて8巡目にテンパイを果たす。
一万一万四万五万六万七万八万九万四索五索六索五筒六筒  ドラ一索
この手牌からリーチを打たずヤミテンに構えたのは感性である。感性と言えば響きは良いが感覚に近い。簡単に記せば勝てないと読んだわけである。
あらゆる状況、立ち位置、持ち点44,700点を考えればリーチを打つのが本手を打つということであることは百も承知している。それでもリーチに踏み切らなかったのは、今局に至るまでの過程である。何しろ前局に至るまでの過程が悪すぎる。
前局は歪みの中から生まれたアガリに過ぎないと理の部分では考えていた。沢崎さんの運のカタチもある程度分かっている。勿論、自分のツキのカタチも知っている。
もし、沢崎さんが四筒を掴んでくれたならば、次の局は私のモノだくらいに考えていたが、やはり、そう上手くは行かないものである。
結果は沢崎さん九万のツモアガリである。
九万一索一索三索三索五索五索八索八索一筒一筒四筒四筒  ツモ九万
流石だ!!__そう思ったし、そうだろうなとも思った。これはこれで私は得心している。
己の下手さ加減に呆れ果てたのが最終戦の南場の親である。
二万二万二万三万四万五万四索四索一筒三筒六筒七筒八筒  ドラ発
3巡目のこの手牌からリーチが打てない。
配牌
二万二万四万五万四索四索八索九索一筒三筒六筒七筒八筒東
この手牌が3巡目でガラクタ仕上がりした以上、リーチが至当だろう。ここに至る過程も悪くなかった。いや、かなり手応えを感じていた。やはり気力、気迫の問題である。
長時間に及ぶ戦いは、本人も気が付かぬ間に疲弊させていることがある。
この形からカン二筒マチのリーチを打たなかったことは本当に後悔している。この時即リーチに踏み切りさえしていれば、ブレイクポイントになっていたと考える。
結果は事無きを得たが、ムダなエネルギーを使い果たし積み損ねた。
ハッキリ言って悪手を打ったと考える。悪手を打った以上、正直な答えが出るのが麻雀だと思う。
いずれにしても、私の年代になれば健康であることが本当に大切になってっくる。
先日ホットヨガに行って中級クラスに入ったら、楽ではなかったがその後の爽快感は格別なものだった。
上手く続けられるよう敢えて記してみた。
キチンと健やかな身体を作り、気力、気迫を失わずに麻雀と向き合って行きたいものである。