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鳳凰の部屋

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第29期鳳凰戦の軌跡~決意~

2013/04/24
執筆:瀬戸熊 直樹


久々に机に向かってこの原稿を書いている。
懐かしい気分になる。2年間書いた過去の文章を読みかえす。
素直に真剣に書いた文章だなぁと思う反面、麻雀に対するアプローチには、ちょっとだけ若さを感じる。

負けてからの1年、少しだけ成長した自分を感じる。書きたい事がたくさんある。
ファンの皆様や、後輩たちに伝えたい気持ちや言葉が山ほどある。
前回と同じように、嘘、偽りのない自分の想いを伝えていきたいと思います。
皆さま、1年間お付き合いくださいませ。

第28期鳳凰位決定戦12回戦
東2局2本場

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望月プロの6,000オールが出た次局のリーチを受け、僕は勝手に態勢の悪さを感じ、
ヤミテンで押し、五筒を勝負した次のツモ九筒で廻ってしまう。
今年の決定戦をみた人からすれば、とても瀬戸熊直樹の麻雀には見えないであろう。

今の僕なら、いや、この時でも普通の僕なら、8巡目のテンパイ。

八万八万三索五索八索八索九索一筒二筒三筒発発発  ツモ八万 

これで打九索のヤミテン。
望月プロのリーチを受けて11巡目のツモ六索で、リーチをして当然の1局である。
そうすれば、15巡目にツモ七索で、2,000・4,000の引きアガリである。

何度、この牌譜を見返しただろう。
「鳳凰位としてこの2年、いったい何をして来たのだろう」
「憧れの荒さんとの真剣勝負で、僕はいったい何て不様な麻雀を打っているのだろう」
1年間、この気持ちが消える事はなかった。

第28期鳳凰位決定戦が終わって、また次のシーズンが始まろうとしていた。
もう一度あの舞台に立つために、自分がすべき事は明確に解っていた。

「行き腰のある麻雀を打つ」

これを第29期AⅠリーグ戦のテーマとした。

今からそんなに古くない、ある日の情景がいつも目に浮かぶ。
麻雀プロ1本でやって行こうと決めた僕は、サラリーマンをやめた。
当然、プロとしての収入源などはなく、雀荘で働く事となった。
その後、身体をこわし、雀荘での仕事もやめた。
もちろん無名の僕にゲストの仕事などのオファーがくるはずもなく、すぐに生活するのにも困る事となる。

普通の人ならアルバイトでも何でもして、何とかするのだろうが、
「麻雀プロとして生きて行こう」と、くだらないプライドを捨て切れない僕は、麻雀と関連する数少ない仕事しかしなくなる。

月末に家賃が払えなくなったりした。その日の飯代にも困ったりした。
本当にどうにもならなくなった。仕方なく、年老いた年金暮らしの両親に借金しに行くことにした。
もちろん電話なんかできない。

電車にゆられて2時間をかけ、実家のある駅に降り立つ。駅から10分のところにある実家。
門の前まで行くが、インターフォンを鳴らす事が出来ない。近くの公園で日が暮れるまで座っていた。
もうすぐ終電がなくなろうという時、本当に悔しさと申し訳なさに打ちひしがれながら、インターフォンを鳴らす。親父もおふくろも、三十を超えた息子のそんな様子に全てを悟ったようだ。
おふくろは泣きながら「どうして何でもいいから普通の生活をしないの?」と言い、
親父は「お前は何がしたいんだ」と冷静に語りかけた。

「プロ雀士として日本一になって、きっと食えるようになりますから、どうかお金を貸して下さい」
土下座して両親に詫びた。

普通の人なら「明日からアルバイトでも何でも始めますから、今回だけは助けて下さい」と言うのだろう。
今でこそ、麻雀界に携わる方々の努力のおかげで、一流プレイヤーになれば普通の生活ぐらいはできる世界となったが、当時は日本一の打ち手になったとしても何の保証もない頃である。

「鳳凰位になりたい」この想いだけで生きてきた。

両親から生活費を借り、人ひとりいないホームで電車を待つ間むせび泣いた。
そして誓った。
必ず次に実家に帰って来る時は、「お父さん、お母さんあの時はごめんね」と、笑い話にできるようになると。

そんな気持ちで日々を生き抜き、勝ち獲った鳳凰位だったにもかかわらず、2年間の鳳凰位の間に、僕はすっかり戦う気持ちを失ってしまっていたのだ。

荒さんに負けて気付いた。
「僕はまだまだ一流プレイヤーじゃない。そんな僕がこれぐらいで満足してしまったら、またあの日に戻ってしまう。全てを失う前にもう一度自分を鍛えなくてはダメだ」

第29期プロリーグ第1節前夜。
AⅠリーグ12名で全10節を戦い、上位3名にだけ与えられる挑戦者の権利。
ここに入らなければ、再び鳳凰位になる事は絶対に出来ない。

『1年間、いかに戦うか?』長年のAリーグ対局で、ひとつの事は明確に解っていた。
『リーグ戦は一節一節積み重ねが大事』だと。

とにかく、各節の4半荘、集中してしっかり前に出て戦い、瀬戸熊直樹らしく打ち抜く事。
そして、全ての節をプラスでまとめる事。これらの事を言い聞かせていた。

ここを決めてしまえば、後はやる事は1つ。
僕が僕の麻雀を打つ為の配牌をもらってから、1局を終え、それらを線でつないでいく作業をしっかりやるだけである。その為の、体力と精神を日々の生活でつちかう。
そうするとなると、日々の生活のリズムも決まってくる。
対局からの逆算、試合からの逆算。これらはどのプロでも同じである。

数年前までは、こんな簡単な事にも気付いてなかった。荒さんに挑戦する日から逆算した調整。
リーグ戦をきっちり戦い抜き、そこを糧として今度こそ恥ずかしくない麻雀を打つ事を決意したのである。

プロリーグ最終節を終えて、僕は2位で再び最高峰のステージに立つ権利を獲得した。
これほど1年頑張った年はないと思えるほど調整と実戦をやり通した。
もっと早く日々の生活が大切だと気付けば良かったなとつくづく思った。

決定戦出場が決まった日、自分に問いかける。
「お前は、そんなにまたあの景色がみたかったのか?」

僕の答えは、
「再び鳳凰位になりたいのは隠しようのない事実だけど、それよりももっと大切な事があります。僕は前回、本当に情けない麻雀を打って負けました。僕の事を本当に応援してくれた人達に、『瀬戸熊らしい』麻雀を見せられず失望させました。だから、勝ち負けよりも僕の麻雀をしっかり打って、応援してくれる人に胸をはって『精一杯やりました』と言いたいが為に、ここを目指したのです。」

第28期鳳凰位決定戦19回戦東2局
 
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望月プロに切れなかった九筒と、最終日についに先頭の荒プロに肉迫したにも関わらず、ホンイツに向かえなかった上図のシーン。1年戦いを終えて、僕は今、何万回このシーンを迎えても、ひよらない麻雀を打てる訓練を終えた。

あとは、3人の先輩方にしっかりこの麻雀をぶつけるだけだ。

第29期鳳凰戦の軌跡 ~克己~ へ続く。