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鳳凰の部屋

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「~新しい何かが~」 前原 雄大

2018/12/26
執筆:前原 雄大


私は大体朝の6時ごろ目覚めることが多い。
テレビのスイッチを入れニュースなどを見る。その折りに、人生時計なるものを知った。
簡単に記せば、自分の年齢を3で割れば良いだけの事である。例えば、私の場合であれば60歳を過ぎているから、3で割ればおおよそ20時過ぎている。残された時間は4時間弱である。
私当人とすれば、後3時間強しかない、、、そう思う気持ちと、まだ4時間弱生きなければならないのかと思う気持ちがある。
勿論このことは20年ほど前に言い出されたことで、今は平均寿命も延びているし、あやふやなものであることには間違いないだろう。
午前0時は72歳である。それ以上生きた人は、感謝の気持ちを持って日々を生きなさい、、そういうことらしい。

それにしても、月日が経つのは速いもので、40年近く麻雀プロを結果としてやってきたわけである。
先日ある対局の前に、森山茂和会長とメイクの時間が重なった。私がメイクしてどうするんだという気持ちもないではない。
「前ちゃんとも長いよナ・・もう知り合って40年以上の月日が経ったのだから」
「そうですね、場所は銀座のみゆきビルでしたね」
その時が初対面で、森山会長は既に麻雀専門誌に執筆もされていたが、私は名もなき20歳ごろの尖がった子供だった。
名乗り合ったわけでもないのに、良く覚えていらっしゃることに感心した。

しばらくして、プロ連盟が設立するのだが、様々な方から入会を勧められた。その誘いの全てをお断りさせていただいた。その辺りの事は何度か記した。
「まあ、いつ辞めても良いのだから、研修制度が出来たから参加してみたら」
早朝の電話だった。
「いつからですか?」
「今日の午前11時から」
「急な話ですね」
「急だから、いま電話しているのだよ」
プロに成る前から慕っていた方からだった。楽し気な口調は今でも鮮明なほどに覚えている。その方は今でもおつきあいがあり、盆、暮れには何かしら、送るようにしている。

入会しなかった、大きな理由は、既に学生の頃からの彼女と結婚したばかりだったことと、麻雀店を経営する時期とぶつかっていたためである。
1年後には2号店まで出した。元々はフランチャイズにするつもりだった。一度に2つの事をできない不器用さは今も変わっていない。そして、様々な事情で2店とも畳んだ。

そのあと市ヶ谷のPという店に毎日のように通った。特殊な三人麻雀の店だった。
半年ほど後ろで見学させてもらい、常連の打ちスジ、オリるタイミング、指使い、間の取り方、それなりに全て頭に叩き込んで、帰ってからノートに記した。
「そろそろ、手を下ろしてももイイんじゃない?」
店主の言葉を切っ掛けに、その店で打ち始めた。不思議なことに半年ほど負けなかった。それでもやはり負けが訪れた。当たり前のはなしである。

市ヶ谷に向かい歩き始めた。負けた自分が許せなくて、思いついたように歩き始めた。四谷で電車に乗るつもりだったが、結局は当時の自宅である武蔵境まで歩き続けた。
これも、不思議なことに歩き疲れた記憶はその日は無かった。
また、半年ほどして、負けたおりには当たり前のように自宅まで歩いた。そして、3度目に負けた時もそうしようと歩きはじめたが、雪が降り始めかなりの降雪になり、タクシーで帰宅した。
負けそのものよりも、タクシーで帰宅した自分が許せなかった。

今思い返せば、何もかも若かったし、青かったと思う。皆が、鰻や、寿司を頼んでいた。私は愛妻弁当である。
そして、そんな私を揶揄したが、何とも思わなかった。いや、羨ましく思ったかもしれない。
「何を言っているのだ!!」
そう思っていたかもしれない。時の流れは速いものでそんな感情さえ忘れてしまっていた。

【鳳凰戦】

「入場シ-ンを撮るので少し待って下さい」
立会人の紺野真太郎さんの言葉である。待っている間に、前述した連盟に入ってしばらくした頃の、市ヶ谷から歩いたことなどをなぜか思い出しながら、リラックスするためのヨガのポーズを繰り返していた。
「卓に着いてください」
紺野君が優しく私の背に触れた。
「撮影は?」
「終わりました」

彼の意図が解らなかった。良く解らないまま席に着いた。席に着きながら、今日初めて口にした言葉が先ほどの、紺野真太郎君への「撮影は?」だった。
休憩時間に煙草を吸いに喫煙所に行くと、瀬戸熊直樹さんがいた。
「失礼」
そう言って喫煙所の扉を閉めた。彼が吸い終わるのを扉の内側で待つわけである。一緒に煙草を吸っても何ら問題はないのだがそうする。逆の事もあり、私が先に喫煙所にいると瀬戸熊さんが
「すいません」
そう言って扉の内側で待っていてくれる。
「待たせたね」
そういう言葉の一言もなく、軽く頭を下げ合う。
それで充分心は通じ合う。
他の何かの言葉を口にすると、大切な何かが口から抜けて行くような気がする。それは、例えば集中力だったり、心の弛緩だったり、、気のせいかもしれないが_。

私は鳳凰戦におけるこの空気感、心地よい緊張感が好きだ。
HIRO柴田さんは卓の椅子、内川幸太郎さんは控室に面する椅子、瀬戸熊さんは多分、鳳凰位のトロフィーのあった辺り、{廊下に出てないので想像に過ぎないが}私は喫煙所前の床で、やはりヨガのベビーポーズか、座っての坐骨を立て、呼吸法に勤しんでいる。それぞれがお互いのエリアには立ち入らない。

負ける覚悟も前日までに済ませてある。年に一度あるかないか、前日にカラオケに行ってアリスのチャンピオンを1曲歌う。その歌詞が負ける覚悟を私に作らせる。
昔は少し違っていた。何人かで、カラオケに行き、私がリクエストした歌を歌ってもらっていた。Nさんの歌う、レオンラッセルのソングフォーユーや、誰かの、アヴェマリアが好みだった
彼女たちとも何年逢っていないだろう。長内真美さんの結婚式が最後のように思う。
チャンピオンは丁度私自身のように思えて仕方ない。

2日目が終わったあとインタビューがあった。思いもかけず首位に立った私は、インタビューの順番は最後と考えていた。
思いもかけず、そう記したのは、初日が終わった段階で首位に立つとするならば3日目だろうと考えていた。ところが、最初だった。
その日が別の配信で、小説家の方達が集う麻雀番組があり、主催者は私の名付け親であるIさんだった。
Iさんに逢いたがっている私の気持ちを黒木真生さんが察して、インタビューを最初にしてくれた。
その足で黒木さんとともに、Iさんのいらっしゃる会場に向った。。

御挨拶だけして引き上げようとしたら、同い年で、2,30年程年賀状等やりとりしている、大沢在昌さんが声を掛けてくださった。
「次の店に行きましょう」
恩師の方に顔を向けると頷いていた。
店に着くと貸切になっており、高級そうな酒とつまみが並んでいた。
「雄大、鳳凰戦はどうなんだ?昨年は観ていたが」
「今、首位ですが、新陳代謝のことを考えると、勝たなければいけない理由、意味合いが良く解りません」
私は正直に答えた。
「後に続く若い人の為、高い壁になりなさい」
「肝心なことは、お前の属する連盟とそんなお前でも応援してくれるファンのためだ!自分の為に何かをやろうとか、掴もうとか、それはたいしたことじゃない」
私がトイレに行っている間に恩師の姿が店内から見えなくなっていた。
「今しがた、店を出たよ。すぐ追いかけて行った方が良いんじゃない、それとも、久しぶりに呑みますか?」
笑いながら大沢さんが手を振ってくださった。
外に出ると恩師は待っていてくれた。
「いつまで待たせるんだ?」
「すみません、トイレに、、、」
「こういう時はすみません!その一言だけでいい」
ひとつ、学んだ。
恩師の常宿まで、色々な話をしていただいた。
「その人の性格にもよるが、キツイ時は逃げないことだ」
そのほか私に見合った様々なアドバイスを頂いた」
「とにかくだ、後8年は打ちなさい。新しい何かが見えて来るから」
まだ、電車がありますから。
そういったのだが、ハイヤーを呼んでくださった。
「○○までおねがいします」
私の街の名前を恩師は運転手さんに告げた。
「よく覚えていますね」
「当たり前だ、松井と武豊とお前の住所ぐらい覚えているのは当然だろう」
そして、笑って私が見えなくなるまでホテルに入ることなく見送ってくれた。
また、ひとつ、学んだ。

速いもので、あれから、もう間もなく今期の鳳凰位決定戦が始まる。
結果は解らない。ただ、言えることは私の持てる限りの全てのモノを卓に置きに行こう!
連盟の為に、そして、応援して下さる麻雀ファンの為に。